- 更新日 : 2024年11月12日
フリーランス新法でデメリットは生じる?メリットと合わせて解説
フリーランス新法とは、フリーランスに業務を委託する事業者が守らなければならない規制が定められた法律です。フリーランスが安心して働ける環境整備を目指して制定されましたが、発注する事業者にとっては法律への対応に手間や労力が増えるデメリットもあります。
本記事ではフリーランス新法のメリットやデメリット、発注側に求められる対応などを解説します。
目次
フリーランス新法とは?
フリーランス新法とは、フリーランスが不利益を被ることなく働ける環境を整えるために、発注者側が遵守すべき事項を定めた法律です。
正式には「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」であり、フリーランス新法やフリーランス保護法とも呼ばれています。
フリーランスと発注事業者で行われる取引の適正化と、フリーランスの就労環境の保護を目的として、2024年11月1日から施行されます。
フリーランス新法が適用される対象
フリーランス新法の対象となる取引は、フリーランスと業務を発注する事業者とで取り交わされる業務委託です。フリーランスと一般消費者との取引や、フリーランス同士の取引などは対象に含まれません。
フリーランス新法におけるフリーランスとは、自分以外の従業員を雇用していない事業者のことを指します。ただし、従業員の雇用が短時間もしくは一時的なものであれば、その事業者はフリーランスとみなされます。
一方、遵守事項が義務付けられる発注事業者は、フリーランスに業務委託をする事業者です。従業員を雇う個人事業主や法人が該当します。
フリーランス新法が施行される背景
近年さまざまな働き方が認められるようになり、フリーランスとして働くことを選択する方も増加中です。ただし、フリーランスが仕事を受注するなかで、「報酬の未払いや遅延」「発注側からのハラスメント」といったトラブルに巻き込まれるケースも目立ちます。
これは、個人であるフリーランスと、組織である発注事業者は、情報量や交渉力において格差が生じやすい関係性にあることが要因と考えられます。
このような現状を改善するために、フリーランスが安心して働ける環境を整えるための規則として、フリーランス新法が新たに制定されました。
フリーランス新法のメリット
フリーランス新法のメリットは、働きやすさの向上が期待されるフリーランス側だけのものではありません。発注側の事業者も含めた双方にとって以下のようなメリットが得られます。
- 取引の透明性向上とトラブル防止
- 労働環境の改善による生産性向上
順に詳しくみていきましょう。
取引の透明性向上とトラブル防止
フリーランス新法によって、フリーランスと発注事業者における取引の透明性が高まり、トラブルの未然防止につながります。
フリーランス新法では、発注事業者に取引条件の明示が義務付けられています。委託する業務内容や報酬、支払期日などを書面や電子契約書に明記したうえで発注しなければなりません。
これにより、口約束の取引で発生しがちな誤解や一方的な契約破棄などを回避しやすくなります。
労働環境の改善による生産性向上
フリーランス新法の施行により、フリーランスの生産性向上に期待ができます。
発注事業者はフリーランスに対して、出産や育児、介護などと両立して業務が行えるような配慮や、ハラスメント対策措置を取ることが義務付けられています。そのため、フリーランスは経験を積んだ業務を継続しやすくなり、より効率的に成果を出せるようになるでしょう。
発注者側としてもフリーランスの労働環境を整備することで、多様な人材採用や優秀なフリーランスを確保できるメリットを得られます。
フリーランス新法のデメリット
一方、フリーランス新法の施行によるデメリットもいくつか挙げられます。
- 発注する事業者の負担が増大する
- フリーランスへの発注控えが発生する恐れがある
- 違反した場合に企業としてペナルティを負うリスクがある
フリーランス新法では、発注事業者に対してさまざまな遵守事項が定められているため、発注側としては手間やリスクが増えることを理解しておきましょう。
発注する事業者の負担が増大する
フリーランス新法が施行されると、発注側の事業者には規制に対応するための手間や管理コストの負担が増えます。
具体的には、取引条件を明示した書面作成や定められた期日どおりの報酬支払、ハラスメント対策の整備などが挙げられます。
これまでは口頭で業務を発注していた取引でも、今後は必要な項目を盛り込んだ契約書を作成しなければなりません。フリーランス新法によって、発注事業者の負担が増加するのは避けられないでしょう。
フリーランスへの発注控えが発生する恐れがある
フリーランス新法の施行により、発注側としてはフリーランスへの発注を見直す必要があるかもしれません。前章で述べたように、フリーランス新法を遵守した取引を行うには、これまでよりも発注者側にさまざまな負担が課せられるためです。
これまでは、「手軽に安いコストで依頼できるから」といった理由でフリーランスに業務を外注しているケースも多かったかもしれません。しかし、フリーランスへの発注に手間や管理コストが増えるのであれば、一般企業への外注や自社での内製への切り替えなども検討する必要があります。
受注する側のフリーランスとしては、フリーランスの立場が守られる一方、発注を控えられる恐れも出てきます。
違反した場合に企業としてペナルティを負うリスクがある
フリーランス新法に違反してしまうと、法的なペナルティを受けるとともに会社の信用を失うリスクがあります。
フリーランスとの取引において発注者側がフリーランス新法に違反する行為を行った場合、フリーランスは行政機関への申出が可能です。
申出を受けた法所管省庁は、立入調査や指導を行い、勧告や命令に従わない場合は罰金を科されるだけでなく社名の公表にまでいたります。社会的信用を損ねるリスクもあるため、発注事業者としてはフリーランス新法への対応は欠かせないといえるでしょう。
フリーランス新法に伴い発注側に求められる対応
フリーランス新法が施行されるに伴い、発注側の事業者にはさまざまな事項への対応が義務化されています。
発注時における取引条件の明示や、報酬の60日以内の支払いなど、6つの遵守事項とそれぞれにおける具体的な対応をみていきましょう。
書面で取引条件を明示
フリーランス新法が施行されると、業務委託に関わる以下のような項目を書面で明示しなければなりません。
- 委託する業務内容
- 成果物やサービス提供を受領する期日や場所
- 報酬の額や支払期日など
取引条件の明示は、書面のほか電子メールやチャットツール、SNSなどの電磁的方法でも認められます。
また、この項目は従業員を使用しない個人の発注事業者にも義務付けられています。
60日以内の支払期日の設定
フリーランス新法では、成果物の受領日から60日以内に報酬の支払期日を設定し、期日までに支払うことが定められています。
そのため、締め日から支払日までの支払サイトが長い事業者は見直しが必要です。たとえば成果物の受領を月末で締めるのであれば、翌月末までに支払期日を設定しておくと、月初の受領であっても60日を超える支払いになりません。
募集情報を的確に表示すること
発注事業者が広告などを使って委託するフリーランスを募集する際には、最新の情報を的確に表示しなければなりません。
たとえば、誇張した報酬額を表示したり、実際の業務内容とは異なる職種で募集をしたりすると、フリーランス新法への違反行為とみなされます。また、募集が終わった求人は速やかに掲載を削除して、常に最新の情報を提供しなければなりません。
中途解除は30日前までに予告する
6ヶ月以上の業務委託取引を契約解除する場合は、少なくとも30日前までに発注事業者からフリーランスへその旨を予告する必要があります。
契約を中途解除する日、もしくは契約更新により継続していた取引を更新しないのであれば契約満了日を起算日として、30日以上前までに取引の終了を伝えなければなりません。
また、受注者が中途解約理由の開示を求めた場合、発注者はそれに応じる義務が課せられています。
フリーランスの育児介護の両立への配慮
発注事業者は、6ヶ月以上の業務委託を継続しているフリーランスからの申出があれば、妊娠や育児、介護と両立しながら業務ができるよう配慮しなければなりません。
たとえば、「出産のため急に業務ができなくなった場合についての相談があれば、あらかじめ対応を取り決めておく」といった配慮が必要です。
また、業務委託の期間が6ヶ月に満たないフリーランスに対しては、配慮をするよう努力義務が定められています。
ハラスメントへの対応整備
フリーランス新法では、フリーランスに対するハラスメント行為が行われないように、発注者側へハラスメント防止措置を義務付けています。
具体的には、発注事業者の社内でのハラスメント防止啓発や、相談対応の体制整備などが挙げられます。またフリーランスがハラスメントについて相談したことを理由に、契約を解除するなどの不当な取り扱いをしてはなりません。
フリーランス新法で禁止される行為
フリーランス新法では、発注事業者に対して7つの禁止行為が定められています。
これらの禁止行為は、フリーランスとのあいだに合意があったとしても法律違反とみなされます。「知らないうちに違法な行為をしていた」といったことがないように、どのような行為が禁止されているのかをしっかりと把握しておきましょう。
理由なく受領を拒否すること
フリーランスに責められるべき理由や落ち度がないにもかかわらず、発注者が成果物の受領を拒否することは禁止されています。
【問題となり得るケース】
- 事前に定めていた検収基準を恣意的に厳しくして、成果物の受け取りを拒否する
- 発注後に納期を短く変更し、納期に間に合わなかったとして成果物を受領しない
なお、フリーランスに帰責事由がある場合は受領拒否が認められるケースもあります。
理由なく報酬を減額すること
発注者は、正当な理由なく業務委託契約時に定められた報酬を減額してはなりません。減額の方法や金額にかかわらず、業務委託後に報酬を減少させることは違反行為となります。
【問題となり得るケース】
- 成果物の受領後に発注元からキャンセルされたため、契約時の報酬から減額する
- 報酬の支払いに端数が生じたため、端数を1円以上切り捨てて支払った
理由なく返品を行うこと
同様に、フリーランスに責任がないのにもかかわらず、発注者が一度受領した成果物を返品することは禁じられています。ただし、委託内容と異なる成果物が納品された場合は、受領後の速やかな返品が認められています。
【問題となり得るケース】
- 発注元からキャンセルされたため、委託したフリーランスにも成果物を返品する
- 成果物の検査基準が不明確であるにもかかわらず、委託内容と適合しないとして返品する
通常相場より低い報酬を不当に定めること
フリーランス新法では、一般的な相場にくらべて明らかに安い報酬を設定すること、いわゆる買いたたき行為も禁止事項として定められています。
【問題となり得るケース】
- 短期に少量しか委託しない場合でも、継続的に大量発注するとして見積もりをさせた単価で報酬を決定する
- 発注者の予算に合わせて、一般的な相場よりも安い単価で報酬額を決める
正当な理由なく物品の購入を強制すること
正当な理由もなくフリーランスに対して物品やサービスの購入を強制することは禁止行為に当たります。
物品やサービスに含まれるものは、成果物に必要な原材料だけでなく、発注事業者やその関連会社が販売する物品など、購入するように指定したものすべてです。
【問題となり得るケース】
- 発注先の選定において影響力を持つ立場の者が、フリーランスに物品購入を要請する
- フリーランスが「購入しない」と意志表明しているのに、重ねて購入を要請する
フリーランスの経済上利益を不当に要請すること
発注事業者は、フリーランスの経済上の利益を不当に要請してはなりません。経済上の利益とは、金銭のほか対価が支払われない役務などが当てはまります。これらを提供しても、フリーランスの直接の利益とならないケースが対象となります。
【問題となり得るケース】
- 契約内容は情報システムの開発のみであるにもかかわらず、追加の対価を支払わずに保守・点検までも提供させる
給付内容の不当な変更ややり直しを求めること
フリーランスが落ち度のない業務を提供しているにもかかわらず、発注内容を不当に変更したり、やり直しを求めたりすることも違反行為になります。
発注時の契約と変更が生じる場合、変更によってフリーランスに生じた追加作業に対しても報酬を支払わなければなりません。
【問題となり得るケース】
- フリーランスが委託内容を発注者に確認したうえで適合する成果物を提供したが、「委託内容と適合しない」としてやり直しを要請する
フリーランス新法の禁止行為に対応するには
フリーランス新法で定められている禁止行為を受けたフリーランスは、以下の2つの方法で解決を図ることができます。
- 行政機関の窓口に申出
- フリーランス・トラブル110番に相談
違反行為についてフリーランスが申出や相談ができる窓口が用意されているため、それぞれの特徴や対応方法を確認しておきましょう。
行政機関の窓口に申出
フリーランスが業務委託の取引において違反行為を受けた場合、行政機関への申出が可能です。フリーランス新法に関わる行政機関は担当が2つに分かれているため、どのような違反行為を受けたかによって申出窓口が変わります。
- 取引の適正化に関わる違反:公正取引委員会、中小企業庁
- 就業環境の整備に関わる違反:厚生労働省
行政機関への申出は、今後オンラインでの申出手続きも可能になる予定です。
フリーランス・トラブル110番に相談
発注事業者とのトラブルに悩むフリーランスの相談窓口として、「フリーランス・トラブル110番」が設置されています。
フリーランス・トラブル110番は、厚生労働省より受託した第二東京弁護士会が運営し、弁護士への無料相談ができる機関です。電話やメールだけでなく、対面・ビデオ通話での相談も可能です。必要であれば、和解のあっせん手続きや適切な行政機関への紹介などもサポートしてくれます。
違反行為に該当するかがわからないような場合でも相談できるため、フリーランスの気軽な相談先として活用できます。
フリーランス新法に違反するとどうなる?
フリーランスによって違反行為を申出された発注事業者は、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省といった行政機関による報告徴収や立入検査が実施されます。
指導や助言、さらに勧告に従わなかった場合には、命令や社名の公表といった措置が実施されます。命令への違反や検査拒否した場合は、50万円以下の罰金が科される恐れがあります。
社名が公表されると企業の信用失墜にもつながるため、発注事業者にとっては大きなリスクといえるでしょう。
フリーランス新法で発注事業者がやるべき対応を押さえておこう
フリーランス新法とは、業務委託を受注するフリーランスの働く環境を保護するための法律です。発注事業者に対して、フリーランスとの取引において遵守すべき事項が定められています。
フリーランス新法の発注者側にとってのデメリットは、規制に対応するための負担が増大する点です。フリーランスとしては、発注者側の負担増加によって発注控えが起こり得る点が懸念されます。
発注事業者は、フリーランス新法を遵守するための対応や禁止行為を理解し、違反行為が発生しないように対策を取っておきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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