- 作成日 : 2025年5月7日
電子契約の保管方法は?電子帳簿保存法の要件や紙で保存・印刷できるのかも解説
電子契約を保管する方法には、電子契約サービスの利用や社内システムの活用があります。いずれの方法を採用するにしても、電子契約を保管する際には電子帳簿保存法の要件を満たしておかなければなりません。
本記事では、電子契約の保管方法や保管する際の電子帳簿保存法の要件、紙で保存・印刷できるのかといったことを詳しく解説します。
目次
電子契約の保管方法
電子契約の保管方法には、次の2つの方法があります。
- 電子契約サービスを利用する方法
- 社内のファイル管理システムに保存する方法
ここでは、それぞれの方法について解説します。
電子契約サービスを利用する方法
1つめが、電子契約サービスを利用する方法です。電子契約サービスを利用すれば、電子帳簿保存法の要件を満たしたうえで、安全に電子契約を保管できます。
電子契約は、個人情報や機密情報などが多く含まれた重要書類です。セキュリティ対策が万全でない場合、サイバー攻撃や不正アクセスを受けて、個人情報や機密情報が外部に漏えいする恐れが考えられます。
電子契約サービスであれば、公開鍵暗号方式を用いた電子署名や通信の暗号化などでセキュリティ対策を行っていることが多いため、より安全に電子契約書を保管可能です。
また、クラウド型のサービスであれば、災害や事故などで本社が被害に遭っても、契約書自体はクラウド上で管理されているため、問題ありません。
社内のファイル管理システムに保存する方法
2つめが、社内のファイル管理システムに保存する方法です。ファイル管理システムとは、社内にある電子化した書類を一括管理するシステムのことを指します。
インターネット上で電子契約を管理するため、書類の保管場所が不要です。さらに、社員のパソコンやスマートフォン、タブレットなどから電子契約を閲覧できるため、業務の効率化にもつながります。
電子契約を保管するときの電子帳簿保存法の要件
電子化された契約書のデータは、電子帳簿保存法の電子取引の保存区分に分類されます。電子帳簿保存法において、電子契約を保管する際に求められる要件は、次の2つです。
- 真実性の確保
- 可視性の確保
真実性の確保
1つめの要件が真実性の確保です。真実性とは、電子契約のデータが改ざんされていないことを意味し、データを訂正した場合や削除した場合の履歴を保持できるような仕組みを作る必要があります。
真実性を確保するために用いられるのが、タイムスタンプや、データの訂正・削除ができないシステムなどです。
可視性の確保
可視性の確保とは、電子契約のデータを検索・確認できるようにすることです。具体的には、パソコンなどの画面で表示できることや、書面にプリントアウトして確認できる状態のことを指します。
また、用いる機器についての操作説明書も必要なほか、画像データの質が悪くて文字が解読できない場合、可視性が確保されているとは認められないため注意しましょう。
電子契約の保管方法に関する電子帳簿保存法の改正点
電子帳簿保存法は、2022年に改正が行われました。ここでは、電子契約の保管方法に関する電子帳簿保存法の改正点について解説します。主な改正点は、次の4つです。
- 検索要件の緩和
- スキャナ保存要件の緩和
- タイムスタンプ要件の緩和
- 電子取引データの電子保存が義務化
改正点についての理解を深めましょう。
検索要件の緩和
1つめの改正点が、検索要件の緩和です。前述したように、電子帳簿保存法では保管データを検索できるような仕組みを整備しておく必要があります。
改正前は、さまざまな条件で書類を検索できるようにしておかなければなりませんでした。しかし、改正で検索項目の条件が緩和され、検索条件が次の3項目だけに絞られています。
- 日付
- 金額
- 取引先
また、範囲指定検索や組み合わせ検索が行えることも検索要件としてありますが、税務職員からデータのダウンロードを求められた際に応じられる状態であれば、不要になる緩和措置がとられています。
スキャナ保存要件の緩和
2つめの改正点が、スキャナ保存要件の緩和です。スキャナ保存・電子帳簿等保存を望む場合、改正前までは税務署長に届出を行って事前に承認を受ける必要がありました。
しかし、改正後は手続きが不要になっています。スキャナ保存・電子帳簿等保存は任意ですが、事前申請が不要になったことで、より採用しやすくなっています。
タイムスタンプ要件の緩和
3つめの改正点が、タイムスタンプ要件の緩和です。改正された内容は、次の通りです。
- スキャナ保存する際のタイムスタンプの付与期間が、3営業日以内から最長約2ヶ月と概ね7営業日以内に延長された
- 訂正・削除できないクラウドサービスを利用する場合、訂正・削除の履歴が残る場合は、タイムスタンプの付与を省略できる
- 受領者による書類への自著が不要になった
- 適正事務処理要件が廃止された
複数の改正点があるため、しっかりと理解しておきましょう。
電子取引データの電子保存が義務化
4つめの改正点が、電子取引データの電子保存の義務化です。改正前は、電子取引を行った書類を紙に印刷して保存することが認められていました。
しかし、改正により、電子取引データの電子保存が義務化され、紙での保存が認められなくなっています。たとえば、メールに添付されたPDFの請求書や、インターネット経由でダウンロードしたECサイトの領収書などは電子取引に該当するため、電子データとして保存する必要があります。
電子契約のうち電子帳簿保存法の対象外となるもの
そもそも、電子帳簿保存法の対象となるのは、電子取引を行っているすべての企業や個人事業主です。取引を紙で行っていて、電子取引をまったく行っていない場合は対象外となります。
そのうえで、電子帳簿保存法の対象外となる書類は、手書きで作成したものです。対象外となる書類は、大きく次の3つに分けられます。
- 手書きの国税関係帳簿
- 棚卸表や売上伝票、貸借対照表などの書類
- 電子取引でやり取りしていない書類
国税関係帳簿に該当する書類には、次のようなものがあります。
また、国税関係書類のうち以下のような決算関係書類も電子帳簿保存法におけるスキャナ保存の対象外です。
- 棚卸表
- 売上伝票
- 貸借対照表
- 損益計算書 など
そのほか、電子取引で取引していない契約書や注文書などの書類がある場合も、電子取引のデータ保存の対象外です。
なお、上記の書類については、紙の書類をしっかりと保管しておく必要があるため、注意しましょう。
電子契約の保管方法についてよくある質問
ここからは、電子契約の保管方法についてよくある質問について回答します。
電子契約書の電子保存はいつから開始?
電子契約書の電子保存は、2024年1月1日から完全義務化されています。前述したように、電子帳簿保存法が改正されたのが2022年です。
その後2年間は宥恕期間でした。2024年1月1日に電子保存が完全義務化されましたが、宥恕期間に代わって新たな猶予措置も設けられています。
猶予措置に該当するのは、次のいずれにも当てはまる場合です。その場合は、要件を満たさなくてもよいとされています。
- 所轄税務署長によって、要件を満たしたうえでの電子取引データの保存が難しいと認められた場合
- 電子取引データのダウンロードの求め、印刷した電子取引データ書面の提示・提出に対応できるようにしている場合(税務調査が入った際など)
電子契約書を紙に印刷してはいけない?
前述したように、2024年1月以降、電子契約書の電子保存が義務化されています。そのため、電子取引で授受した契約書の電子データは、電子データのまま保存しなければなりません。
ただし、前項で解説した猶予措置の要件を満たす場合には、印刷して保管することが認められています。
電子契約書を紙で保存するとどうなる?
紙の契約書では、印紙税が発生します。しかし、電子契約書を印刷した場合には、何を原本とするかによって印紙税の有無が変わってくるため注意が必要です。
- 原本がデータの場合:紙は写しのため印紙税の課税対象にならず、印紙税は発生しない
- 印刷したものを原本として契約する場合:電子契約書を印刷・製本し、押印して保存するような場合は、紙が原本となるため、印紙税が発生する
電子契約書を保管するときに電子署名は不要?
電子署名がなくても、電子契約書自体は保管できます。しかし、電子署名は紙の契約書でいうところの押印・署名にあたるものです。電子契約の信頼性や法的効力を担保するうえで、電子署名は欠かせません。
また、電子署名がない場合、本人がサインしたものであるかの確認ができないため、なりすましや契約内容の改ざんといったリスクが高まります。重要な取引である場合や契約書に法的効力が求められる場合には、電子署名をするように心がけましょう。
ただし、法的効力を持たせるためには、電子署名も一定の要件を満たしておく必要があります。電子署名が法的効力を持つ要件は、本人性の担保と非改ざん性の確保です。
この要件を電子署名が満たしていないと、電子契約の信頼性と法的効力を証明できないため、注意しましょう。
紙の契約書をスキャンしてPDFなどで電子保存できる?
紙の契約書をスキャンしてPDFなどで電子保存することは法律上問題ありません。
ただし、スキャンして保存した契約書には、法律上の効力に一定の制限がかかることは覚えておきましょう。スキャンしたPDFデータを証拠として提出した場合、民事裁判においてはコピーとして扱われるため、証拠としての法的効力が認められない可能性があります。
本物の契約書であることを証明するためにも、契約書の原本もあわあせて用意しておきましょう。
電子契約の保管方法を理解しておこう
電子契約を保管する方法には、電子契約サービスを利用する方法と社内のファイル管理システムに保存する方法の2つがあります。ただし、電子契約を保管するうえでは、電子帳簿保存法の要件を満たしている必要があるため、注意しましょう。
電子帳簿保存法は2022年に改正され、いくつかの大きな改正点が生じています。今後も時代の変化に応じて改正される可能性もあるため、法務担当者は推移を見守りつつ、適切に業務に当たれるように内容をしっかりと理解しておきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
契約の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
金融機関の電子契約サービスとは?対象の融資取引や手数料、利用までの流れを解説
金融機関の中には、電子契約サービスを提供している企業もあります。主な金融機関としては、三井住友銀行やみずほ銀行、横浜銀行などです。 本記事では、金融機関が提供する電子契約サービスについて解説します。あわせて、金融機関の電子契約サービスで対象…
詳しくみる電子署名とは?仕組み・やり方など、基礎的な知識をわかりやすく解説
電子署名とは、電子化された文書に対して行われる電子的な署名のことを指します。多くのメリットがあることから、電子署名がより一層重要なものとなってきています。 ここでは、電子署名の仕組みやメリットなどについて、詳しく解説します。 電子署名とは …
詳しくみる電子契約のメリット・デメリットは?導入が進まない理由や関連する法律もわかりやすく解説
電子契約には多くのメリットがありますが、いくつかのデメリットも把握しておく必要があります。デメリットを理解していないと、導入の途中で問題が発生した場合に対処できなかったり、紙の契約からの変更に不満を持つ関係者を説得できなかったりと、トラブル…
詳しくみる不動産賃貸は電子契約もOK!書類の準備や契約の流れ、保管方法を解説
不動産賃貸は電子契約が可能です。宅地建物取引業法の改正により電子化が可能になり、賃貸契約に関する一連の流れをオンラインで完結できるようになりました。これにより、不動産業賃貸の業務を効率化できます。 本記事では、不動産賃貸で電子契約できる書類…
詳しくみる建設業法でも電子契約は利用可能!国土交通省のガイドラインをもとに導入方法を解説
建設業でも電子契約の利用は可能です。国土交通省のガイドラインにより、建設業法における電子契約の技術的要件や適法性が明確化されました。本記事では、電子契約を導入するための手順や注意点、利用できる契約書の種類、システム選定時の確認ポイントなどを…
詳しくみる電子契約で収入印紙がいらないのはなぜ?法的根拠をもとに理由を解説
契約書を作成する際は印紙税を納付し、収入印紙を貼付する必要がありますが、電子契約であればそれが不要になります。これは国が認めていることなので、脱税にはなりません。 今回は電子契約と印紙税の関係について解説します。印紙税がかからない理由(根拠…
詳しくみる