- 作成日 : 2025年7月9日
通帳はどう処分する?処分する前に確認すべきことや処分方法を解説
金融機関との取引履歴が詰まった通帳。記帳を終えたり、Web通帳に切り替えたりすると、不要になった通帳の処分に困る方もいるのではないでしょうか。「そのままゴミ箱に捨ててしまっても大丈夫?」「何か注意することはないの?」といった疑問を持つのは当然です。
この記事では、通帳を処分する前に確認すべき重要なポイントから、安全かつ適切な処分方法までを詳しく解説します。
通帳を処分する前に確認すべきこと
通帳を処分する前には、いくつか確認すべき重要なポイントがあります。
口座は解約済み?残高は?
まず、処分したい通帳の口座が解約済みで、残高も0円になっているか確認しましょう。「通帳を捨てる」ことと「口座を解約する」ことは別の手続きです。未解約で残高があれば、まず解約手続きと残高の引き出しまたは資金移動が必要です。解約をしないまま10年以上取引がない口座は「休眠口座」として扱われ、残高を出金するために窓口で手続きを行うことが必要となります。
自動引き落とし・振込設定の確認
次に、その口座が公共料金、クレジットカード代金、家賃などの自動引き落とし口座や、給与、年金などの自動振込先に指定されていないか確認してください。これらの設定が残ったまま口座を解約したり、通帳を処分して口座の存在を忘れたりすると、支払い遅延や入金エラーを引き起こす可能性があります。
今後の記録として不要か最終確認
その通帳の取引履歴が、将来的にローン審査、相続手続き、税務申告(特に個人事業主や法人)などで必要になる可能性がないか慎重に検討しましょう。一度処分すると、後日取引明細が必要になった際に、金融機関に有料で発行してもらう手間と費用が発生します。これは、金融機関との取引を終了させる場合でなく、記帳が終わった通帳やWeb通帳に移行する前の通帳にも必要な考え方です。
通帳の安全な処分方法
不要になった通帳を安全に処分する方法はいくつかあります。
シュレッダーやハサミで細かく裁断する
最も手軽な方法は、シュレッダー(クロスカットやマイクロカットタイプ推奨)やハサミで通帳を細かく裁断することです。
- 個人情報(氏名・口座番号・届出印など)のマスキング
裁断前に、氏名、住所、口座番号、届出印の印影などを油性黒マジックや個人情報保護スタンプで塗りつぶし、隠蔽します。 - 磁気ストライプの処理
通帳裏面の磁気ストライプは、ハサミで複数箇所に切り込みを入れるか切断します。強力な磁石を滑らせて磁気情報を破壊することも有効です。 - 裁断後のゴミの出し方の注意点
裁断片は複数のゴミ袋に分けて捨てる、他の燃えるゴミと混ぜるなどして復元を困難にします。不透明なゴミ袋を選び、収集直前に出すのが望ましいです。
銀行窓口での処分
通帳繰越時や口座解約時に、古い通帳の処分を銀行窓口で依頼できる場合があります。ただし、全ての銀行や支店で対応しているわけではないため、事前に確認が必要です。
専門業者による機密文書溶解サービス
大量の通帳や他の機密書類をまとめて処分したい場合、専門の不用品回収業者や機密文書溶解サービスを利用する選択肢もあります。情報漏洩対策を徹底した上で、書類を溶解処理(パルプ再生)してくれます。多くの場合、「溶解処理証明書」が発行されます。
古い通帳の届出印の取り扱い
古い通帳には届出印の印影が押されているページがあり、これは「口座への物理的な鍵」です。悪用されると印鑑を偽造され、不正に預金が引き出されるリスクがあります。処分時には、この印影部分も確実に判読不能にする(黒マジックで塗りつぶす、特に細かく裁断するなど)ことが絶対に必要です。 根本的な対策として、届出印を変更したい場合は、金融機関で改印手続きを行い、不要になった古い印鑑自体も物理的に使用不可能な状態にしてから安全に処分しましょう。
通帳を処分するタイミングは?
通帳をいつ処分するかは、状況によって異なります。
一般的な個人の通帳
記帳が終わり新しい通帳に繰り越されたものや、口座解約済みで今後記録を参照する予定がなければ、いつ処分しても法的には問題ありません。家計管理のために2~3年程度、通常の預金通帳なら1~2年程度の保管が目安とされることもあります。
ローン審査に備える場合
住宅ローンなどの申し込みを検討している場合、審査で過去数ヶ月から1年程度の収入や支出の記録として通帳の提示を求められることがあります。少なくとも直近1年分の通帳は保管しておくのが賢明です。
個人事業主・フリーランス
個人事業主やフリーランスの場合、通帳は事業上の取引を記録した重要な帳簿書類の一部です。青色申告の場合は原則としてその年度の確定申告の期限(3月15日)翌日から7年間、白色申告の場合は5年間の保存が所得税法上で義務付けられています。
法人の場合
法人の場合、通帳は会計帳簿や取引に関する重要な資料として、会社法および法人税法によって厳格な保存期間が定められています。法人税法では原則としてその年度の確定申告期限翌日から7年間(欠損金繰越等で10年間に延長される場合あり)、会社法では会計帳簿閉鎖時(事業年度の最終日)から10年間の保存が義務付けられています。より長い方の期間(この場合は10年間)に合わせて保管するのが安全です。
通帳の推奨保管期間の目安
利用目的 | 推奨保管期間 |
---|---|
一般的な個人の家計管理 | 2~3年程度 |
ローン審査予定 | 1年以上 |
個人事業主・フリーランス | 青色申告:7年(前々年所得300万以下は5年) 白色申告:5年 ※雑所得者の場合は原則不要だが、前々年の所得が300万円超の場合は5年 |
法人 | 法人税法:原則7年(欠損金繰越等で10年) 会社法:10年(より長い方を適用) |
故人の通帳の処分
故人の通帳の取り扱いには特に慎重な対応が求められます。
すぐに処分してはいけない
故人の通帳は法的に重要な「遺産」の一部です。預貯金は相続財産となり、相続人全員の共有財産となります。相続手続き完了前に勝手に処分したり、預金を引き出したりすると、他の相続人とのトラブルや法的に不利な立場になる可能性があります。
相続手続きにおける通帳の重要性
故人の通帳は、相続財産の範囲と評価額を正確に確定するために不可欠です。最終残高だけでなく、過去の入出金履歴から他の金融資産や負債の存在が明らかになることもあります。相続税の申告が必要な場合、税務署はこれらの情報を基に審査し、税務調査では過去数年分の通帳履歴の提出を求められることが一般的です。
銀行への死亡連絡と口座凍結後の手続き
相続が発生したら、速やかに金融機関に名義人の死亡を連絡します。銀行は口座を凍結し、一切の取引ができなくなります。凍結解除には、戸籍謄本、印鑑証明書、遺産分割協議書(または遺言書)など、所定の書類提出による正式な相続手続きが必要です。葬儀費用など緊急の資金が必要な場合は、「遺産分割前の相続預金の払戻し制度」を利用できる場合があります。
相続放棄する場合の通帳の扱い
故人に多額の借金がある場合など、相続放棄を検討する際は、故人の通帳や預金の取り扱いに最大限の注意が必要です。預金を引き出すなどの行為は「相続財産の処分」とみなされ、相続放棄が認められなくなるリスクがあります。故人の通帳やキャッシュカードには一切手を付けず、速やかに法律専門家に相談しましょう。
相続手続き完了後の目安
故人の通帳を処分できるのは、全ての相続手続き(遺産分割、相続税申告・納付、税務調査の可能性期間の経過など)が完了した後です。一般的に、相続税の税務調査は申告後1~2年程度で行われることが多いため、それを考慮して保管期間を判断しましょう。
専門家(税理士など)への相談
故人の通帳の取り扱いや処分時期に迷う場合は、税理士、弁護士、司法書士などの専門家に相談することを強く推奨します。
なぜ通帳の正しい処分が重要?
古い通帳の処分に悩んだことはありませんか?通帳は単なる紙ではなく、重要な金融情報が詰まった記録媒体です。処分方法を誤ると、個人情報漏洩や不正利用のリスクがあり、思わぬトラブルに巻き込まれる可能性があります。
個人情報保護の観点
通帳には氏名、住所、口座番号、取引履歴、場合によっては届出印の印影など、極めて重要な個人情報が記録されています。これらの情報が漏洩すれば、なりすましや詐欺などの金融犯罪に悪用される危険性があります。通帳の正しい処分は、積極的な個人情報保護であり、防犯対策の一環として認識することが重要です。
不正利用のリスク
特に古い通帳の届出印の印影から印鑑が偽造され、不正に預金が引き出される事件も報告されています。口座番号や氏名だけでも、架空請求などのターゲットになる可能性があります。金銭被害だけでなく、信用情報への悪影響やさらなる情報流出といった二次被害も考えられます。
通帳は正しく安全に処分しましょう
通帳の安全な処分方法から適切なタイミング、故人の通帳の取り扱いまで解説しました。
この記事で得られた知識を活かし、古い通帳の整理・処分を進めてみてください。不明な点や不安なことがあれば、金融機関や専門家に相談することを躊躇しないでください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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