• 作成日 : 2025年7月18日

保守契約書の保管期間は?法律と実務で異なる期間や破棄の判断基準を解説

保守契約書は、製品や設備、システムの安定運用を支える重要な書類です。しかし、契約終了後に「いつまで保管すべきか」「破棄しても問題ないか」と迷うことも少なくありません。

本記事では、会社法法人税法に基づく保管義務や、トラブル防止・損害賠償リスクを考慮した実務的な保管期間の目安、破棄時の注意点を解説します。

保守契約書とは?

保守契約書とは、製品やシステム、設備などを安定的に運用する保守契約において合意内容をまとめた書面のことをいいます。トラブル発生時の対応だけでなく、予防的なメンテナンスまで取り決めることで、継続的な業務の安心を支える役割を担います。保守契約書には、どの範囲まで保守の対象とするのか(保守範囲)、具体的にどのような業務を行うのか(業務内容)、どの時間帯に対応可能か(対応時間)、料金体系、契約期間などが詳細に定められます。これにより、後のトラブルや認識のズレを防ぐことができます。

保守契約の目的と内容

保守契約とは、製品やシステム、各種設備を安全・安定的に使用し続けるためのサポート業務に関する契約です。提供者(ベンダーや保守会社など)と利用者(企業や団体など)の間で締結され、主に定期点検、メンテナンス、トラブル発生時の修理対応などを含みます。

この契約を結ぶことで、利用者は故障時に迅速な対応を受けることができ、業務への影響を最小限に抑えられます。加えて、定期的な点検によりトラブルを未然に防いだり、保守のための機器の性能を長期的に維持したりする効果も期待されます。

よく使われる業界・シーン

保守契約は、専門知識と継続的な対応が求められる業界で多く活用されています。

たとえばIT業界では、システムやサーバー、ネットワーク機器の安定稼働を支えるために、ソフトウェアやハードウェアの保守契約が一般的です。障害時の迅速な復旧やセキュリティパッチの適用など、利用者の業務を止めないための重要な役割を果たします。

建設業界では、建設現場で利用されるICT機器や特殊装置、監視システムなどの保守に契約が活用されます。これらは現場の安全性や作業効率にも直結するため、安定稼働の維持が求められます。

また設備分野では、工場の生産ラインにある機械設備や、ビル管理における空調・給排水・エレベーターなどのメンテナンスにも保守契約が広く導入されています。これらは一度停止すると影響が大きいため、トラブルを未然に防ぐ仕組みが必要とされています。

このように保守契約は、専門性が高く、継続的な管理が必要な領域で、その安定稼働を担保する仕組みとして機能しています。

業務委託契約や請負契約との違い

保守契約は法的には「業務委託契約」の一種とみなされますが、その内容によって「請負契約」と「準委任契約」のいずれか、または両方の要素を持つことがあります。

たとえば、故障した機器の修理や交換といった「成果物の完成」が目的の場合、それは請負契約に該当します。この場合、請負人は契約に適合する成果を提供する義務があり、不適合があれば「契約不適合責任」を負います。

一方、定期点検や監視といった「業務の遂行」が目的の場合は、準委任契約にあたります。こちらは結果そのものではなく、業務遂行にあたって「善良な管理者の注意義務(善管注意義務)」をもって対応することが求められます。

このように、保守契約は単に「保守を行う」というだけではなく、業務内容によって契約類型が異なり、それぞれの契約がもたらす法的責任も変わってきます。契約書を作成する際は、対象業務の性質に応じた条項設計と責任分界点の明確化が重要です。

保守契約書の保管期間が重要な理由

保守契約書は、契約期間中だけでなく、契約終了後も法的・実務的な観点から保管の必要性があります。万が一のトラブルや税務調査に備え、適切な保管期間を知っておくことは、企業にとって重要なリスク管理の一環です。

なぜ保管期間が問題になるのか

契約書は、契約当事者が交わした合意内容を証明する書類であり、重要な法的根拠となります。保守契約中は契約が終了した後も、過去の取引内容を確認したり、万が一のトラブルや紛争が生じた際の証拠として契約書が必要になったりすることがあります。また、会社法や法人税法では、契約書を含む事業関連資料の保管期間が定められており、企業はこれを遵守する義務があります。一方で、年々増える書類の管理負担や保管スペースの確保、検索の手間、保管コストなどの課題もあり、適切な保管・廃棄ルールの整備が求められます。

保守契約終了後にトラブルが起きる例

保守契約が終了すると、通常は定期メンテナンスや故障対応などのサポートが受けられなくなります。例えば、終了直後に設備が故障した場合、迅速な復旧が困難となり、業務停止や多額の修理費用が発生することになり、トラブルになる可能性に注意が必要です。

とくに基幹システムや重要設備では、ダウンタイムによる事業損失や、データ消失といった深刻な被害につながる可能性があります。また、契約終了時の保守対応内容や責任範囲についての認識のズレにより、紛争に発展するケースもあります。

こうした場合に契約書があれば、当時の合意内容を客観的に確認でき、問題解決の大きな手助けとなります。したがって、契約終了後も一定期間の保管が不可欠です。

保守契約書の保管期間

契約書の保管には、実務上の重要性に加え、法律による明確な保管義務が存在します。法人では、会社法および法人税法の規定に基づき、一定期間の書類保存が求められています。

会社法や税法で定められた保管義務

会社法第432条では、会社の会計帳簿を、会計帳簿の閉鎖時から10年間保存することが義務付けられています。保守契約書は会計帳簿を裏付ける資料となるので、併せて保管すべきといえます。

また、法人税法では、税務上の帳簿書類を確定申告書の提出期限の翌日から原則7年間保存することを定めています。これらの法律により、契約書類は法的な保存対象となるため、保管期間を過ぎて不用意に破棄すると法令違反となる可能性があります。

保管期間の基本は7年

法人税法では、原則として帳簿書類の保管期間は7年とされています。ただし、青色申告法人が欠損金の繰越控除を受ける場合は、その赤字が生じた事業年度の帳簿書類を10年間保存する必要があります。

また、会社法においては、契約書を含む「事業に関する重要資料」は10年の保存が義務付けられています。これらを総合的に考慮すると、実務上は「契約書は10年間保存」が基本となっており、それ以下での廃棄は推奨されません。

保守契約書の種類による保管年数の違いはある?

契約書のタイトル(保守契約書、業務委託契約書など)ではなく、内容と法的分類によって保管期間が決まります。たとえば、会社法上の「重要資料」となる契約書であれば10年間、法人税法上の「取引関係書類」であれば原則7年間の保存義務があります。

さらに、建設業法、労働基準法、廃棄物処理法など、業種別に保管期間が定められている場合もあり、それらが重複する場合は「最も長い保管期間」に合わせるのが安全です。

電子保存の可否と条件

契約書を電子データで保管することも可能です。これは「電子帳簿保存法」に基づくもので、紙と同じく7年または10年の保管が求められます。

電子保存にあたっては、「真実性の確保」と「可視性の確保」という2つの要件を満たす必要があります。真実性は、タイムスタンプの付与や訂正・削除履歴の保存、事務処理規程の整備などによって担保されます。可視性は、検索機能やPC等による速やかな表示、マニュアルの備付けなどによって確保されます。

紙の契約書をスキャンして保存する「スキャナ保存」の場合は、解像度や入力期間、タイムスタンプなど追加の要件が課されます。また、電子的に授受した契約書(PDFなど)は、電子データのまま法令要件を満たして保存することが義務付けられており、対応には専用のシステムを導入するのが一般的です。

実務で考慮すべき保管期間の目安

保守契約書の保管期間は、単に法定年数を守るだけでなく、実務上のリスクや契約の重要度に応じた判断が求められます。ここでは「なぜ10年保管が推奨されるのか」を中心に、実務で意識すべきポイントを解説します。

10年保管が推奨される理由

保守契約書の保管期間として「10年」が推奨される背景には、会社法と法人税法に加えて、民法における「債権の消滅時効」の規定があります。改正民法では、債権の時効は「権利行使可能時から10年」と定められており、会社法の10年保存義務とも一致します。

仮に法人税法に基づく7年のみを保管期間とした場合、8年目以降に過去の契約に関する法的トラブルが発生した際、時効が完成していないにもかかわらず、契約書が存在しないというリスクが残ります。これを防ぐために、実務では10年保管が安全基準として広く採用されています。

保険・損害賠償のリスクに備える

保守業務中や保守対象物が原因で第三者に損害が発生した場合、保守業者は損害賠償責任を問われることがあります。製品や設備が原因で事故が起きた場合は、債務不履行や不法行為に基づく責任が問われることもあり得ます。

こうしたトラブルの際、契約書はどこまでが保守会社の責任範囲なのか、上限はいくらなのかといった「責任分界点」を確認するための重要な資料です。また、損害賠償保険を請求する場面でも、契約書の提示が求められる場合があります。これらのリスクは契約終了後にも生じる可能性があるため、少なくとも10年間は保管することが望ましいといえます。

契約金額や業種で変わる保管期間の判断基準

法律で定められている最低保管期間(会社法10年、法人税法7年)は、契約の金額や業種によって変わるものではありません。ただし、実務上は契約の重要度や業務への影響を踏まえ、柔軟に対応する必要があります。

たとえば、数千万円〜数億円規模の大口契約、10年以上にわたる長期契約、基幹業務に直結する契約、不動産や知的財産権に関する契約、M&Aに関する契約などは、10年を超えて保管する企業も珍しくありません。

また、業種によっては建設業法、廃棄物処理法、金融商品取引法、労働基準法などにより、独自の保管義務が課されるケースもあります。これらを考慮し、最長の保存期間を基準に判断することが、安全な運用につながります。

保守契約書の破棄・廃棄前のチェックポイント

保管期間を過ぎた契約書でも、破棄に踏み切る前には確認すべきポイントがあります。安全に破棄するには、法令順守はもちろん、情報漏洩リスクや電子化の可否についても考慮する必要があります。

契約終了後、すぐに破棄してよい?

契約が終了したとしても、契約書をすぐに破棄することはできません。会社法では10年、法人税法では原則7年(場合によって10年)の保存義務があり、これを下回る形での廃棄は違法となる可能性があります。

また、民法の消滅時効(最長10年)や、税務調査、監査、損害賠償請求などのリスクを考えると、契約終了後も少なくとも10年間は契約書を保管しておくのが現実的かつ安全です。

保管期限を超えた契約書の取り扱い

法定または社内規程で定められた保管期限を過ぎた契約書は、基本的に破棄可能です。しかし、破棄の際には情報漏洩やデータ復元のリスクに配慮した処分が求められます。

紙の書類であれば、クロスカットまたはマイクロカット方式のシュレッダーや、専門業者による溶解サービスを利用するのが安全です。電子データの場合は、専用のデータ消去ソフトを使用するか、保存媒体自体を物理的に破壊する方法が一般的です。

さらに、廃棄を証明するための記録(ログ)を残すことも、社内統制や監査対応の観点から有効です。

電子化保存への切り替え時の注意点

紙の契約書をスキャンして電子保存する「スキャナ保存」を行う場合、電子帳簿保存法の要件をすべて満たす必要があります。これには、タイムスタンプの付与、必要解像度の確保、検索機能の整備、操作マニュアルの備付けなどが含まれます。

単なる画像データとして保存するだけでは、税務との関係では有効でも、民事訴訟との関係で証拠の原本とみなされず、法的証拠力を失う可能性があります。そのため、原本は別個保存しておく必要があります。また、電子契約システムの導入や乗り換えを行う際には、データ移行の正確性、取引先との同意、社内フローや規程の見直し、セキュリティ対策の徹底など、実務面での配慮が不可欠です。

電子保存は単なるツール導入ではなく、組織全体での計画的な対応が必要です。システム選定時には、法対応、コスト、機能面を総合的に検討するようにしましょう。

保守契約書は10年を基本に、重要性に応じて柔軟に保管しよう

保守契約書は、法的義務だけでなく、実務やリスク管理の観点からも適切な保管が欠かせません。会社法や法人税法に基づき「10年保管」が基本ですが、契約の内容や金額、業種によってはさらに長期の保管が望まれます。破棄する際には、法令順守・情報漏洩対策・電子化の要件などを踏まえた慎重な判断が重要です。保管のルールを整備し、組織的な管理体制を構築することが、将来のトラブル防止につながります。


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