- 更新日 : 2025年8月14日
下請法におけるキャンセルは合意があれば可能?
下請取引は多くの産業で不可欠ですが、親事業者と下請事業者の間には力関係の不均衡が存在しがちです。この不均衡が悪用され、下請事業者が不利益を被ることを防ぐのが下請代金支払遅延等防止法(以下「下請法」)です。
特に発注後のキャンセルは下請事業者の経営に深刻な影響を与えるため、下請法で厳しく規制されています。この記事では、「下請法におけるキャンセルと合意」に焦点を当て、基本からトラブル回避策までを解説します。
目次
下請法におけるキャンセル
下請法の対象となる取引や当事者、そして発注キャンセルに関連する親事業者の義務と禁止行為について解説します。
下請法とは?
下請法は、親事業者による下請事業者に対する優越的地位の濫用を取り締まり、下請事業者の利益を保護することを目的としています。適用対象となる「下請取引」は、取引内容(製造委託、修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託)と、当事者の資本金規模によって定義されます。
下請法の対象となる取引と資本金区分
| 取引の種類 | 親事業者の資本金 | 下請事業者の資本金 |
|---|---|---|
| 製造委託、修理委託、情報成果物作成委託(プログラム)、役務提供委託(運送等) | 3億円超 | 3億円以下 |
| 1千万円超3億円以下 | 1千万円以下 | |
| 情報成果物作成委託(プログラム除く)、役務提供委託(運送等除く) | 5千万円超 | 5千万円以下 |
| 1千万円超5千万円以下 | 1千万円以下 |
親事業者の主な義務と禁止行為
下請法は親事業者に書面交付義務(3条書面)や支払期日設定義務などを課し、以下の禁止行為を定めています。違反すると公正取引委員会から勧告や指導があり、企業名が公表されることもあります。
親事業者の主な禁止行為
| 禁止行為 | 概要とキャンセル・合意との関連 |
|---|---|
| 受領拒否 | 下請事業者に責任がないのに発注物品の受領を拒む。発注取消も該当し得る。 |
| 下請代金の減額 | 下請事業者に責任がないのに発注後に代金を減額する。合意があっても不当な減額は禁止。 |
| 返品の禁止 | 下請事業者に責任がないのに受領物品を返品する。 |
| 不当な給付内容の変更・やり直し | 下請事業者に責任がないのに費用を負担せず発注取消・変更、やり直しをさせ、不当に利益を害する。 |
これらの行為は実質的な影響で判断されます。
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下請法で発注後のキャンセルは「合意」があれば可能か?
ここでは、発注後のキャンセルが「合意」によって許容されるのか、その条件や限界について解説します。
原則:下請事業者に責任のない一方的なキャンセルは違法
下請事業者に責任がないにもかかわらず、親事業者が一方的に発注を取り消すことは、主に「受領拒否」や「不当な給付内容の変更及び不当なやり直し」として禁止されています。親事業者の顧客からのキャンセルや販売予測の誤りなどは、下請事業者の責任ではありません。
単なる同意では不十分なケース
下請事業者との「合意」があっても、それが下請事業者の真意に基づかない場合や、内容が不当に不利益を強いる場合は、有効性が認められないことがあります。継続的な取引関係を背景に、不利な条件でもやむを得ず同意するケースがあるためです。
合意があっても下請法違反となる場合とは?
合意があっても、その内容が下請法の禁止行為に抵触する場合は違反となります。
- 下請代金の不当な減額:下請事業者に責任がないのに、キャンセルに伴い当初より低い金額で合意しても「下請代金の減額」として禁止されます。
- 費用の不当な負担転嫁:キャンセルで下請事業者に発生した費用(材料費、作業費など)を一方的に負担させる合意も問題です。
下請法は形式的な合意よりも実質的な公正性を重視します。
下請法における「キャンセル」の取り扱い
ここでは、キャンセルが具体的にどの禁止行為に該当するのか、親事業者が負担すべき費用は何かを解説します。
発注取消が「受領拒否」に該当するケース
下請事業者が契約通りに準備し納品しようとしたにもかかわらず、親事業者が正当な理由なく受け取らない場合、発注取消は「受領拒否」となります。納期の一方的な延期も該当し得ます。
発注取消・内容変更が「不当な給付内容の変更・やり直し」に該当するケース
下請事業者に責任がなく、親事業者が変更等で生じる費用を負担せずに発注取消や内容変更を行い、下請事業者の利益を不当に害する場合、「不当な給付内容の変更及び不当なやり直し」に抵触します。下請事業者が既に支出した費用を親事業者が補償しない場合、違反となる可能性が高いです。
「下請事業者の責めに帰すべき理由」とは?
親事業者が正当にキャンセル等を行えるのは「下請事業者の責めに帰すべき理由」がある場合のみです。具体的には、給付内容が発注書面と異なる、給付物に瑕疵がある、納期遅延などです。ただし、発注書面の記載が曖昧だったり、検査基準を事後的に厳しくしたりした場合は、下請事業者の責任とは言えない可能性があります。
親事業者が負担すべき費用
下請事業者に責任がないキャンセル等の場合、親事業者は原則として下請事業者に生じた費用を負担する義務があります。実費補償の範囲は、既発生作業費用、材料・部品費、その他経費、仕掛品の廃棄費用などです。逸失利益については、下請法上明確ではありませんが、民法上は損害賠償の対象となり得ます。下請法の運用では実費補償が重視される傾向にありますが、事案によっては逸失利益も考慮されるべきです。
キャンセル・トラブルを回避する方法
トラブル回避のための具体的な予防策と対応策を提案します。
発注時における書面交付の重要性
トラブル防止の基本は、発注内容を明確にした書面(3条書面)を交付することです。3条書面には、委託内容、下請代金の額、納期などを具体的に記載する必要があります。口頭での発注や曖昧な指示は紛争の原因となります。
契約変更・キャンセル時の協議と合意形成のポイント
やむを得ず契約変更やキャンセルが生じる場合、事前に下請事業者と十分に協議し、双方が納得の上で進めることが不可欠です。変更理由、費用負担、納期調整などを誠実に話し合い、合意内容は書面で残しましょう。
契約書に盛り込むべきキャンセル関連条項
将来の紛争予防のため、契約書にキャンセル関連条項を設けることは有効です。キャンセル可能な条件、通知時期・方法、費用負担の原則、仕様変更手続きなどを定めます。ただし、条項が下請法に違反する場合は無効です。
トラブル発生時の相談窓口と対応
トラブル発生時や下請法違反が疑われる場合は、公正取引委員会や中小企業庁(下請かけこみ寺)に相談しましょう。親事業者も違反の疑いがあれば速やかに調査・是正措置を講じる必要があります。
下請法におけるキャンセルには厳しい取り決めがあります
下請法における発注のキャンセルは、原則として一方的な都合で行うことはできません。たとえ口頭であっても、発注が確定した時点で契約は成立し、親事業者にはその内容に従って取引を履行する義務が生じます。
しかし、親事業者と下請事業者の双方の「合意」があれば、キャンセルは可能です。この「合意」は、単に「キャンセルしてもいいですか?」と尋ね、下請事業者が「はい」と答えるだけでなく、キャンセルに伴う損害の有無やその補償についてもしっかりと話し合い、合意することが重要です。
特に、下請事業者が既に作業に着手している場合や、材料を仕入れている場合などには、その費用や逸失利益を考慮した適切な補償が不可欠となります。安易なキャンセルは下請法違反のリスクを伴うため、キャンセルを行う際は、常に下請事業者の保護という下請法の趣旨を理解し、誠実な対応を心がけましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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