• 作成日 : 2025年11月11日

取締役会の決議事項とは?報告事項との違いから成立要件を解説

会社の経営方針を決定する取締役会において、その運営の中心となるのが「決議事項」の適切な理解です。

この記事では、取締役会の決議事項とは何か、どうすれば決議が有効になるのかという「成立要件」、具体的な決議内容、そして決議に至るまでの一連の流れを網羅的に解説します。さらに、「報告事項」との違いや、実務で直面しがちな「決議事項がない場合」の対応など、よくある疑問にもお答えします。

取締役会の決議事項とは?

取締役会の決議事項とは、会社の業務執行に関する重要な意思決定を行うために、取締役会で審議し、承認または否認の議決を行う対象となる事柄を指します。

これらの事項は、法令や定款によって定められており、会社の根幹に関わる重要なテーマが含まれます。決議事項は、取締役各々が単独で決定できず、取締役会という合議体での承認を得て初めて会社の公式な意思決定となります。

これにより、経営判断の独断専行を防ぎ、客観的で慎重な意思決定を促す仕組みが成り立っています。決議された内容は、法的拘束力を持ち、会社としてその方針に従って業務を遂行していくことになります。

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取締役会における決議事項と報告事項の違い

決議事項と報告事項の最も大きな違いは「意思決定(議決)が必要かどうか」という点です。

決議事項が会社の意思を決めるためのものであるのに対し、報告事項は、取締役の業務執行状況などを他の取締役や監査役に知らせ、情報を共有することを目的としています。

項目決議事項報告事項
目的会社の重要な業務執行に関する意思決定業務執行状況などの情報共有
プロセス審議と議決(賛成・反対)担当取締役からの報告・説明
法的効力議決されると会社の公式な意思決定として法的拘束力を持つ決議のように会社の意思を形成する効力はないが、会社法で定められた省略できない報告義務(会社法363条2項、372条2項)。
具体例重要な財産の処分、多額の借財、支配人の選任・解任各取締役の業務執行状況の報告(3ヶ月に1回以上)、競業取引・利益相反取引の事後報告

株主総会の決議事項との役割分担

取締役会と株主総会は、どちらも会社の意思決定機関ですが、その役割と決議事項の性質は大きく異なります。

株主総会が「会社の所有者である株主」によって構成され、会社の基本的な方針や組織に関する最重要事項を決定するのに対し、取締役会は「経営の専門家である取締役」によって構成され、日々の業務執行に関する重要事項を決定します。

機関株主総会取締役会
構成員株主取締役
位置づけ会社の最高意思決定機関業務執行に関する意思決定・監督機関
決議事項の性質会社の組織や運営に関する基本的重要事項業務執行に関する重要事項
具体例
  • 定款の変更
  • 取締役・監査役の選任・解任
  • 役員報酬の決定
  • 剰余金の配当
  • 合併、会社分割等の組織再編
  • 重要な財産の処分・譲受け
  • 多額の借財
  • 支配人その他の重要な使用人の選任・解任
  • 支店その他の重要な組織の設置・変更・廃止
  • 内部統制システムの整備

決議と承認の違い

決議」と「承認」は、取締役会で使われる似た言葉ですが、単なるニュアンスだけでなく実務上の手続や要件にも違いがあるため、正しく使い分けることが重要です。

  • 決議:議題に対して賛成・反対の意思表示をもって、組織としての意思を積極的に決定する行為です。
  • 承認:すでに行われた、またはこれから行われる特定の行為に対して「同意を与える」行為です。

例えば、会社法で定められている「利益相反取引」(会社法356条)では、取締役からの申し出に対して取締役会「承認」を与えると規定されています。この場合、承認の対象となる取締役は議決に参加できないなど、特有のルールが適用されます。

このように、議案の内容に合わせて用語を使い分ける必要があります。

取締役会ではどのような事項を決議する?

取締役会で決議すべき事項は、会社法で定められているもの(法的決議事項)と、会社の自治に基づき定款や取締役会規程で任意に定めているものに大別されます。

会社法で定められた決議事項(法定決議事項)

会社法は、会社の所有者である株主や債権者を保護するため、特に重要な業務執行について取締役会での決議を義務付けています。これらは「法定決議事項」と呼ばれ、個々の取締役に委任することはできません。法定決議事項は、主に以下の2種類に大別されます。

一般法定決議事項(会社法第362条4項)

取締役会が包括的に委任された業務執行の中から、特に重要であるため個々の取締役に委任できないとされる事項です。

  • 重要な財産の処分及び譲受け
  • 多額の借財
  • 支配人その他の重要な使用人の選任及び解任
  • 支店その他の重要な組織の設置、変更及び廃止
  • 募集社債に関する重要な事項
  • 内部統制システム(業務の適正を確保するための体制)の整備に関する決定

個別法定決議事項(主なもの)

会社法の各条文で、個別に取締役会の決議が必要であると定められている事項です。

  • 代表取締役の選定及び解職(会社法362条2項3号)
  • 主総会の招集に関する事項の決定(取締役会設置会社では、取締役会の決議で決定。会社法298条4項)
  • 譲渡制限株式の譲渡承認(会社法139条1項)
  • 取締役の競業取引及び利益相反取引の承認(会社法356条1項、365条1項)
  • 定款の定めに基づく役員等の責任免除(会社法426条1項)

定款や取締役会規程で任意に定める決議事項

会社法で定められた事項以外にも、各社の判断で、定款や社内規程によって取締役会の決議が必要な事項を追加できます。特に取締役会規程は、取締役会の運営に関する具体的なルールを定めるもので、ここで決議事項を明確に定めておくことは、迅速かつ公正な意思決定プロセスの確立に繋がります。

▼ 取締役会規程で決議事項を定めるメリット
  • 意思決定の基準が明確になる:どのような案件を取締役会に諮るべきかの基準が明確になり、現場の混乱を防ぎます。
  • ガバナンスの強化:重要な事項について独断専行を防ぎ、経営の透明性を高めます。
  • 運営の効率化:審議すべき事項が整理され、スムーズな議事進行に繋がります。
▼ 規程で定める決議事項の例
  • 一定額(例: 1億円)以上の投融資案件の決定
  • 新規事業への進出または撤退
  • 重要なアライアンスや業務提携の締結
  • 中長期経営計画や年次予算の策定

そもそも取締役会とはどのような機関?

取締役会とは、取締役会設置会社である場合には常に3名以上の取締役で構成される、会社の業務執行に関する意思決定を行い、かつ取締役の職務執行を監督する機関です。

取締役会設置会社では、業務執行の決定権限が原則として取締役会に集中します。これにより、個々の取締役の独断を防ぎ、複数の専門的な視点から経営判断を行うことで、より合理的で適切な意思決定を目指します。

取締役会の設置義務と役割

すべての株式会社に取締役会の設置が義務付けられているわけではありません。取締役会の設置が義務付けられているのは、主に以下の会社です。

非公開会社(株式の譲渡制限がある会社)で、上記に該当しない場合は、取締役会の設置は任意となります。

取締役会の主な役割は、以下の2つに集約されます。

  1. 業務執行の意思決定:上述した決議事項について審議し、会社の進むべき方向性を決定します。
  2. 取締役の職務執行の監督:代表取締役をはじめとする各取締役が、法令や定款、取締役会の決議に従って正しく業務を遂行しているかを監督し、必要に応じて是正を求めます。

取締役会の構成員

取締役会の構成員は、主に以下の通りです。

  • 取締役:全取締役に出席する権利がありますが、議題に「特別の利害関係」がある取締役は議決に参加できません(会社法369条2項)。
  • 監査役:監査役設置会社の場合、監査役は取締役会の構成員ではありませんが、取締役会に出席する義務があります。議決権はありませんが、必要があると認めるときは意見を述べる義務を負います(会社法383条1項)。ただし、権限を会計監査に限定されている監査役には、この出席義務が適用されない場合があります(会社法389条7項)。

取締役会については、以下の記事でも詳しく紹介しています。

取締役会の決議はどのように成立する?

取締役会の決議が有効に成立するためには、定められた定足数と議決要件を満たす必要があります。法律で定められた決議方法は、原則となる「普通決議」のみですが、例外的に会議を開かない「書面決議」という方法もあります。あわせて、決議事項がないケースについても解説します。

普通決議の要件

普通決議は、取締役会の原則的な決議方法です。会社法では以下のように定められています。

  • 定足数:議決に加わることができる取締役の過半数が出席すること
  • 議決要件:出席した取締役の過半数の賛成があること

例えば、取締役が5名いる会社の場合、3名以上の出席があれば取締役会は成立し、そのうち2名以上が賛成すれば決議は可決されます。この要件は、定款でより厳しく(例えば、3分の2以上の賛成など)加重することは可能ですが、緩やかにすることはできません(会社法369条1項)。

定款による決議要件の加重

会社法が定める取締役会の決議要件は、原則的な「普通決議」のみです。会社法には、株主総会における「特別決議」のような、決議の種類に応じた法定の加重要件は存在しません。

ただし、定款で定めれば、普通決議よりも厳しい要件(例:取締役の3分の2以上の賛成)を課すことが可能です(会社法369条1項)。これを実務上「特別決議」と呼ぶことがありますが、あくまで定款自治による任意の定めです。

なお、指摘にあった会社法369条2項は、決議の加重要件を定めたものではなく、議題に「特別の利害関係」を有する取締役は議決に参加できないことを定めた規定です。

書面決議による決議の省略

取締役会の決議は、実際に会議を開催して行うのが原則ですが、例外的に会議を開かずに書面や電磁的記録(Eメールなど)だけで決議を成立させる方法があります。これを「書面決議」または「みなし取締役会決議」と呼びます。

この方法を用いるには、前提として定款にその旨の定めが必要です(会社法370条)。その上で、以下の要件を満たすことで、実際に会議を開かずに決議を成立させることができます。

  1. 決議事項について、議決に加わることができる取締役の全員が書面または電磁的記録により同意の意思表示をすること
  2. 監査役設置会社の場合は、監査役がその提案について異議を述べないこと

この方法は、取締役全員の同意が必要なためハードルは高いですが、緊急の案件や、全取締役の予定を合わせるのが難しい場合に、迅速な意思決定を可能にする有効な手段です(会社法370条)。

決議事項がない場合の開催義務

決議事項がなく報告事項のみの場合でも、取締役会を開催することは可能ですし、また開催する義務があります。特に、代表取締役および業務執行取締役は、3ヶ月に1回以上、自己の職務の執行状況を取締役会に報告する義務があります(会社法363条2項)。

この報告義務を履行するために、たとえ審議・決議すべき事項がなくても、少なくとも3ヶ月に1回は取締役会を開催し、その場で業務執行状況を報告する必要があります。もちろん、その際の議事録も通常通り作成し、報告内容を記録して保管しなければなりません。

取締役会の決議はどのような流れで進める?

取締役会の決議は、招集から議事録の作成・保管まで、会社法に定められた手続きに則って進める必要があります。

ステップ1. 招集決定と招集通知

まず、取締役会の開催を決定します。招集権者は原則として各取締役ですが、定款で特定の取締役(多くの場合は代表取締役)に定めることも可能です。開催日時、場所、議題などを決定し、会日の1週間前までに各取締役および各監査役に対して招集通知を発します。ただし、全員の同意があれば、この招集手続を省略することもできます(会社法368条)。

ステップ2. 取締役会の開催と審議

当日は、定足数を満たしていることを確認した上で開会します。議長(通常は代表取締役が務めることが多い)が議事を進行し、提案された議案について、提案者が説明を行い、質疑応答や意見交換を経て審議を深めます。

ステップ3. 決議と議事録の作成

審議が尽くされた後、議長が議案を採決にかけます。賛成・反対の意思表示を確認し、普通決議または特別決議の要件を満たしているかを判断し、決議の成否を宣言します。

決議後は、遅滞なく議事録を作成しなければなりません。議事録には、開催日時・場所、議事の経過の要領とその結果、決議事項について特別の利害関係を有する取締役の氏名、出席した取締役・監査役の氏名などを記載し、出席した取締役および監査役が署名または記名押印します(会社法369条3項、4項)。作成された議事録は、本店に10年間備え置く義務があります。

【議事録の具体的な記載例(決議事項)】

第1号議案 〇〇事業における新規設備投資に関する件

議長より、〇〇事業の生産性向上を目的として、総額〇〇円の新規設備投資を行いたい旨の提案があり、詳細な説明がなされた。 質疑応答の後、本議案について採決を行ったところ、満場一致をもってこれを承認可決した。

(否決の場合の記載例) (…前略…)質疑応答の後、本議案について採決を行ったところ、出席取締役〇名中、賛成〇名、反対〇名となり、普通決議の可決要件を満たさなかったため、本議案は否決された。

議事録は、誰が、いつ、どこで、何を、どのように決定したのかを後日証明するための重要な法的証拠となります。そのため、決議の結果(可決か否決か)だけでなく、審議の経過や出された意見の概要も簡潔に記載しておくことが望ましいです。

ステップ4. 登記などの後続手続き

決議事項の内容によっては、法務局での変更登記が必要になる場合があります。例えば、代表取締役の変更や本店の移転などは、実際に変更が生じた日から2週間以内に登記申請が必要です(会社法915条1項)。「決議日」ではなく、代表取締役の就任日や本店が移転した日が基準となる点に注意しましょう。

また、2022年9月1日以降、支店の設置・移転等に関する支店所在地での登記は不要となっています(本店所在地での登記は必要)。登記を怠ると過料の制裁を受ける可能性があるため、速やかに手続きを進めましょう。

取締役会の決議事項を正しく理解し、適正な会社運営を実現しましょう

本記事では、取締役会の決議事項とは何か、その具体的な内容から決議の要件、手続きの流れまでを網羅的に解説しました。会社の重要な意思決定を担う取締役会において、何をどのように決めるべきかを正しく理解することは、健全なコーポレート・ガバナンスの基礎となります。

決議事項と報告事項、そして株主総会の権限との違いを明確に区別し、会社法や定款に定められたルールに従って、適正な手続きで取締役会を運営することが、企業の持続的な成長と信頼確保に繋がります。日々の業務において、この記事が適切な会社運営の一助となれば幸いです。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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