- 作成日 : 2025年7月9日
電子契約を変更契約するには?書面と電子の変更方法について解説
ビジネスにおいて、一度締結した契約について、後から内容を変更したいという状況は決して少なくありません。特に近年、多くの企業で導入が進んでいる電子契約においても、こうした変更の必要性は当然発生します。
「電子契約の場合、どのように変更すれば良いのだろう?」「書面契約と何か違いはあるのか?」と疑問に思われる方もいらっしゃるでしょう。この記事では、電子契約における変更契約の締結方法について、書面契約の場合と比較しながら、その具体的な手続きや法的な考え方を分かりやすく解説します。
目次
変更契約とは?
変更契約とは、既に有効な契約(原契約)の内容を、当事者間の新たな合意で変更する契約です。契約金額の増減や納期の変更など、当初の契約内容に変更が生じた際に用います。
民法上、契約は当事者の意思表示の合致で成立し、変更も当事者全員の合意があれば可能です。契約変更の合意に特定の方式は法律上定められておらず、口頭や電子メール、書面でも有効に成立します。これは電子契約でも同様です。
実務上、変更契約書には主に二つの形式があります。一つは、原契約の効力を維持し変更箇所のみを記載する「覚書」のような形式。もう一つは、原契約を失効させ、変更点を含め契約全体を新たな契約書として作り直す形式です。
変更内容を明確にして将来の紛争を避けるため、書面(変更契約書や覚書)を作成するのが一般的です。文書の名称に左右されず、原契約の内容を変更する合意であるかどうかが重要です。
変更契約が必要となるケース
ビジネス環境の変化やプロジェクトの進捗などにより、当初の契約内容が実態にそぐわなくなることがあります。このような場合に、変更契約が必要となります。
- 商品の価格や数量の変更
- サービスの提供範囲や仕様の変更
- 業務委託契約における納期や成果物の変更
- 契約期間の延長または短縮
- 支払い条件の変更
契約の本質的な内容変更については、書面による変更契約を締結することが望ましいです。口頭合意のみでは、将来紛争が生じた際に条件が不明確になるリスクがあります。
覚書との違い
「変更契約書」の他に「覚書」も用いられます。覚書は、当事者間で合意した事項を確認・記録する文書です。契約変更点が少ない場合や既存契約を補足する場合に、原契約の効力を維持し変更点のみを記載した覚書を交わすことがよくあります。
法的拘束力は文書の名称ではなく内容で決まります。当事者間の合意が存在し、権利義務が具体的に記載されていれば、覚書でも法的拘束力を持ちます。
使い分けとしては、大幅な変更や強い法的拘束力を示したい場合は「変更契約書」、軽微な修正や補足、確認事項の記録には「覚書」を用いることが多いですが、これは実務上の傾向です。覚書も契約内容の変更や新たな権利義務の設定を伴えば契約書と同様の法的効力を持つため、安易な利用は避けるべきです。
電子契約の変更:書面で行う方法
電子契約で締結した契約内容の変更も、当事者間の合意があれば書面で行えます。
書面による変更契約の手順と注意点
電子契約の内容を書面で変更する場合、まず変更内容を当事者間で合意し、その内容を明確に記載した変更契約書(または覚書)を作成します。この書面には当事者双方の署名または記名押印が必要です。
元の電子契約と書面の変更契約書を、関連性が明確にわかるように保管・管理することが不可欠です。
元の電子契約を特定する方法
書面による変更契約書には、どの電子契約に対する変更かを明確に特定する情報を記載します。
- 原契約の締結日
- 原契約の当事者名
- 原契約の名称または件名
- 原契約の締結方法・識別情報(例:電子契約サービス△△、契約ID:XXXXX)
- 変更する条項
これらの情報を具体的に記述し、誤解を防ぎます。
書面で変更契約するメリット
- 相手方が電子署名に不慣れな場合の対応:相手方が電子契約システム未導入や電子手続きに不慣れな場合、書面なら受け入れやすくスムーズに合意形成が進む可能性があります。
- 物理的な証拠の確保:手元に物理的な「紙の契約書」があることに安心感を覚える当事者もいます。
- システム依存からの解放:特定の電子契約サービスやIT環境に依存せず手続きを進められます。
書面で変更契約するデメリット
- 契約管理の煩雑化:元の契約は電子データ、変更契約は物理的書面となり、契約情報の一元管理ができなくなります。最新内容の把握が難しくなり、必要な契約書を探す手間が増える可能性があります。
- 収入印紙の必要性とコスト増加:書面で変更契約書を作成し、内容が印紙税法上の課税文書に該当すれば収入印紙が必要です。これは電子契約では発生しないコストです。例えば契約金額や目的物の内容、取引数量、契約期間など「重要な事項」の変更は課税対象となる可能性が高いです。
- 迅速性の低下:書面契約は物理的なプロセスを伴い、変更完了までに数日から数週間かかることがあり、電子契約の迅速性が失われます。
書面による変更契約のデメリットと対策
デメリット項目 | 具体的な内容 | 想定されるリスク | 対策のポイント |
---|---|---|---|
契約管理の煩雑化 | 元の電子契約と書面の変更契約が別個に存在し、一元管理が困難。 | 最新版の取り違え、契約内容の参照漏れ、更新漏れ。 | 可能な限り電子での変更に統一。やむを得ない場合は、電子契約システムに書面変更の事実と保管場所を記録するなど、関連付けを徹底。 |
収入印紙の必要性 | 契約内容(特に重要事項)の変更により、課税文書に該当する場合、収入印紙が必要。 | 印紙税コスト発生。誤りによる過怠税リスク。 | 契約内容が課税対象か事前に確認。可能な限り電子での変更を検討。 |
迅速性の低下 | 書面の作成、印刷、押印、郵送、返送といった物理プロセスで時間がかかる。 | ビジネスチャンス逸失、プロジェクト遅延。 | 相手方に電子変更のメリットを説明し協力を求める。社内承認プロセスの迅速化。 |
コスト増加 | 印紙税に加え、印刷費、郵送費、人件費などが発生。 | 予算超過、費用対効果悪化。 | 電子変更によるコスト削減効果を再認識し、原則電子での変更を目指す。 |
電子契約の変更:電子で変更する方法
電子契約の内容変更は、多くの場合、電子契約システムを利用して電子的に行うことが可能です。
電子契約システムを利用した流れ
多くの電子契約サービスでは、既存の電子契約書に対し、変更契約書や覚書を新たに作成し電子署名を付与して締結する機能があります。一般的なフローは以下の通りです。
- 変更内容の合意
- 変更契約書(電子文書)の作成・アップロード
- ワークフローによる社内承認
- 相手方への送信
- 相手方の確認・電子署名
- 署名済み文書のシステム保管
バージョン管理と監査証跡
電子契約システム利用の大きな利点は、厳格なバージョン管理と信頼性の高い監査証跡の確保です。
- バージョン管理:契約内容に変更が加えられるたびに、システムが変更履歴(いつ、誰が、どの部分を修正したか等)を自動記録・管理します。
- 監査証跡(Audit Trail):システムは契約締結プロセス全体に関する詳細な操作ログを時系列で自動記録します。これによりプロセスの透明性と追跡可能性が高まり、不正抑止や内部統制の強化に貢献します。
電子で変更契約するメリット
- 迅速性とコスト削減:契約変更にかかる時間とコストを大幅削減。印刷、製本、押印、郵送等の物理作業が不要。リードタイムが劇的に短縮され、収入印紙も不要です。
- 契約の一元管理と検索性の向上:変更契約書も元の電子契約書と合わせてシステム上で一元管理。高度な検索機能で必要な契約書を迅速に検索・参照できます。
- コンプライアンス強化(監査証跡):詳細な監査証跡を自動生成・保存。契約プロセスの透明性が確保され、不正操作や改ざんを抑止。内部統制の強化や外部監査の対応を効率化します。
- リモートワークへの対応:全てオンラインで完結するため、場所や時間に縛られず業務を進められます。
電子で変更契約するデメリット
- 相手方のシステム対応・同意:相手方が同様のシステム未導入や特定のシステム非対応の場合、スムーズに進まないことがあります。相手方の理解と明確な同意が必要です。
- セキュリティリスクと対策:サイバー攻撃による情報漏洩、データ改ざん、不正アクセス等のリスクがあります。信頼性の高いセキュリティ対策が施されたサービス選定と、利用者側の能動的な対策が不可欠です。
- 導入・運用コスト:初期導入費用や月額利用料金が発生する場合があります。コスト対効果を多角的に評価することが重要です。
- システム障害時の対応:システムやインターネット環境障害時、一時的に手続きが滞る可能性があります。代替手段や復旧プロセスを事前検討すべきです。
- 電子化できない契約の存在:一部の契約類型(事業用定期借地契約の一部等)は法律で書面作成が義務付けられており、電子的変更も認められない場合があります。
変更契約の注意点
変更契約締結時は、原契約との関係性や変更内容の明確性、法的有効性を確保するため、いくつかの重要点に注意が必要です。
原契約との整合性と変更範囲の明確化
変更契約は既存の原契約を前提とするため、原契約との関係性を明確にし、どの部分がどう変更されるかを具体的に特定することが重要です。
変更契約書には、対象となる原契約を特定できる情報(契約締結日、当事者名、契約タイトル、契約番号等)を正確に記載します。「原契約第〇条の字句『△△』を『□□』に改める」のように、変更する条項、変更前後の内容を具体的に示します。
変更されない原契約条項は引き続き効力維持する旨の確認条項を設けるのが一般的です。実務上は、「この契約書に記載のないその他の条項は原契約に従う」といった表現がよく使われています。
全面変更契約(更改)の場合は、原契約の失効と新契約への移行を明確に記載します。変更箇所が多い場合は「新旧対照表」作成が推奨されます。
効力発生日の明記
変更契約がいつから法的効力を生じるか、「効力発生日」を契約書中に明確に定めることが極めて重要です。曖昧な場合、適用時期の認識齟齬から紛争の原因となります。
通常、記載がなければ締結日から効力が発生しますが、当事者合意で特定の日を効力発生日とすることも可能です。過去に遡って効力を発生させる「遡及適用」も合意があれば可能ですが、第三者の権利を害する可能性や税務上の問題も考慮し、慎重な検討が必要です。
変更契約の証拠能力と保管
適切に締結された変更契約書は、元の契約書と同様に法的証拠能力を持ちます。
電子的な変更契約の場合、電子署名法に基づき、適切な電子署名が施されていれば真正に成立したと推定されます。書面の場合は物理的な書面が証拠となり、元の電子契約データと書面の変更契約書を関連性がわかるように保管・管理します。
電子署名が付されていない電子メール等での合意も証拠となり得ますが、本人性や非改ざん性の立証が必要となる可能性があり、証拠力は電子署名付き文書に劣ります。重要な変更は正式な電子署名か書面による変更契約書が推奨されます。
電子データとして授受・保存される変更契約書は、電子帳簿保存法の「電子取引データ」として扱われ、同法の要件に従い保存する義務があります。
電子帳簿保存法への対応
電子契約による変更契約締結や、書面締結した変更契約書のスキャナ保存は、電子帳簿保存法の規制対象です。特に「電子取引」に該当する変更契約データは、2024年1月1日から原則電子データのまま保存が義務化されました。
主な保存要件は「真実性の確保」と「可視性の確保」です。
- 真実性の確保:保存電子データが改ざんされていないことの証明。タイムスタンプ付与、訂正削除履歴が残る(または訂正削除不可)システムの利用、訂正削除防止の事務処理規程策定・運用のいずれか。
- 可視性の確保:保存電子データを速やかに確認・表示できること。PC等の備付、検索機能確保等。
タイムスタンプ要件は緩和され、訂正削除履歴が残るシステム利用や事務処理規程整備・運用で不要となるケースもありますが、これらの代替措置も適切な運用が前提です。
自社にとって最適な方法で変更契約を行おう
この記事では、電子契約の変更契約について、書面と電子それぞれの方法、メリット・デメリット、注意点などを解説しました。
電子契約の変更は、電子的な方法で行うことで、迅速性、コスト削減、一元管理、監査証跡の確保など、多くのメリットが得られます。一方で、相手方のシステム環境への依存やセキュリティリスク、導入・運用コストなどのデメリットも存在します。書面による変更契約は、電子契約に不慣れな相手方への対応や物理的な証拠の確保に有効ですが、契約管理の煩雑化、印紙税の必要性、迅速性の低下などのデメリットがあります。
自社の状況や相手方の環境、契約内容などを総合的に考慮し、最適な変更方法を選択しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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