- 更新日 : 2023年8月7日
【2022年9月施行】商業登記規則の改正点を解説
2022年(令和4年)9月1日から、商業登記規則等の一部を改正する省令が施行されました。これにより、従来の商業登記と取り扱いが変更される点がいくつかあります。この記事では、商業登記規則の改正点のポイントと業務への影響を解説します。
目次
改正が進む商業登記規則
会社(株式会社、合名会社、合資会社、合同会社)は、代表者や所在地など基本的な情報を登記することによって法人格を取得します。登記すべき情報は商業登記法によって定められており、会社を設立するとき、役員を変更するとき、本店所在地を変更するとき、組織変更するとき等に法務局で登記が必要となります。
この登記の際の手続的なルールを定めているのが、商業登記規則です。
商業登記規則は2021年に改正が行われ、今回の2022年9月1日施行の省令も合わせると、約2年間で2度改正されています。
商業登記は、社会における会社の信用を維持するために必要な制度であり、商業登記規則の改正への対応は避けては通れない課題です。
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2022年9月に施行された商業登記規則の改正点
まず、2022年9月1日に施行された商業登記規則の改正点を解説します。主に登記の記載事項について改正が行われました。
参考:商業登記規則等が改正され、令和4年9月1日から施行されます│法務省
支店の所在地における登記の廃止
2022年9月1日施行の商業登記規則により、支店及び従たる事務所の所在地における登記が廃止されました。この結果、2022年9月1日以降、支店や従たる事務所における登記を法務局で申請したとしても、商業登記法24条2号に基づき当該申請は却下されてしまいます。
むしろ、支店や従たる事務所の所在地における登記を申請する手間を省けるため、企業にとり都合の良い改正と見ることもできます。
もっとも、従前の登記は残るため、本店の所在地における支店や従たる事務所の設置・移転・廃止等の登記は2022年9月1日以降も必要であることには注意しましょう。
電子提供措置をとる旨の定めが登記事項になる
電子提供措置とは、企業が株主総会の資料となる情報を自社ホームページ等に掲載し、株主総会招集通知に当該ホームページ等のアドレスを記載して通知した場合に、株主の承諾の有無に関わらず株主総会参考書類等を適法に提供したものとする制度です。招集通知にわざわざ自社の業績や業務内容を記載しなくてよくなるので、紙代や郵送料金などのコストを削減できるため、企業にとってはメリットもある制度です。
商業登記規則の改正により、この電子提供措置をとっている企業は、その旨を登記しなければならなくなります。これは、電子提供措置を登記事項とすることで公示し、株主に不測の損害を与えないよう配慮する改正といえます。
そして、登記の前段階として、定款でも定める必要があります。
会社代表者等の住所の非表示措置
従来、会社の代表者(代表取締役等)は、登記に自宅住所が記載されていました。
しかしDV等の被害にあっている会社代表者にとっては、会社の登記簿を見られると自宅住所が判明してしまうため、不利益が大きいものでした。
そこで、2022年9月施行の商業登記規則で、DVやストーカーの被害にあっている、または被害にあう恐れがある会社代表者については、その旨を申出ることで会社の登記において自宅の住所を公開せずともよくなりました。申出の際は、登記情報により住所が明らかとなることで被害を受ける恐れがあることを証する書面が必要です。各自治体が発行するDV等支援措置決定通知書や警察が発行するストーカー規制法に基づく警告書等がこの書面に当たります。
あくまでDVやストーカー被害等を防ぐことが目的の改正であり、適切な申出等が必要になる点は注意しましょう。
併記可能な旧氏の範囲の拡大
従来、会社の登記に併記できる氏は婚姻前の旧氏に限定されていました。
婚姻前の旧氏以外も併記したいというニーズに応え、2022年9月1日から、婚姻前の旧氏に限らず、養子縁組前の旧氏や離婚後婚姻中の旧氏なども併記可能になります。さらに、登記申請時以外の申出も可能となります。
旧氏の併記には、登記申請とは別に申出が必要です。申出の際は、登記に記載すべき旧氏を証する書面を用意しなければなりません。住民票、マイナンバーカード、運転免許証等に既に記載のある旧氏を登記に併記しようとする場合は、これらの写しを添付します。これら以外の旧氏を登記に併記しようとする場合は、併記したい旧氏が記載されている戸籍謄本等から現在の氏の記載がある戸籍に至るまで全ての戸籍(除籍)謄本等が必要です。
戸籍を取得し読み解くのは少々手間がかかります。必要に応じて司法書士等の専門家のサポートを受けるとスムーズに登記できるでしょう。
2021年2月に施行された商業登記規則の改正点
続いて、2021年2月15日に施行された商業登記規則の改正点についても解説します。主にオンライン申請や電子証明書といった、電子媒体を用いた手続面の改正が行われています。
オンライン申請では印鑑の提出が任意に
従来、登記申請をオンラインで行ったとしても、印鑑届出書は書面での提出が必要とされていました。
2021年2月施行の商業登記規則により、印鑑届出書の書面での提出は任意になり(商業登記法第20条が削除されました)、オンラインでの提出も可能になりました。実務上の取り扱いとしては、法務省が用意する印鑑届出様式をサイズ通りに印刷し、一定の解像度以上で読み込み、オンラインにて提出する流れになります。
この改正を受け、商業登記における一部の書類については押印が審査されないことになります。新型コロナウイルス感染拡大を受け、社会全体で「ハンコ不要」の潮流が強くなったことも背景にあります。商業登記においても、ハンコ(押印)が必要な場面を削減することを目的にこの改正が行われました。
郵送費用や法務局に出向く手間がカットできますから、うまく活用すればとても便利な改正といえます。もっとも、書面で登記申請を行う場合は、従来通り印鑑届出書の提出が必要です。
参考:商業登記規則が改正され,オンライン申請がより便利になりました|法務省
オンラインによる商業登記電子証明書の請求
2021年2月施行の商業登記規則により、印鑑の提出・廃止の届出及び商業登記電子証明書をオンラインで請求できるように改正されました。改正前は、商業登記電子証明書などを請求する場合、申請書と申請ファイルを読み込んだCDやUSBメモリ等の記録媒体を法務局へ郵送または持参する取り扱いとなっていました。
2021年2月15日からは、申請情報をオンラインで送信することで商業登記電子証明書を請求できます。
登記に使用できる電子証明書の種類の拡大
改正前は、登記のオンライン申請や印鑑証明書などを請求する場合における本人確認としては、法務局が発行する商業登記電子証明書のみが認められていました。
2021年2月15日の商業登記規則改正後は、マイナンバーカードの公的個人認証サービスの電子証明書や、一定の要件をクリアした民間企業が提供する電子署名サービス(クラウド型の電子署名等)も認められます。
既に取締役会議事録等一部の登記申請書類については、民間企業の提供するサービスを用いて電子署名した後、法務局で取得する会社代表者の電子署名で行うとする取り扱いも認められていました。今回の改正ではマイナンバーカードでの電子署名も可能になったため、利用できる手法が広がったといえます。
今回の改正による業務への影響
2022年9月1日施行の省令も、2021年2月施行の省令も、基本的には会社の利便性向上を図るための改正です。2022年9月の改正では登記の記載事項の幅が広がり、2021年2月の改正では登記のオンライン申請が利用しやすくなりました。
会社の業務への影響という面で見ると、これまでの登記の申請手続にかけていた費用や手間が、オンライン申請を活用することで大幅にカットできるようになりました。
改正により商業登記の利便性が向上
今回は、2022年9月1日施行の商業登記規則の改正に加え、2021年2月15日の改正についてもそのポイントをご紹介しました。いずれの改正も、会社の利便性の向上や会社のニーズに応えることを目的としています。
商業登記規則は、会社にとって避けては通れない登記のルールを定める法令です。しかし、うまく活用すれば会社に大きなメリットをもたらすでしょう。
よくある質問
商業登記規則の改正で何が変わりますか?
登記の記載事項(記載しないことも含む)の選択肢が広がり、オンライン申請がより使いやすくなりました。詳しくはこちらをご覧ください。
商業登記規則の改正で業務に影響はありますか?
オンライン申請を活用することで、登記にかかる紙代や郵便代といったコスト及び登記にかける時間・労力を削減できます。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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