• 作成日 : 2025年7月18日

コンプライアンス部とは?法務部との違いやメリットを解説

近年、企業経営においてコンプライアンス(法令遵守)の重要性がますます高まっています。不祥事がひとたび発生すれば、企業の社会的信用は失墜し、事業継続さえも危ぶまれる事態になりかねません。このような背景から、多くの企業でコンプライアンス部の設置が進められていますが、「法務部と何が違うの?」「なぜ設置する必要があるの?」といった疑問をお持ちの方もいるのではないでしょうか。

この記事では、コンプライアンス部の役割や法務部との違い、そして企業がコンプライアンス部を設置するメリットについて、わかりやすく解説します。

コンプライアンス部とは?

企業が社会的責任を果たし、持続的成長を遂げる上でコンプライアンス部の役割は重要です。コンプライアンスの定義と、コンプライアンス部が企業内で果たす役割・業務内容を解説します。

コンプライアンスの定義

「コンプライアンス」の定義は法令遵守とされていますが、その意味合いは2つあります。狭義のコンプライアンスは「法令遵守」を指し、法律、政令、条例などが含まれます。しかし現代企業に求められるのはこれに留まりません。広義のコンプライアンスは、法令遵守に加え、企業倫理、社会規範、社内規程、社会的責任(CSR)など広範な規範の遵守を意味します。法律に触れずとも、倫理的に問題のある行為はコンプライアンス違反と見なされる可能性があります。

この広義化の背景には、企業に求める役割の変化があります。企業は経済的利益追求だけでなく、社会全体の持続可能性や公正性への貢献が期待されています。ステークホルダーからの期待に応える重要性が増しており、企業は「何が合法か」に加え「何が社会的に許容され、期待されているか」を自問し続ける必要があります。

コンプライアンス部の主な役割

コンプライアンス部の基本役割は、企業活動が法令のみならず社会規範や企業倫理に則って行われる状態を確保し、組織全体で倫理的に事業運営されるよう導くことです。主な業務は以下の通りです。

  1. 法令遵守体制の構築・推進:全体的な体制設計、基本方針策定、推進計画(コンプライアンス・プログラム)の作成・実行を行います。多くは経営トップ直属で専門的に管理・運用します。
  2. 社内規程・マニュアルの整備と運用:行動規範や業務ルールを定めた社内規程・マニュアルを作成・整備し、最新法令や社会情勢を踏まえ定期的に見直します。
  3. 従業員への教育・研修の実施:全従業員に対し、コンプライアンスの重要性や関連法令、違反リスク等を理解させる教育・研修を定期的・継続的に実施します。過去事例やケーススタディを用いると効果的です。ハラスメント研修強化のニーズも高いです。
  4. 内部通報制度(ヘルプライン)の構築・運用:従業員が安心して相談・通報できる窓口を設置・運用します。早期発見・未然防止、不正抑止が期待されます。通報者の匿名性確保と不利益扱いの防止が重要です。外部委託も有効ですが、認知度や信頼性向上が課題です。
  5. コンプライアンス違反発生時の対応と再発防止策の策定:違反発生時は迅速・公正な調査で原因を究明し、是正措置と再発防止策を策定・実行します。
  6. リスクアセスメントとモニタリング:潜在リスクを定期的に洗い出し評価し、優先対応リスク特定と予防策を構築します。体制機能や規程遵守状況を継続的に監視します。

法務部との違い

企業統治で重要なコンプライアンス部と法務部は、専門領域とミッションに明確な違いがあります。法務部の役割を整理し、コンプライアンス部との役割分担、効果的な連携策を考察します。

法務部の主な役割

法務部は「法」の専門家集団として、法的トラブル対応やリスク回避の「守りの法務」に加え、成長戦略に関与する「攻めの法務(戦略法務)」へと領域を拡大しています。

主な業務は、契約関連業務(契約書の作成・審査・交渉)、紛争・訴訟対応、社内各部門からの法律相談対応や新規事業等での法的アドバイス提供、社内規程整備の法的妥当性チェックなどです。

コンプライアンス部と法務部の役割分担のポイント

コンプライアンス部と法務部は共通目標を持ちつつも、専門領域と重視する規範が異なります。法務が「盾」、コンプライアンスが「羅針盤」と表現されることもあり、どちらも重要な役割を持ちます。

法務部は「法律」関連事項に対応し、法的トラブル予防・解決、契約リスク管理が主なミッションです。法的観点からのリスクマネジメントが中心です。

一方、コンプライアンス部は法令遵守を基本としつつ、企業倫理、社会規範、社内規程、社会通念など広範な規範を重視します。ミッションは、これらの規範を浸透させ、倫理的で公正な事業運営を実現する社内体制の構築・運用です。法的問題だけでなく「何が倫理的に許容されるか」という価値判断的視点が特徴です。

法務部とコンプライアンス部の役割比較

比較項目法務部コンプライアンス部
主たる対象法律(民法、会社法、労働法、各種業法など)法令、企業倫理、社会規範、社内規程、社会通念、ステークホルダーの期待など広範な規範
重視する規範法的整合性、法的権利義務倫理的妥当性、社会的受容性、公正性
主な業務内容契約審査・作成、訴訟対応、法的アドバイス、M&A法務、知的財産管理、社内規程の法的チェックコンプライアンス体制構築・推進、社内規程・行動規範策定、従業員教育・研修、内部通報制度運用、リスク評価・モニタリング、違反時対応・再発防止
役割のイメージ企業を法的リスクから守る「盾」企業活動の倫理的な方向性を示す「羅針盤」

両部門の連携が不可欠な理由

企業法務とコンプライアンスは、専門領域が異なりつつも、企業の健全な成長と持続可能性確保という共通目標に向け密接に連携・協働することが不可欠です。専門性を組み合わせることで、より多角的で実効性の高いリスク管理体制を構築し、企業価値向上に貢献できます。

連携が不可欠な理由は、法的リスクとコンプライアンスリスクが相互に関連し影響し合っている点です。具体的な連携事例として、新規法令施行・法改正への対応では、法務部が法的影響を分析し、コンプライアンス部が従業員への周知、社内ルール整備、教育プログラムを実施します。

コンプライアンス部設置のメリット

企業の持続的成長と社会的信頼獲得には強固なコンプライアンス体制が不可欠です。コンプライアンス部の設置は企業価値を高める戦略的投資です。設置メリット、違反の影響、社会的要請を解説します。

コンプライアンス体制のメリット

コンプライアンス体制整備と専門部署設置・機能は、企業価値向上に貢献する多大なメリットをもたらします。具体的には、企業信用の向上とブランドイメージ強化、法的リスク及びレピュテーションリスクの低減、従業員のコンプライアンス意識向上と健全な企業風土醸成、生産性の向上と採用力の強化、顧客ロイヤルティの向上などが期待できます。これらは長期的に見れば「戦略的投資」です。

コンプライアンス違反が企業に与える影響

コンプライアンス違反は、企業の存続を危うくする深刻な影響を及ぼします。金銭的損失に留まらず、信用やブランドイメージを瞬時に毀損します。主な影響として、企業の社会的信用失墜と顧客離れ、高額な損害賠償請求リスク、刑事訴追や行政処分、経営体制の変化、人材確保の困難化、最悪の場合倒産に至るケースもあります。

社会的要請とステークホルダーからの期待

現代企業は経済的利益追求だけでなく、社会の一員としての責任遂行が強く求められています。法令遵守は最低限の義務であり、今日の社会が期待するのは企業倫理や社会規範の遵守、公正な取引、人権尊重、環境配慮、地域貢献といったより広範で高次な行動です。SNS等の発展は企業活動への監視を一層厳しく多角的にしています。

法務部との一体型と分離型の選び方

企業のコンプライアンス・法務機能の配置は実効性と効率性に大きく影響します。「一体型」と「分離型」には各々メリット・デメリットがあります。ここではこれらを比較し、最適な体制選択の判断基準と、いずれの体制でも不可欠な連携のあり方を考察します。

一体型組織のメリット・デメリット

コンプライアンス部と法務部を統合する「一体型」組織の主なメリットは、業務担当部署の明確化と情報の集約・共有の円滑化です。一方、デメリットとしては、専門特化の困難性、監視機能の阻害リスク、専門人材の採用・育成の難しさが挙げられます。

分離型組織のメリット・デメリット

コンプライアンス部と法務部を独立させる「分離型」組織の主なメリットは、専門性の深化、客観性と監視機能の強化、専門人材の採用・育成の容易さです。デメリットとしては、情報共有の遅延・偏在リスク、業務の重複や責任範囲の不明確化、連携不足による全体最適の阻害が考えられます。

企業規模や業種に応じた判断基準

組織体制選択は、企業規模、業種、事業特性、リスク性質などを総合的に勘案すべきです。多くの場合、法務部がコンプライアンス業務を担い、特に中小企業ではリソースが限られ現実的です。大企業では両部門を独立させる動きがあります。金融業界、製造業、IT業界など業種特有の規制やリスクも重要です。

どちらの体制でも重要な情報共有と連携のポイント

組織体制に関わらず、両機能間の効果的な情報共有と緊密な連携は、コンプライアンス実効性向上に極めて重要です。分離型では情報サイロ化リスクがあり、積極的・制度的な情報共有の仕組み(定例会議、情報共有プラットフォーム活用など)が必要です。最終的には、組織文化として「オープンなコミュニケーション」と「部門横断的な協力」を奨励・育成することが本質的に重要です。

コンプライアンス体制のポイント

コンプライアンス体制は規程や専門部署設置だけでは真価を発揮しません。実効性を高め企業文化として根付かせるには、経営トップの強い意志とリーダーシップのもと、組織全体で継続的に取り組むべき具体的施策が存在します。

経営トップのコミットメントとリーダーシップ

実効性あるコンプライアンス体制構築・運用において、経営トップの揺るぎないコミットメントと強力なリーダーシップは決定的影響力を持ちます。体制構築はトップ主導で始まり、明確な方針と重要性の一貫した発信で初めて組織全体が同じ方向を向き、意識が浸透します。経営陣はコンプライアンスを「投資」と認識すべきです。

コンプライアンス推進体制の整備ステップ

実効性あるコンプライアンス体制構築と企業文化定着には、計画的・継続的取り組みが不可欠です。

  1. 基本方針・行動規範の策定と全社的周知徹底:自社の価値観を明確にした「コンプライアンス基本方針」と具体的な「行動規範」を整備し、全役職員に周知徹底します。
  2. リスク評価とそれに基づく具体的な計画策定:自社のコンプライアンスリスクを網羅的に洗い出し評価(リスクアセスメント)し、優先対応リスク特定と低減・防止策を盛り込んだ推進計画を策定・実行します。
  3. 継続的かつ効果的な教育・研修プログラムの実施:全従業員対象の基礎研修に加え、階層別研修や専門分野研修を定期的に実施します。
  4. 実効性のある内部通報制度(ヘルプライン)の設計と運用:従業員が安心して相談・通報できる窓口を設置・運用します。通報者保護の徹底が不可欠です。
  5. モニタリング、監査、そしてPDCAサイクルの実践を通じた継続的改善:運用状況や実効性を定期的にチェックし、継続的に改善する仕組み(PDCAサイクル)を導入します。

企業が対応すべき課題

企業を取り巻くコンプライアンス環境は常に新しい課題に直面しています。

  1. DX推進に伴う新たなコンプライアンスリスクへの対応:AI倫理とガバナンス、データガバナンスの確立、IT業界特有の課題(国内外データプライバシー規制対応、サイバーセキュリティ対策など)への対応が求められます。
  2. グローバルコンプライアンスとサプライチェーン・デューデリジェンスの深化:グローバルコンプライアンス体制の構築、サプライチェーンにおけるESG課題への対応、人権デューデリジェンス(HREDD)の法制化と企業対応が重要です。
  3. 各業界特有のコンプライアンス課題への専門的対応:金融業界、製造業、IT業界など、各業界特有の課題への専門的対応が必要です。

コンプライアンス部は清廉な事業運営を守る存在です

この記事では、コンプライアンス部の定義、役割、法務部との違い、設置の必要性、実効性ある体制構築・運用のポイントを解説しました。

コンプライアンス体制構築・維持にはコストが伴いますが、単なる「支出」や「負担」と捉えるのは近視眼的です。むしろ、企業の持続的成長と社会的信頼を築くための重要な「未来への投資」と認識すべきです。コンプライアンス徹底は、法令違反や不祥事による直接的損失回避だけでなく、社会的責任を果たす企業としての評価を高め、あらゆるステークホルダーからの信頼を獲得し、強固なブランドイメージ構築に繋がります。


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