- 更新日 : 2025年7月29日
電子契約の保管方法は?電子帳簿保存法の要件や紙で保存・印刷できるのかも解説
電子契約書を保管する方法には、電子契約サービスの利用や社内システムの活用があります。いずれの方法を採用するにしても、電子契約書を保管する際には電子帳簿保存法の要件を満たしておかなければなりません。
本記事では、電子契約書の保管方法や保管する際の電子帳簿保存法の要件、紙で保存・印刷できるのかといったことを詳しく解説していますので、電子契約書の管理にお悩みの方はぜひ参考にしてください。
目次
電子契約の保管方法
電子契約の保管方法には、次の2つの方法があります。
- 電子契約サービスを利用する方法
- 社内のファイル管理システムに保存する方法
ここでは、それぞれの方法について解説します。
電子契約サービスを利用する方法
1つめが、電子契約サービスを利用する方法です。電子契約サービスを利用すれば、電子帳簿保存法の要件を満たしたうえで、安全に電子契約書を保管できます。
電子契約書には個人情報や機密情報などが多く含まれており、セキュリティ対策が万全でない場合、サイバー攻撃や不正アクセスを受けて個人情報や機密情報が外部に漏えいするおそれがあります。
しかし電子契約サービスであれば、公開鍵暗号方式を用いた電子署名や通信の暗号化などでセキュリティ対策を行っていることが多いため、より安全に電子契約書を保管可能です。
また、クラウド型のサービスであれば、災害や事故などで本社が被害に遭っても、契約書自体はクラウド上で管理されているため、問題ありません。
社内のファイル管理システムに保存する方法
2つめが、社内のファイル管理システムに保存する方法です。社内で独自に構築したファイル管理システムで保管することも可能で、外部サービスを活用しなければコストを削減できるでしょう。ただしそのシステム自体の管理に大きな負担がかかってしまったり、効率的な運用が難しかったり、かえって別の負担が大きくなってしまう可能性もあります。
電子契約を保管するときの電子帳簿保存法の要件
電子化された契約書のデータは、電子帳簿保存法の電子取引の保存区分に分類されます。電子帳簿保存法において、電子契約を保管する際に求められる要件は、次の2つです。
- 真実性の確保
- 可視性の確保
真実性の確保
1つめの要件が真実性の確保です。真実性とは、電子契約のデータが改ざんされていないことを意味し、データを訂正した場合や削除した場合の履歴を保持できるような仕組みを作る必要があります。
真実性を確保するために用いられるのが、タイムスタンプや、データの訂正・削除ができないシステムなどです。
可視性の確保
可視性の確保とは、電子契約のデータを検索・確認できるようにすることです。具体的には、パソコンなどの画面で表示できることや、書面にプリントアウトして確認できる状態のことを指します。
また、用いる機器についての操作説明書も必要なほか、画像データの質が悪くて文字が解読できない場合、可視性が確保されているとは認められないため注意しましょう。
電子契約の保管方法に関する電子帳簿保存法の改正点
電子帳簿保存法は、2022年に改正が行われました。ここでは、電子契約の保管方法に関する電子帳簿保存法の改正点について解説します。主な改正点は、次の4つです。
- 検索要件の緩和
- スキャナ保存要件の緩和
- タイムスタンプ要件の緩和
- 電子取引データの電子保存が義務化
改正点についての理解を深めましょう。
検索要件の緩和
1つめの改正点が、検索要件の緩和です。前述したように、電子帳簿保存法では保管データを検索できるような仕組みを整備しておく必要があります。
改正前は、さまざまな条件で書類を検索できるようにしておかなければなりませんでした。しかし、改正で検索項目の条件が緩和され、検索条件が次の3項目だけに絞られています。
- 日付
- 金額
- 取引先
また、範囲指定検索や組み合わせ検索が行えることも検索要件としてありますが、税務職員からデータのダウンロードを求められた際に応じられる状態であれば、不要になる緩和措置がとられています。
スキャナ保存要件の緩和
2つめの改正点が、スキャナ保存要件の緩和です。スキャナ保存・電子帳簿等保存を望む場合、改正前までは税務署長に届出を行って事前に承認を受ける必要がありました。
しかし、改正後は手続きが不要になっています。スキャナ保存・電子帳簿等保存は任意ですが、事前申請が不要になったことで、より採用しやすくなっています。
タイムスタンプ要件の緩和
3つめの改正点が、タイムスタンプ要件の緩和です。改正された内容は、次の通りです。
- スキャナ保存する際のタイムスタンプの付与期間が、3営業日以内から最長約2ヶ月と概ね7営業日以内に延長された
- 訂正・削除できないクラウドサービスを利用する場合、訂正・削除の履歴が残る場合は、タイムスタンプの付与を省略できる
- 受領者による書類への自著が不要になった
- 適正事務処理要件が廃止された
複数の改正点があるため、しっかりと理解しておきましょう。
電子取引データの電子保存が義務化
4つめの改正点が、電子取引データの電子保存の義務化です。改正前は、電子取引を行った書類を紙に印刷して保存することが認められていました。
しかし、改正により、電子取引データの電子保存が義務化され、紙での保存が認められなくなっています。たとえば、メールに添付されたPDFの請求書や、インターネット経由でダウンロードしたECサイトの領収書などは電子取引に該当するため、電子データとして保存する必要があります。
電子契約のうち電子帳簿保存法の対象外となるもの
そもそも、電子帳簿保存法の対象となるのは、電子取引を行っているすべての企業や個人事業主です。取引を紙で行っていて、電子取引をまったく行っていない場合は対象外となります。
そのうえで、電子帳簿保存法の対象外となる書類は、手書きで作成したものです。対象外となる書類は、大きく次の3つに分けられます。
- 手書きの国税関係帳簿
- 棚卸表や売上伝票、貸借対照表などの書類
- 電子取引でやり取りしていない書類
国税関係帳簿に該当する書類には、次のようなものがあります。
また、国税関係書類のうち以下のような決算関係書類も電子帳簿保存法におけるスキャナ保存の対象外です。
- 棚卸表
- 売上伝票
- 貸借対照表
- 損益計算書 など
そのほか、電子取引で取引していない契約書や注文書などの書類がある場合も、電子取引のデータ保存の対象外です。
なお、上記の書類については、紙の書類をしっかりと保管しておく必要があるため、注意しましょう。
電子契約書保管ツールの活用
電子契約書を適切に保管し、効率的な運用を実現するためには、専用のツールを活用するのが効果的です。適切なツールを選定すれば自社で独自の保管システムを構築する必要がなく、電子帳簿保存法の要件を満たしながら、安全に契約書が保管できるようになるでしょう。
電子契約書保管ツールの主な機能
電子契約書保管ツールには、契約書の効率的な管理を支援する多様な機能が搭載されています。主な機能は以下の通りです。
- 契約書テンプレート管理
自社の契約書ひな形をアップロードし、押印位置や入力項目を設定。これにより書類の申請や送信が効率的に行える。 - ワークフローの作成
契約締結時に承認ルートを設計。契約内容に適した承認ルートを作り、自社の運用体制に合わせることも可能。 - 電子署名・タイムスタンプの付与
誰がいつ同意したかを記録し、法的効力を担保する。 - アラート機能
契約終了日や更新期限前に通知し、更新漏れを防ぐ。 - アクセス権限の設定
契約書ごとに閲覧権限を設定し、情報漏えいのリスク低減。 - 外部サービス連携
会計システムやコミュニケーションツールなどと連携し、業務全体の効率化を実現する。
導入するツールによって搭載されている機能は異なりますので、ものによってはAI機能を使って契約情報の自動入力などに対応しているケースもあります。
電子契約書保管ツールを選ぶポイント
電子契約書保管ツールを選定する際は、第一に、最新の電子帳簿保存法に対応していることを確認しておかなければなりません。法改正によりルールが変更されることもありますが、ツールの方で対応していれば自社で改正内容を詳細に把握しなくても適切な保管体制を維持できます。
そのほか、「必要な機能が備わっていること」「セキュリティ性能の高さ」「担当者が扱えるような操作性であること」などのポイントにも着目しましょう。
また、長期的な運用を前提とする以上、コスト面にも十分な配慮が必要です。どのようなプランを利用することになるのか、その場合は月々いくらかかるのかを確認しておきましょう。
電子契約書保管ツールを導入する注意点
電子契約書保管ツールの導入前に現行の契約書管理フローを確認し、ツール導入前後で業務フローがどのように変わるのかをチェックしておきましょう。いきなり導入して業務フローが大幅に変わっても担当者が対応できず、一時的に業務に支障が生じるおそれがあります。
ツール導入のプロセスに現場の担当者も参画してもらうと導入後の対応もスムーズになるでしょう。必要に応じてツールの操作方法に関する教育も行うと効果的です。
また、システム障害やデータ消失に備えたバックアップ体制の構築にも注意してください。その際、ベンダーによるサポート体制についても確認し、アクシデントに対してどこまで対処してくれるのか、どこからが自社の責任となるのかを把握してから導入を進めましょう。
電子契約書保管ツールの導入事例と効果
電子契約書保管ツールの導入により、多くの企業が具体的な効果を実感しています。
よくある成果として、「紙ベースで契約書を管理していた企業が電子契約書保管ツールを導入して契約書の締結プロセスをデジタル化し、手作業の削減による業務効率化の実現をした」「契約書の保管スペースが増加しており将来の運用に不安があったが、電子契約書として保管することでスペースが削減でき、コストカットにもなった」といったものが挙げられます。
また、単にファイルを保管するだけでなく電子契約締結に係る機能と連動しているツールであれば、申請・締結・保管にいたるまでを一元管理することができます。これにより内部統制が強化されたという事例もあります。
電子契約の保管方法に関する社内ルールや運用のポイント
電子契約書を適切に保管するために押さえておきたいポイントはこちらです。
- アクセス権限の管理
- フォルダ構成や命名ルールの策定
- 保管ログの管理と監査対応
それぞれの詳細を確認しておきましょう。
アクセス権限の管理
電子契約書には機密情報も多く含まれているため、アクセス権限を厳格に管理すべきです。そのためにまず、契約書の閲覧や編集ができる従業員を必要最小限に設定し、役職や担当業務に応じて権限の内容を定めましょう。
例えば、契約業務に関わる一般従業員には、担当した契約ファイルのみ閲覧可能とし、他の契約書にはアクセスできないよう閲覧権限を限定します。一方で、契約締結の意思決定に関わる上位職の従業員には、すべての契約書に対する閲覧・編集が可能な管理者権限を付与します。
フォルダ構成や命名ルールの策定
電子契約書管理の効率性と検索性を高めるためには、体系的なフォルダ構成と統一された命名ルールの策定が重要です。
フォルダ構成は、例えば「取引先別」「年度別」「契約種別」など業務実態に合わせて階層化することが考えられます。命名ルールに関しても、契約締結日や取引先名、契約類型、バージョン番号などの情報をファイル名に含め、内容が一目で把握できるように工夫します。例えば「20250401_株式会社○○_△△契約pdf」といった形です。「v1.0」「v2.0」といったバージョン番号を付与してもよいでしょう。
重要なのは統一することです。命名ルールがバラバラだと、検索もしづらくなり運用の安定性を損なってしまいます。
保管ログの管理と監査対応
電子契約書の適切な保管と内部統制の観点から、操作ログの管理も大切です。システム上で、契約書の作成・確認・承認・締結・閲覧・ダウンロードなどの操作履歴が記録されていれば、誰が・いつ・どのような操作をしたのか、後日でも追跡できます。
通常業務でこの記録を確認する必要はありませんが、万が一不正や改ざんなどのトラブルが起こったときでもログが確認できれば対処できます。また、このような体制が整備されているという事実が不正行為に対する抑止力にもなります。
電子契約の保管方法についてよくある質問
ここからは、電子契約の保管方法についてよくある質問について回答します。
電子契約書の電子保存はいつから開始?
電子契約書の電子保存は、2024年1月1日から完全義務化されています。前述したように、電子帳簿保存法が改正されたのが2022年です。
その後2年間は宥恕期間でした。2024年1月1日に電子保存が完全義務化されましたが、宥恕期間に代わって新たな猶予措置も設けられています。
猶予措置に該当するのは、次のいずれにも当てはまる場合です。その場合は、要件を満たさなくてもよいとされています。
- 所轄税務署長によって、要件を満たしたうえでの電子取引データの保存が難しいと認められた場合
- 電子取引データのダウンロードの求め、印刷した電子取引データ書面の提示・提出に対応できるようにしている場合(税務調査が入った際など)
電子契約書を紙に印刷してはいけない?
前述したように、2024年1月以降、電子契約書の電子保存が義務化されています。そのため、電子取引で授受した契約書の電子データは、電子データのまま保存しなければなりません。
ただし、前項で解説した猶予措置の要件を満たす場合には、印刷して保管することが認められています。
電子契約書を紙で保存するとどうなる?
紙の契約書では、印紙税が発生します。しかし、電子契約書を印刷した場合には、何を原本とするかによって印紙税の有無が変わってくるため注意が必要です。
- 原本がデータの場合:紙は写しのため印紙税の課税対象にならず、印紙税は発生しない
- 印刷したものを原本として契約する場合:電子契約書を印刷・製本し、押印して保存するような場合は、紙が原本となるため、印紙税が発生する
電子契約書を保管するときに電子署名は不要?
電子署名がなくても、電子契約書自体は保管できます。しかし、電子署名は紙の契約書でいうところの押印・署名にあたるものです。電子契約の信頼性や法的効力を担保するうえで、電子署名は欠かせません。
また、電子署名がない場合、本人がサインしたものであるかの確認ができないため、なりすましや契約内容の改ざんといったリスクが高まります。重要な取引である場合や契約書に法的効力が求められる場合には、電子署名をするように心がけましょう。
ただし、法的効力を持たせるためには、電子署名も一定の要件を満たしておく必要があります。電子署名が法的効力を持つ要件は、本人性の担保と非改ざん性の確保です。
この要件を電子署名が満たしていないと、電子契約の信頼性と法的効力を証明できないため、注意しましょう。
紙の契約書をスキャンしてPDFなどで電子保存できる?
紙の契約書をスキャンしてPDFなどで電子保存することは法律上問題ありません。
ただし、スキャンして保存した契約書には、法律上の効力に一定の制限がかかることは覚えておきましょう。スキャンしたPDFデータを証拠として提出した場合、民事裁判においてはコピーとして扱われるため、証拠としての法的効力が認められない可能性があります。
本物の契約書であることを証明するためにも、契約書の原本もあわあせて用意しておきましょう。
電子契約の保管方法を理解しておこう
電子契約を保管する方法には、電子契約サービスを利用する方法と社内のファイル管理システムに保存する方法の2つがあります。ただし、電子契約を保管するうえでは、電子帳簿保存法の要件を満たしている必要があるため、注意しましょう。
電子帳簿保存法は2022年に改正され、いくつかの大きな改正点が生じています。今後も時代の変化に応じて改正される可能性もあるため、法務担当者は推移を見守りつつ、適切に業務に当たれるように内容をしっかりと理解しておきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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