- 更新日 : 2025年11月11日
取締役会の議長とは?役割や権限、社長・会長との違いや選任方法まで分かりやすく解説
取締役会の議長は、会社の重要な意思決定機関である取締役会を円滑に運営するためのキーパーソンです。その役割は単なる司会進行に留まらず、公正な議論を促し、決議の正当性を担保する重責を担います。
本記事では、この取締役会における議長の具体的な役割や権限、代表取締役(社長)や会長との違い、そして選任方法や不在時の対応まで、会社法上のポイントも踏まえて網羅的に解説します。取締役における会議長の役割を正しく理解し、健全なガバナンス体制の構築にお役立てください。
目次
取締役会の議長とは?
取締役会の議長は、取締役会の議事進行を円滑に進め、公正な決議を確保する責任者です。
会社の業務執行を直接指揮する役職ではなく、取締役会という会議体を機能させるための議事運営における中心的な役割を担います。議長の存在そのものは、取締役会が単なる報告の場ではなく、活発な議論を通じて意思決定を行うための重要な要素です。取締役それぞれの意見を引き出し、議論を集約させ、最終的に会社の意思決定としての決議を成立させる、いわば会議の「舵取り役」と言えるでしょう。
この役割の重要性から、実務上、多くの会社では定款や取締役会規程で議長に関する規定を設けています。
会社法における議長の規定
会社法には、取締役会の議長を特定の人物(例えば代表取締役)に限定するような直接的な規定はありません。法律上、誰が議長を務めるかは各社が定款で自由に定めることができます。
これは、会社の規模や実態に応じて、監督と執行の分離を図るなど、最もふさわしいガバナンス体制を各社が選択できるようにするためです。したがって、自社の議長のルールを知るためには、まず自社の定款を確認することが第一歩となります。
議長の選任方法
前述の通り、議長の選任は各社の定款や取締役会規程に基づいて行われます。
ここで実務上の重要な点として、会社法上は必須でないものの、議長は取締役の中から選任するのが一般的です。取締役ではない人物を議長とすることは、会議の正当性を巡る紛争リスクを考慮すると適切とは言えません。
その上で、具体的な選任方法は主に以下のパターンに分かれます。
- 特定の役職者が当然に就任する場合
- 定款に「代表取締役社長が取締役会の議長となる」のように、特定の役職にある者が自動的に議長となる旨を定めているケースです。多くの社内規程の雛形(テンプレート)では、このような定めが広く見られます。
- 取締役会で都度選任する場合
- 定款で特定の役職者を定めず、「取締役会の議長は、取締役会においてこれを選定する」と規定するケースです。この場合、取締役会が開催されるたびに、その会の冒頭で出席した取締役の中から議長を選出することになります。
- 取締役会の決議で一定期間の議長を選任する場合
- 上記の折衷案として、取締役会の決議によって、例えば「今後1年間の取締役会の議長は〇〇取締役とする」というように、一定期間の議長をあらかじめ選任しておく方法もあります。
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議長と他の役職との違いは?
議長が「取締役会という会議における役割」であるのに対し、代表取締役や会長は「会社組織における役職(ポジション)」です。
取締役会の議長は、代表取締役(社長)や会長といった役職と混同されがちですが、その役割と法的立場は明確に異なるため、それぞれ詳しく紹介します。
議長と代表取締役の役割の違い
議長と代表取締役の最も大きな違いは、議長が会議の進行役(監督サイド)であるのに対し、代表取締役は会社の業務執行役(執行サイド)である点です。以下の表で違いを整理します。
| 項目 | 取締役会議長 | 代表取締役 |
|---|---|---|
| 主な役割 | 取締役会の円滑な運営・議事進行 | 会社の業務執行、対外的な会社代表 |
| 法的立場 | 会議の司会進行役 | 会社の代表権を持つ業務執行機関 |
議長と会長の違い
「会長」は会社組織における役職名であり、法的な役割である「議長」とは概念が異なります。実務上、会長が議長を兼務する企業は多いですが、会長職が名誉職で取締役ですらないケースもあります。その場合、実務の通念上、取締役会の議長にはなれません。あくまで議長は、取締役の中から選ばれるのが原則です。
取締役会の議長の具体的な役割と権限は?
議長の主な役割は、会議の招集、議事進行、秩序維持、そして決議の成立を宣言することです。
これらの権限は、取締役会がその機能を最大限に発揮するために不可欠であり、議長は中立・公正な立場でその権限を行使することが求められます。議長の行動一つひとつが、取締役会の意思決定の質と、その後の法的効力に影響を与えます。
以下に、その具体的な役割を5つ解説します。
1. 取締役会の招集
取締役会の招集は、会社法上、原則として各取締役に権限があります(会社法366条)。ただし、定款などで特定の取締役(一般的には代表取締役)を招集権者と定めるのが通例です。そのため、議長が招集権者を兼ねるかは会社の規定次第であり、議長固有の権限とは限りません。取締役会の招集権者は、原則として各取締役にありますが、定款または取締役会の決議によって特定の取締役(一般的には代表取締役)を招集権者と定めるのが通例です。
その招集権者が招集した取締役会において、定款の規定などに基づき選ばれた人物が議長として議事を進行します。つまり、「会議をセットする人(招集権者)」と「会議を進行する人(議長)」は、必ずしもイコールではないということを理解しておく必要があります。
2. 議事進行と秩序維持
議長は、あらかじめ定められた議題に沿って議論を進行させ、各取締役に発言の機会を公平に与え、会議が円滑に進むよう秩序を維持します。これは議長の最も重要な役割の一つです。
具体的には、以下のような権限を行使します。
- 開会および閉会の宣言
- 議題の上程(議題を議論の対象とすること)
- 説明者や報告者の指名
- 発言の許可と時間の管理
- 議題から逸脱した発言の制止
- 不規則な発言の制止など、円滑な議事進行を妨げる行為に対して秩序を維持するための措置
なお、株主総会の議長に認められているような法的な退場命令権(会社法315条)は、取締役会の議長にはありません。
これらの権限を通じて、議長は限られた時間の中で建設的な議論が行われ、適切な結論に至るよう会議をコントロールします。
3. 採決と決議の成立宣言
議論が尽くされた時点で、議長は議題を採決に付し、可決・否決の結果を明確に宣言する権限を持ちます。この「決議の成立宣言」は、法的に非常に重要な行為です。
議決権について、議長は取締役の一員であるため、他の取締役と同様に当然に一個の議決権を有しています。その上で、日本の会社法では取締役は一人一票の議決権を持つのが原則であり、定款で議長に決定権(キャスティング・ボート)を恒常的に付与することは、この原則に反するため認められていません。可否同数の場合は、否決として扱うか再度審議・採決を行うのが一般的です。
4. 重要契約の承認と議事録による証明
議長の重要な役割には、会社の根幹に関わる重要な契約締結を承認する決議を導き、その事実を法的な文書で証明することも含まれます。
代表取締役の一存では締結できないような、M&A契約や事業譲渡契約、多額の借入に関する契約などは、取締役会での承認が必須です。議長は、これらの契約議案が適切に審議され、承認決議に至るまでのプロセスを管理します。
さらに、取締役会の決議内容は「議事録」という法的な文書として残す必要があります。この議事録には、後述の通り、出席した取締役および監査役が署名または記名押印をします。この議事録こそが、重要な契約が正当な手続きを経て承認されたことを証明する何よりの証拠となるのです。
取締役会議事録の具体的な書き方やテンプレートについては、以下の記事で詳しく解説されています。
5. 取締役会議事録への署名
議長は、作成された議事録の内容が、開催された取締役会の内容と相違ないことを確認し、署名または記名押印する義務を負います(会社法第369条第3項)。これはステップ4で述べた契約承認の証明にとどまらず、全ての決議事項の正当性を担保する行為です。
議事録は、会社の意思決定を法的に証明する極めて重要な書類です。この署名(または記名押イン)により、議事録の正確性が担保され、後日の紛争を防ぐ役割を果たします。この署名または記名押印の義務は、会社法上、出席した取締役および監査役全員に課されています(会社法369条3項)。議長もその一人として署名義務を負うことになります。
取締役会議長の役割は企業のガバナンスをどう強化する?
経営の監督と執行の分離を促し、取締役会が持つ権限の範囲を明確にすることで、経営の透明性を高め、ガバナンスを強化します。これは、健全な企業経営を行う上で欠かせない、議長の重要な役割です。
役割分離による監督機能の強化
議長と代表取締役を分離することで、業務を執行する側(代表取締役)と、それを監督する側(取締役会)の立場が明確になり、経営の監督機能が強化されます。代表取締役が議長を兼務すると、自身への監督が甘くなる恐れがあるためです。近年、コーポレートガバナンス・コードの適用など企業統治改革の流れを背景に、監督機能の独立性を高めるため、議長に社外取締役を据える上場企業が増加傾向にあります。
権限の範囲:取締役の選任は不可
会社の業務執行に関する意思決定は、会議体としての取締役会の重要な権限です。一方で、新たな「取締役を選任する」権限は取締役会にはありません。取締役の選任は、会社の所有者である株主によって構成される「株主総会」の専決事項です。議長の権限は、あくまで株主総会で選任された取締役の互選により付与されるものであり、この権限の境界線を守ることがガバナンスの基本となります。
取締役会の議長が不在または欠席した場合はどうなる?
議長が不在または事故(病気など)で欠席した場合は、あらかじめ定款で定められた順序に従うか、その場で出席した取締役の中から仮議長を選出して対応します。取締役会は会社の重要な意思決定機関であり、議長の不在によってその機能が停止することがないよう、事前の備えが重要です。
定款での事前の備え
最もスムーズな対応は、定款に議長不在時のルールを明記しておくことです。これにより、当日誰が議事を進行するかで混乱することを避けられます。
<定款の規定例>
このように、代理となる取締役の順位をあらかじめ決めておくことで、議長が急遽欠席した場合でも、速やかに取締役会を開始し、議事を進めることができます。
その場で仮議長を選出する方法
定款に代理の規定がない場合、出席した取締役の互選によって、その会議の進行役となる仮議長を決定します。
この場合、取締役会が始まったら、まず最初に「本日の議長選出の件」を議題とし、出席者の協議または多数決によって仮議長を決めます。選出された仮議長は、その取締役会に限り議事を進行します。その具体的な権限の範囲は、各社の定款や取締役会規程の定めに従います。この選出手続きも、議事録に正確に記載しておく必要があります。
取締役会の要となる議長の役割を理解し、健全な経営体制を
本記事で解説したように、取締役会の議長は、会社の意思決定プロセスにおいて中心的な役割を担う、極めて重要なポジションです。その役割は単なる形式的な司会者ではなく、取締役会という機関の実効性を左右する、コーポレート・ガバナンスの要と言えます。
取締役会の議長の権限と責任、代表取締役や会長といった役職との違いを正しく理解することは、透明性の高い経営と持続的な企業成長の基盤となります。自社の定款を確認し、議長の役割が適切に機能しているかを見直すことが、より良い会社経営への第一歩となるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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