• 作成日 : 2025年5月7日

薬剤師の業務委託契約書を作るには?例文・テンプレートを紹介

薬剤師業務委託契約書は、調剤薬局やドラッグストアが薬剤師へ調剤・在宅訪問をはじめ薬局運営業務を外注する際に締結する契約書です。この記事では書き方のポイントをレビューし、条項ごとの具体例とテンプレートを示しながら未払い・偽装請負・個人情報漏えいリスクを防ぐ方法を解説します。​

薬剤師との業務委託契約とは?

薬剤師との業務委託契約は、薬局が調剤や服薬指導、その他薬局運営業務を外部の薬剤師へ委託する際に締結する契約です。薬剤師を雇うのではなく、フリーランスの薬剤師に業務を委託する薬局も増えてきています。

業務委託契約書によって業務範囲や報酬、責任分担を明文化し、守秘義務や損害賠償を契約書で定義することで、双方の法的リスクをコントロールすることが可能です。

業務委託契約と正社員との違い

正社員薬剤師は薬局と雇用契約を締結します。その薬局の就業規則に従い、決められた勤務日・勤務時間中は指揮命令を受けなければならない一方で、社会保険が適用される点と安定的に働き続けられる点がメリットといえます。

業務委託薬剤師は個人事業主として薬局と契約します。成果(調剤完了・監査報告)に対し報酬が支払われ、作業手順や勤務時間を自ら決定することができ、自由な働き方が可能です。一方で、正社員薬剤師と比較すると契約が終了して働けなくなるリスクが高いことと、社会保険が適用されないのがデメリットといえます。

薬剤師と業務委託契約を締結した場合、薬局がシフトや服装を細かく指示すると偽装請負(業務委託契約を締結しながらも実質は正社員のような働き方をさせていること)と見なされる恐れがあります。

業務委託契約書の種類

業務委託契約には請負契約、準委任契約、委任契約という3つの種類の契約があります。

請負契約とは、仕事の完了を約束する契約です。例えばレポートや資料を作成・提出させたい場合などは、請負契約を締結します。

準委任契約とは、業務自体を任せる際に締結する契約で、成果は問われません。例えば日々の調剤・監査を時間単位で任せたい場合は、準委任契約を締結します。

委任契約とは、行政手続き代行や薬事監査対応など、法律行為に近い業務を任せる際に締結します。案件に応じて契約形態を選択し、場合によっては複合契約とし、条項を切り分けるとスムーズでしょう。

薬剤師と業務委託契約を締結するケース

特に欠員が出た、あるいは運営方針や状況の変化などで一時的に人手不足の際に外部の薬剤師と業務委託契約を締結するケースがみられます。

例えば営業時間を延長し夜間帯だけ外部薬剤師を確保したい、在宅訪問件数が急増しスポットで専門薬剤師を依頼したい、管理薬剤師の産休中に店舗管理を代行してもらいたい場合などが挙げられます。

いずれも業務範囲、責任者表示、報酬体系を契約書で明確にしなければ、行政監査や保険請求に支障が出ますので、しっかりと契約書を作成しておくことが重要です。

業務委託契約書はどちらが作成する?

業務委託契約はどちらが作成すべきといった明確なルールが法律で決まっているわけではありません。薬局側が起案して薬剤師がレビューするのが一般的ですが、フリーランスの薬剤師自身のテンプレートを提示するケースもあるようです。どちらが作成しても内容を確認して書面に双方が署名(もしくは電子署名)し、収入印紙の貼付をすれば法的効力が確保されます。

薬剤師を業務委託するメリット・デメリット

ここからは薬局側、薬剤師側双方の視点から、薬局が薬剤師に業務委託をするメリット・デメリットを考えていきましょう。

薬局のメリット・デメリット

まず薬局のメリットとしては、繁忙期や必要な時間帯のみ人員を確保でき、人件費を最適化できる点にあります。突発的な事象で人手不足に陥ったとしても、外部の薬剤師の力を借りれば、サービスを継続できます。また、新しく人材を採用するとなると教育が必要となりますが、すでに経験が豊富な薬剤師と業務委託契約を締結することで、専門的な知識とスキルに長けている人材を確保することが可能です。

一方デメリットとしては知識やスキルが乏しい薬剤師に委託してしまうリスクがあるという点です。薬剤師が起こした調剤過誤でも薬局管理者が行政処分を受ける恐れがあります。

また、薬局と薬剤師の間で認識のズレが生じる可能性があることも考慮しておかなければなりません。特に契約書が曖昧だと報酬や就業条件などを巡ってもめる恐れがあります。偽装請負と指摘されると社会保険未加入の遡及負担が発生しますので、この点に関しても注意が必要です。契約書で職務権限と損害賠償上限を明示し、実務マニュアルは助言ベースに留めることでリスク緩和につながります。

薬剤師のメリット・デメリット

薬剤師が業務委託契約で働くメリットとしては勤務地・時間を自由に選べる点が挙げられます。仕事を抑えてプライベートを充実させることもできれば、複数店舗で働き高収入を得ることも可能です。近年ではフリーランス新法が成立し、報酬遅延時の保護が拡大され、報酬の未払いリスクも軽減されています。また、個人事業主として裁量を持って薬局の運営に関わることができる点も大きな魅力。独立して薬局開業前に経営ノウハウを習得するためにフリーランスの薬剤師として経験を積まれる方もいるようです。

デメリットとしては社会保険・有給休暇がなく収入変動が大きい点が挙げられます。特に契約解除通知期間が短いと収入断絶リスクが高まります。薬剤師に限らず、どうしてもフリーランスという立場は正社員と比較すると不安定になりがちです。また、調剤過誤を起こした場合、薬局から賠償責任を問われる恐れがあり、自己保険でカバーする必要があります。

上記のようなリスクを軽減するためにも、報酬遅延利息や業務保険加入について契約に盛り込まれているかどうかを確認し、リスクと報酬のバランスを考慮しながら契約するかどうか検討することが大切です。

薬剤師と業務委託契約書を締結する流れ

薬局と薬剤師が業務委託契約を締結して業務を開始するまでには、大きく以下のような流れになります。

  • 業務要件定義:処方箋枚数・在宅件数・薬歴システムなどを提示します
  • 見積・面談:薬剤師が報酬希望額や勤務可能時間などの条件を提示し双方ですり合わせを行います
  • ドラフト作成:薬局がひな形をもとに起案し、職務範囲・報酬・個人情報保護を条文化します
  • レビュー協議:薬剤師が自由裁量・保険加入・責任上限などを確認・交渉し偽装請負を回避します
  • 正式締結:双方が署名もしくは電子署名し、必要額の印紙を貼付(紙面の場合)
  • オリエンテーション:店舗のルール、業務の流れ、薬歴システム操作、緊急連絡網などを共有し業務開始

薬剤師との業務委託契約書のひな形・テンプレート

薬剤師と業務委託契約書をスムーズに作成するためには、ひな形(テンプレート)を利用するのが効果的です。契約書を1から作る必要がなくなり、契約手続きをスムーズに進められるでしょう。

ひな形は、そのまま使用するのではなく、内容を確認して案件ごとにカスタマイズしましょう。内容を簡単に変更できる、ワード形式のひな形を選ぶのがおすすめです。

マネーフォワード クラウドでは、契約書のひな形・テンプレートを無料でダウンロードできます。適宜加筆修正して活用してください。

薬剤師との業務委託契約書に記載すべき内容

ここからはひな形をもとに、薬剤師業務委託契約書に盛り込むべき内容について見ていきましょう。

基本情報

薬局の運営会社名や屋号と薬剤師の氏名を記載し、両者が業務委託契約を締結する旨を記します。例えば薬局側を「甲」、薬剤師側を「乙」というように置き換えると、契約書の内容がわかりやすくなります。

勤務店舗と業務内容

勤務店舗を指定し、どのような業務を薬剤師に委託するのかを記載します。「調剤薬局運営全般に関わる業務」と記載すれば問題ありませんが、調剤、監査、服薬指導、在宅訪問、薬歴記載、医師連絡票の作成というように具体的に記載するのが好ましいです。また、別紙で具体的な業務内容を明示する形でも構いません。

契約期間

「令和〇年○月〇日から令和〇年〇月〇日まで」というように、契約期間を明示します。また、契約更新の手続き(自動更新の場合はその期間)についても記載しましょう。

報酬・支払い

料金は時間単価・日額・月額のいずれかを明示しましょう。在宅訪問1件当たり加算など成果報酬も併用可です。さらに、請求書の発行や支払いの締め日、支払い日、支払い方法、振込手数料の負担者についても明らかにしておきましょう。「前項の委託料の金額は、契約期間中に減額することはできない」と記載すれば、薬剤師が安心して働くことができます。

守秘義務・個人情報

患者情報・処方内容・売上データなどの機密情報を第三者へ漏えいしない旨を記載し、さらにこれらの条項を契約終了後も存続させることを明記します。

再委託禁止

薬剤師資格者本人が業務を行うことを義務付け、代理人調剤を禁止する旨を記載します。

責任・賠償

相手側の過失によって損害を被った際に、相手方に損害賠償請求をできる旨を記載します。

ハラスメント相談窓口

薬剤師がハラスメントを受けた際に相談できる窓口(部署名、担当者名、連絡先)を記載します。

合意管轄

合意管轄(薬局所在地を管轄する地方裁判所)を記載し、紛争時の手続きを明確にします。

署名押印欄

契約書末尾に契約成立年月日と両当事者の住所、薬局を運営する会社名、代表者名、薬剤師の住所、氏名を記載する欄と押印欄を設けます。

薬剤師との業務委託契約の際に確認したいこと

薬剤師業務委託契約書を作成および契約を締結する際には以下のようなことを双方が確認しましょう。

業務内容の範囲

薬剤師の業務は非常に幅広いといえます。「薬局運営業務」と記載すればさまざまな業務を任せることができる一方、業務範囲を巡ってもめる可能性もあります。調剤、監査、薬歴記載、在宅同行、OTC販売支援など具体的に列挙することで、トラブルが発生するリスクを軽減することが可能です。また、追加業務を依頼したい場合は、薬剤師側が都度見積もって、「業務追加合意書」で合意を形成するという方法もあります。

報酬や支払い

報酬の額や計算方法についてもしっかりと話し合い、明らかにしておきましょう。月額固定、日額、時間単価、さらには固定+在宅加算など、さまざまな方法があります。また、交通費や経費負担についても明確にしておきましょう。

偽装請負ではないか

前述の通り、個人事業主は会社の指揮命令下には入らず、独立した存在です。昨今、業務委託契約を締結しているのにもかかわらず、自社の管理下に置いて実質従業員のような働き方をさせる偽装請負が問題となっています。

業務委託薬剤師に対してシフトや服装の指示、勤怠打刻の義務付けを行うと、労務契約と判断される恐れがあります。契約書に「作業方法・勤務時間は乙の裁量で決定」と記載し自由裁量を確保しておくとよいでしょう。

損害賠償責任

薬局側は調剤過誤や業務上のミスによって、薬剤師側は報酬の支払いや契約解除などによって損害を被るリスクがあります。自分の行為によって相手に損害を与えた場合の賠償責任についても明記しましょう。特に薬剤師側は個人で損害を賠償するのは大きな負担がかかりますので、損害保険などの加入も検討されることをおすすめします。

収入印紙・印紙税

業務請負契約書に該当する場合は「第2号文書」と見なされ、報酬金額によって印紙税がかかります。紙の契約書の場合、その金額分の収入印紙を購入して契約書に貼付することで、印紙税を納付したことになります。

参考:印紙税額|国税庁

薬剤師の業務委託契約書の保管年数や保管方法

会社法上では「事業に関する重要な資料」の保管期間は10年と定められています。業務委託契約書もこれに該当すると考えられるため、10年間は保管しましょう。紙の場合は耐火庫に、PDFファイルの場合は改ざん防止措置を施したうえでハードディスクなどの記憶媒体やクラウドに保存し、アクセス権を限定しましょう。

参考:会社法|e-GOV法令検索

薬剤師業務委託契約書の電子化はできる?

電子署名法の要件を満たせば、薬剤師業務委託契約書はペーパーレス化が可能です。タイムスタンプで改ざん防止し、二要素認証とIP制限でセキュリティを強化しましょう。電子契約を導入すれば、印紙税を節約することができ、契約業務もスピーディーに進められます。これを機会に検討してみるのもおすすめです。

双方が安心して働ける環境づくりのために、薬剤師業務委託契約書で合意を形成しよう

この記事では薬剤師業務委託契約書の書き方、条項レビューのポイント、偽装請負回避策、印紙税や保管方法まで解説しました。薬局が外部の薬剤師に仕事を任せ、薬剤師本人が安心して働けるようにするためには、まず双方がしっかりと話し合って、契約書を用いて認識をすり合わせ、合意を形成しましょう。


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