- 作成日 : 2023年8月25日
2023年に施行予定の法改正を紹介!企業法務への影響は?
日本には多数の法律が制定されており、毎年のように何かしらの改正法が施行されています。企業の方がそのすべてを追っていく必要はありませんが、少なくとも企業法務に関わる法律については知識を備えておくことが望ましいでしょう。
そこで当記事では2023年施行予定の改正法を取り上げ、どのような変更があったのか紹介していきます。
目次
2023年に施行・適用される主な法改正の一覧
2023年中に施行された・施行予定の改正法のうち、特に企業法務との関わりが強いものを下表にまとめました。
改正法 | 改正内容 |
---|---|
労働基準法 | 割増賃金率が企業規模問わず一律50%となる。賃金のデジタル払いが解禁される。 |
育児・介護休業法 | 1,000人以上の従業員がいる企業は、男性労働者の育児休業等の取得状況について公表することが義務付けられる。 |
会社法 | 上場企業等に株主総会資料の電子提供制度が強制適用される。 |
消費者契約法 | 消費者の取消権、事業者の努力義務の範囲が広がる。 |
消費者裁判手続特例法 | 消費者の集団的救済を図る制度でカバーされる範囲が広がる。 |
上記の改正法につき、内容や企業法務への影響などを次項以下で説明します。
労働基準法改正と企業法務への影響
労働基準法は、労働条件の最低ラインを規定した法律です。
2023年4月1日より、月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が一律50%以上とされました。
改正前における割増賃金率 (60時間超) | 改正後における割増賃金率 (60時間超) | |
---|---|---|
大企業 | 50% | 50% |
中小企業 | 25% | 50% |
※60時間以下の割増賃金率については、改正前後・企業規模を問わず一律25%。
上表のとおり、以前はひと月に60時間を超える残業があった場合でも、中小企業は25%以上の割増賃金を支払えば問題ありませんでした。しかし改正法施行後は大企業と同様に、月60時間超の時間外労働については50%以上の割増賃金を支払わなければ違法となります。
また、「賃金のデジタル払い」についても解禁されました。現金払いや銀行口座への振込などに加えて、従業員の同意があれば電子マネーでの支払いも可能となります。
※厚生労働大臣指定の業者が提供するサービスに限定される。
育児・介護休業法改正と企業法務への影響
育児・介護休業法とは、育児休業や介護休業等の制度を設け、家庭生活と職業生活の両立実現を目指すための法律です。正式名称は「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」です。
近年は育児休業の話題が社会的に取りざたされることも増えており、同法に対する世間の関心も高まっています。これまでも育児休業が取得しやすくなるような新制度が創設されるなど、様々なルール変更がなされてきました。
2023年4月1日から施行される内容は過去の改正と一連のものであり、次の3ステップにより育児と仕事の両立を図る法整備がなされています。
- 2022年4月1日施行:
雇用環境の整備、個別的周知や意向確認の措置の義務化、育休取得要件の緩和 - 2022年10月1日施行:
出生時育児休業制度(産後パパ育休)、育児休業の分割取得 - 2023年4月1日施行:
育児休業取得状況に関する公表義務の拡大
一連の法改正における最後のステップが、2023年4月1日より施行された育児休業取得状況に関する公表義務の拡大です。これまで育児休業取得状況の公表は「プラチナくるみん」認定企業にのみ課されていました。今回の改正により、従業員が1,000人を超える企業において、男性労働者の育児休業取得状況の公表が義務付けられました。
公表すべき内容 ※①または②のいずれかで良い | ①「配偶者が出産した男性労働者の数」に対する「育児休業等を取得した男性労働者の数」 |
---|---|
②「育児休業等を取得した男性労働者の数」+{「配偶者が主産した男性労働者の数」に対する「未就学児の育児を目的に休暇制度を利用した男性労働者の数」} | |
公表の方法 | 厚生労働省運営のウェブサイト「両立支援のひろば(https://ryouritsu.mhlw.go.jp/)」を通じた公表、会社ウェブサイトなどインターネットを使った公表など |
公表の時期 | 事業年度末から3ヶ月以内、1年に1回公表する。 |
育児休業取得状況を公表すれば、働きやすい環境をアピールする効果も期待できます。公表義務の対象企業は、男性従業員による育児休業取得状況の適切な把握・公表を行いましょう。
会社法改正と企業法務への影響
会社法は、企業活動における基礎的ルールを定めた法律です。会社法に関する法改正は、すべての企業が注視する必要があります。
2022年9月1日に施行された改正会社法では、株主総会資料の電子提供制度が創設されました。電子提供措置を取る旨を定款に定めた上で、株主総会資料を会社ウェブサイトなどに掲載してURL等を招集通知に記載すれば、株主に対して適法に提供したものとみなされます。
上場会社については、株主総会資料の電子提供制度が強制適用され、2023年3月期の定時株主総会から本格的に導入されました。
消費者契約法改正と企業法務への影響
消費者契約法は事業者と消費者の持つ情報量・交渉力の差を鑑み、事業者による消費者の搾取を防ぐためのルールを定めた法律です。事業者と消費者が締結する契約について、不当な勧誘がなされた場合における消費者の取消権や、消費者に不利益な条項の無効など、消費者を保護する規制が定められています。
2023年6月1日に施行された改正事項のポイントは、以下のとおりです。
改正事項 | ポイント |
---|---|
契約の取消権拡充 | 事業者による以下の行為があったとき、消費者は契約を取り消すことができるようになった。
|
事業者の努力義務拡充 | 次の努力義務が新たに追加された
|
免責条項の一部無効 | 軽過失時に限定して適用されていることを明記していない免責条項が無効になった。 |
どの改正事項も消費者側に寄り添った内容です。企業の方としては、より慎重に消費者との契約に向き合わなければなりません。同法の内容を踏まえ、契約書ひな形の見直しや情報提供のあり方についても考える必要があるでしょう。
消費者裁判手続特例法改正と企業法務への影響
消費者裁判手続特例法とは、訴訟手続など法的な問題に疎い消費者に代わり、消費者団体が訴訟対応をできるようにした「消費者団体訴訟制度」を定める法律です。
消費者契約法と同様に、2023年6月1日から消費者裁判手続特例法の改正法が施行されています。
消費者団体訴訟制度は、消費者被害を集団的に救済することを目的としているものの、使い勝手の悪さから十分に活用されていませんでした。
そこで改正法では、対象となる請求の拡大・和解の柔軟化・消費者への情報提供方法の拡充など、消費者団体訴訟制度の使い勝手を改善する変更が行われました。
消費者との取引が多い企業は、消費者契約法および消費者裁判手続特例法の内容を押さえ、トラブルが起こったときに迅速かつ適切な対応が取れるように備えておきましょう。
ツールや専門家も頼って改正法に適応しよう
法改正は毎年行われるため、企業は最新の法改正について情報を収集し、適切に対応しなければなりません。
最新の法改正に関する情報や対応にあたっては、法務担当者が自ら調べることに加えて、ツールの活用や弁護士などの専門家への相談も検討すべきです。
契約書作成・管理に用いるツールが最新法令に準拠していれば新たなルールへの適応もスムーズですし、システム上の通知等により重要な法改正に関わる情報にもアクセスしやすくなります。
また、弁護士等と顧問契約を締結すれば、対応が必要な法改正についてアドバイスをもらうことができるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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