- 作成日 : 2025年7月17日
契約締結権限とは?表見代理のリスクや確認方法・注意点を解説
契約締結権限は、企業が適切に契約を管理し、法的リスクを回避する上で基本となる仕組みです。誰がどの範囲で契約を結べるのかを正しく理解し、社内の規程や実務と整合させることが、信頼性の高い契約運用につながります。代表取締役、役員、従業員では契約できる範囲が異なり、誤った運用は表見代理や無効リスクを招く可能性があります。
本記事では、契約締結権限の基礎知識から確認方法、社内規程との関係、電子契約における注意点まで、幅広く解説します。
目次
契約締結権限とは
契約締結権限とは、企業などの組織において誰が正式に契約を締結できるかという法的な権限を指します。民法や会社法に基づき、どのような立場の者が代理人または代表者として契約行為を行えるかが定められています。通常、会社では代表取締役社長などに代表権が与えられており、その者が会社を代表して契約を締結します。また、社長以外の者でも会社から包括的な代理権を与えられている場合には、その者が署名した契約書も有効になります。一方で、代理権のない従業員が結んだ契約(無権代理行為)は原則として会社を拘束せず無効です。そのため、契約締結権限が誰にあるかを理解することは、契約の有効性を判断する上で基本となります。
代表取締役・役員・従業員で異なる契約締結権限
企業における契約締結権限は、役職や委任の有無によって大きく異なります。誰が会社を代表して契約できるのかを明確に理解し、役職に応じた適切な手続きを取ることが、契約の有効性確保やトラブル防止につながります。
代表取締役の契約締結権限
株式会社では、代表取締役が会社を代表して契約を締結する包括的な権限を持ちます。会社法第349条第4項により、代表取締役は会社の業務に関するあらゆる法律行為を行うことができ、その行為は会社を直接拘束します。署名・押印された契約書はその効力を会社に及ぼします。ただし、複数の代表取締役がいる場合や、共同代表制が採用されている場合には、定款や登記簿上の定めに従い、適正な手続で契約を締結する必要があります。
その他の役員・執行役員の契約締結権限
代表権を持たない取締役(たとえば専務、常務など)は、肩書だけでは契約締結権限を当然には有していません。契約を締結するには、取締役会での決議や代表取締役からの委任が必要です。執行役員についても、法律上の地位ではなく社内的な役職にすぎないため、契約締結には明示的な委任が必要となります。契約ごとに適切な委任の範囲を確認し、社内で権限付与の手続が整っていることが前提です。
従業員(使用人)の契約締結権限
一般の従業員(部長、課長など)は原則として会社を代表する契約締結権限を持ちません。ただし、会社法第14条では、特定の業務を会社から任された従業員には、その範囲内で包括的な代理権が認められるとされています。たとえば営業部長が自部門の業務に関する契約を締結することは、委任がある限り有効です。
さらに、会社が登記して選任した「支配人」は、会社法第11条により本店・支店の業務全般にわたる契約締結権限を持ちます。また、登記はされていないが「支店長」などの肩書を持つ者については、表見支配人(会社法第13条)とみなされ、第三者の信頼を保護する目的で、契約が有効とされる可能性があります。したがって、従業員であっても業務の内容や職務の範囲により、契約締結の有無や範囲が異なるため、社内規程や実際の委任内容の確認が欠かせません。
表見代理とは?契約締結権限をめぐるリスク
表見代理とは、実際には契約締結権限がないにもかかわらず、見かけ上は権限があるように思われる場合に、その者が行った契約を有効とみなす法律制度です。民法上の規定であり、善意の第三者(取引相手)を保護するために設けられていますが、企業にとっては社内規程に反した契約であっても有効になってしまうリスクとなります。
民法第109条〜第112条には表見代理の類型が定められており、代表者が権限を与えたと表示した場合や、代理人が権限の範囲を超える行為をした場合、代理権消滅後に行為をした場合など、一定の要件下で契約が本人に対して有効になります。表見代理が成立すれば、会社は本来契約権限のない従業員が結んだ契約についても履行責任を負わされる可能性があります。また、表見代理が成立しない場合でも、契約が無効となった相手方から無権代理人個人への損害賠償請求など紛争に発展する恐れがあり注意が必要です。
契約締結権限を逸脱した契約に有効性はある?
契約締結権限を持たない従業員が権限を超えて契約を締結した場合、その契約は原則として会社に対して無効とされます(無権代理)。ただし、相手方が権限があると誤信した場合には、表見代理が成立し、会社が契約上の責任を負う可能性があります。
また、会社が後からその契約を追認すれば、契約は有効となりますが、追認しない場合、相手方は無権代理人個人に対して履行や損害賠償を請求できます(民法第117条)。さらに、従業員の行為が詐欺や背任などに該当する場合、会社が民法第715条に基づく使用者責任を問われるケースもあります。実際に、報告なしに契約を結んだ従業員の行為により、雇用主が責任を負った裁判例も存在します。
このようなリスクを防ぐには、契約発覚後ただちに無効の主張と社内対応を行い、原因の確認と再発防止策を講じる必要があります。
契約締結権限の確認手順とチェックポイント
契約を有効に成立させるには、自社と相手方双方の契約締結権限を事前に確認することが不可欠です。権限の確認を怠ると、後に契約無効を主張されるリスクもあるため、実務上の基本事項として徹底しておく必要があります。
相手方の契約締結権限の確認
契約書に署名・押印する者が、相手企業の代表取締役など代表権を持つ者であるかを確認するのが原則です。もし署名者が部長や課長など代表権を持たない肩書であれば、委任状の提出を求め、代表者から明示的に契約締結の権限が委譲されていることを確認します。電子契約では、委任状にメールアドレスや署名用IDを記載し、限定的に権限を証明する方法も実務で用いられています。
また、委任状の取得が難しい場合には、職務権限規程の写しを開示してもらい、契約締結が役職上可能であることを確認する代替手段も有効です。証跡として保存しておけば、万が一紛争に発展した場合でも、自らが善意かつ無過失であったことの証明材料となります。
自社内での契約チェックと承認フロー
自社においても、契約書への署名前に適切な承認プロセスを経ることが重要です。社内決裁システムなどを活用して、契約内容を権限者が確認・承認した上で契約を締結する運用を徹底します。事前承認のフローを習慣化することで、権限外の締結を未然に防ぎ、後の法的トラブルのリスクを軽減できます。わずかな確認作業を怠らない姿勢が、企業の契約管理体制の信頼性を支えることにつながります。
社内規程と契約締結権限
契約締結権限に関する社内規程を整備し、実際の業務と一致させることは、企業法務において不可欠な取り組みです。規程と運用の整合性が損なわれると、権限外契約による法的リスクが顕在化する可能性があります。
社内規程と実務運用の整合性を取る
職務権限規程や稟議規程では、役職ごとに契約承認・締結の範囲が定められており、それに基づいた手続きを行うことが求められます。この整合性を保つことで、無権限の契約締結や社内承認漏れなどのミスを予防できます。反対に、規程と現場の運用が乖離していると、誤って権限外の契約が結ばれ、社内的な責任追及や契約無効の主張につながるリスクがあります。
継続的に規程管理を行い従業員を教育する
整合性を維持するためには、組織再編や人事異動のたびに権限表を見直し、最新の体制に即した内容に更新することが大切です。同時に、従業員が自分の契約権限を正確に把握できるよう、定期的な社内周知や教育も欠かせません。疑義があるときは上司や法務部門に確認する習慣を根付かせ、曖昧なまま契約を進めない文化づくりが求められます。社内規程と実務運用の一致は、企業の信頼性とコンプライアンス水準の維持に直結します。
電子契約における契約締結権限の注意点
電子契約の導入が進む中、契約締結権限の確認も従来の紙ベースとは異なる方法が求められます。実印や社判が使われない電子環境では、システム上の権限管理と内部統制が鍵となります。
システムによる事前承認
多くの電子契約サービスには、社内承認のワークフロー機能が搭載されています。これにより、契約の送付前に権限を持つ責任者の承認を得ることが可能です。こうした機能を活用すれば、契約書の誤送信や無権限による締結を防ぐ効果が期待できます。また、電子署名を代理人が操作する場合でも、事前に正式な権限移譲があることを確認し、アクセス制御を徹底する必要があります。
記録の保全と証拠の確保
電子契約では、署名者が実際に誰なのか、どの手続きを経て契約が成立したのかを示す証跡が重要です。システムに保存される監査ログや承認履歴は、後日のトラブル時に正当な手続きを踏んだことを証明する資料となります。これにより、締結の有効性を確保し、万一の責任追及に備えることが可能になります。
社内決裁の電子化が進む現在、契約の承認フローやアクセス制御の設計は、企業全体の契約リスク管理においてますます重要な役割を担っています。
契約締結権限を正しく管理し、法的リスクを防ごう
契約締結権限は、企業が安全かつ適法に契約を結ぶ上で不可欠です。代表者・役員・従業員では権限の範囲が異なり、社内規程や実務運用との整合性を保つことが求められます。電子契約の普及により確認手段が変化する中でも、権限の有無を明確にし、社内外における手続と証拠の整備を怠らないことが、リスク回避につながります。契約実務に携わる担当者は、制度と実務の双方を踏まえた運用管理を徹底しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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