- 作成日 : 2025年7月9日
業務委託契約書の保管期間は?破棄の基準や電子保存について解説
業務委託契約書を「いつまで保管すべきか」「破棄しても問題ないのか」と悩んでいませんか?契約書の保管には、会社法や税法、民法など複数の法律が関わっており、安易な破棄はトラブルの原因になることもあります。さらに、近年は電子保存のルールも強化され、企業にはより高度な書類管理が求められています。
本記事では、業務委託契約書の保管期間や破棄の判断基準、電子帳簿保存法への対応方法まで、実務で役立つポイントを解説します。
目次
業務委託契約書とは?
業務委託契約書は、企業が業務の一部を外部に委託する際に締結される契約書です。法的な定義はありませんが、業務内容や報酬条件を明確にすることでトラブルを防ぐ重要な書類です。
業務委託契約の定義と契約書の役割
「業務委託契約」は、法律で定義された用語ではありませんが、企業が業務の一部を外部の企業や個人に委託する際の契約の総称として広く使われています。主な目的は、外部の専門性を活用し、業務効率や品質を高めることです。
委託者と受託者は対等な関係で、雇用契約のような指揮命令関係はありません。受託者は業務の進め方を自身の裁量で決められます。
契約自体は口頭でも成立しますが、通常は「業務委託契約書」を作成します。契約書は、業務内容、報酬、納期などを明確にし、後のトラブルを防ぐために重要です。紛争時には重要な証拠となります。法的な定義がないため、契約書で詳細を明確に定めることが、トラブル回避の鍵となります。
請負契約・(準)委任契約の違い
「業務委託契約」は法的な名称ではなく、民法上の「請負契約」または「委任契約(準委任契約)」に分類されます。どちらに該当するかで受託者の義務が異なります。
請負契約(民法632条)
「仕事の完成」を目的とします。受託者は特定の成果物(ソフトウェアなど)を完成させ納品する義務を負い、報酬は仕事の完成に対して支払われます。成果物に欠陥があれば契約不適合責任を負います。
委任契約(民法643条)・準委任契約(民法656条)
「特定の事務処理行為の遂行」を目的とします。業務プロセスを適切に行うことが目的です。委任契約は「法律行為」(弁護士への依頼など)、準委任契約はそれ以外の事務(コンサルティングなど)の委託です。受託者は善良な管理者としての注意義務(善管注意義務)を負い、報酬は業務の遂行自体に支払われます。
契約類型による違いをまとめました。
特徴 | 請負契約 | 準委任契約/ 委任契約 |
---|---|---|
目的 | 仕事の完成 | 事務処理行為の遂行 |
受託者の責任 | 契約不適合責任 | 善管注意義務 |
報酬支払の原則 | 仕事の完成に対して | 業務の遂行に対して |
主な例 | システム開発、記事執筆 | コンサルティング、システム運用 |
業務委託契約書の保管期間の目安
業務委託契約書の保管期間は、複数の法律で規定されており、企業のリスク管理にも関わる重要なポイントです。法律に基づいた最低限の期間と、実務上推奨される保管期間を把握しておきましょう。
法律で定められた保管期間
業務委託契約書の保管期間は複数の法律で定められており、最も長い期間に合わせるのが一般的です。
会社法
株式会社は、「事業に関する重要な資料」として契約書を会計帳簿閉鎖時から10年間保存する義務があります(会社法432条2項)。これは、株主や取締役などの利害関係者への説明責任を果たすために必要とされます。
法人税法
法人の帳簿書類(契約書含む)は、原則として確定申告期限の翌日から7年間保存が必要です。ただし、青色申告法人で欠損金が生じた事業年度の書類は10年間の保存が必要となります(法人税法施行規則)。
民法(消滅時効)
契約上の債権などの消滅時効は、「権利行使を知った時から5年」または「権利行使できる時から10年」です(民法166条)。トラブルが生じた場合の備えとして、最大10年間は保管しておくのが賢明です。
法律上の保管期間をまとめました。
法律 | 対象・条件 | 保管期間 | 起算点 | 根拠条文 |
---|---|---|---|---|
会社法 | 株式会社の事業に関する重要な資料 | 10年間 | 会計帳簿の閉鎖の時 | 会社法432条2項 |
法人税法 | 帳簿書類(原則) | 7年間 | 確定申告書提出期限の翌日 | 法人税法施行規則59条 |
法人税法 | 青色申告法人の欠損金発生事業年度 | 10年間 | 確定申告書提出期限の翌日 | 法人税法施行規則59条, 注記 |
民法(参考) | 債権の消滅時効 | 5年/10年 | 権利行使を知った時/権利行使時 | 民法166条 |
実務上の一般的な保管期間
法律上の期間はあくまで最低限であり、実務ではトラブル予防やリスク管理の観点から、より長く保管することが一般的です。
多くの企業では、契約終了後10年間を標準としています。これは会社法や税法、民法の要件を全て満たす期間であり、期間を一本化することで管理も簡素になります。なお、契約が継続中である場合は、契約終了まで保管し、終了後から10年のカウントを開始するのが適切です。
紙と電子の保管に違いはある?
基本的な保管期間(7年や10年など)は紙でも電子でも同様です。しかし、電子データで保管する場合は「電子帳簿保存法」の適用を受け、次のような要件を満たす必要があります。
- 真実性の確保(改ざん防止措置:タイムスタンプ、訂正履歴管理など)
- 可視性の確保(見読性:すぐに画面上で確認できること、検索性:日付や金額などで検索できること)
2024年1月からの法改正により、電子的に作成・授受された契約書(例:PDFのメール送付、クラウド契約書など)は、電子データのまま保存することが義務付けられました。これらは紙に印刷しての保存は原則不可とされています。
一方、紙で作成・受領した契約書は紙での保存が可能であり、希望すればスキャナ保存(要件あり)も認められています。
保管期間を過ぎた業務委託契約書は破棄していい?
契約書の保管期間を過ぎた後でも、破棄には一定の注意が必要です。法律上は処分できる場合でも、リスクや手続き上のポイントを確認し、安全かつ適切に処理することが求められます。
破棄前に確認すべきポイント
業務委託契約書は、法定期間や社内規定の保管期間が経過していれば破棄が可能ですが、以下の点を事前に確認する必要があります。
保管期間満了の確認
法定で求められる保存期間や社内で定めた保管期間が、契約書の起算日から確実に経過しているかを確認する必要があります。
訴訟・紛争・監査等との関連
進行中または将来的に発生しうる訴訟や紛争、税務調査などと契約書が関連していないか、状況を確認してから処分の判断を行うべきです。
社内規定の確認
企業によっては、法定よりも長い保管期間が社内規定で設定されている場合があります。必ず最新の規定に目を通しておく必要があります。
関連文書との整合性
当該契約書が、他の重要な文書(請求書、成果物、報告書など)と関連していないか確認し、記録全体として整合性が取れているかを確認します。
契約内容の重要性
業務委託契約の内容に、将来的にも参照される可能性のある重要な情報が含まれていないか、慎重に見極める必要があります。
承認手続き
契約書の廃棄には、社内で決められた承認フローが存在することがあります。上司や管理部門の承認を得ることが必要です。
トラブル発生時のリスクと対応策
保管期間が経過したからといって契約書をすぐに破棄してしまうと、後にトラブルが発生した場合、契約内容を客観的に証明することが難しくなります。契約書は、取引の根拠となる一次証拠としての価値が非常に高く、これがないと、双方の合意内容を明確に示すことができず、交渉や訴訟の場で不利になるリスクがあります。
契約書がない場合、補完的に用いることができるのは、メールのやり取り、会議の議事録、発注書や請求書などの二次的な証拠です。しかし、これらは契約内容の一部しか反映していないことが多く、証明力は限定的です。とくに、報酬額や納期、業務範囲といった重要事項が曖昧になりやすいため、裁判などでは説得力に欠けることがあります。
また、取引の開始段階で内容証明郵便を利用していた場合は、その文書が一定の証拠力を持ちます。内容証明郵便は「誰が、いつ、誰に、どのような内容を送ったか」が証明できるため、後日のトラブル時に役立つことがあります。ただし、それでも契約書そのものの法的効力には及ばないのが実情です。
こうした状況では、証拠が不十分であることを見越して、訴訟ではなく和解を選ぶことも選択肢の一つです。時間的・金銭的なコストや レピュテーションリスクを考慮すると、現実的な解決策となる場合があります。契約書を破棄する際は、こうした将来のリスクも踏まえ、十分に慎重な判断が求められます。
安全な破棄方法
契約書を破棄する際は、情報漏洩や不正利用を防ぐために、確実かつ安全な方法を用いることが重要です。
紙の契約書の処理方法
紙の契約書は、シュレッダーによる裁断(クロスカットやマイクロカット)、または専門業者による溶解処理が有効です。溶解処理を依頼する際には、廃棄証明書を発行してもらうと安心です。
電子データの契約書の処理方法
電子データの場合、単なる削除では復元の可能性があるため不十分です。データ削除専用ソフトによる上書き消去、または記録媒体自体の物理破壊が必要です。
いずれの方法でも、いつ、どの契約書をどの方法で破棄したかという記録を残しておくことで、後々の監査や内部統制において有用となります。
電子帳簿保存法と業務委託契約書の電子保管
業務委託契約書を電子データで保存する際は、紙媒体とは異なるルールが適用されます。2024年の改正を踏まえた「電子帳簿保存法」への対応は必須であり、企業の法令遵守と実務運用に大きく関わります。
電子保存の条件と注意点
業務委託契約書を電子的に保存する場合、「電子帳簿保存法」に準拠した保存が求められます。単にPDFファイルとして保管するだけではなく、法律が定める2つの基本要件「真実性の確保」と「可視性の確保」を満たす必要があります。
真実性の確保とは、保存された電子データが改ざん・削除されていないことを客観的に証明できる状態を意味します。このためには、タイムスタンプが付与されたデータを受け取る、または受領後すぐにタイムスタンプを付与するといった措置が必要です。他にも、訂正や削除の履歴が残る、あるいはそもそも修正不可能な仕様のシステムを使用する方法があります。また、データの改ざんを防ぐための社内規程(事務処理規程)を策定し、それに基づいて運用されていることも求められます。
一方、可視性の確保とは、保存されたデータが税務署などの調査時にすぐに確認・閲覧できる状態であることを指します。これには、契約書を画面表示や印刷で明瞭に確認できるように、パソコンやプリンター、ディスプレイといった機器、およびそれらの操作マニュアルを備え付けておくことが求められます。また、保存に使用しているシステムの概要書など、関連する書類を整えておく必要もあります。
さらに、電子保存の際には検索機能の整備も重要です。原則として、「取引年月日」「取引金額」「取引先名」の3つの項目で検索できる体制が求められます。ただし、売上高が5,000万円以下の中小事業者や、税務職員からのデータダウンロードの求めに応じられる場合には、検索要件が緩和されることもあります。とはいえ、この緩和は検索機能のみに適用されるものであり、その他の保存要件については免除されません。
電子取引データ保存の主な要件をまとめました。
要件区分 | 具体的要件 | 対応方法例 |
---|---|---|
真実性の確保 | いずれか1つ:
|
|
可視性の確保(見読性) |
|
|
可視性の確保(検索性) | 原則:
|
|
適切な保管と電子保存でリスク回避を実現しよう
業務委託契約書は、法的・実務的に重要な書類であり、保管期間は会社法・税法・民法を踏まえて原則10年間が推奨されます。破棄の際はリスクや関連文書との整合性を確認し、電子保存時には電子帳簿保存法の要件を満たすことが必要です。法令遵守とトラブル予防の観点から、契約書の適切な管理体制を整えることが、企業の信頼と持続的成長につながるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
契約の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
オンラインショップにおける利用規約とは?必要なケースや作り方を解説
オンラインショップ利用規約とは、オンラインショップにおける売買取引全般について、店舗事業者と利用者に適用される規約です。店舗事業者と利用者が個別に交渉することなく、統一的なルールの下で売買を行うことができるメリットがあります。 本記事では、…
詳しくみる連帯保証人なし・ボーナス併用の金銭消費貸借契約書とは?ひな形をもとに書き方や注意点を解説
金銭消費貸借契約とは、お金を貸し借りする契約です。契約時には、支払い方法や利息、返済期限や保証人の有無など、細かく決める必要があります。契約書の書き方がわからない方は、弁護士が契約前に書類をチェックする「レビュー」を経たテンプレートを活用す…
詳しくみる交通事故の示談書とは?ひな形をもとに書き方や注意点を解説
交通事故の示談書は、事故の解決方法についての合意を証明する書類です。事故の内容や賠償額、その支払方法などが記載され、これが作成されていることによって当事者間のトラブルを未然に防ぐことができます。 当記事では示談書の作成方法について、ひな形を…
詳しくみる債権譲渡通知書とは?作成方法についても解説
債権者は、原則として債権を第三者に譲渡することができます。ただし、債務者がその事実を知らないことで不利益を被るおそれがあるため、法は債権譲渡があったことを譲渡人が債務者に通知することを求めています。 ここでは、債権譲渡の基礎知識や債権譲渡通…
詳しくみる土地賃貸借契約書とは?ひな形をもとに書き方や注意点を解説
土地賃貸借契約書とは、土地を貸すとき・借りるときに作成する契約書です。土地賃貸借契約には、借地借家法が適用される普通借地契約と、借地借家法の適用されない定期借地契約があり、それぞれ注意すべきポイントが異なります。契約の流れと契約書の書き方、…
詳しくみる買戻特約付売買契約書とは?ひな形をもとに書き方や注意点を解説
買戻特約付売買契約書とは、売主が代金と契約費用を買主に返還すれば売買契約を解除できるという特約をつけた売買契約書のことです。不動産の売買契約において作成されることがあります。買戻特約付売買契約書の具体例や書き方のポイントをまとめました。また…
詳しくみる