- 作成日 : 2025年8月5日
事業譲渡契約書のリーガルチェックの方法は?雛形・無料テンプレートつきで解説
事業譲渡契約書のリーガルチェックは、事業譲渡における予期せぬトラブルや法的リスクを回避し、円滑な事業承継を実現するために重要です。
本記事では、譲渡元・譲渡先の双方の視点から、事業譲渡契約書のリーガルチェックの重要性や具体的な確認事項、そしてよくある落とし穴まで詳しく解説します。
目次
事業譲渡契約書のリーガルチェックが必要な理由
事業譲渡契約書は、事業譲渡の範囲、対価、リスク分担、表明保証など、双方の権利義務を明確にするための重要な法的文書です。
事業譲渡契約書のリーガルチェックが必要な理由として、以下のポイントが挙げられます。
リスクを未然に防ぎ、トラブルを回避するため
事業譲渡契約書のリーガルチェックは、将来起こりうる法的なリスクを事前に特定し、それらを軽減または排除することを目的としています。契約書に不備がある場合、後になって譲渡の範囲や条件を巡ってトラブルになったり、予期せぬ債務や損害賠償責任が発生したりする可能性があります。弁護士は、過去の判例や最新の法改正を踏まえ、潜在的なリスクを洗い出し、契約書に反映させることで、将来の紛争を未然に防ぐ役割を担います。これにより、安心して事業譲渡を進めることができます。
譲渡元・譲渡先の権利と義務を明確にするため
事業譲渡契約書は、譲渡元と譲渡先の権利と義務を明確に定めるものです。しかし、専門的な法律用語や複雑な条項が多いため、当事者だけでは内容を正確に理解し、適切に交渉することが難しい場合があります。弁護士は、公平な視点から契約書の内容を精査し、双方にとって不利な条項がないか、また、不明瞭な点が残されていないかを確認します。これにより、後々の解釈の相違によるトラブルを防ぎ、スムーズな事業譲渡を実現します。
法令遵守を徹底するため
事業譲渡は、会社法、民法、労働法、独占禁止法、税法など、多岐にわたる法令が関係します。これらの法令を遵守していなければ、契約が無効になったり、行政処分を受けたりする可能性があります。弁護士は、事業譲渡契約書が関連法令に準拠しているかを厳しくチェックし、必要な許認可や届出が適切に行われているかどうかも確認します。これにより、法的なトラブルを避け、安心して事業譲渡を進めることができます。
事業譲渡契約書のリーガルチェックでの確認事項
事業譲渡契約書のリーガルチェックでは、多くの項目を確認する必要があります。ここでは、特に重要な確認事項について解説します。
譲渡対象の範囲
事業譲渡は、会社そのものを譲渡するのではなく、事業に関する個別の財産や契約を譲渡するスキームです。そのため、以下の内容を漏れなく具体的に特定し、契約書に明記する必要があります。
また、個人事業主の事業譲渡においては、事業用資産と個人資産の区別が曖昧になりがちです。リーガルチェックでは、この点を特に注意深く確認し、譲渡対象を明確に定義することが重要です。
対価と支払条件
事業譲渡の対価は、譲渡元と譲渡先の双方にとって最も関心の高い部分です。対価の金額だけでなく、その算定方法、支払方法(一括払い、分割払いなど)、支払期日、そして支払いが遅延した場合の措置なども明確に定める必要があります。一部の事業譲渡では、アーンアウト条項などを用いてデューデリジェンス結果や将来の収益に応じて対価が変動することもありますが、全ての取引に採用されるわけではありません。条項導入の可否は案件規模やリスク分担の考え方に基づき慎重に判断しましょう。
表明保証と補償条項
表明保証とは、契約締結時点において、契約当事者が特定の事実が真実かつ正確であることを表明し、保証する条項です。例えば、譲渡元が「簿外債務は存在しない」「訴訟係争中の案件はない」といったことを表明保証します。もし表明保証の内容が真実でなかった場合、保証した側は損害賠償責任を負うことになります。
多くのM&Aで表明保証条項は設けられますが、スモールM&Aでは範囲を限定したり条項自体を簡素化したりする例もあるため、取引規模に応じて具体的な内容を設計することが重要です。
補償条項とは、将来発生しうる損害について、どちらの当事者が責任を負うのかを定めるものです。これらの条項は、譲渡先が予期せぬリスクを負うことを防ぐために非常に重要であり、リーガルチェックではその範囲と限定を慎重に検討します。
契約不適合責任(旧:瑕疵担保責任)
売買の目的物に契約の内容に適合しない点がある場合、買主が売主に対して追完請求、代金減額請求、損害賠償請求、契約解除を求めることができるのが契約不適合責任です。
契約不適合責任は民法上の規定であり、事業譲渡においては当事者間で期間や範囲について合意するのが通常です。契約書では、契約不適合責任の期間、範囲、免責事項などを具体的に定めることで、将来のトラブルを避けることができます。特に、譲渡対象となる資産の状態や事業の実態を正確に把握し、その情報を契約書に反映させることが重要です。
従業員に関する事項
事業譲渡に伴い、譲渡元の従業員が譲渡先に引き継がれる場合、労働契約の承継について細心の注意が必要です。事業譲渡契約そのものに従業員の同意書は不要ですが、雇用契約を譲受企業へ移転(転籍)させるには各従業員の個別同意が必須です。承継される従業員の労働条件や退職金制度、社会保険の取り扱いなどを明確にする必要があります。
事業譲渡契約書の従業員に関する条項では、従業員の雇用継続、労働条件の維持、退職金の取り扱い、労働組合との関係などを詳細に規定し、労働トラブルを未然に防ぐことが求められます。
取引先との契約承継
譲渡対象となる事業に関連する取引先との契約関係も、譲渡先に引き継がれるかどうかが重要な問題となります。原則として取引先の承諾が必要ですが、譲渡禁止特約がなく包括承継条項が設定されている場合など、同意を省略できる例外も存在します。取引先の同意書の雛形を参考に、既存の取引契約が円滑に承継されるよう、取引先との交渉や承諾手続きを適切に進めるための条項を盛り込む必要があります。また、独占禁止法に違反するような契約関係がないかどうかも確認が必要です。
事業譲渡契約書のリーガルチェックを依頼する弁護士の選び方
事業譲渡契約書のリーガルチェックを成功させるためには、信頼できる弁護士を選ぶことが非常に重要です。ここでは、事業譲渡契約書のリーガルチェックを依頼する弁護士の選び方のポイントについて解説します。
M&A・企業法務に強い弁護士かどうか
事業譲渡はM&Aの一種であり、会社法、独占禁止法、労働法、税法など、幅広い法律知識が求められます。そのため、単に一般民事を扱う弁護士ではなく、M&Aや企業法務に専門的な知識と豊富な経験を持つ弁護士を選ぶことが重要です。M&Aの実績が豊富な弁護士は、潜在的なリスクを事前に察知し、適切なアドバイスを提供することができます。
コミュニケーション能力が高く、対応が迅速か
事業譲渡は、スピード感が求められる場面が多く、弁護士との密なコミュニケーションが不可欠です。疑問点や懸念事項に対して迅速かつ的確な回答が得られるか、こちらの要望を理解し、適切に契約書に反映してくれるかなど、コミュニケーション能力と対応の迅速さも弁護士選びの重要なポイントとなります。
費用やサービス内容が明確か
弁護士費用は、弁護士によって大きく異なります。事前に見積もりを取り、どのようなサービスに対してどれくらいの費用がかかるのかを明確にすることが重要です。単に費用が安いというだけで選ぶのではなく、費用に見合った専門性とサービス内容が提供されるかどうかも検討しましょう。
事業譲渡契約書の雛形・テンプレートの活用方法
マネーフォワード クラウドでは、無料でダウンロードできる事業譲渡契約書の雛形・テンプレートをご用意しています。
事業譲渡は個々のケースによって状況が大きく異なるため、雛形はあくまで一般的な骨子として捉え、自社の状況に合わせて内容を詳細に修正する必要があります。弁護士によるリーガルチェックは、これらの雛形が自社のニーズに合致しているか、また、法的リスクがないかを判断するために不可欠です。
事業譲渡契約書のリーガルチェックで安心のM&Aを
事業譲渡の成功は、詳細かつ適切な事業譲渡契約書の作成にかかっています。特に、譲渡の対象範囲、対価、表明保証、契約不適合責任など、多岐にわたる項目について、潜在的なリスクを洗い出し、法的なトラブルを未然に防ぐためには、弁護士による専門的なリーガルチェックが不可欠です。
M&A・企業法務に精通した弁護士に依頼することで、法令遵守はもちろんのこと、将来的な紛争のリスクを最小限に抑え、円滑で安心できる事業譲渡を実現することができます。事業譲渡をご検討の際は、ぜひ専門家である弁護士のサポートを得て、万全の体制で臨んでください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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