- 更新日 : 2025年10月21日
業務委託契約書とは?書き方や注意点を解説【無料テンプレート・雛形付き】
業務委託契約書は、企業の業務を外部の個人事業主や法人へ委託する際に、トラブルを未然に防ぐために作成する文書です。業務内容や報酬などの条件を明確に定めることで、当事者間の認識の齟齬をなくし、円滑な取引を実現します。
この記事では、業務委託契約書の目的や種類、請負契約や雇用契約との違いを説明します。契約書の記載事項や雛形となるテンプレートも紹介しますので、内容を自由にカスタマイズしてご活用ください。
目次
業務委託契約書とは?
業務委託契約書とは、委託者が自社の業務を外部の受託者に委託する際、業務内容や報酬、支払期日などの諸条件を明記した契約書です。当事者間の合意内容を文書で明確にすることで、将来発生しうる紛争を防ぐ目的があります。
民法には業務委託契約という名称の契約は存在しません。実務上は、民法上の請負契約か委任契約、あるいはその両方の性質を持つ契約として扱われます。
業務委託契約を結ぶ目的
業務委託契約書を結ぶ主な目的は、当事者間の法律関係を明確にし、トラブルを未然に防ぐことです。業務委託では自社の従業員のように指揮命令を行うことはできないため、業務の範囲や内容、報酬の発生条件、問題発生時の責任の所在を契約書であらかじめ定めておかないと、後々トラブルに発展しかねません。
契約自体は原則として口頭でも成立しますが、下請法やフリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)などが適用される場合、契約内容を書面または電磁的記録で明示することが義務付けられています。そのため、法令遵守と紛争防止の観点からも、書面での契約締結を行うべきです。
業務委託契約と雇用契約の違い
業務委託契約と雇用契約の大きな違いは、当事者間に指揮命令関係があるかどうかです。
雇用契約では、使用者(依頼者)が労働者(依頼された側)に対して業務の進め方などを具体的に指示する主従関係が存在します。
一方、業務委託契約における委託者と受託者は、独立した対等な立場です。受託者は委託者からの指揮命令を受けず、自らの裁量で業務を遂行します。
ただし、契約書の名称が「業務委託契約書」であっても、実態として指揮命令関係が存在する場合には、雇用契約とみなされる可能性があります。このような場合、労働基準法の適用対象となり、労働基準監督署から指導や勧告を受けることもあります。
そのため、契約内容を定める際は、業務の実態に即した形式・条項とすることが重要です。
業務委託契約の2つの性質
業務委託契約は、その内容によって請負契約または委任契約のいずれかの性質を持つと解釈されます。
業務委託契約書の種類
業務委託契約は、報酬の支払い方によって主に3つの種類に分けられます。どの形態を選ぶかによって、委託者・受託者双方の収支計画や業務への関わり方が変わるため、委託する業務の性質に合わせて選択することが重要です。
定額報酬制
継続的に業務を委託し、委託者が毎月定額の報酬を支払うことを約束する契約です。一般的に顧問契約と呼ばれるものがこの形態に該当します。
- 税理士や弁護士との顧問契約
- Webサイトの保守・運用管理
- 人事・労務に関するコンサルティング
- 広報・PR活動の継続的なサポート
定額報酬制は、専門的な知識やスキルを要する業務を、自社に専門家を置かずに継続して依頼したい場合に適しています。委託者にとっては、毎月の支出が固定されるため予算管理がしやすいという側面があります。受託者にとっては、毎月安定した収入を確保できる点が大きなメリットです。
契約書では、定額報酬に含まれる業務の範囲を明確に定義し、範囲外の業務を依頼する場合の追加料金についても定めておくと、後のトラブルを防げます。
成果報酬制
委託した業務の成果によって報酬の有無や金額が決まる契約です。仕事の完成を目的とする請負契約の性質を持つものや、納品物の量に応じて報酬額が変動するものなど、様々な形式があります。
- Webライターへの記事執筆依頼(1記事〇円、1文字〇円など)
- Webデザイナーへのロゴやバナー制作依頼
- 営業代行(成約1件につき〇円など)
- ECサイトの売上に応じたコンサルティング報酬
成果報酬制は、特定の成果物(納品物)が必要な業務に適しています。委託者は、成果に対して報酬を支払うため、費用対効果を明確にしやすいです。受託者は、自身のスキルや努力次第で高い報酬を得られる可能性があります。契約書では、何をもって成果とするか(成果物の仕様、納品基準、検収方法など)を具体的かつ客観的に判断できる基準で定めることが不可欠です。成果の定義が曖昧だと、報酬の支払い段階でトラブルになる危険性があります。
単発型
一度きりの業務や、プロジェクト単位で完結する業務を委託する契約です。継続的な契約とは異なり、特定の業務が完了した時点で契約関係が終了します。
- 確定申告の代行を一度だけ税理士に依頼する
- 会社の設立登記を司法書士に依頼する
- イベント用のプロモーション動画を制作する
- システムの導入支援を一度だけ受ける
恒常的には発生しないものの、専門的なスキルが必要な業務を依頼する場合に利用されます。委託者は、必要な時に必要な分だけ外部の専門家の力を借りることができます。受託者も、特定の期間や業務に集中して取り組むことができます。たとえ一度きりの関係であっても、業務内容や納期、報酬額を明記した契約書を必ず作成することが、円滑な取引の前提となります。
業務委託契約書の無料テンプレート・雛形
業務委託契約書が必要な際は、テンプレートを利用すると効率的に作成ができます。 マネーフォワード クラウドでは、弁護士が監修したワード形式のテンプレートを用意しています。契約内容にあわせて、内容をカスタマイズしてご利用ください。
業務委託契約書の書き方・記載事項
業務内容にもよりますが、業務委託契約では後で揉めることがないよう契約書に記載しておくべき事項がいくつかあります。主な記載事項は以下のとおりです。
委託業務の内容
受託者が行う業務の範囲、内容、成果物の仕様などを具体的に記載します。
内容が曖昧だと、責任の範囲も不明確になります。「〇〇に関するコンサルティング業務」といった大枠だけでなく、「月次レポートの作成」「週1回の定例会議への出席」のように、可能な限り具体的かつ詳細に業務内容を記述します。
委託料
報酬の金額、計算方法、消費税の扱いなどを記載します。
金銭に関する取り決めは最もトラブルになりやすいため、明確な合意が必要です。報酬額を固定額、時間単価、成果単位などで具体的に定め、消費税の扱い(内税か外税か)、交通費などの経費負担についても定めます。特に委任契約の性質を持つ場合は無償が原則とされるため、報酬が発生する場合は必ず明記しなくてはなりません。
契約期間
契約が有効な期間を記載します。
例えば、「〇年〇月〇日から〇年〇月〇日まで」と具体的な期間を明記します。仕事の完成が目的である請負契約の場合でも、目安となる期間を定めておくべきです。自動更新の有無や、更新する場合の手続きについても定めておくと、都度の再契約の手間が省けます。
支払条件・支払時期
報酬がいつ、どのような方法で支払われるかを明確にし、支払いの遅延などのトラブルを防ぎます。
具体的には、「毎月末締め、翌月末払い」「納品後〇日以内」など支払時期を定め、支払方法(銀行振込など)や振込手数料の負担者も明記します。着手金の有無についても記載が必要です。
成果物の権利
業務の成果として制作された著作物などの知的財産権が、どちらに帰属するのかを記載します。
著作権(著作財産権)が委託者に譲渡されるのか、受託者に留保されるのかを明確にし、「本件業務の成果物に関する所有権および著作権(著作権法第27条および第28条に定める権利を含む)は、委託者に帰属する」といった形で定めます。
再委託
受託者が業務を第三者へ委託(再委託)することの可否と、その条件を記載します。
委託者としては、受託者のスキルや実績を信頼して依頼している場合が多いため、無断で再委託されると不利益を被る可能性があります。再委託を完全に禁止するのか、あるいは「委託者の事前の書面による承諾を得た場合」など条件付きで許可するのかを明記します。
秘密保持
業務上知り得た相手方の秘密情報を第三者に漏らさない義務について記載します。
秘密情報の定義、目的外使用の禁止、第三者への開示の禁止、契約終了後の秘密保持義務などを定めます。個人情報や知的財産に関する情報など、外部に漏洩させたくない情報がある場合は必ず記載しましょう。
反社会的勢力の排除
契約当事者が反社会的勢力ではないこと、および関与しないことを表明・確約する内容を記載します。
企業コンプライアンスの観点から、反社会的勢力との関係を遮断するために定めます。「暴力団排除条例」の施行後、多くの契約書に盛り込まれるようになりました。違反した場合に無催告で契約を解除できる旨も記載します。
禁止事項
業務を遂行する上で、受託者が遵守すべき事項や禁止する行為を記載します。
例えば、競合他社への情報提供の禁止や、委託者の信用を毀損する行為の禁止など、業務内容に応じて具体的な禁止事項を記載します。
契約解除
どのような場合に契約を解除できるか、その条件を記載します。
相手方の債務不履行や信用不安などを具体的な解除事由として列挙します。無条件で解除できる期間や条件についても記載することがあります。
損害賠償
契約違反などによって相手方に損害を与えた場合の、賠償責任の範囲や金額について記載します。
実務上は、「委託料の総額を上限とする」のように、賠償額に上限を設けることもあります。
契約不適合責任
納品された成果物が契約内容と異なる場合に、受託者が負う責任について記載します。
2020年4月の民法改正で、従来の瑕疵担保責任に代わり導入された規定です。契約不適合があった場合に、委託者が追完請求(修正や代替品の納品)、代金減額請求、損害賠償請求などをできる旨と、その権利をいつまで行使できるか、その期間(例:納品後1年以内)も定めておくことが重要です。
管轄裁判所
契約に関して紛争が生じ、裁判になった場合に、第一審を行う裁判所を記載します。
万が一の紛争に備え、どの裁判所で審理を行うかをあらかじめ合意しておくために必要です。当事者の所在地が離れている場合は特に重要で、「東京地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする」のように指定します。
業務委託契約書を作成するうえで収入印紙は必要?
業務委託契約書が特定の条件に該当する場合、収入印紙の貼付が必要です。
請負に関する契約書の場合
業務委託契約の内容が請負契約にあたる場合、契約金額に応じて以下の印紙税がかかります。
| 記載された契約金額 | 税額 |
|---|---|
| 1万円未満 | 非課税 |
| 1万円以上 100万円以下 | 200円 |
| 100万円を超え 200万円以下 | 400円 |
| 200万円を超え 300万円以下 | 1,000円 |
| 300万円を超え 500万円以下 | 2,000円 |
| 500万円を超え 1,000万円以下 | 1万円 |
| 1,000万円を超え 5,000万円以下 | 2万円 |
| 5,000万円を超え 1億円以下 | 6万円 |
| 1億円を超え 5億円以下 | 10万円 |
| 5億円を超え 10億円以下 | 20万円 |
| 10億円を超え 50億円以下 | 40万円 |
| 50億円を超えるもの | 60万円 |
| 契約金額の記載のないもの | 200円 |
継続的取引の基本となる契約書の場合
契約期間が3か月を超える継続的取引の基本契約書は、印紙税の課税対象となります。税額は、契約金額などにより異なります。
上記以外および電子契約の場合
契約内容が委任契約に分類される場合、原則として収入印紙は不要です。
また、電子データで契約を締結する電子契約では、課税文書を作成したことにはならないため、契約内容にかかわらず収入印紙は不要となります。
参考:No.7100 課税文書に該当するかどうかの判断|国税庁
業務委託契約の注意点
業務委託契約を結ぶ際は、特に以下の点に注意が必要です。
偽装請負とみなされるリスク
契約形式が業務委託であっても、実態として委託者が受託者に対し業務の進め方を細かく指示している場合には、偽装請負とみなされるおそれがあります。さらに、作業場所(勤務場所)や作業時間(勤務時間)を委託者が指定・管理している場合も、委託者と受託者の間に実質的な指揮命令関係があると判断される要因となります。
偽装請負と認定された場合、委託先の従業員が委託者の労働者とみなされ、労働基準法の適用や社会保険加入義務など、使用者としての責任を負う可能性があります。そのため、契約の実態が独立した請負・委任関係に該当するかを慎重に確認し、厚生労働省の「労働者派遣と請負の適正な区分に関するガイドライン」等を参考に、適切な契約関係を維持することが重要です。
フリーランス・個人事業主が契約する場合の注意点
個人事業主やフリーランスとして契約する場合は、以下の点を確認しましょう。
- 成果基準の明確化
何をもって業務完了とするか、具体的な基準を文章で残します。 - 報酬の支払条件
着手金の有無や、源泉徴収税を差し引いた額が振り込まれるのか、税込か税抜かなどを必ず確認します。 - 個人間契約のリスク
親しい間柄でも、金銭が絡む場合は必ず書面で契約を交わしましょう。口頭での契約も効力はありますが、トラブル発生時に「言った」「言わない」の水掛け論になることを避けるためです。
英語で契約書を作成する場合の注意点
和文契約書と英文契約書の両方を作成し、どちらの言語版を正文(法的な解釈の優先権を持つもの)とするかを明記します。準拠法(どちらの国の法律を適用するか)と、紛争解決の手段(裁判か仲裁か)も定めましょう。
業務委託契約書について理解し、正しく作成しましょう
業務委託契約は、実務上で広く利用されていますが、その内容は委託する業務によって大きく異なります。どのような業務を、どのような条件で委託・受託するのかを当事者間でしっかりと確認し、その内容を正確に反映した契約書を作成することが、円滑な取引の実現につながります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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