• 作成日 : 2025年11月11日

取締役会設置会社の取締役人数は何人必要?会社法が定める最低数や決め方の注意点を解説

会社の設立や組織変更を進める中で「取締役会を置く場合、取締役は何人必要なのか?」という疑問は非常に重要です。会社法では、取締役会設置会社には原則3名以上の取締役が必要と定められていますが、ただ人数を満たすだけでは十分ではありません。

この記事では、なぜ3名以上必要なのかという法律の基本から、事業規模や成長ステージに応じた最適な役員構成を考える上での注意点、さらには取締役の選任・解任手続きの実務まで、企業の担当者や経営者が知っておくべき知識を網羅的に、そして分かりやすく解説します。健全なガバナンス体制を構築するための一助となれば幸いです。

取締役会設置会社に必要な取締役の人数は?

取締役会設置会社では、3名以上の取締役が必要です。 これは、取締役会が複数のメンバーによる合議体として適切に機能するための最低人数として、会社法第331条第5項で明確に定められています。

取締役会は、議論と多数決によって会社の重要な意思決定を行う場です。そのため、客観的な議論を行い、意見が割れた場合にも結論を導き出せるよう、最低でも3名が必要とされています。

なぜ3名以上という決まりがあるのか?

社法が取締役会設置会社に取締役3名以上を求める趣旨については、公的な立法資料で明確な説明は確認されていません。しかし、取締役会の職務が「業務執行の決定」や「取締役の監督」(会社法第362条)と定められていることから、複数の取締役による合議制と監督機能の実効性を確保するのが一般的な理解とされています。

もし取締役が2名しかいない場合、意見が対立すると議論がこう着し、意思決定が不可能になる恐れがあります。3名いれば、多数決による決定が可能です。また、複数の取締役がお互いの業務執行を監督し合うことで、特定の個人の独断を防ぎ、健全な経営を維持するチェック機能が働きます。

取締役の人数に上限はあるのか?

会社法上、取締役の人数に上限は定められていません。 しかし、実務上は、会社の定款(ていかん)で「当会社の取締役は〇名以内とする」といった形で上限数を定めることが広く行われています。法務省や日本公証人連合会が公開する定款のひな形にも、このような上限規定の例が示されています。

取締役の数が多すぎると、役員報酬のコストが増大するだけでなく、議論がまとまりにくくなり、かえって意思決定のスピードが遅くなる可能性があるためです。

取締役が3名未満になった場合はどうなる?

任期満了や辞任などにより取締役が会社法で定める員数を満たさなくなった場合、または定款で定めた取締役の員数を満たさなくなった場合、具体的な補充期限は法律で定められていませんが、員数を満たすための早期の対応が実務上強く求められます。

後任者が就任するまでの間、退任した取締役は引き続きその権利義務を負う(権利義務取締役、会社法第346条1項)ほか、必要に応じて裁判所に一時的な取締役の選任を申し立てることも可能です。

取締役の員数が3名未満という状態は、取締役会設置会社としての法的要件を欠くことになり、取締役会自体を有効に開催することができません。よって、決議の有効性が争われるリスクは極めて高まります。また、役員変更の登記を怠れば、登記懈怠(とうきけたい)として代表者が100万円以下の過料の対象となる(会社法第976条)ため、迅速な対応が不可欠です。

出典:会社法|e-Gov 法令検索

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そもそも取締役会設置会社とは?

取締役会設置会社とは、会社の重要な意思決定を取締役会という合議体で行う株式会社のことです。取締役個人の判断ではなく、複数の取締役による議論と決議で経営を進めるため、客観性や透明性が高まり、会社の信用向上にも繋がります。

取締役会での決議事項

取締役会は、会社の業務執行における主要な意思決定機関であり、その権限と決議事項は会社法で定められています。代表取締役であっても、特に重要な以下の事項は独断で決定できず、取締役会での決議が必要です。

  • 重要な財産の処分および譲受け:経営に大きな影響を与える土地・建物・特許権などの売買。
  • 多額の借財:大規模な融資や社債の発行。
  • 重要な使用人の選任および解任:支店長や事業部長などの人事。
  • 重要な組織の設置、変更および廃止:新事業所の開設や事業部の統廃合。
  • 株主総会の招集決定:株主総会の日時、場所、議題の決定。
  • 内部統制システムの整備コンプライアンスやリスク管理の体制構築。

これらの事項を合議で決めることで、経営判断の妥当性を担保し、会社全体の利益を守る仕組みになっています。

監査役の設置と役割

監査役は、取締役の職務執行を監督する「業務監査」と、計算書類などをチェックする「会計監査」の両方を担うのが原則です(会社法第381条)。

ただし、株式を公開していない会社では、定款で監査役の権限を会計監査のみに限定すること(会計限定監査役)も可能です(会社法第389条1項)。また、会計監査人(監査法人など)を設置している会社では、その監査を監督することが主な役割となります。

このように権限の範囲は会社の形態で異なりますが、いずれの場合も企業の不正防止や健全な経営維持に不可欠な「守りのガバナンス」の要と言えます。

最適な取締役の人数を決める際の注意点は?

取締役の人数は、法律の要件を満たすだけでなく、会社の規模、事業内容、意思決定のスピード、ガバナンス体制のバランスを総合的に考慮して決定する必要があります。それぞれ詳しくみてみましょう。

会社の規模と事業の複雑性

会社の成長フェーズや事業の多角化に合わせて、取締役の構成を見直す必要があります。

創業期・成長初期

意思決定がシンプルな段階では、3〜5名程度で運営されることが多いようです。迅速な事業展開が最優先されるため、少人数で機動力を高めることが理にかなっています。

事業拡大期・多角化期

複数の事業部が生まれたり、海外展開を開始したりするフェーズでは、各事業や地域の責任者を執行役員に据えるだけでなく、取締役として経営に参画させることが有効です。

例えば「製造」「販売」「開発」「財務」といった機能ごとに専門家を取締役として置くことで、取締役会での議論の質が向上します。専門性が求められる事業(例: 製薬、IT)では、その分野の第一人者を社外から招聘することも強力な一手となります。

成熟期・大企業

監督機能と執行機能の分離が重要になります。取締役会の人数を絞り、経営の監督に特化させる一方、日常的な業務執行は「執行役員」に委任する「執行役員制度」の導入が一般的です。

意思決定のスピードと機動性

取締役会の人数は、経営のスピード感に直結します。多すぎても少なすぎても弊害が生まれるため、バランスが求められます。

  • 少人数(3〜5名)のメリット・デメリット
    • メリット:議論が収束しやすく、迅速な意思決定が可能です。環境変化の激しい業界では大きな強みとなります。
    • デメリット:創業メンバーなど同質性の高いメンバーで固まりがちで、意見の多様性が失われるリスクがあります。「イエスマン」ばかりになり、経営者の誤った判断を止められない可能性があります。
  • 大人数(10名以上)のメリット・デメリット
    • メリット:多様なバックグラウンドを持つ取締役が集まることで、多角的な視点からリスクを洗い出し、慎重な意思決定ができます。
    • デメリット:全員のスケジュール調整が難しく、取締役会の開催自体が非効率になることがあります。また、議論が発散しやすく、結論が出るまでに時間がかかり、機動力が著しく低下する状態に陥る危険性があります。

ガバナンスと監督機能

取締役会は、業務を執行する経営陣を監督するという重要な役割を担います。馴れ合いを防ぎ、客観性を担保する仕組みが不可欠です。

内部取締役と社外取締役のバランス

内部取締役は、社内の業務に精通しており、事業を具体的に推進する上で不可欠です。一方で社外取締役は、しがらみのない客観的な立場で経営を監督し、企業のガバナンスを強化する役割を担います。この両者の適切なバランスを取ることが、健全な経営には欠かせません。

特に、上場企業や「監査等委員会設置会社」のような特定の組織形態では、客観的な監督機能を確実にするため、社外取締役の選任が法律や取引所のルールで必須とされています。

監督機能の実効性

取締役の人数が増えても、代表取締役の力が強すぎると、他の取締役が萎縮してしまい、監督機能が形骸化することがあります。取締役会議長を代表取締役以外の者が務めるなど、活発な議論を促すための工夫も有効です。

コスト(役員報酬)

取締役の増員は、会社の固定費増加に直結する現実的な問題です。

  • 報酬水準の設計:取締役の報酬は、本人の貢献度や責任の重さに加え、同業他社の水準や会社の業績を考慮して決定されます。優秀な人材を確保するためには相応の報酬が必要ですが、会社の利益水準を圧迫しないよう、慎重な報酬設計が求められます。
  • 費用対効果の検証:新たに取締役を1名増やすことで、どれだけの企業価値向上(売上拡大、リスク管理強化、新規事業創出など)が見込めるのか、費用対効果を冷静に分析する必要があります。「名誉職」として不要な取締役を置いていないか、定期的な見直しも重要です。

取締役の選任と解任の手続きの流れ

取締役の選任および解任は、会社の所有者である株主の意思を反映するため、原則として株主総会の決議によって行われます。 ここでは、それぞれの具体的な手続きの流れを詳しく見ていきましょう。

ステップ1. 取締役候補者の決定

取締役を選任するための最初のステップは、候補者をリストアップし、内定することです。

このプロセスは通常、既存の取締役会で協議されます。指名委員会等設置会社の場合は、指名委員会が株主総会に提出する取締役候補者などの議案内容を決定します(会社法第404条1項)。取締役を最終的に選任するのは、その議案に基づく株主総会の決議です。

候補者には、社内の有能な人材を昇格させるケースや、経営の客観性や専門性を高めるために社外から専門家を招聘するケース(社外取締役)などがあります。この段階で、候補者本人に取締役就任の意思があるかを事前に確認し、内諾を得ておくことが重要です。また、会社法で定められた欠格事由(法人、成年被後見人など)に該当しないかも確認します。

ステップ2. 株主総会の招集と議案の通知

次に、取締役選任を議題(議案)とする株主総会を開催するために、招集手続きを行います。

取締役会で株主総会の日時、場所、目的事項(取締役選任の件など)を決定し、株主に対して招集通知を発送します。この通知と合わせて株主に提供される株主総会参考書類には、会社法施行規則に基づき、候補者の氏名や略歴などを記載する必要があります。特に、社外取締役候補者である場合などには、より詳細な情報の記載が求められます。株主が事前に候補者について検討し、議決権を行使するための判断材料を提供するためです。

ステップ3. 株主総会での選任決議

株主総会当日、出席した株主の投票によって取締役選任の決議を行います。取締役の選任は、原則として「普通決議」で成立します。普通決議の基本的な要件は以下の通りです。

  • 定足数:議決権を行使できる株主の過半数が出席すること
  • 決議要件:出席した株主の議決権の過半数の賛成があること

この要件は定款で変更できますが、以下の重要なルールがあります。

  • 定足数は、定款で引き下げたり、撤廃したりできます。ただし、役員の選任・解任の場合は、定足数を3分の1未満にすることはできません(会社法第341条)。
  • 決議要件は、定款で過半数より厳しくすることはできますが、過半数より緩くすることはできません。

これらの要件を満たして決議が可決されると、候補者は法的に取締役に選任されたことになります。

ステップ4. 候補者による就任承諾

株主総会で選任されただけでは手続きは完了しません。候補者本人が取締役に就任することを承諾する必要があります。

選任決議後、候補者は会社に対して「就任承諾書」を提出します。この承諾書が会社に到達した時点で、正式に取締役としての地位が確定し、任期が開始します。実務上は、株主総会の終結後すぐに就任承諾書を提出してもらうのが一般的です。

ステップ5. 役員変更の登記申請

最後に、取締役が新たに就任したことを公に示すため、法務局で変更登記の申請を行います。

会社の役員に関する情報は登記事項であり、第三者も閲覧できる形で公示されています。そのため、取締役の就任があった場合は、就任日(就任承諾日)から2週間以内に管轄の法務局へ役員変更の登記を申請する義務があります。この登記を怠ると過料の対象となる可能性があるため、迅速な手続きが必要です。

(補足)取締役の解任手続きについて

取締役の解任も、選任と同様に株主総会の普通決議によって行われます。

株主は、いつでも理由を問わず、取締役を解任することが可能です。ただし、解任された取締役に不正行為などの「正当な理由」がないにもかかわらず、任期満了前に解任した場合は注意が必要です。その場合、会社は解任された取締役に対し、任期の満了まで得られたはずの役員報酬など、解任によって生じた損害を賠償する責任を負う可能性があります。

取締役会設置会社として、最適な取締役人数で健全な経営を

この記事では、取締役会設置会社における取締役の人数について解説しました。法律上の最低要件は3名ですが、重要なのはその数字だけではありません。自社の事業規模や成長ステージ、目指すべきガバナンス体制に合わせて、最適な役員の員数を戦略的に決定することが、持続的な成長と健全な会社経営の基盤となります。

これから会社を設立する方や、組織再編を検討している方は、本記事を参考に、自社にふさわしい取締役会の形を考えてみてはいかがでしょうか。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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