- 作成日 : 2025年7月18日
派遣個別契約書は何年保管すべき?保管義務や事例を解説
派遣個別契約書は、派遣スタッフの就業条件を明確にし、法的にも作成が義務付けられている重要な書類です。しかし、契約書の「保管期間」や「廃棄方法」については明確なルールがわかりにくく、対応に迷う企業も少なくありません。
本記事では、派遣法や労働基準法などの法的根拠をもとに、実務での保管期間の目安や廃棄時の注意点、企業の対応事例までを網羅的に解説します。
目次
派遣個別契約書とは?
派遣契約を締結する際には、「基本契約書」と「個別契約書」の2種類の契約書が登場しますが、それぞれの役割や法的な位置づけは異なります。とくに「派遣個別契約書」は、派遣労働者の保護に密接に関わる重要な書類であり、法令で作成が義務付けられています。ここではその定義と背景を詳しく解説します。
個別契約書と基本契約書の違い
企業が人材派遣の契約を行う場合、一般的には「労働者派遣基本契約書(基本契約書)」と「労働者派遣個別契約書(個別契約書)」という2種類の契約書を交わします。まず、基本契約書とは、派遣元企業と派遣先企業が継続的な取引を前提に、派遣サービスの提供に関する全体的なルールを定めた文書です。この中には、派遣料金の算定方法、支払い条件、損害賠償、秘密保持など、個別の派遣契約に共通して適用される内容が網羅されています。
基本契約書自体は法的に必須ではないものの、取引リスクを回避し、スムーズな関係構築を行うため、ほとんどの企業がこれを事前に取り交わしています。労働者派遣法では明確な作成義務は定められていませんが、業務上のトラブル防止や証拠保全の観点から、企業の実務においては一般的な慣習となっています。
一方で、個別契約書は派遣ごとに必ず作成が義務付けられている文書であり、労働者派遣法第26条に基づく「労働者派遣契約」に該当します。これは、派遣されるスタッフ1人ひとり、あるいは特定の業務ごとに、就業条件を具体的に定めるためのものです。個別契約書には、業務内容、就業場所、就業時間、契約期間、時給や交通費の取り扱いといった詳細が明記されます。これにより、派遣スタッフが適正な条件下で働ける環境が担保され、法的保護の対象になります。
また、基本契約書と個別契約書の内容に矛盾が生じた場合には、一般的に個別契約書の内容が優先されることが多くなっています。ただし、基本契約書の中で「矛盾がある場合の優先順位」を定めておくことで、解釈上の混乱を防ぐことが可能です。
このように、基本契約書は企業間の商取引における信頼関係を築く基礎であり、個別契約書は派遣スタッフ一人ひとりの権利を保護するための実務的かつ法的な支柱です。とくに法令で作成を義務付けられている個別契約書は、派遣スタッフの就業条件を明確にすることで、働く側の安心感と労働環境の健全性を保つうえで、欠かせない存在だといえます。
派遣個別契約書の記載事項
個別契約書には、派遣スタッフが安心して働けるように、また派遣先企業が適正な労務管理を行えるように、派遣法第26条によって定められた事項を記載する必要があります。主な記載事項は以下の通りです。
カテゴリ | 法律で定められた主な記載項目 | 目的 |
---|---|---|
業務内容 | 従事する業務の具体的な内容、業務に伴う責任の程度 | 担当業務の範囲を明確にし、契約外業務の指示や責任の押し付けを防ぐため。 |
場所・指揮命令 | 派遣先事業所の名称・所在地・組織単位、就業場所、指揮命令者の部署・役職・氏名 | どこで、誰の指示のもと働くかを明確にし、適切な指揮命令系統を確保するため。 |
期間・時間 | 派遣期間、就業日、始業・終業時刻、休憩時間 | 労働時間や契約期間を正確に定め、長時間労働や契約期間に関する認識のずれを防ぐため。 |
安全・支援 | 安全衛生に関する事項、苦情の処理に関する事項(担当者、体制)、雇用安定措置 | 派遣スタッフの安全確保、問題発生時の円滑な解決、契約終了時の雇用不安軽減を図るため。 |
契約条件 | 派遣元・派遣先責任者、時間外・休日労働の定め、派遣人員、福利厚生の便宜供与 | 契約履行の責任体制、労働条件の細部、待遇などを明確にし、双方の権利義務を確定するため。 |
特殊なケース | 期間制限を受けない業務に関する事項、労使協定方式の対象か否か、紹介予定派遣に関する事項 | 法律上の特例や特別な契約形態(紹介予定派遣など)に関する条件を明記し、誤解を防ぐため。 |
派遣個別契約書の保管期間
派遣個別契約書は、派遣スタッフを実際に受け入れる際に必ず作成される重要な契約書ですが、その保管期間については明確な法律上の定めが少なく、実務では判断に迷うこともあります。ここでは、労働者派遣法をはじめとする関連法令の規定を整理しながら、どの程度の期間保存すべきかを解説します。
労働者派遣法における保存期間
労働者派遣法では、派遣個別契約書そのものの保存期間について明文化されていません。ただし、同法により、派遣元・派遣先企業には「管理台帳」を派遣終了後3年間保管する義務があります。台帳には就業条件や実績が記録されており、これらは個別契約書の内容と密接に関係します。実務では、台帳とあわせて契約書も同じ期間保管することが推奨されています。つまり、法的義務はなくとも、3年間の保管が実質的な最低ラインと考えられているのです。
労働基準法・会社法との関係
派遣法に明記がない以上、他法令を参考にする必要があります。労働基準法第109条では、労働者に関する重要書類を5年間保存する義務があります。派遣元企業にとって、個別契約書は雇用条件を定める重要文書であり、これに含まれると解釈されることが一般的です。また、2020年の法改正により賃金請求権の時効が5年に延長されたため、未払い残業代などの労務リスクを考えると、5年保存がより安全とされています。
さらに、会社法第432条では、株式会社に対し事業に関する重要な資料の10年間保存を義務付けています。派遣契約は金銭や継続的取引を伴うため、重要資料としてこの対象に含まれる可能性もあります。
保管期間は原則3年?5年?最長何年?
以上を踏まえると、保管期間は3年、5年、10年とさまざまな基準が存在します。派遣法を基にすれば最低3年、労働基準法を重視すれば5年、会社法・法人税法を考慮すれば10年というのが一般的な整理です。どれを採用するかは、法令順守に加え、企業の内部規定やリスク管理方針に左右されます。紛争時の証拠保全や税務調査への対応を見据え、長期保管を選ぶ企業も増えています。
最終的には、単なる法令順守だけでなく、リスクへの備えとして、契約書をどれだけ長く保管するかを判断すべきです。実務では5年を目安にしつつ、可能であればそれ以上の保存も視野に入れると安心でしょう。
実務上の保管期間の目安と企業の対応事例
派遣個別契約書は、法令に明記された保管義務がないとはいえ、実務上は重要な役割を担います。トラブルや監査、将来的な契約の参考として活用されるため、保管期間の設定には慎重な判断が求められます。
トラブル防止の観点からの保存期間
契約内容をめぐるトラブルは、派遣元・派遣先・派遣スタッフ間で発生しやすく、業務範囲や就業条件の認識の違いが問題となるケースもあります。そうした場面で、契約書は事実確認の根拠資料として極めて有効です。また、労働基準監督署の調査や社内監査の際にも契約内容の提示を求められることがあり、適切に保管していなければ企業の信頼性にも影響を与えかねません。
さらに、賃金請求権の時効が原則5年となっている現在では、その期間中に請求が発生するリスクも想定すべきです。契約書がなければ、支払義務の有無を判断することさえ難しくなる恐れがあります。これらを踏まえると、最低3年、可能であれば5年程度の保管が、実務上の現実的な対応と言えるでしょう。
他社の対応事例
派遣契約書の保管について明確な統計は少ないものの、多くの企業が法定の管理台帳と同様に、最低3年間の保管を基本としています。加えて、労働基準法改正や賃金時効の延長を受け、5年間の保管を推奨・実施する企業も増加傾向にあります。とくにコンプライアンスや内部統制を重視する大企業では、会社法や法人税法を踏まえ、7年〜10年保存するケースも見られます。
実務では、法令だけでなく、自社の業種やリスク許容度を加味して柔軟に保管期間を設定することが一般的です。契約書を確実に保管しておくことは、企業防衛の基本とも言えるでしょう。
電子保存と紙保存、どちらがいい?
契約書の保管方法として、従来からの「紙」での保管と、「電子データ」での保管、どちらが良いのでしょうか。それぞれに利点と考慮すべき点がありますので整理しました。
どちらの方法を選択するにしても、それぞれのメリット・デメリットを理解し、自社の規模や業務フロー、コンプライアンス体制に合った方法を選ぶことが肝心です。
特徴 | 紙での保管 | 電子データでの保管 |
---|---|---|
保管スペース | 必要(物理的スペース、キャビネット等) | 不要(サーバーやクラウド上) |
検索・閲覧 | 手作業での探索が必要、時間がかかる | キーワード検索等で迅速に可能 |
アクセス・共有 | 物理的な移動が必要、共有しにくい | ネットワーク経由で容易、複数人での共有やリモートアクセスに適す |
セキュリティリスク | 物理的な盗難、紛失、不正閲覧、災害による損傷 | 不正アクセス、情報漏洩、データ改ざん、システム障害、ウイルス感染 |
コンプライアンス | 従来の方法、電子帳簿保存法等の適用は限定的 | 電子帳簿保存法等の要件を満たす必要性(特にスキャン保存や電子取引) |
コスト要因 | 保管スペース費用、キャビネット、紙・印刷代、郵送費、管理の手間 | システム導入費、ソフトウェア利用料、スキャナー代、電気代、運用・管理の手間 。ただし、紙関連コストは削減可能 |
災害・障害への備え | 損傷・滅失リスク高い、バックアップ困難 | バックアップによりデータ復旧が可能 |
保管期間が過ぎた契約書の扱い
派遣個別契約書は、保管期間を過ぎた後もそのまま放置せず、適切に処理することが求められます。法律上の保存義務が終了していても、廃棄の際には情報漏洩リスクへの配慮や、内部統制上の手続きが必要です。正しい方法で処分することが、コンプライアンスの維持にもつながります。
廃棄方法と注意点
保管期限を超えた契約書を処分することは、保管コストの削減や業務効率の向上、そして情報漏洩リスクの軽減といったメリットがあります。しかし、単に処分するのではなく、安全かつ確実な方法で廃棄することが重要です。
紙の契約書は、復元が困難なクロスカット式のシュレッダーや、製紙工場で行う溶解処理、あるいは焼却処理などが推奨されます。最も確実なのは、機密文書の処理を専門とする業者に委託する方法です。これらの業者では、安全な処理方法を実施するだけでなく、「廃棄証明書」を発行してくれることも多く、監査対応や記録の証拠として活用できます。一方で、一般ごみとして捨てる行為は絶対に避けるべきです。
電子データの場合も、注意が必要です。パソコンの操作だけでは完全に削除されたとは言えず、専用のデータ消去ソフトを用いるか、物理的にハードディスクなどを破壊する必要があります。こちらも専門業者への依頼が安全で、同様に廃棄証明を取得することが望まれます。バックアップデータも忘れず削除することが、完全な処理には欠かせません。
なお、廃棄証明書は法定保管文書ではありませんが、監査が終わるまでは保管しておくと安心です。不要になった証明書は、それ自体が情報漏洩リスクになりうるため、処分の際も機密文書と同様の方法で対応することが求められます。
社内では、契約書の廃棄に関する明確なルールを整備し、対象文書や時期、承認プロセス、方法を明文化することが大切です。これにより、組織として一貫したコンプライアンスとセキュリティの運用が可能になります。
派遣個別契約書の保管は「期間」と「処分」がポイント
派遣個別契約書は、最低3年、リスクに備えるなら5年、長期では10年の保管が推奨されます。保管期間を過ぎた書類は、情報漏洩を防ぐためにも、安全な方法で廃棄することが重要です。紙・電子ともに適切な処理を行い、社内ルールに基づいて運用することで、法令遵守とセキュリティの両立が実現します。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
契約の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
新株予約権割当契約書とは?ひな形をもとに書き方や注意点を解説
新株予約権割当契約書は、会社による新株予約権の割当てに関する条件等を定めた契約書です。本記事では新株予約権割当契約書について、定めるべき事項(書き方)やレビュー時のポイントなどを、条文の具体例を紹介しながら解説します。 新株予約権割当契約書…
詳しくみる秘密保持義務とは?ひな型をもとに契約書(NDA)の書き方や注意点を解説
秘密保持義務とは、企業間の取引や労働者の職務などで知り得た相手の秘密情報を、外部に漏えいしたり不正利用したりしてはならないという義務です。秘密情報の流出は大きな損害につながります。情報を開示する前に秘密保持契約を締結して、重要な情報を保護し…
詳しくみる原状回復費用の請求書とは?ひな形をもとに書き方や注意点を解説
原状回復費用の請求書とは、賃貸借契約の終了時に、賃貸人が賃借物件を原状回復させるために工事などして要した費用を賃借人に請求するための書類です。企業がオフィスを借りる場合や工事による損傷などにより、請求されます。 本記事では、原状回復費用の請…
詳しくみる委託契約書の清算条項とは?記載内容や清算の種類を解説
委託契約における「清算条項」は、契約終了時の金銭や成果物の取り扱いを定める重要な項目です。 この記事では、清算条項の基本から、盛り込むべき内容、ケース別の注意点まで、契約トラブルを防ぐためのポイントを解説します。 委託契約の清算条項とは? …
詳しくみる草案とは?契約書における草案の作り方や類語を解説
契約はビジネスの根幹であり、その品質は法的安定性や紛争リスクを左右します。契約内容のたたき台となる「草案」の作成は、単なる「下書き」ではなく、交渉の主導権を握り、自社に有利な条件を戦略的に組み込み、潜在リスクを未然に防ぐ能動的な行為です。 …
詳しくみる物上保証契約書とは?ひな形をもとに書き方や注意点を解説
物上保証契約書とは、自分以外の他者のために自分の財産に抵当権や質権を設定する契約書のことです。設定した人は物上保証人と呼ばれ、他者が債務を返済できなくなったときに、設定した財産の範囲内で責任を負います。物上保証契約書の具体例や書き方のポイン…
詳しくみる