- 作成日 : 2025年7月9日
契約書の保管方法ガイド|紙・電子の違いや法対応、保管のポイントを解説
契約書は企業活動の根幹を支える重要な文書であり、適切な保管が求められます。保管期間や法的義務を正しく理解し、紙・電子それぞれに適した管理方法を実践することが、トラブルの回避や業務の効率化につながります。さらに、情報漏えいや紛失などを防ぐためには、セキュリティ対策や運用ルールの整備も欠かせません。本記事では契約書の保管方法をテーマに、法令への対応や実務上の注意点、保管手段を解説します。
目次
契約書の保管義務とは
契約書は紙・電子を問わず、法令により一定期間の保存が求められています。法人税法、会社法、電子帳簿保存法などを理解することで、適切な保管体制の構築につながります。
紙の契約書に関する法的義務
紙媒体の契約書には、法人税法施行規則により7年間(欠損金がある場合は最長10年間)の保存義務があります。また会社法第432条では、株式会社に対して事業に関する重要資料を10年間保存することが求められており、契約書もこれに該当します。
電子契約書の保存義務と要件
電子契約書も法的な保存義務があります。2024年1月から電子取引に関するデータの電子保存が完全義務化され、紙への出力保存は認められません。保存期間は紙契約書と同様で、電子帳簿保存法の要件を満たす必要があります。真実性や可視性の確保も求められており、訂正履歴やタイムスタンプの管理も適正に行う必要があります。
e-文書法による電子保存の容認
e-文書法は、紙保存が原則とされていた文書を電子的に保存できるようにする法律です。2005年に施行され、契約書を含む多くの文書が対象となりました。ただし、電子保存には個別法令の要件を満たす必要があり、実務上は電子帳簿保存法と併せて運用することが求められます。電子保存を導入する際は、運用ルールの整備とシステムの対応状況も確認しておくと安心です。
紙の契約書と電子契約書の保管の違い
契約書の保管方法は紙と電子で大きく異なります。原本の定義、保管スペース、検索性、改ざん対策、運用方法など、それぞれに特有の特徴があるため、違いを理解したうえで適切な保管体制を選ぶことが求められます。
原本の扱いと証拠力
紙契約書では、署名・押印された紙そのものが原本となります。スキャンしたデータは単なるコピーであり、法的効力が限定される場合があります。対して電子契約は、電子署名が付されたデータそのものが原本として機能し、法的にも証拠力が認められています。
保管スペースと災害リスク
紙契約書はキャビネットや倉庫など物理的な保管場所が必要であり、数が増えるとスペースやコストがかさみます。さらに火災・水害といった災害リスクによって消失する可能性もあります。一方電子契約書は、クラウドやサーバーに保存でき、物理スペースを取らず、複製やバックアップによって災害への備えも可能です。
検索性と閲覧性
紙契約書は手作業で探す必要があるため、目的の書類を見つけるのに時間がかかります。電子契約書であれば、ファイル名や契約日などで検索可能で、契約管理システムを使えばフィルタリングも簡単です。また、インターネット環境があれば場所を問わず閲覧できる利便性もあります。
改ざん防止機能
紙では製本や割印で改ざんを防ぎますが、複製された場合の追跡は難しくなります。電子契約書では、電子署名やタイムスタンプを用いることで改ざんを検知できます。さらに、システム上で操作ログを記録すれば、誰がいつアクセス・変更したかを追跡することも可能です。
法対応と運用負荷
紙契約書は捺印、郵送、製本といったアナログな手続きが必要で、締結や保管に手間がかかります。電子契約は締結から保存までオンラインで完結しますが、電子帳簿保存法などに対応した社内ルールを整備する必要があります。さらに、将来的なデータ形式の更新やシステム移行も見据えた運用が求められます。
契約書の保管方法
契約書の保管には複数の方法があり、自社の運用体制や法令対応状況に応じた手段の選択が必要です。紙・電子・クラウド・外部委託などの特性を理解し、適切に組み合わせることで安全かつ効率的な管理が可能になります。
紙でファイリングして保管する
従来から行われている紙での保管方法は、契約書ごとにインデックスをつけ、年度・種類別に整理します。耐火金庫や施錠棚で安全性を確保しながら管理しますが、保管スペースや管理の手間がかかるため、定期的な整理と不要書類の廃棄も重要です。
マイクロフィルムによる長期保管
マイクロフィルムは契約書を縮小記録する方法です。マイクロフィルムの耐用年数は500年とも言われており、長期保存が可能です。大量文書の省スペース保存に適しており、歴史的な文書保管にも用いられてきました。専用機器が必要で初期費用や保管環境への配慮も求められますが、長期保管の手段として有効です。
外部機関に保管を委託する
文書保管の専門業者に契約書原本を預ける方法では、防犯・耐火設備の整った倉庫に安全に保管できます。必要に応じて取り寄せが可能ですが、閲覧に時間がかかり、コストが発生する点には注意が必要です。委託時には保管一覧表などで所在管理を徹底します。
スキャンしてPDFで保管する
紙の契約書をスキャナで電子化し、PDFファイルとしてサーバーやクラウドに保存します。OCRを活用することで検索性が向上し、共有も容易になります。原本廃棄を検討する場合は電子帳簿保存法の要件を満たす必要があり、満たさない場合は紙原本の並行保管が推奨されます。
電子契約サービス・クラウドで保管する
クラウドサインなどの電子契約サービスで契約を締結し、そのままクラウド上に保管する方法です。契約データの一元管理、アクセス権限設定、改ざん防止などの機能があり、セキュリティ面でも安心です。また、バックアップ取得や社内台帳との連携により、保管体制の強化が図れるほか、収入印紙の貼付が不要、郵送する必要がないなどコスト面でもメリットがあります。
電子契約書の保管方法(電子帳簿保存法・e-文書法)
電子契約の普及により、契約書のデジタル管理が一般化しています。しかし、法令に準拠した保管を行うためには、電子帳簿保存法などの要件に従った運用が不可欠です。
電子契約書の保存義務と保存期間
電子帳簿保存法の改正により、電子取引データの電子保存が義務化されました。電子契約で締結された文書も保存期間は7年間とされ、紙の契約書と同様です。保存先は国内外問わず、納税地からアクセスできる環境であれば問題ありません。2024年から猶予措置も終了し、一部の例外を除き原則としてすべての事業者が対応を求められています。
保存要件:真実性と可視性の確保
保存の前提として「真実性」と「可視性」の確保が必要です。以前は3日以内のタイムスタンプが必須でしたが、2022年の改正により最長2ヶ月と概ね7営業日以内に緩和され、訂正・削除の履歴が残るシステムで管理されているなどの要件を満たせばタイムスタンプが不要になります。
検索性の確保とファイル管理の工夫
電子帳簿保存法では、検索機能の整備も求められます。現在は要件が緩和されたものの、契約日や取引先名、金額などの情報で契約書をすぐに検索できるように、社内でのファイル命名ルールやメタデータ設定が重要になります。管理システムの導入により、効率的な運用が実現します。
紙契約書のスキャン保存と原本廃棄の条件
紙で締結した契約書をPDF化して電子保存する場合、原本を廃棄するにはスキャナ保存の要件を満たす必要があります。要件には、最長2カ月概ね7営業日以内のタイムスタンプや同等の改ざん防止措置、画像の解像度・色彩の保持などがあります。これらを遵守していれば、電子データが正式な証憑として認められます。ただし、基準を満たさずに原本を廃棄するのはリスクがあり、証拠力に不安が残るため注意が必要です。
契約書保管におけるセキュリティ対策
契約書には自社や取引先の機密情報が含まれるため、適切なセキュリティ対策が欠かせません。技術的・組織的な側面の両面から、情報漏えいや改ざんのリスクを抑えるための対策を講じることが重要です。
アクセス権限の管理
契約書の保管先には、ユーザーごとに閲覧・編集・削除の権限を細かく設定しましょう。必要最小限の範囲でアクセス権を付与し、部署や役職、業務内容に応じた制限をかけることで、内部からの情報漏えいリスクも低減できます。
データの暗号化と多要素認証
電子契約書は、通信経路と保存先の両方で暗号化が必須です。通信にはSSL/TLS、保存にはAES-256などの強固な暗号方式を活用します。また、パスワードに加えてワンタイムパスコードやICカードを用いた多要素認証を導入し、不正アクセスを防止します。ウイルス対策や侵入検知システムの導入も効果的です。
改ざん防止と監査ログの活用
保管システムには、誰が・いつ・何を操作したかを記録する監査ログ機能を備える必要があります。定期的にログを確認することで、不正な閲覧や編集を早期に発見できます。さらに、WORMストレージや電子署名付きPDFの利用により、データの改ざん防止も可能です。異常発生時の対応フローをあらかじめ整備しておくと安心です。
バックアップ
契約書データの消失に備え、3-2-1ルール(3つのコピーを、2種類の媒体に、1つはオフサイトで保管)に沿ってバックアップを実施します。加えて、災害や障害への対応として、データセンターの冗長化や復旧手順を含むBCP(事業継続計画)の策定と定期訓練が推奨されます。
社内ルールと従業員教育
セキュリティ対策はシステム面だけでなく、運用面のルール整備も重要です。契約書の保管方法、持ち出し制限、廃棄手順などを明文化し、全社員に共有します。紙契約書の保管は施錠管理し、閲覧記録を残すようにします。定期的なセキュリティ研修や内部監査も実施し、安全な管理体制を維持しましょう。
契約書保管のよくあるトラブル事例と回避策
契約書の保管には多くの注意点があります。紛失、誤廃棄、情報漏えいなどのトラブルが起きやすく、あらかじめ体制を整え、ミスを未然に防ぐ工夫が必要です。
保管場所の分散による所在不明
契約書が各部署ごとに分散して保管されていると、必要なときに見つからない、存在そのものを忘れるといった問題が起こります。紙は総務部、電子契約は各部署管理というように情報が散らばると、全体を把握できず業務の非効率につながります。
回避策:契約書は一元管理を基本とし、物理的には集約棚や文書室に、電子的には共有フォルダや管理システムにまとめましょう。新規契約書はすぐに所定の場所に保存するルールを徹底し、過去の契約書も順次統合します。
紙と電子の二重管理
電子化を進めながらも、紙原本が残っている場合、同一契約書が複数の媒体に存在し、どちらが最新版か分からなくなる混乱が起こります。
回避策:管理媒体の方針を明確にし、電子データを正式版とするなら紙は廃棄し、法的保存要件を満たすことが必要です。紙を正とする場合は電子はコピー扱いにして区別を明確にします。過去分は一括でスキャン・台帳登録し、今後は電子で一元管理する流れを作ります。
契約書の紛失・所在不明
担当者の退職や誤廃棄により契約書が失われると、法的リスクや信用問題に発展しかねません。
回避策:契約書の持ち出しや貸出は記録を取り、コピーを保管します。重要書類は複数部作成して各当事者で保管するほか、スキャンによるバックアップも活用します。契約書の所在は台帳で常に把握し、取り扱いは管理担当者に限定します。紛失時の対応手順も決めておきましょう。
法定保存期間前の誤廃棄
保存期間を正確に把握していないと、必要な契約書を誤って早期に廃棄してしまう恐れがあります。これは税務調査や訴訟時に問題になります。
回避策:契約書ごとに保存期間を一覧で管理し、廃棄前に必ず二重チェックを行う運用を整えます。契約管理システムの保存期限アラート機能も有効です。不安な場合は期限を過ぎても一定期間保管を続け、廃棄時は記録を残すようにしましょう。
セキュリティ不備による情報漏えい
アクセス制御が甘かったり、未暗号化のUSBで持ち出した結果、機密契約書が社外に流出するリスクがあります。
回避策:セキュリティ対策を徹底し、閲覧制限・暗号化・ログ監視を標準化します。人為ミス対策として社員教育やチェック体制も必要です。コピー制限、透かし(ウォーターマーク)挿入、社外送信の禁止なども有効な施策です。
契約書の保管、今こそ見直しませんか?
契約書の保管は、法令対応だけでなく、企業の信頼やリスク管理にも直結する重要な業務です。紙・電子それぞれの特性を理解し、保存期間や法的要件を正しく押さえることが必要です。保管方法の選定やセキュリティ対策、ミスの防止策を取り入れて、効率的かつ安全な管理体制を築きましょう。いま一度、自社の契約書保管方法を見直してみてはいかがでしょうか。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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