- 作成日 : 2025年11月11日
株式譲渡には取締役会の承認が必要?手続きの流れから議事録の注意点まで徹底解説
会社の株式を譲渡する際、特に非公開会社においては「取締役会」による承認が重要な法的手続きとなることがあります。この手続きは、会社にとって望ましくない人物が株主になるのを防ぐために不可欠です。
本記事では、株式譲渡における取締役会の役割、承認手続きの具体的なステップ、そして承認が得られなかった場合の対処法まで、企業の担当者や経営者が知っておくべきポイントを網羅的に解説します。株式譲渡と取締役会の関係を正しく理解し、スムーズな事業承継やM&Aを実現させましょう。
目次
なぜ株式譲渡には取締役会の承認が必要なのか?
株式譲渡に会社の承認が必要なのは、会社の経営権を安定させ、好ましくない人物が株主になるのを防ぐためです。
もし誰でも自由に株式を売買できてしまうと、経営に反対する人物や反社会的勢力などが株主となり、会社の乗っ取りや経営への介入を招くリスクがあります。この承認制度は、そうした事態を防ぎ、信頼できる株主と共に安定した会社運営を継続するための重要な防衛策なのです。
この目的を達成するため、多くの中小企業(非公開会社)では、定款によって特定の株式の譲渡に会社の承認を必要とする定めを設けています。これを「譲渡制限株式」と呼びます。
この承認を行う機関は会社の体制によって異なり、会社法第139条1項に基づき、原則として取締役会を設置している会社では取締役会が、設置していない会社では株主総会がその役割を担います(定款で別段の定めも可能です)。この仕組みにより、会社は新たな株主が誰になるのかを事前に審査し、承認するかどうかを判断できるのです。
一部でも譲渡制限のない株式がある「公開会社」の場合
株式の譲渡制限がない「公開会社」の株式は、株主が自由に売買できるため、会社の承認は不要です。
公開会社とは、発行する株式の全部または一部に譲渡制限がない会社を指し、必ずしも上場企業とイコールではありません。
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株式譲渡における取締役会の承認手続きの流れ
株式譲渡の承認を得るための手続きは、会社法に定められたステップに沿って進める必要があります。主な流れは、譲渡人(株式を売りたい株主)または譲受人(株式を買いたい人)からの承認請求に始まり、取締役会での決議、そして結果の通知という順で進みます。
ステップ1. 株式の譲渡承認請求
まず、株式を譲渡したい株主、またはその株式を譲り受けたいと考えている人が、会社に対して「株式譲渡承認請求書」を提出します。
この請求書には、以下の内容を記載するのが一般的です。
- 譲渡しようとする株式の種類と数
- 譲り受けようとする者の氏名または名称
- 会社の承認が得られなかった場合に、会社または会社が指定する者(指定買取人)に株式を買い取ってもらうことを希望するかどうか
ステップ2. 取締役会の招集と開催
譲渡承認の請求を受けたら、会社は取締役会を招集して審議します。取締役会の招集は、原則として各取締役が行うことができます。ただし、定款や取締役会の決議によって招集権者が代表取締役などに定められている場合は、その定められた人が招集通知を発送し、取締役会を開催します。
取締役会では、請求内容に基づき、株式を譲り受けようとしている人物が会社の経営にとって問題ないか、株主としてふさわしいかなどを慎重に審議します。
ステップ3. 取締役会での株式譲渡の承認または不承認の決議
取締役会で審議の上、株式譲渡を承認するか否かを決議します。
承認決議は、議決に加わることができる取締役の過半数が出席し、その出席取締役の過半数をもって行われます(会社法第369条1項)。ただし、定款でこれを上回る要件を定めている場合は、その定めに従う必要があります。決議が完了したら、その内容を証明するために「取締役会議事録」を必ず作成しなければなりません。
ステップ4. 取締役会の決議結果の通知
会社は、取締役会での決議結果を、請求を行った株主(または譲受人)に対して通知します。
この通知は、請求があった日から2週間以内に行わなければなりません(会社法第145条1号)。もしこの期間内に通知をしなかった場合、会社は株式譲渡を承認したものとみなされます(みなし承認)。そのため、不承認とする場合は特に、期間内に必ず通知を行うことが重要です。
株式譲渡が取締役会で承認されなかった場合の対応
取締役会が株式譲渡を不承認とした場合でも、譲渡したい株主は株式を売却する権利を失うわけではありません。その場合、譲渡承認の請求時にあらかじめ買取請求をしていた株主は、会社自身、または会社が指定する第三者(指定買取人)に株式を買い取ってもらう権利があります。
これは、株主の投下資本を回収する機会を法的に保障するための制度です。不承認後の大まかな手続きの流れは以下の通りです。
- 会社 → 株主:譲渡不承認の通知(譲渡承認請求から2週間以内)
- 会社:買取方法の決定(※株主による買取請求は、最初の譲渡承認請求時に行われています)
- 会社 → 株主:買い取る旨の通知(不承認決定から40日以内)、または指定買取人の通知(不承認決定から10日以内)
- 当事者間:買取価格の協議
- (協議不調の場合):裁判所へ価格決定の申立て(買取等の通知から20日以内)
以下で、会社が取りうる2つの買取方法「会社による買取」と「指定買取人による買取」について、それぞれの特徴を詳しく解説します。
会社による株式の買取
会社が自ら株式を買い取る方法は、財源規制の制約を受けますが、会社主導で手続きを進めやすいのが特徴です。
株主からの買取請求に対し、会社が自己株式として買い取る選択肢です。価格はまず当事者間の協議で決定を目指しますが、合意に至らない場合は裁判所での価格決定手続きに移行します。
ただし、この方法には「財源規制」という大きな制約があり、会社は剰余金の分配可能額の範囲内でしか自己株式を取得できません。会社の財務状況によっては、この選択肢が取れない場合もあります。
会社が指定する買取人による買取
会社が指定した第三者が株式を買い取る方法は、会社の財源を使わず、財源規制を受けない点が最大のメリットです。
会社が代表取締役個人や他の株主などを「指定買取人」として指名し、その者に株式を買い取らせる方法です。会社の資金を使わずに済むため、実務上はこちらの方法が選択されることも少なくありません。価格決定のプロセスは会社による買取と同様ですが、会社は期間内に適切な買取人を見つける必要があります。
「会社買取」と「指定買取人買取」の違いの比較
2つの方法の主な違いをまとめると、以下のようになります。
| 項目 | 会社による自己株式の買取 | 指定買取人による買取 |
|---|---|---|
| 買取主体 | 会社自身 | 会社が指定した第三者 (例: 代表取締役、他の株主) |
| メリット | 会社主導で手続きを進めやすい |
|
| デメリット | 財源規制があり、会社の財務状況によっては買取れない場合がある |
|
株式譲渡で取締役会の承認が不要なケース
全ての株式譲渡に取締役会の承認が必要なわけではありません。主に2つのケースが該当します。
譲渡制限のない株式(公開会社)の場合
上場企業のように、定款で株式の譲渡制限を設けていない「公開会社」の株式は、株主が自由に売買できます。
そのため、株式市場での取引などで株主が代わっても、会社の承認手続きは一切不要です。
相続や合併など一般承継の場合
株主が亡くなったことによる相続や、会社の合併によって株式が移転する場合も、取締役会の承認は不要です。
これらは「一般承継」にあたるため譲渡制限の対象外です。ただし、会社にとって好ましくない人物が株主となることを防ぐため、会社から相続人などに対して、その株式の売渡しを請求できる制度も設けられています(会社法第174条)。
なお、会社としては新たな株主を把握するために、株主名簿の書き換え(名義書換)手続きを求めるのが一般的です。
株式譲渡契約と取締役会承認に関する注意点
手続きを円滑に進め、後のトラブルを防ぐために、いくつか重要な注意点があります。特に、契約のタイミングと議事録の作成、決議の参加者には注意が必要です。
承認前に締結した株式譲渡契約の効力
譲渡制限株式について、取締役会の承認を得る前に当事者間で株式譲渡契約を締結すること自体は可能です。
ただし、その契約は「会社の承認が得られること」を条件とする停止条件付契約と解釈され、承認がなければ会社に対しては効力を主張できません。つまり、承認されて初めて、譲受人は「私が新しい株主です」と会社に主張できる(対抗できる)ようになるのです。
株式譲渡を承認した取締役会議事録の重要性
株式譲渡を承認した事実を証明する重要な書類が、取締役会議事録です。
なお、取締役が集まらずに書面などで行う「みなし決議(書面決議)」も法的に有効であり、その場合の決議書も承認を証明する資料となります。株式譲渡そのものは登記事項ではありませんが、関連する手続きで議事録等の提出が求められることがあります。
承認決議に参加できない取締役(特別利害関係人)とは?
株式譲渡の承認決議において、その決議の結果に個人的な利害関係を持つ取締役は、議決に加わることができません。
これは会社法第369条2項に定められたルールで、決議の公正性を保つためのものです。例えば、株式を譲渡しようとしている取締役や、株式を譲り受けようとしている取締役がこれに該当します。
もし、これらの「特別利害関係を有する取締役」が議決に参加したとしても、その取締役は議決権を有しません。仮に、特別利害関係人の議決権を含めなければ決議の要件を満たさない場合、その決議は不成立と判断されるリスクがあります。議事録には、誰が特別利害関係人として議決に参加しなかったかを明記しておくことが重要です。
株式譲渡承認の取締役会議事録で記載すべき項目は?
取締役会議事録には、法令で定められた事項に加え、誰が見ても承認内容が明確にわかる項目を正確に記載する必要があります。後のトラブルを避けるためにも、以下の項目は必ず盛り込みましょう。
- 開催日時及び場所
- 出席した取締役及び監査役の氏名
- 議長の氏名
- 議事の経過の要領及びその結果
- 株式譲渡の承認を求める請求があった旨
- 請求者の氏名(譲渡人株主)
- 譲渡対象株式の種類及び数
- 譲受人の氏名及び住所
- 審議の内容(質疑応答など)
- 決議の結果
- 株式譲渡を承認する旨
- 特別の利害関係を有する取締役の氏名(該当者がいる場合)
これらの項目を網羅し、議事録に出席した取締役が署名または記名押印(もしくは電子署名)をします。監査役設置会社で監査役が出席した場合は、その監査役も同様に署名などが必要です。これにより、法的に有効な議事録となります。
※実務上は、決議の明確化のために賛成・反対の取締役氏名を記載することも多くありますが、これらは法律で定められた必須事項ではありません。
取締役会の承認後、株式譲渡を完了させる手続きの流れ
取締役会の承認は、あくまで会社が「譲渡を認める」という意思表示です。これをもって自動的に譲渡が完了するわけではありません。承認後、当事者間での契約履行と、会社に対する法的な手続きを経て、譲受人は正式に株主となります。
ステップ1. 株式譲渡契約の履行と代金決済
取締役会の承認を得たことで、当事者間で締結した株式譲渡契約の効力が正式に確定します。これに基づき、譲受人は譲渡人へ株式の対価を支払います。
承認前に締結されていた株式譲渡契約は、「会社の承認」を条件とする停止条件付契約としての効力しか持ちませんでした。取締役会の承認という条件が満たされたことで、この契約は完全に有効なものとなります。
このステップでは、契約書の内容に従い、譲受人が譲渡人に対して譲渡代金を支払います。後のトラブルを避けるため、誰が誰に、いつ、いくらを支払ったのかが明確にわかる銀行振込などの記録を残しておくことが重要です。代金の支払いと引き換えに、譲渡人は株券発行会社の場合は株券を譲受人に交付します。
ステップ2. 会社への株主名簿の名義書換請求
代金決済後、会社に対して「株主名簿の名義書換」を請求することが、会社に対して株主としての権利を主張するための最終手続きとなります。
会社法第130条1項では、株式の移転は、株主名簿の名義書換を行わなければ会社に対抗(主張)できないと定められています。つまり、この名義書換を済ませて初めて、譲受人は配当を受け取る権利や株主総会での議決権など、株主としての権利を法的に行使できるようになるのです。
名義書換は、原則として株式を譲り渡した人(譲渡人)と譲り受けた人(譲受人)が共同で会社に請求します。その際、一般的に以下の書類の提出が求められます。
- 株主名簿書換請求書(会社所定の様式がある場合が多い)
- 株式譲渡契約書の写し
- 株式譲渡承認を行った取締役会議事録の写し
- (株券発行会社の場合)譲り受けた株券
- 譲渡人と譲受人双方の印鑑証明書 など
これらの書類を会社が受領し、株主名簿の書き換えが完了した時点で、株式譲渡のすべての手続きが完了します。
株式譲渡の成功は取締役会の承認手続きが鍵
譲渡制限株式の株式譲渡を円滑に進める上で、取締役会による承認は法的に不可欠な手続きです。このプロセスは、会社の安定経営を守る防衛策であると同時に、株主の権利を保護する重要なルールでもあります。適切な手順を踏まなければ、株式譲渡そのものが無効になるリスクも伴います。本記事で解説した流れを参考に、取締役会での適正な審議と承認決議、そして正確な議事録作成と株主名簿の名義書換までを徹底しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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