• 更新日 : 2025年4月30日

偽装請負とは?判断基準や告発された場合の罰則、摘発事例、注意点などを解説

「企業の偽装請負が発覚する」「偽装請負をしていた企業が訴えられる」といったニュースを見ることがあります。今や偽装請負は社会問題になっており、発覚すると企業の信用が失墜するだけでなく、法による制裁を受けることになります。人を雇っている以上他人ごとではなく、「知らなかった」では済まされません。

今回は、あらためて偽装請負についておさらいします。労働派遣や委任・準委任契約との違いや偽装請負になるケース、偽装請負のリスクについても解説します。

目次

偽装請負とは

偽装請負とは、書類上や形式的には請負(委託)契約とされていても、実態は労働者派遣であることを指します。偽装請負は、派遣法を潜脱する違法行為です。本来労働者派遣となるはずの派遣労働者を、業務委託や請負契約、委任・準委任契約を締結して働かせます。派遣労働者を受け入れるためには労働者派遣法を守らなければならず、それにはコストもかかるため、偽装請負が横行しているのです。

そもそも請負契約とは

請負契約とは、業務委託契約の一種であり、委託者が外部の受託者に業務を委託する際に締結します。民法には、以下のように定義されています。

第六百三十二条 請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

引用:民法|e-Gov法令検索

つまり、受託者(請負人)が仕事を完成させて初めて報酬が発生するのが請負契約です。家を建てて報酬を受け取る工務店やハウスメーカーは、施主と請負契約を締結します。フリーランスのデザイナーはクライアントと請負契約を締結し、デザインを納品して報酬を受け取ります。ライターはクライアントと請負契約を締結して原稿を納品し、報酬を受け取ります。

このように、外部の人や企業に仕事の完成を目的として業務を依頼する場合は請負契約を結ぶのが一般的です。

業務委託契約とは

業務委託契約は、委託者が外部の個人や企業に業務の一部を委託する契約です。いわゆる「外注」のことで、フリーランスや自営業者はクライアントと業務委託契約を締結します。業務委託は雇用契約ではないため、受託者は委託者の指揮命令下・労務管理下には入らず、自らの裁量で委託された業務を遂行します。

委託者側にとっては「労働基準法が適用されないため、コストを削減できる」「税務申告や保険などの手続きを行わずに済む」「仕事を依頼したい時だけ依頼できる」といったメリットがあります。一方で、「直接的に業務に関する指示ができない」「労務管理ができない」というデメリットもあります。

受託者側にとっては、「自分のやり方で自由に仕事を進められる」「勤務時間や場所に縛られない働き方ができる」といったメリットがあります。一方で労働基準法の対象外であるため、「労働時間の規制や社会保険への加入」「労働者としての保護を受けられない」といったことがデメリットといえます。

委任・準委任契約とは

委任・準委任契約も業務委託契約の一種です。

(委任)
第六百四十三条 委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。

引用:民法|e-Gov法令検索

委任契約とは、外部に法律行為を委任することです。例えば、弁護士に訴訟を依頼する、司法書士に会社設立手続を依頼するといったケースが挙げられます。

(準委任)
第六百五十六条 この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する。

引用:民法|e-Gov法令検索

準委任とは、法律行為以外の事務(仕事)を委任することです。例えば、患者が医師に診察を依頼する、企業がコンサルティングをコンサルタントに依頼するケースが挙げられます。

請負契約と異なるのは、仕事の完成を目的としてないことです。もちろん委任者は結果が出るよう最善を尽くしますが、例えば弁護士に依頼しても必ず勝訴するとは限りません。経営コンサルタントに依頼しても、不景気などの外的要因で業績が上がらないこともあります。このように、必ず結果が出るとは限らない仕事を外部に依頼する場合は、委任・準委任契約を締結します。

委任契約については、こちらの記事で詳しく解説しています。

請負契約と労働者派遣の違い

労働者派遣では、派遣元(派遣会社)が派遣スタッフと雇用契約を結び、派遣元が派遣先(企業)と派遣契約を締結します。派遣スタッフは派遣元に雇用されますが、実際に業務を行うのは派遣先であり、指揮命令や労務管理も派遣先が行います。業務委託(請負・委任・準委任)の場合は、発注者(委託者、企業など)と請負人(受託者、派遣会社など)が請負契約を締結します。また、請負人が自らの指揮命令・労務管理下にある労働者(従業員)に業務を遂行させるケースもあります。

業務委託契約(請負・委任・準委任)

請負契約と労働者派遣が大きく異なるのは、派遣スタッフが労働者であるという点です。派遣スタッフを受け入れる場合、労働基準法に沿って業務に従事させなければなりません。例えば、週40時間を超えて働かせてはならず、それを超える場合は残業代を支払う必要があります。報酬は最低賃金を守らなければならず、強制適用事業所(株式会社などの法人事業所や従業員が常時5人以上いる個人の事業所)については雇用保険や社会保険の加入も必須です。

これらは労働者の権利を守るために必要不可欠な規制ですが、企業の負担は決して小さくありません。前述のとおり、請負であれば労働者派遣法や労働基準法による規制を受けません。派遣労働者と請負契約を結べば規制から逃れられるため、偽装請負が横行するようになったのです。

偽装請負の主なパターン

ここからは、偽装請負に該当するパターンを見ていきましょう。特に、正社員以外の雇用形態で人を雇っている方や、外部に仕事を発注している企業は、以下のパターンに当てはまっていないか確認することをおすすめします。もし該当している場合は、すぐに改善しましょう。

代表型

偽装請負の典型的なパターンで、請負契約を締結した委託者が受託者に業務の進め方などを細かく指示する、業務時間や休日などを決めて管理して働かせることを指します。前述のとおり、業務委託契約(請負契約・委任・準委任)を結んだ場合、委託者は受託者を指揮命令下・労務管理下に置くことができません。業務について指示・命令したり、勤務時間などを細かく管理したりして働かせている場合は、実質的に労働者とみなされる恐れがあります。

形式だけ責任者型

受託者(請負業者)が責任者を置いてスタッフを集め、委託者の指示に基づいてチームで仕事をさせる形式です。受託者側のスタッフは受託者の指揮命令下にあるということになっているので問題ないように思えますが、委託者が受託者を通してスタッフに細かく指示したり、管理したりしている場合は偽装請負に該当する可能性があります。

使用者不明型

関係者を増やし、雇用関係や責任の所在を分かりにくくする方法です。例えば、委託者であるA社が受託者のB社と業務委託契約を締結し、さらにB社はC社に業務を発注し、C社は労働者DにA社の業務に従事させます。労働者DがC社の指揮命令・労務管理下で働くのであれば問題ありませんが、労働者DがA社に出向してA社が指揮命令・労務管理を行うと偽装請負に該当する可能性があります。

一人請負型

受託者が委託者に自己が雇用する労働者を斡旋し、委託者と労働者個人が業務委託契約を締結するパターンです。本来、企業が個人と業務委託契約を締結して業務を委託する場合、受託者は委託者の指揮・管理下に入りません。受託者は労働者ではなく、フリーランスや自営業者に近い立場になります。委託者が受託者個人に細かく指示したり管理したりする場合は、雇用契約を結ぶことは必要となる場合があります。

偽装請負が発生する原因

偽装請負は違法であるにもかかわらず、なぜ発生するのでしょうか。
その原因として、意図的な偽装請負の場合と、意図的ではない偽装請負の場合の2つが考えられます。

意図的な偽装請負の場合

偽装請負の原因として、意図的に偽装請負をしているケースが挙げられます。
労働者を雇用すると、労働基準法や最低賃金法などの法令に則った賃金の支払をするほか、社会保険料や福利厚生費の負担が必要です。
また、一度雇用した場合の解雇が難しく、派遣社員として受け入れた場合も労働者派遣法に従う必要があります。

偽装請負は、これらのコスト削減や、人員整理のしやすさから、意図的に行われることがあります。

意図的ではない偽装請負の場合

偽装請負の原因として、意図的ではないまま偽装請負となってしまっているケースも挙げられます。
例えば、人事や法務の担当者が労働基準法などの法律に詳しくないことが原因で、偽装請負となってしまっている場合があります。

ほかにも、契約自体に問題はなくても、現場の担当者が法令・契約内容を理解しておらず、請負業者の労働者に直接指示を出してしまい偽装請負となっている場合もあります。

厚生労働省による偽装請負の判断基準

偽装請負に該当するか否かは、厚生労働省の「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」が参考になります。

業務に関する指示・管理を行っているか

業務に関する指示・管理を行っているかは、偽装請負に該当するかの重要な基準となります。

本来、請負契約は仕事の完成が目的です。
そのため、仕事が完成すれば、受託者はどのような工程・方法を用いても良く、仕事の完成までの過程で委託者から管理をされる必要がないはずです。

にもかかわらず、業務に関する指示・管理を委託者が行っていた場合には、偽装請負であるといえます。

なお、「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」第2条第1号イでは、業務の遂行に関する指示その他の管理を自ら行う場合には、請負契約で行う業務に、自身(自社)で雇用する労働者を従事させることを業務として行う事業主であっても、労働者派遣事業を行う事業主とする旨が規定されています。

勤務時間・休憩時間・休日の指示・管理を行っているか

勤務時間や休日の指示など、受託者のスケジュール管理を行っているかどうかも偽装請負に該当するかの基準となります。

前述のとおり、請負契約は仕事の完成が目的であるため、勤務時間・休憩時間・休日などまで指定・管理される義務はありません。

したがって、委託者が受託者に対して、勤務時間・休憩時間・休日の指示・管理をしている場合には、偽装請負であるといえます(「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」第2条第1号ロ)。

業務に必要な備品・資材・資金を支給しているか

業務に必要な備品・資材・資金を支給しているかどうかも、偽装請負に該当するかの判断基準となります(「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」第2条第2号ハ(1))。

請負契約として適切といえるかについて、厚生労働省の「労働者派遣・請負を適正に行うためのガイド」では以下のように解説しています。つまり、受託者は、請負契約により請け負った業務を自己の業務として、当該契約の相手方(委託者)から独立して処理するものであることが必要であるということです。
発注者である会社が業務に必要な備品・資材・資金を支給して請負人に利用させている場合には、独立して処理するものとはいえず、偽装請負と判断されることになります。

単なる肉体的な労働力を提供しているか

単なる肉体的な労働力を提供しているかについても、偽装請負に該当するかの基準となります。
「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」第2条第2号ハでは、「(受託者は)自己の責任と負担で準備し、調達する機械、設備若しくは器材(業務上必要な簡易な工具を除く。)又は材料若しくは資材により、業務を処理」し、「単に肉体的な労働力を提供するものでないこと」が請負契約の基準とされています。
請負契約は、受託者が、契約の相手方である委託者から独立して処理する場合に適切であるとされています。

単なる肉体的な労働力の提供にとどまる場合、請負人は独立して仕事しているとまではいえず、偽装請負と判断されることになります。

参考:労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準|厚生労働省

個別の事例についての判断は、「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(37号告示)関係疑義応答集」が参考になります。

参考:労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(37号告示)関係疑義応答集|厚生労働省

どこまでの指示なら偽装請負にならないのか

発注者から受託者に対して、独立した処理ではなくなるような指示がある場合には、偽装請負となります。
しかし、仕事においてある程度の指示は発生するため、どこまでの指示なら偽装請負にならないのかを確認しましょう。

事業所の部外者の侵入を防止するため特定の作業服を着用させる

事業所の部外者の侵入を防止するために特定の作業服を着用させることは、偽装請負とはなりません。
作業服などの指定は、通常は発注者が服務上の規律に関する指示その他の管理を自ら行っていると判断され、偽装請負となります。
しかし、企業秘密を守ることや労働者の安全衛生のためなどの合理的な理由があり、双方が合意している場合は、偽装請負と判断されません。

一定の技術指導をする

受託者に対して一定の技術指導をすることは、必ずしも偽装請負とはならないとされています。

技術指導をすることは、受託者の独立した処理に違反し、偽装請負となりそうですが、「労働者派遣・請負を適正に行うためのガイド」によると、次のような例で技術指導が行われても偽装請負とはならないとされています。

  • 請負人が、発注者から新たな設備を借りて初めて使用する時に操作方法を説明する場合
  • 新製品の製造着手時、仕様等について補足的な説明を行う際に、請負事業主の監督の下で労働者に当該説明を受けさせる場合
  • 発注者が、安全衛生上緊急に対処する必要のある事項について、労働者に対して指示を行う場合

災害時などの緊急事態における指示

災害時などの緊急事態において、請負労働者の安全・健康を確保するために発注者が直接指示を出しても偽装請負にはあたりません。
災害時など緊急の必要によって、発注者が請負労働者に対して直接指示しなければならない可能性が生じます。この場合、請負労働者の安全・健康を確保するための措置にとどまるため、受託者の独立した処理を妨げるとはいえないためです。

厚生労働省が公開している「労働者派遣・請負を適正 に行うためのガイド」では、その他にもさまざまなケースで偽装請負にあたるかどうかのQ&Aが示されています。疑問に感じた場合は参考にする良いでしょう。

偽装請負の問題点

偽装請負は労働者の権利を大きく侵害する行為であり、主に以下の3つが問題視されています。特に近年は労働者を保護する動きが加速しており、これに反する企業は信用が失墜します。偽装請負によって生じる問題点については、すべての企業が把握しておく必要があるため、覚えておきましょう。

福利厚生が提供されない

福利厚生には、「法定福利厚生」と「法定外福利厚生」があります。

「法定福利厚生」には健康保険や介護保険、雇用保険、労働災害保険、厚生年金保険などがあり、労働者を雇用する際は必ず実施しなければなりません。また「法定外福利厚生」には、家族手当や住宅手当、交通費などがあります。

偽装請負が横行すると、このような福利厚生が提供されなくなくなります。

中間搾取が起こりやすい

労働基準法では他人の就業に介入して利益を得る行為(中間搾取)は禁止されています(労働基準法6条)が、偽装請負は中間搾取の抜け穴になります。本来企業が労働者に支払うべき金額から手数料などの名目で中間業者が中抜きを行うため、労働者はわずかなお金しか手に入りません。すると、労働者は生活に困窮することになります。

契約解除・賠償責任のリスクがある

雇用契約の場合は正当な理由なく契約を解除する(解雇する)ことができませんが、業務委託契約を締結している場合は、発注者が請負人と契約を解除することができます。偽装請負を締結し、不要になったら「契約不適合責任」を持ち出して一方的に辞めさせるという悪質なケースも散見されます。

契約不適合責任とは、受託者が委託者に対して負う責任のことです。受託者が納めた成果物が契約の内容に適合していない場合、委託者は契約の解除や損害賠償請求、減額請求などを行うことができます。労働者にとっては偽装請負によって一方的に解雇されたり、法外な損害賠償を請求されたりするリスクが高くなります。

偽装請負の罰則

偽装請負を行った場合は、労働者派遣法、職業安定法、労働基準法違反として刑事罰が科される可能性があります。罰則は、どの法律で摘発されるかによって異なります。それぞれ見てみましょう。

労働者派遣法違反による罰則

受託者(請負業者)が許認可を受けず、偽装請負で委託者に労働者を派遣していた場合は、労働者派遣法第59条違反に該当します。

第五十九条 次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
(略)
二 第五条第一項の許可を受けないで労働者派遣事業を行つた者

引用:労働者派遣法|e-Gov法令検索

この場合、請負業者は「懲役1年以下もしくは100万円以下の罰金」という重いペナルティが科せられる可能性があります。

職業安定法違反による罰則

労働者の供給事業は、職業安定法で禁止されています。

(労働者供給事業の禁止)
第四十四条 何人も、次条に規定する場合を除くほか、労働者供給事業を行い、又はその労働者供給事業を行う者から供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させてはならない。
(労働者供給事業の許可)
第四十五条 労働組合等が、厚生労働大臣の許可を受けた場合は、無料の労働者供給事業を行うことができる。

引用:職業安定法|e-Gov法令検索

厚生労働大臣の許可を受けることなく労働者供給事業を行った場合、同法第64条9号により刑事罰が科せられます。

第六十四条 次の各号のいずれかに該当する者は、これを一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
(略)
九 第四十四条の規定に違反した者

引用:職業安定法|e-Gov法令検索

この場合、偽装請負の委託者、受託者だけでなく、労働者を指示・管理して業務を行わせた会社の経営者や管理職なども処罰の対象になります。

労働基準法違反による罰則

労働基準法では、第三者の就業に介入して中間搾取する行為を禁止しています。

(中間搾取の排除)
第六条 何人も、法律に基いて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない。

引用:労働基準法|e-Gov法令検索

これに違反すると、同法第118条によって刑事罰が科せられます。

第百十八条 第六条、第五十六条、第六十三条又は第六十四条の二の規定に違反した者は、これを一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

引用:労働基準法|e-Gov法令検索

労働者を供給した受託者はもとより、委託者に関しても幇助したとして罰せられるおそれがあります。

偽装請負の摘発事例

偽装請負の事例は多く、偽装請負の過去の裁判例を確認してみましょう。

A社はB社からソフトウェア開発業務の委託を受けており、原告CはA社との間の契約でB社の事業所でソフトウェアの開発業務に従事していたところ、CはA社から突然契約を解除された、という事例において、CはB社の指揮命令を受けて働いていたため労働者派遣契約であり、契約の解除は無効であると主張した事例において、労働者派遣契約であったと認められるとして、違法な解雇による不法行為に基づく損害賠償請求として慰謝料等の支払を認めました(パンプティ商会ほか1社事件:東京地方裁判所令和2年6月11日判決)

参考:ハンプテイ商会ほか1社事件|公益社団法人 全国労働基準関係団体連合会判例集

A社の従業員である原告らが、被告は、労働者派遣法及びこれが準用する労働基準法等の適用を免れる目的で、以前から日興サービスとの間で業務委託の名目で契約を締結し、労働者派遣契約を締結せずに原告らによる労働者派遣の役務の提供を受けていたと主張した事例で、客観的な事情を総合すると、被告は、労働基準法等の適用を免れる目的で、A社との間に業務委託契約を締結し、これにより労働者派遣の役務の提供を受けていたとして、偽装請負であると認定しました(日本貨物検数協会(日興サービス)事件:名古屋地裁令和2年7月20日判決)

参考:日本貨物検数協会(日興サービス)事件|公益社団法人 全国労働基準関係団体連合会判例集

A社はB社との間で業務請負契約および業務請負契約を締結して、B社の労働者である原告Cら5人は、被控訴人の工場で製品の製造業務に従事していた。B社は、被控訴人との業務請負契約について終了させることとしてB社に整理解雇されたという事案です。裁判所は、B社が業務の遂行方法に関する指示その他の管理を自ら行っていたと認めることはできず、労働者派遣法40条の6第1項5号に該当する行為を行ったとして偽装請負であると認定しました。

参考:ライフ・イズ・アート事件/東リ事件|公益社団法人 全国労働基関係団体連合会判例集

個人事業主・フリーランスが偽装請負を告発するメリット

個人事業主・フリーランスが偽装請負を告発することのメリットとして次の3つのことが挙げられます。業務委託をしている企業は、受託者である個人事業主・フリーランスが求めるメリットについて理解しておくことで、係争への発展を未然に防ぐことができるでしょう。

労働者として雇用契約できる可能性がある

個人事業主・フリーランスが偽装請負を告発することのメリットとして、労働者として雇用契約を結んでもらえる可能性があることが挙げられます。
個人事業主・フリーランスが偽装請負を告発して、実質的な労働者性を認められると、会社としては適切な対応をしなければなりません。

その結果、偽装請負で働いている人とあらためて雇用契約を結ぶ可能性があります。
本来、社会保険や労働者としての地位を求めて雇用契約で働きたい人にとってはメリットであるといえるでしょう。

ただし、会社側からすると、雇用契約をする必要に迫られ、社会保険・福利厚生費の負担など労務管理の増大につながります。

業務内容が見直されて適切な業務の遂行ができる

個人事業主・フリーランスが偽装請負を告発することのメリットとして、業務内容が見直されて適切な業務の遂行ができることが挙げられます。
実質的な労働者性を認められ、会社としては適切な対応するにあたって、偽装請負となっていしまっている現在の業務内容が見直されることもあるでしょう。

その結果、今まで現場の判断であれこれ契約にないことを追加されていたのが、契約内容のみの対応で済むこととなり、業務の遂行が適切なものとなる可能性があります。
会社側は、従来、個人事業主・フリーランスに対して従業員と同じように依頼していたことを見直さなければならず、人員の配置や外注費用の増加につながる可能性があります。

世間の目が向き再発防止になる

個人事業主・フリーランスが偽装請負を告発することのメリットとして、世間の目が向き再発防止になることが挙げられます。

当事者間の話し合いで解決したとしても、ほかの個人事業主・フリーランスとの関係では是正されないこともあったり、一時的に改善されても一定の期間が経つとまた同じことの繰り返しとなりかねません。

偽装請負として告発し労働基準監督署の指導を受けたり、労働者派遣法による公表(労働者派遣法第49条の2)の対象になると、当事者だけではなく世間の厳しい目が向けられ、違法な偽装請負の再発防止になります。

会社側からは、企業イメージのダウンや、コンプライアンス強化のための費用がかかるなどのリスクに注意しなければなりません。

個人事業主・フリーランスの偽装請負の通報先

個人事業主・フリーランスが偽装請負として働かされている場合の通報先には次のものがあります。業務を委託する発注者でも、偽装請負に該当するか相談できる窓口として把握しておくと良いでしょう。

労働基準監督署の相談窓口

個人事業主・フリーランスが偽装請負として通報できる窓口として、労働基準監督署が挙げられます。
偽装請負は労働基準法に違反するものです。労働基準法違反についての行政指導などの権限は、労働基準監督署が担当しています。そのため、労働基準監督署の相談窓口に行って通報するのが一般的といえるでしょう。
労働基準監督署は全国にあるため、働いている会社がある地域を管轄する労働基準監督署に相談します。
労働基準監督署の管轄については厚生労働省のWebサイト内「全国労働基準監督署の所在案内」で確認できます。

労働局の総合労働相談コーナー

個人事業主・フリーランスの通報先として、労働局の総合労働相談コーナーに通報できます。
労働局とは労働基準監督署の上部組織であり、各都道府県に設置されています。労働局には、職場のトラブルに関する相談のために総合労働相談コーナーが設けられています。
もっとも、実際に是正のための行政指導などは下部組織である労働基準監督署が行いますし、総合労働相談コーナーは労働基準監督署の中にあることも多いため、最初から労働基準監督署に相談するほうが実効的ともいえます。

参考:総合労働相談コーナーのご案内|厚生労働省ホームページ

フリーランス・トラブル110番

フリーランス・トラブル110番も、偽装請負の通報や相談窓口として利用できます。
フリーランス・トラブル110番は、厚生労働省が第二東京弁護士会に委託しているもので、弁護士がフリーランスのトラブルについての相談を受付、ケースによっては解決を目指してくれます。
もっとも、偽装請負については労働基準法の問題なので、関係行政機関への案内がされることになります。

参考:フリーランス・トラブル110番

偽装請負で通報されないための対策

偽装請負で通報されないためには、労働者との雇用形態と勤務実態をあらためて見直す必要があります。

偽装請負について正しく理解する

まず、請負契約や偽装請負という問題について、関係者が正しく理解する必要があります。
労働契約なのか請負契約なのかは、契約の形態だけではなく、その実態から判断することを経営者や人事担当者が正しく理解する必要があります。
また、正しく契約が結べていたとしても、現場で運用を誤ることもあるため、現場の責任者にまできちんと請負契約や偽装請負について理解してもらう必要があります。

契約書に指揮命令系統を明記する

契約書に指揮命令系統を明記しましょう。
指揮命令系統があいまいである場合、偽装請負と認定される可能性が高まります。
指揮命令系統が請負会社側にあり、請負契約であることが外部に認識できるように、契約書において指揮命令系統について明記しましょう。

現場の担当者に業務の実態をヒアリングする

現場の担当者に業務の実態をヒアリングしておきましょう。
請負なのか雇用なのかは契約書の記載ではなく実態によって判断されます。そのため、実態としての指揮命令系統を発注側で行っている場合には雇用関係とみなされ、偽装請負と判断されることになります。

業務の実態をヒアリングし、業務委託で働く人に対する指揮命令に関して実態を把握し、偽装請負となることを防ぎましょう。

こち偽装請負をしているつもりがなくても、実態が偽装請負になっているケースは少なくありません。例えば、業務委託契約を締結している外注業者の社員を自社の工場に出向させ、指示をして作業させている場合や、勤務時間や休憩時間、休日などを指定して働かせている場合は偽装請負とみなされることがあります。
労働者派遣契約と業務委託契約の違いを正しく把握し、契約に合わせて対応することが重要です。
こちらの記事でも詳しく解説しています。

偽装請負に気を付けましょう

労働者の権利を守る機運が高まり、偽装請負に対する世間の目が厳しくなっています。偽装請負が発覚すれば、法的にも社会的にも甚大な損害を被ることになります。そもそも偽装請負は労働者の権利をないがしろにする恐れがある行為であるため、行うべきではないでしょう。

あらためて自社が偽装請負を行っていないか、各種法令に違反していないか、確認しておきましょう。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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