- 作成日 : 2023年5月26日
協定対象派遣労働者とは?派遣先に求められる対応も解説
2020年4月より施行された改正労働者派遣法では、協定対象派遣労働者という用語が出てきます。具体的にどのような労働者を意味しているのでしょうか。
この記事では、協定対象派遣労働者の概要とともに、労使協定方式と派遣先均等・均衡方式の違い、派遣先事業者に求められる対応について解説していきます。
目次
協定対象派遣労働者とは?
協定対象派遣労働者とは、派遣元と労使協定を結び、労使協定によって賃金などの待遇が決定される派遣労働者のことを意味しています。
改正労働者派遣法は、「同一労働同一賃金」を実現し、派遣労働者の公正な待遇を確保するために施行されました。
この法律では、派遣元は派遣労働者の賃金などの待遇について、労使協定で決定するか(「労使協定決定方式」)、通常の労働者との間で均等・均衡待遇をとるか(「派遣先均等・均衡方式」)のいずれかを選択することを義務付けています(法30条の4第1項、30条の3第1項、同条2項)。
協定対象派遣労働者については、上記2つの方式のうち、労使協定方式における派遣労働者が対象となります。
改正労働者派遣法についての詳細は、こちらの記事をご覧ください。
労使協定方式と派遣先均等・均衡方式
労使協定方式と派遣先均等・均衡方式には、どのような違いがあるのでしょうか。それぞれの概要とともに違いを確認しておきます。
労使協定方式とは?
労使協定方式は、労働者の過半数が属する労働組合と派遣元事業主の間で待遇に関する労使協定を締結して同一労働同一賃金に対応する方式です。
労使協定では、「同種の業務に従事する一般労働者の賃金水準」以上の賃金にすることを定めることになります。比較対象となる一般労働者の賃金額は国が通知することとされています。
具体的な賃金は、基本給、手当等、総額時給換算となります。
労使協定方式では、比較対象が派遣先企業の正社員の賃金ではないため、派遣労働者の派遣先企業が変わっても賃金が下がることはありません。
派遣先均等・均衡方式とは?
派遣先均等・均衡方式は、派遣労働者と派遣先の正社員の待遇と均等・均衡を図ることで、同一労働同一賃金に対応する方式です。
派遣先の正社員との間に不合理な格差が生じないよう基本給、手当等を個別に検討することになります。
なお、後述するように比較対象労働者の選定や待遇に関する情報提供などについて、派遣先の負担が少ないため、派遣先としては労使協定方式を選択する傾向があります。
労使協定方式と派遣先均等・均衡方式の違いを整理すると、以下のようになります。
労使協定方式 | 派遣先均等・均衡方式 | |
---|---|---|
比較対象となる賃金 | 国が通知する一般労働者の賃金(基本給、手当等、総額時給換算) | 派遣先に雇用される正社員の賃金(基本給、手当等を個別に検討) |
提供すべき派遣先の情報 | 教育訓練と給食施設などの福利厚生のみ | 比較対象労働者の職務の内容、職務の内容、配置の変更の範囲など多岐にわたる |
派遣先事業者に求められる対応
派遣先は、派遣労働者の公正な待遇を確保するため、一定の対応をすることが求められます。ここでは、特に労使協定方式における注意事項を取り上げます。
派遣先からの待遇等に関する情報の提供
労使協定方式、派遣先均等・均衡方式のいずれの場合にも、派遣先は労働者派遣契約を締結するに当たり、あらかじめ派遣元に対し派遣労働者と同じ業務に従事し、責任範囲も同等とされる派遣先の正社員の待遇に関する情報を提供する義務があります。
情報提供は、派遣先均等・均衡方式の場合は、比較対象労働者の職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲、雇用形態のほか、広範に及びますが、労使協定方式では、教育訓練と福利厚生に関する次の2つだけとされています。
- 派遣労働者と同種の業務に従事する派遣先の労働者に対して、業務の遂行に必要な能力を付与するために実施する教育訓練
- 給食施設、休憩室、更衣室(法第40条第3項の福利厚生施設
派遣元は、これらの情報提供が派遣先からない場合は、労働者派遣契約を締結してはならないとされているため注意が必要です。
協定対象派遣労働者について知っておこう!
協定対象派遣労働者の概要とともに、労使協定方式と派遣先均等・均衡方式の違い、派遣先事業者に求められる対応について解説してきました。
派遣先の負担などが少ないことから、労使協定方式を選択する派遣会社が多い傾向にあります。
公正な待遇の確保のために派遣先としては必要な対応があり、派遣労働者を受け入れる際には協定対象派遣労働者について、しっかり理解しておくことが大切です。
よくある質問
協定対象派遣労働者とは何ですか?
派遣元と労使協定を結び、労使協定によって賃金などの待遇が決定される派遣労働者のことです。詳しくはこちらをご覧ください。
派遣先事業者はどのようなポイントに気をつけるべきですか?
労働者派遣契約を締結するに当たり、あらかじめ派遣元に対し、教育訓練と福利厚生に関する情報提供をする必要があります。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
契約の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
未成年の定義とは?2022年4月からの民法改正についても解説!
2022年4月、「未成年」の年齢が引き下げられました。この法改正は、成年に達するかどうかの境目にいる若い方のみならず、企業関係者など多くの方に関係するものです。 そのため、「未成年」の定義などを整理して、理解しておきましょう。また、「未成年…
詳しくみる抱き合わせ販売とは?独占禁止法と事例を解説
事業を行う上で、複数の商品を組み合わせる「セット販売」は一般的な販売戦略ですが、その一形態である「抱き合わせ販売」が独占禁止法に抵触し、排除措置命令や課徴金といった経営リスクを招く可能性があります。 この記事では、抱き合わせ販売の定義、独占…
詳しくみる契約書におけるバスケット条項とは?事例やメリット・デメリットを解説
契約書で見かける「その他これに付随する一切の業務」のような曖昧に見える表現、これらが「バスケット条項」です。包括的に契約をカバーする便利な一面と、解釈次第でトラブルの原因にもなり得るこの条項について、この記事では基本的な意味、使われ方、注意…
詳しくみる権利の主体とは?権利能力の範囲や事業者が知っておきたい点を解説
権利の主体とは、法的に権利能力を有する者のことです。権利能力があるのは人(自然人)と法人であり、契約の当事者となって権利を取得することや、義務を負うことができます。 本記事では権利の主体について概要を説明するとともに、権利能力がある者と認め…
詳しくみる特許情報とは?調べるべきタイミングや検索方法などをわかりやすく解説
特許情報とは、過去に出願された特許について記載された資料や情報のことです。特許権の侵害を回避するためには、適切なタイミングと方法で特許情報を調べる必要があります。今回は、特許情報を調べるべきタイミングや検索方法、読み方などを解説します。 特…
詳しくみる契約不適合責任とは?瑕疵担保責任との違いや期間、免責条件などをわかりやすく解説
2020年4月施行の民法改正により、従来「瑕疵担保責任」と呼ばれていたものが大きく変わりました。条文上は、「引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものである時」という表現に変わり、民法上の位置づけも大きく変更さ…
詳しくみる