- 作成日 : 2025年7月9日
契約書の整理の基本ガイド|電子契約・保存期間・管理体制について解説
契約書の整理は、企業活動における法的リスクの回避と業務の効率化に直結する重要な業務です。契約の種類や保存期間に応じた適切な分類や保管、検索性の確保、電子契約との連携など、求められる対応は多岐にわたります。
本記事では、契約書整理に必要な基本知識と実務対応を解説します。
契約書の整理の基本
契約書を整理・管理することが企業にもたらすリスク低減効果や業務効率化の意義を、まずは押さえていきましょう。
契約書の整理とは
契約書の整理とは、企業や組織が締結したあらゆる契約書類を体系立てて分類・保管し、必要なときに迅速に取り出せるよう管理するプロセスを指します。取引先や顧客との合意内容を記した契約書は企業の財産であり、適切に整理されていれば契約内容や期限を確実に把握できます。紙媒体の契約書だけでなく、関連する見積書・覚書・メール記録など補足資料や、電子契約で締結したデジタル文書も含め、契約に関するすべての情報を一元的に扱うことが契約書整理の範囲です。
契約書を整理するメリット
契約書をきちんと整理・管理することは、企業経営において大きな利点があります。第一にリスクマネジメントの面です。契約書が散在して所在不明になったり、紛失・破損したりすると、万一の紛争時に自社の権利を守れず重大な損失につながりかねません。また、管理がずさんだと内部からの情報漏えいや改ざんのリスクも高まり、企業の信用失墜を招くおそれがあります。適切な契約書整理はこうしたリスクを低減し、法的トラブルの回避に寄与します。
第二に業務効率の向上です。必要な契約情報をすぐ取り出せる状態にしておけば、社内の問い合わせ対応や契約更新手続きが迅速になり、生産性が上がります。特に契約期限の管理が徹底されていれば、更新忘れによる自動延長や失効といったミスを防止できます。契約書整理を通じて重要情報の見落としや抜け漏れを防ぎ、ビジネスを円滑に進めることができるのです。
契約書の整理における注意点
契約書の整理は、企業のリスク管理や業務効率に直結します。分類・保管から検索性、廃棄、セキュリティまで、日々の実務で注意すべきポイントを解説します。
契約書の分類と保管方法
契約書は、種類や取引先ごとに整理し、検索性を高める工夫が求められます。紙書類ならインデックスや五十音順で分類し、よく使うものは手前に配置します。電子契約書では、ファイル名に契約名・日付・相手先を含め、フォルダ階層や命名ルールを統一すると、属人化を防げます。
契約書の保管場所と原本管理
保管場所は安全性とアクセス性のバランスが必要です。紙は施錠できるキャビネットで保管し、湿気・災害への備えも検討します。電子ファイルはアクセス制限を設け、バックアップも忘れずに行います。スキャン済みデータは証拠能力に限界があるため、紙の原本は所定期間保管しておきましょう。
契約書の保管期間と廃棄の基準
契約書の保管期間は契約内容に応じて異なります。会社法では10年、法人税法では7年、労働契約は5年が目安です。社内規程でも保管方針を定め、不要な契約書は細断や溶解処理などで適切に廃棄します。電子データもバックアップ含めて確実に削除しましょう。
契約書情報の検索性向上
検索性を高めるためには、紙契約書でも管理台帳を整備し、契約名・相手先・金額・期限などの項目を記録します。Excel台帳や契約管理システムで更新情報を一元管理すれば、更新漏れを防げます。PDF化や全文検索機能の活用も有効です。
リスク管理とセキュリティ
契約書には機密情報が含まれるため、情報セキュリティが不可欠です。紙は持ち出し制限と貸出記録の管理を徹底し、電子契約書は権限設定やログ監査ができるシステムを使いましょう。ファイル共有はリンク機能などを利用し、誤送信を防ぎます。整理の徹底は内部統制や監査対応にも有効です。
契約書の整理体制を構築するポイント
契約書整理を効率的かつ継続的に行うには、社内でのルールづくりと責任体制の明確化が欠かせません。ここでは、管理責任の割り振りから台帳整備、棚卸し、保管方法、教育体制まで、構築ポイントを解説します。
契約書管理の責任者と体制を整備する
まずは契約書管理を担う責任者を明確にします。法務部門や総務部などを中心に「契約書管理チーム」を設けましょう。統括責任者は方針策定や運用状況の把握を行い、各部署の実務担当者と連携して全社的な整理手法の統一を図ります。定期的なミーティングや報告により、課題の早期把握と改善を進める体制づくりが基本です。
契約書管理台帳を作成し活用する
契約情報を一元化するために、契約書管理台帳を整備します。契約の種類、相手先、契約日、期限、金額などを一覧化し、既存の契約書から順次登録します。Excelや契約管理システム上で管理し、更新や解約のたびに情報を反映させることで、散在を防ぎ正確な把握が可能になります。
既存契約書の棚卸しと整理をする
管理体制の構築時には、まず既存契約書の棚卸しから着手します。部署や個人が保有する契約書を集約し、所在や内容を確認しながら台帳に登録します。不備や重複がないかを点検し、古い契約については法定保存期間を確認のうえ廃棄を判断します。棚卸し作業を通じて、整理・運用の基盤を明確にします。
契約書原本のファイリングと保管を徹底する
登録済みの契約書は所定のルールに従って再分類・再保管します。部署ごとや契約種別ごとにファイルを整理し、キャビネットなどの保管場所を統一します。契約書原本には関連資料も添えて保管し、ファイルには分類名や年度を記載して視認性を高めます。整然とした保管は、監査や調査対応にも有効です。
契約書管理の規程を制定する
契約書整理を定着させるには、社内規程として明文化することが有効です。登録方法、台帳管理、保管期間、電子契約対応などを定めた「契約書管理規程」を策定し、全社に周知します。新入社員研修や法務担当者向け研修で継続的に教育し、定期的な監査で規程運用の徹底と是正を図りましょう。ルールが根付けば属人化の防止にもつながります。
契約書の整理と電子契約
電子契約の普及は契約書の整理の在り方を大きく変えつつあります。紙と電子の違いや導入のメリット、整理手法への影響、注意点について解説します。
紙契約書の課題と電子化の利点
紙の契約書は保管コストや紛失・劣化のリスク、検索の手間といった課題があります。大量のファイル管理には時間も空間も必要です。一方、PDFでの電子保管はスペース削減や検索性の向上に寄与し、災害時のリスク軽減やテレワーク対応にも有効です。電子契約サービスを使えば、締結から保管までをオンラインで完結でき、印紙税の回避や手続きの迅速化にもつながります。
電子契約の導入による影響
電子契約の導入により、契約データはクラウド上で一元管理され、紙の原本をファイリングする必要がなくなります。検索や期限管理もシステム化され、手作業の台帳更新は大幅に削減されます。また、契約内容の改訂履歴や承認状況もオンラインで可視化できるため、業務の透明性と効率が高まります。ただし、当面は紙契約と電子契約が混在する状況が続くため、両者を統合的に管理する仕組みが必要です。
電子契約導入時の注意点
一定の条件を満たした電子契約には法的有効性がありますが、取引先によっては紙での締結を求める場合もあり、柔軟な対応が求められます。サービス選定ではセキュリティや法令準拠状況の確認が不可欠です。社内では稟議フローや承認ルールを電子契約に対応させ、教育と周知を徹底する必要があります。また、電子契約書も税法等で定められた保存期間の管理が求められるため、データ消失を防ぐためのバックアップや保管期限の確認も怠らないようにしましょう。
契約書の整理に関連する法制度・改正の動向
契約書の管理・保存に関する法制度は、電子化の進展に伴い大きく変化しています。ここでは、近年の法改正を踏まえ、契約書整理に与える影響と対応のポイントを解説します。
電子契約に関する法改正の流れ
2001年の電子署名法施行以降、契約の電子化を後押しする法整備は段階的に進み、2021年にはデジタル改革関連法の成立により行政手続における押印廃止や書面交付義務の緩和が実施されました。これにより、民間企業でも契約書の電子化が進めやすい環境が整備されつつあります。2022年には宅建業法の改正で賃貸借契約の電子交付が解禁されるなど、業界ごとの電子契約対応も拡大しています。
電子帳簿保存法改正の影響
契約書整理に直結する改正として、2022年施行の電子帳簿保存法があります。取引先から電子取引で受け取った契約書・請求書は、原則として電子のまま保存が義務付けられ、2024年1月からは猶予期間も終了しました。また、紙の契約書をスキャン保存することも認められており、所定の要件を満たせば原本破棄も可能です。これらの法改正を踏まえ、企業は電子保存の方式、検索要件、タイムスタンプ付与などを含めた運用体制を見直す必要があります。
契約書の保存期間
契約書の保存期間は法令により異なり、会社法では10年、法人税法では7年、労働契約は労働基準法により5年の保存が求められます。業種によっては独占禁止法や下請法などの規制が適用される場合もあり、自社の業務に関係する法令を確認したうえで、保存期間を定めることが求められます。保存期間を過ぎた契約書は原則廃棄できますが、トラブル防止の観点から一定期間を超えて任意に保管する企業もあります。
その他の関連法令
e-文書法では、スキャナ保存による電子化が可能となっており、原本性を確保するための技術要件を満たすことが条件です。また、個人情報保護法に基づき、契約書に含まれる個人情報の適切な管理・削除も必要です。さらに、J-SOX法により契約書は内部統制の一環として扱われるため、契約書整理の手続きを規程として明文化・実行することが、コンプライアンス強化につながります。
契約書の整理に求められる対応と法制度を理解しよう
契約書の整理は、企業にとってリスク管理と業務効率の両立を図るうえで重要な業務です。電子契約の拡大や法改正に伴い、保存期間や管理手法の見直しも必要とされています。分類・保管・廃棄の整備だけでなく、契約台帳の運用やセキュリティ対応も含めて、持続的に改善できる体制を整えていきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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