- 作成日 : 2025年9月16日
コンプライアンス規程とは?作り方や運用方法を解説
企業が法令を守るだけでなく、社会的責任を果たし信頼を得るためには、組織全体にコンプライアンスの意識を根付かせることが欠かせません。その中核を担うのがコンプライアンス規程です。
本記事では、コンプライアンス規程の定義や目的から、記載項目、作成・運用・見直しのポイントなどを解説します。
目次
コンプライアンス規程とは
企業にとって、法令や社会的規範を守る姿勢を明確に示すことは、信頼を得るうえで欠かせません。コンプライアンス規程は、その基礎となる考え方や行動基準を定めた重要な社内ルールです。本章では、コンプライアンス規程の意味と、その存在が企業にもたらす効果について解説します。
法令遵守の枠組みを明文化したもの
コンプライアンス規程は、企業が法令や社内外の規範を遵守するための基本方針と実践の枠組みを明文化したものです。贈収賄の排除、公正な取引の推進、労働関連法の順守、個人情報の適切な管理など、日々の業務において従業員が守るべきルールを体系的に示します。
法令の羅列ではなく、企業倫理を実践するための基盤として、すべての役職員に共通する行動指針を提示する役割を持っています。この規程があることで、従業員は日常業務でどのような判断や行動が求められるかを把握しやすくなり、組織としての一体的な行動が促進されます。
経営統制の一環としての役割がある
コンプライアンス規程は、経営管理の観点からも重要な位置づけを持ちます。上場企業やIPOを目指す企業では、内部統制体制の一環としてその整備が求められることが一般的です。多くの場合、取締役会で承認される正式な社内規程とされ、経営陣の意思を全社に伝える手段として機能します。このように、規程の策定は単に社員にルールを守らせるものではなく、企業が社会的責任を果たす姿勢を内外に示すメッセージでもあります。
コンプライアンス規程の重要性
企業の法令遵守体制は、経営リスクの管理や社会的信頼の確保に直結するものとして注目されています。ここでは、企業が規程を整備すべき理由を整理します。
不正行為や逸脱行動を抑止できる
過去に発生した企業の不正会計、偽装表示、ハラスメントなどの事例は、単なる法令違反にとどまらず、企業の存続を脅かすレベルの信用毀損をもたらしています。こうした不祥事の背景には、明確なルールの不在や、従業員が適切な判断を行えない環境があります。コンプライアンス規程を通じて、「どのような行動が認められず、どのように対応すべきか」を明示することは、不正行為や逸脱行動の抑止につながります。また、早期発見のための相談窓口も併せて整備されれば、問題の深刻化を防ぐ体制づくりが可能になります。
現場と経営層の間の意識を統一できる
企業のコンプライアンスは、全社的な意識の共有によって初めて機能します。公益社団法人日本監査役協会が2023年8月に公表した「適時調査 取締役のコンプライアンス意識」によれば、「常に高いコンプライアンス意識をもって職務を執行している」と回答した取締役は32%にとどまり、多くは一定水準以上の意識を持つものの、十分とはいえない状況が示されています。また、不正行為が発生した企業では「職務よりコンプライアンスが優先されている」と答えた割合が低下し、逆に「職務の執行が優先されている」との回答が増える傾向が確認されました。これは、経営層の意識と現場の行動との間に乖離がある可能性を示唆しています。
このような認識の乖離は、現場でのルール軽視や曖昧な判断を生みかねません。コンプライアンス規程を定め、経営層が率先してその意義を示すことで、全社員に対する行動規範の共通認識が形成されます。日常的な研修や啓発活動と連動させることで、意識の差を埋め、行動の一体性が確保されやすくなります。
コンプライアンス体制の構築が義務化された
法制度の整備に伴い、コンプライアンス体制の構築が明確に義務づけられるようになっています。会社法第362条では、取締役会に対し法令適合体制の構築責任が課されており、大企業では内部統制の一環としてコンプライアンス規程の整備が実務上必要とされています。さらに2022年施行の改正公益通報者保護法により、従業員数300人超の企業には内部通報制度の整備が法的に義務付けられました。
この制度に対応するためには、通報窓口や対応手順を明記した規程の存在が不可欠です。加えて、パワーハラスメント防止措置の義務化など、労働法制上の対応領域も年々広がっており、こうした社会的要請に的確に対応するには、柔軟かつ継続的に見直せる規程が求められています。
コンプライアンス規程の記載項目
コンプライアンス規程は、企業活動のあらゆる局面で遵守すべき方針と行動基準を明文化した社内ルールです。ここでは、規程に盛り込まれる主要な項目について説明します。
適用範囲と規程の目的
規程の冒頭では、対象者と規程の目的を明示します。多くの企業では、取締役、社員、契約社員、派遣社員に至るまで、全社的に適用されることが明記されます。これにより、全員が同一の基準に基づいて行動するべき立場にあることが明確になります。目的としては、社内のコンプライアンス意識の醸成、法令遵守の徹底、再発防止体制の構築といった方針が掲げられ、企業理念に基づいた姿勢が示されます。
コンプライアンスの定義と適用範囲
規程内での「コンプライアンス」の定義を明確にすることも重要です。一般的には、法令、定款、社内規則の遵守に加え、社会的規範や企業倫理に則った行動も含めて解釈されます。企業によっては、CSRやハラスメント防止といった法令外の項目も含めることで、より広義のコンプライアンス概念を取り入れています。この定義づけにより、従業員は個々の判断場面で何を基準に行動すべきかを明確に把握できます。
推進体制と責任分担
コンプライアンス活動を効果的に運営するには、明確な組織体制と責任分担が不可欠です。多くの企業では、コンプライアンス推進委員会やコンプライアンス統括責任者を設置し、取締役会との連携のもと体制の整備と運用を行います。また、各部門に担当者を配置することで、現場レベルでの遵守状況の確認や対応が可能となります。規程では、こうした体制や役割、報告・監督の流れが文書化されます。
教育・研修と情報周知
コンプライアンス意識の定着には、制度の整備だけでなく、社員一人ひとりへの教育と継続的な情報提供が不可欠です。規程には、新入社員研修や定期研修の実施、社内イントラやメールなどを活用した周知方法などが盛り込まれます。内部通報制度や改正法対応など、時勢に応じてアップデートされる内容についても、研修で反映されることが望まれます。規程に教育・啓発の責任主体や実施頻度を明記しておくことで、運用の形骸化を防ぐ効果が期待できます。
内部通報制度と相談窓口
公益通報者保護法の改正以降、内部通報制度の整備はコンプライアンス体制の重要な柱となりました。コンプライアンス規程には、社内外の通報窓口の設置、通報者の秘密保持、報復行為の禁止、通報後の対応プロセスなどが詳細に定められます。通報対応部署や責任者も明文化されることが一般的です。
違反行為への対応措置
コンプライアンス違反が発生した場合の対応についても、規程で事前に手順を定めておく必要があります。通常は、違反の確認後に速やかに関係部署へ報告し、就業規則や懲戒規程に基づく対応を行う旨が記載されます。また、再発防止策の検討や、経営陣への報告義務、外部への開示対応の必要性についても記されることがあります。こうした対応方針を明示することで、組織としての一貫性と信頼性を維持しやすくなります。
コンプライアンス規程の作成・レビューは誰が行う?
コンプライアンス規程の策定・改訂は、企業全体の法令順守体制の根幹に関わる業務であり、専門的な知識と組織的な意思決定を要します。ここでは、作業を担う部門と、最終的に承認・見直しを行う機関について説明します。
法務部門または総務部門の主導で作成する
通常、コンプライアンス規程の原案作成は、法務部門または総務部門が主導します。これらの部門は法令や内部統制に精通しており、組織の実態に即した内容の規程を構築できます。また、必要に応じて人事部門やリスク管理部門、情報セキュリティ部門とも連携し、各分野に関する記載の整合性を図ります。上場企業やグループ会社では、ホールディングスが共通ルールを策定し、各社に展開するケースもあります。
コンプライアンス委員会や取締役会で承認を行う
作成された規程案は、コンプライアンス委員会や取締役会で審議・承認されるのが一般的です。特に重要な社内規程と位置づけられる場合は、最終承認権限を取締役会が持つこともあります。また、年に1回程度、制度や法令改正に応じて見直しを行い、その都度、委員会や役員会でレビューされます。これにより、規程が常に最新の水準を保ち、形骸化しない運用が確保されます。
コンプライアンス規程の周知方法
規程を整備しても、それが社内に浸透していなければ意味を持ちません。従業員一人ひとりがその内容を理解し、日常業務に反映できる状態にすることが、実効性のあるコンプライアンス体制には不可欠です。
社内教育・研修で周知する
新入社員研修や管理職向けの階層別研修において、コンプライアンス規程の内容や行動基準を説明する機会を設けます。事例を交えたケーススタディやeラーニングを活用することで、実務に即した理解が促されます。また、改訂時には全社員を対象に更新点を解説する研修を行い、規程の内容が常に最新のものであると意識付けを行います。
社内ポータル・掲示で共有する
社内イントラネットに規程を常時掲載し、誰でもアクセスできる状態にしておくことも有効です。あわせて、定期的な社内報やメールマガジンを通じて関連情報や実務ポイントを発信し、従業員の関心と理解を維持します。目に触れる機会を増やすことが、自然な規程の定着につながります。
コンプライアンス規程の策定・運用のポイント
コンプライアンス規程を実効性あるものとするには、策定時の視点だけでなく、運用と更新の方法までを一貫して設計することが必要です。形骸化を防ぎ、継続的に機能させるために意識すべき視点を解説します。
自社の実態に適合させる
規程は、自社の業態、規模、リスク特性に応じて設計することが大前提です。他社の雛形をそのまま流用すると、実態に合わない項目を抱え込むことになりかねません。海外事業を展開している企業では贈賄防止や輸出管理の強化が求められますが、中小企業ではより簡潔で現実的な内容が適している場合があります。また、既存の就業規則や情報セキュリティ規程などと内容の整合を図ることも、矛盾を防ぐうえで重要です。
トップが積極的に関与して定着を図る
コンプライアンス規程の策定や改定には、経営層が積極的に関わることが必要です。取締役会での正式承認や、トップによる全社員へのメッセージ発信を通じて、社内に対する方針の明確化と意識の統一が図られます。また、研修やイントラネットの活用によって、規程を現場に浸透させる施策と組み合わせることで、全社的な定着が促されます。
継続的に更新する
法制度や社会的要請は年々変化しています。個人情報保護法やハラスメント関連法制の改正、ESG・サステナビリティへの関心の高まりなど、取り組むべき領域は広がっています。こうした変化に対応するには、年1回などの定期的な見直しスケジュールを設定し、必要に応じて項目を追加・修正する姿勢が求められます。社会的批判や不祥事を受けて規程を強化する企業も増えており、柔軟に進化させることが信頼性の維持につながります。
グループ企業でコンプライアンス規程を整備する際の注意点
複数の法人を擁する企業グループでは、コンプライアンス体制の統一と現場実務への適合を両立させることが課題となります。親会社と子会社が連携しつつ、グループ全体で統制の取れた規程運用を実現するための要点を解説します。
グループ共通方針を定める
企業グループとして一貫したコンプライアンス文化を醸成するには、まず親会社が中心となり、グループ全体に適用するコンプライアンス基本方針を策定する必要があります。これは単なるスローガンではなく、倫理基準や優先的に対応すべきリスク領域、コンプライアンスの定義などを明文化した文書としてまとめます。共通方針を土台とすることで、グループ各社の規程に一貫性を持たせる基盤が整います。
子会社の業務実態に適合させる
親会社の共通方針を踏まえつつも、子会社がそのまま同一内容の規程を適用することは現実的ではありません。事業領域や拠点の法制度、組織体制に応じて、必要な項目の補足や表現の調整を行う必要があります。これにより、規程が実態に即したものとなり、形式的な存在ではなく、実際の判断基準として機能します。特に海外子会社では、現地法への適合や多言語対応の観点からも、ローカライズの作業が重要となります。
コンプライアンス体制を監督する仕組みを構築する
整備された規程を形骸化させないためには、親会社によるグループ全体のコンプライアンス監督体制が必要です。年次報告書の提出、内部監査によるチェック、リスク報告の集約、コンプライアンス研修のグループ横断的な実施などが考えられます。また、通報制度についても、共通の受付窓口を設け、重大事案は親会社へ報告する仕組みを構築することで、早期の情報把握と対応が可能になります。こうした体制によって、グループ全体でリスクを見逃さない一体的な運用が実現します。
コンプライアンス規程が企業の信頼を支える
コンプライアンス規程は、企業が法令や社会的規範を遵守する姿勢を明文化し、経営リスクを最小限に抑えるための基本となる文書です。その整備と運用を通じて、不正の未然防止、意識の統一、外部からの信頼獲得につながります。自社の実態や社会的動向に応じて内容を見直しながら、継続的に活用していくことが求められます。ルールとしてではなく、企業文化の中核として育てていく視点が不可欠です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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