- 作成日 : 2025年8月5日
就業規則のリーガルチェックは必要?コピー禁止は違法?弁護士への相談方法まで解説
就業規則の内容に法的に問題のある条項や、一方的に不利な内容が含まれているケースは少なくありません。もし、違法・不当な就業規則に気づかずにいると、本来貰えるはずだった手当が貰えなかったり、不当な理由で解雇されたり、あなたの権利が知らぬ間に侵害されてしまう可能性があります。
この記事では、労働者の権利を守るために不可欠な就業規則のリーガルチェックについて、具体的なチェックポイントから弁護士への相談方法、費用まで分かりやすく解説します。
目次
就業規則のリーガルチェックで発見されやすい違法な規定例
まず、ご自身の就業規則と見比べながら、下記のような規定がないか確認してみましょう。これらは違法・無効と判断される可能性が高い代表的な例です。
退職に関する制限
- 過度な事前申告義務
「退職の申し出は3ヶ月前までにすること」といった規定。民法では原則として、期間の定めのない雇用契約の場合、2週間前の申し出で退職が可能です(民法第627条)。 - 違約金・損害賠償の予定
「退職によって会社に損害を与えた場合、〇〇万円を支払う」など、退職を理由にあらかじめ違約金や損害賠償額を定める規定。労働基準法第16条で禁止されています。 - 過度な競業避止義務
「退職後5年間は、同業他社への転職を禁ずる」といった、職業選択の自由を不当に制限する規定。会社は就業規則や誓約書で退職後の競業避止義務を定めることができますが、憲法第22条による職業選択の自由との調整が必要で、5年間など長期間の一律禁止は無効とされる可能性が高いです。
給与・残業代に関する規定
労働時間・休日に関する規定
- 休憩時間を与えない・短すぎる
労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩を与えなければならないと労働基準法で定められています。これに満たない規定は違法です。 - 有給休暇の取得を妨げる規定
繁忙期でも年次有給休暇の取得は原則的に拒否できません。ただし、業務に重大な支障がある場合には、法に定められた範囲内(時季変更権)で変更可能です。
就業規則のリーガルチェックを検討すべきタイミング
どのようなタイミングで就業規則を確認し、リーガルチェックを検討すべきなのでしょうか。状況別に解説します。
入社・内定時
理想は就業規則を入社前に確認することです。内定承諾後に労働条件通知書と共に就業規則の開示を求めましょう。求人票や面接で聞いていた話と異なる点はないか、特に給与、労働時間、休日、退職に関する規定は入念にチェックが必要です。もし疑問点や不利な条項があれば、入社前に確認・交渉することで、後のトラブルを回避できます。誠実な対応をしない企業であれば、入社の再検討も必要かもしれません。
在職中に不利益な変更があった場合
「給与体系が変わった」「新たな手当が廃止された」など、在職中に労働条件が不利益に変更される場合、会社は原則として労働者の個別同意を得る必要があります。就業規則の変更によって不利益な扱いを受ける場合は、その変更が法的に妥当な手続きを踏んでいるか、変更内容に合理性があるかをリーガルチェックで確認することが大切です。同意していない不利益変更は無効を主張できる可能性があります。
退職時に就業規則が見れない場合
退職の意思を伝えた途端に、就業規則が見れない状態にされたり、嫌がらせを受けたりするケースがあります。しかし、退職に関する規定は、労働者にとって非常に重要です。このような状況に陥った場合は、前述の通り、記録に残る形で閲覧・コピーを請求し、応じなければ速やかに労働基準監督署や弁護士へ相談しましょう。
就業規則の閲覧は労働者の権利!拒否された時の対処法
就業規則の閲覧は、法律で認められた労働者の正当な権利です。その根拠と、拒否された場合の対処法を正しく理解しておきましょう。
労働基準法で定められた周知義務
労働基準法第106条は、会社(使用者)に対し、就業規則を労働者に周知させる義務を課しています。
(法令等の周知義務)第百六条 使用者は、この法律及びこれに基づく命令の要旨、就業規則、(中略)を、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によって、労働者に周知させなければならない。
周知とは、判例上「労働者が知ろうと思えばいつでも知りうる状態に置くこと」と解釈されています。そのため、社外秘だからといった理由でコピーを禁止する行為は、この周知義務に違反すると判断される可能性が非常に高いです。
会社が閲覧・コピーを拒否した場合の対処法
もし会社に閲覧やコピーを拒否されたら、以下のステップで冷静に対処しましょう。
- 記録に残る形で請求する
口頭での請求だけでなく、メールや書面で「労働基準法第106条の周知義務に基づき、就業規則の閲覧およびコピー(またはデータでの交付)を申請します」と、法的根拠を添えて再度要請します。 - 労働基準監督署へ相談する
それでも会社が応じない場合は、管轄の労働基準監督署へ相談しましょう。労働基準監督署は、会社に対して是正勧告などの行政指導を行う権限を持っています。
就業規則のリーガルチェックを弁護士に依頼する流れ
就業規則に法的な問題があると感じたら、労働問題に詳しい弁護士へ相談することが有効な解決策となります。ここでは、就業規則を弁護士に見せる際の具体的な流れと、事前に準備しておくべきことについて解説します。
まずは就業規則のコピーを入手する
弁護士に相談する大前提として、対象となる就業規則そのものが必要です。会社に請求し、必ず就業規則の閲覧、コピーを行いましょう。もし会社が就業規則のコピーを弁護士に見せることを禁じるようなことを言ってきたとしても、法的な相談のために専門家へ開示することは正当な行為であり、通常は守秘義務違反にはあたりません。臆することなく、まずは証拠となる書面を確保してください。
情報を整理する
相談をスムーズに進めるため、事前に情報を整理しておきましょう。まず、就業規則のどの部分に、どのような疑問や不安を感じているのかを具体的に書き出します。そして、その問題に関連するこれまでの経緯を時系列でまとめておくと、弁護士が状況を正確に把握しやすくなります。給与明細や雇用契約書なども関連資料として準備しておきましょう。
弁護士に相談する
弁護士との相談時間は限られています。事前に整理した情報をもとに、結論を先に、そして理由を簡潔に伝えることを心がけましょう。「どうしたら良いでしょうか」と漠然と問うのではなく、自分がどうしたいのかという希望を伝えることも重要です。
就業規則のリーガルチェックを弁護士へ依頼する費用
弁護士に就業規則のリーガルチェックのみを依頼する場合の費用は、法律事務所やチェックの範囲にもよりますが、一般的には数万円から10万円程度が目安です。単に条文の適法性をチェックするだけでなく、具体的な状況を踏まえたアドバイスや会社との交渉まで依頼する場合は、別途着手金や成功報酬が発生します。初回相談時に、費用の体系について明確な説明を求めましょう。
就業規則の相談が無料でできる窓口
いきなり弁護士に依頼するのはハードルが高い、という方は、まず公的な無料相談窓口を活用しましょう。
- 総合労働相談コーナー
全国の労働局・労働基準監督署内に設置されており、予約不要・無料で労働問題全般に関する相談ができます。専門の相談員が、法制度の説明や過去の判例に基づいた助言をしてくれます。 - 法テラス(日本司法支援センター)
経済的な余裕がない方を対象に、無料の法律相談や弁護士費用の立替え制度を提供しています。利用には収入・資産などの条件があります。
まずは無料相談で、ご自身の状況が法的に問題となりうるのか、どのような解決策があるのかといった基本的な情報を得ましょう。その上で、具体的な交渉や法的手続きが必要だと判断した場合に、弁護士への有料相談を検討するのが効率的です。
就業規則のリーガルチェックに関してよくある質問
最後に、就業規則のリーガルチェックに関してよく寄せられる質問にお答えします。
就業規則のコピーを弁護士に見せるのは、会社の守秘義務違反?
会社から守秘義務に関する誓約書などに署名している場合でも、自身の正当な権利を守るために弁護士へ相談する目的で就業規則のコピーを弁護士に渡す行為は、通常、守秘義務違反にはあたらないと解されています。弁護士には守秘義務があり、相談内容を外部に漏らすことはありません。正当な目的の範囲内での開示であれば、不当なペナルティを課されることはありません。
就業規則を閲覧する際、第三者(弁護士など)の同席は可能?
労働者が就業規則を閲覧する際に、代理人である第三者(弁護士や労働組合の担当者など)の同席を求めること自体は可能です。しかし、会社側が施設の管理権などを理由に同席を拒否する可能性もあります。法律で明確に同席が権利として定められているわけではないため、交渉が必要になるケースが多いのが実情です。まずは労働者本人が閲覧・コピーを試みることが先決です。
就業規則のリーガルチェックは、自分を守るための行動
就業規則は、単なる会社のルールではなく、あなたと会社の間の労働契約の根幹をなすものです。内容に少しでも疑問を感じながら放置することは、将来の大きなトラブルにつながりかねません。
就業規則の閲覧・コピーは法律で認められた労働者の当然の権利です。そして、その内容を法的な視点からチェックすることは、あなたのキャリアと生活を守るための、非常に重要で積極的な行動です。
もし「この条文はおかしいかもしれない」と感じたら、一人で抱え込まず、この記事で紹介した公的な相談窓口や労働問題に強い弁護士といった専門家の力を借りることをためらわないでください。正しい知識を身につけて行動することが、より公正で働きやすい環境を作るための第一歩となります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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