• 作成日 : 2025年7月4日

雇用契約書の保管期間は5年!起算日や正しい保管方法を解説

企業が従業員を雇用する際に取り交わす「雇用契約書」。これは、労働条件や双方の権利・義務を明確にするための非常に重要な書類です。そして、この雇用契約書をはじめとする労働関係の重要書類には、法律で定められた「保管期間」があることをご存知でしょうか?

特に2020年の労働基準法改正により、原則として「5年間」の保管が必要となりました。しかし、「その5年間は、具体的にいつから数え始めるの?」という疑問を持つ方は少なくありません。

この記事では、雇用契約書の保管期間や起算日、保管方法などについて解説します。

雇用契約書の保管期間は原則5年

まず、雇用契約書の保管期間に関する基本的なルールを確認しましょう。

労働基準法第109条

労働関係書類の保管期間については、労働基準法第109条に定められています。

労働基準法 第百九条 使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を5年間保存しなければならない。

この条文に基づき、雇用契約書も「労働関係に関する重要な書類」として、原則5年間の保管義務があります。

(※)2020年4月1日の労働基準法改正により、賃金請求権の消滅時効期間が原則5年(当面の間は経過措置として3年)に延長されたことに伴い、関連書類の保管期間も従来の3年から5年に延長されました。実務上の賃金請求権は当面3年ですが、書類の保管義務期間は法律上5年となっている点に注意が必要です。

「5年」はいつから数える?

ここが最も重要なポイントです。「5年間」という期間を、いつから数え始める(起算する)のでしょうか?

書類の種類によって起算点が異なりますが、雇用契約書を含む「労働関係に関する重要な書類」の保管期間の起算点は、その書類ごとに考えるのではなく、関連する情報が完結した時点で考えます。

具体的には、雇用契約書は通常、従業員の雇用から退職までの一連の労働関係を証明する書類群の一部として保管されます。そのため、その従業員に関する記録全体として捉え、以下の時点が起算点となるのが一般的です。

従業員の死亡、退職、または解雇の日

つまり、在職期間中は保管を続け、その従業員が会社を離れた日から5年間保管する、と理解するのが実務上分かりやすいでしょう。雇用契約を締結した日から5年ではない点に、くれぐれもご注意ください。

保管義務の対象者

この保管義務を負うのは、「使用者」、つまり企業(会社)です。

違反した場合の罰則

労働基準法第109条の保管義務に違反した場合、同法第120条に基づき、30万円以下の罰金が科される可能性があります。コンプライアンス遵守の観点からも、適切な保管が求められます。

保管義務のあるその他の労働関係書類

労働基準法第109条では、雇用契約書以外にも以下の書類について原則5年間の保管義務を定めています。起算点も併せて確認しましょう。

書類の種類保管期間主な起算点
労働者名簿5年間従業員の死亡、退職、または解雇の日
賃金台帳5年間最後の記入をした日
雇入れに関する書類5年間雇入れ日
解雇に関する書類5年間従業員の解雇日
退職に関する書類5年間従業員の退職日
災害補償に関する書類5年間災害補償が完了した日
賃金その他労働関係に関する重要書類5年間その完結の日(例:雇用契約書は退職日など)
時間外・休日労働協定届(36協定)5年間協定の有効期間の満了日、または協定期間の初日

(※上記は主な例です。個別の書類の性質により判断が異なる場合があります。)

これらの書類も雇用契約書と同様に、適切に管理・保管する必要があります。なお、健康保険・厚生年金保険雇用保険に関する書類など、他の法律で保管期間が定められている書類(例:2年間保管など)もあるため、注意が必要です。

雇用契約書の正しい保管方法

保管義務のある書類は、必要な時にすぐに取り出せ、かつ、紛失や情報漏洩のリスクがないように保管する必要があります。

紙媒体での保管ポイント

紙で保管する場合は、以下の点に留意しましょう。

  • 保管場所の確保:施錠できるキャビネットや書庫など、セキュリティが確保された場所に保管します。
  • 整理・ファイリング:従業員ごと、部署ごと、あるいは退職年別など、後で検索しやすいようにルールを決めて整理します。特に退職者の書類は、保管期間の起算点が明確になるよう、退職年月日が分かるように管理すると良いでしょう。
  • アクセス権限の管理:閲覧できる担当者を限定し、不正な持ち出しや閲覧を防ぎます。
  • 劣化・毀損防止:ファイルに入れたり、湿気や直射日光を避けたりするなど、書類が劣化しないように配慮します。火災や水害への対策も考慮できるとより安全です。

保管場所の確保と管理体制

誰が保管責任者なのか、どのように管理するのか(管理台帳の作成など)、アクセス権限はどうするのかといった管理体制を明確にしておくことが重要です。

廃棄時の注意点

保管期間が満了した書類を廃棄する際は、個人情報保護の観点から、シュレッダー処理や溶解処理など、復元不可能な方法で安全に廃棄する必要があります。安易にゴミ箱に捨てることは絶対に避けてください。

雇用契約書の電子保管(ペーパーレス化)

近年、書類の電子データによる保管(ペーパーレス化)が推進されています。雇用契約書などの労働関係書類も、一定の要件を満たせば電子データで保管することが可能です。

電子保管が認められる法的根拠

「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律(e-文書法)」や「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律(電子帳簿保存法)」などの法令により、法令で保管が義務付けられている書類について、紙媒体だけでなく電子データでの保管が認められています。

労働基準法関連の書類についても、厚生労働省から通達が出ており、一定の要件下で電子保管が可能です。

電子保管のメリット

電子保管には以下のようなメリットがあります。

  • 省スペース化:紙の書類を保管するための物理的なスペースが不要になります。
  • 検索性の向上:ファイル名や日付、キーワードなどで簡単に必要な書類を検索できます。
  • アクセス性の向上:権限があれば、場所を選ばずに必要な情報にアクセスできます(セキュリティ対策は必須)。
  • 劣化・紛失リスクの低減:紙媒体のような物理的な劣化や紛失のリスクを減らせます。適切なバックアップにより、災害対策にもなります。
  • 業務効率化:書類の検索、共有、管理にかかる手間を削減できます。

電子保管を行うための要件

労働関係書類を電子データで保管する場合、主に以下の要件を満たす必要があります(詳細は厚生労働省のガイドライン等をご確認ください)。

  • 真実性の確保:データが改ざんされていないことを証明できること(例:タイムスタンプの付与、訂正・削除履歴の保存など)。
  • 可視性の確保:必要に応じて速やかに、データを明瞭な状態で画面表示や書面印刷ができること。システムのマニュアル等を備え付けること。
  • 検索性の確保:取引年月日、取引金額、取引先、を検索条件として設定できること(労働関係書類の場合、氏名、日付などで検索できる機能)。

なお、電子保管を行う場合であっても、労働基準法や個人情報保護法など、関連法規の遵守は引き続き必要です。

電子化する際の注意点

電子保管を導入する際は、以下の点に注意しましょう。

  • システムの選定:上記の法的要件を満たし、かつ自社の運用に合ったシステムを選びます。セキュリティ対策が強固であることも重要です。
  • セキュリティ対策:不正アクセス、情報漏洩、データ消失などを防ぐための、アクセス権限設定、パスワード管理、データのバックアップ、ウイルス対策などを徹底します。
  • 従業員への説明:電子化への移行について、従業員に目的や方法を説明し、理解を得ることが望ましい場合があります(特に給与明細の電子化など)。
  • 運用ルールの策定:電子データの命名規則、フォルダ構成、アクセス権限、バックアップ方法、保管期間満了後のデータ削除手順など、明確な運用ルールを定めます。

雇用契約書について正しい知識を持って保管しよう

雇用契約書をはじめとする労働関係の重要書類は、労働基準法に基づき、原則として5年間の保管が義務付けられています。この「5年」の起算点は、多くの場合、従業員の死亡・退職・解雇日、または賃金台帳のように最後の記入日となります。契約締結日ではない点に注意が必要です。

保管にあたっては、紙媒体・電子媒体いずれの場合も、セキュリティを確保し、必要な時にすぐに取り出せるように整理・管理することが重要です。特に電子保管は、業務効率化や省スペース化に有効ですが、法的要件を満たしたシステム導入と適切な運用ルールの策定が不可欠です。

保管義務違反には罰則も定められています。この記事を参考に、自社の書類保管体制を今一度確認し、法令を遵守した適切な労務管理を徹底しましょう。


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