- 作成日 : 2025年5月14日
個人事業主が下請法の対象となる取引は?改正内容もわかりやすく解説
下請法は、親事業者と下請事業者との公正な取引を確保するための法律です。
フリーランスなどの個人事業主も下請法の保護の対象となることがあり、違反行為があると親事業者に罰則が科される恐れがあります。
2025年に改正案が決定しており、新たな規制や規制範囲の拡大が注目されています。
本記事では、個人事業主が下請法の対象になるかどうかの判断方法や対象外となる取引例、改正のポイントについて詳しく解説します。
目次
下請法とは
下請法とは、親事業者と下請事業者間の公正な取引を保護するために定められた法律です。
優越的な立場にある親事業者が下請事業者に対して、不当な取引を押し付けるような行為を防ぐことを目的としています。
この法律は、個人事業主やフリーランスなど小規模な事業者にも関係する可能性があるため、自身が下請法の対象かどうかを知っておくことが大切です。
下請法の詳しい内容は以下の記事でも詳しく説明しています。
下請法の改正内容
2025年3月には下請法の一部が見直され、約50年ぶりの大改正が見込まれます。
下請法の主な改正ポイントは以下のとおりです。
- 買いたたき規制の見直し
親事業者が下請事業者に対して、適正な価格を著しく下回る金額での取引を強要する「買いたたき行為」が、今回の改正により明確に禁止されます。特に、代金に関する協議に応じないことや、必要な説明をせずに一方的に代金を決定したりする行為が違法となります。 - 支払方法の見直し
手形払いが原則として禁止され、さらに支払期日までに現金化が困難な支払方法も認められなくなります。 - 下請法の適用対象取引の追加
現行の下請法の対象となる取引は、製造・修理・情報成果物作成・役務提供ですが、そこに運送委託も追加されます。物流の2024年問題などへの対応の一環です。 - 下請法の適用基準の追加
現行の資本金に加え、従業員数も新たな判断基準に追加されます。例えば、親事業者が製造・修理の委託を行う場合は従業員数300人超、情報成果物作成・役務提供を委託する場合は従業員数100人超であれば下請法が適用されます。
下請法とフリーランス新法の違い
フリーランス新法とは、フリーランスがより安定的に働けるよう取引を適正化し、就業環境を整備することを目的とした法律です。
下請法と同様に、取引の公正性を守るために設けられましたが、規制対象や内容に違いがあります。
まず、下請法は、「資本金が1,000万円超え」の親事業者が規制対象となるのに対し、フリーランス新法は資本金に関係なく適用されるのが特徴です。
また、フリーランス新法は、取引の適正化に加えて、ハラスメント防止や育児・介護に対する配慮、中途解約の事前通知・理由開示などフリーランスの就業環境に関する保護も含まれます。
さらに、下請法は単発の取引も規制対象になるのに対して、フリーランス新法は1カ月以上の継続的な取引が対象となる点も異なります。
両者の違いを正しく理解することは、法的トラブルを未然に防ぎ、健全な取引関係を築くために重要です。
フリーランス新法の詳しい内容は以下の記事で説明しています。
個人事業主が下請法の対象かどうか判断する方法
個人事業主が下請法の対象になるかどうかは、「親事業者と下請事業者の資本金区分」と「取引の内容」によって判断できます。
ここからは、それぞれの判断ポイントを詳しく解説します。
資本金区分
個人事業主が下請法の対象となるかどうかを判断する際、基準となるのが資本金の区分です。親事業者と下請事業者の資本金額によって下請法の適用の有無が決まります。
下請法では、親事業者の資本金が1,000万円を超える場合に、個人事業主を含む下請事業者との取引が規制対象となります。一方、親事業者の資本金が1,000万円以下の場合は、原則として下請法の適用対象外となり、個人事業主は保護を受けられません。
例えば、資本金1,500万円の会社が個人で活動するエンジニアにシステム開発を委託した場合、この取引には下請法が適用されます。そのため、委託側は不当な買いたたきや支払遅延などの行為をしてはいけません。しかし、同様の依頼であっても、委託元の資本金が800万円の場合、この取引は下請法の対象外となり、受託者は下請法の保護を受けられません。
ただし、2025年の改正では、資本金区分に加えて従業員数による基準(製造・修理の場合は300人超、情報成果物作成・役務提供の場合は100人超)が導入されます。親事業者がこの基準を満たす場合、下請法が適用される可能性もあります。
取引の内容
個人事業主が下請法の保護の対象になるかどうかは、取引内容によっても判断されます。
下請法の対象となる取引は、製造委託、修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託の4つです。
ここからは、それぞれの取引内容を詳しく解説します。
製造委託
物品を販売または製造を請け負っている事業者が、規格や品質、デザインなどを指定して他の事業者に製造や加工などを委託するケースです。なお、ここでいう物品は動産を指し、家屋などの不動産などは含まれません。
例えば、金型メーカーが設計図に基づいて部品の製造を委託する場合が挙げられます。
修理委託
自社で使用する物品の修理や、顧客から請け負った物品の修理を他の事業者に委託するケースです。
例えば、車の販売会社が顧客から依頼された車の修理を他社に再委託する場合がこれに当たります。
情報成果物作成委託
情報成果物作成委託は、プログラムやコンテンツ、デザインなどの情報成果物の作成を他の事業者に委託することを指します。なお、自社で使用するものだけでなく、顧客から請け負ったプログラムやコンテンツ、デザインの作成を再委託する場合も含まれます。
例えば、システム開発会社が顧客から請け負った開発の一部をエンジニアに外注する場合が挙げられます。
役務提供委託
役務提供委託は、運送や清掃、顧客へのメンテナンスなどのサービス(役務)提供業務を他の事業者に委託することを指します。
例えば、施設管理会社がメンテナンス業務の一部を別の業者に依頼するような場合が挙げられます。
個人事業主が下請法の対象にならない取引の事例
先述のとおり、個人事業主が下請法の対象となるには一定の条件を満たす必要があり、場合によっては対象外となるケースがあります。
ここからは、実際に下請法の対象とならない具体的な事例を紹介します。
資本金が1,000万円以下の場合
親事業者の資本金が1,000万円以下の場合、原則として下請法の対象外となります。
例えば、資本金500万円のデザイン会社が、フリーランスのイラストレーターにチラシやパンフレットの作成業務を発注するようなケースです。発注者が法人で受注者が個人であっても、この取引は下請法の規制対象外です。
このようなケースでは、契約書の取り交わしや支払条件の明示など、別の方法でトラブルを予防する必要があります。下請法の保護がない以上、事前のリスクヘッジが非常に大切です。
取引内容が対象外の場合
下請法の対象になるのは、製造委託、修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託の4つであり、これら以外の取引は原則下請法の対象になりません。
例えば、社員向けの研修・教育を他の事業者に対して委託する場合は、上記のいずれの取引にも該当しないため、下請法は適用されません。
また、役務提供委託に関しては、あくまで顧客へのサービス提供を委託する場合に限って適用されるため、発注者自身がサービスを受ける場合は対象外となります。
建設業者が建設工事を委託する場合
建設業者が請け負った「建設工事」を、別の建設業者に委託する場合、下請法は適用されません。建設工事を委託する場合は、建設業法が適用されるためです。
例えば、資本金1,500万円の工務店が、別の業者に壁の塗装工事を委託しても下請法は適用されません。
ただし、たとえ建設業者であっても、システム開発など建設工事以外の業務を委託する場合は、下請法の適用対象となる可能性があります。
個人事業主が下請法の対象となる場合の義務
下請法が適用される場合、発注者となる親事業者にはいくつかの義務が発生します。下請法における下請事業者は法人だけでなく、個人事業主やフリーランスも対象となり、親事業者には一定の義務が発生します。
ここからは、取引時に守るべき義務について、わかりやすく解説します。
発注書面の交付
親事業者は、発注に際して、必要事項を記載した書面を交付することが義務付けられています。書面には、発注者・受注者の名称、発注日、発注内容(受注者が給付すべき内容)、納期、納品場所、代金額、支払期日などの取引条件を明記しなければなりません。
例えば、システム開発を依頼した際、発注書面に代金の記載がなければ、下請法違反として指摘される恐れがあります。
口頭での発注や曖昧な条件設定はトラブルの原因となるため、必ず明確な書面を交付することが求められます。
60日以内の支払期日の設定
下請法では、親事業者は、納品や役務提供が完了日から60日以内に代金を支払うことが義務付けられています。なお、納品物の検査に合格した日ではなく、納品日が基準となる点に注意が必要です。
例えば、4月10日に納品して4月30日に検査合格の場合、支払期日の起算日は4月10日です。代金の支払日が6月末日になると、納品日から60日を過ぎているため下請法違反となります。
取引を始める際は、発注書の支払期日を注意して確認しましょう。
遅延利息の支払義務
下請法では、親事業者が支払期日を過ぎても代金を支払わなかった場合、遅延利息の支払いが義務付けられています。支払いを遅延した場合、親事業者は支払期日から実際に支払った日までの期間について、年率14.6%の遅延利息を支払う義務があります。
納品物の検査が終わっていない場合や、下請事業者から請求書が発行されなかった場合でも、支払期日までに支払われなければ遅延利息が発生します。
書類の作成・保存義務
親事業者は、下請内容を記録した書面を作成し、2年間保存する義務があります。
具体的には、受注者の名称または氏名、下請事業者の給付の内容、納品完了日、代金額、支払期日などの事項の記録が必要です。
これにより、後からトラブルが生じた場合でも、事実関係の確認が可能になります。また、書類を保存しておくことで、公正取引委員会などによる調査・検査に対して迅速な対応が可能となります。
個人事業主が下請法の対象となる場合の禁止事項
下請法の対象となる場合、発注者である親事業者には禁止事項が定められています。これらの規定は、仕事を発注した下請事業者が、法人ではなく個人事業主である場合にも同様に適用されます。
ここからは、下請法で親事業者が禁止されている内容を詳しく解説します。
受領拒否
親事業者が正当な理由なく、納品物の受け取りを拒否する行為は禁止されています。
例えば、発注時の条件に従って納品されたにもかかわらず、発注元企業の都合で「仕様が変わった」として、納品物の受け取りを拒否するケースは下請法違反です。
納品物に明らかな欠陥がある場合など、正当な理由がない限り受領拒否は認められません。
下請代金の支払遅延
下請法では、納品を完了した日から60日以内に代金を支払うことが義務付けられています。この期間を超えて代金の支払いを遅延することは下請法違反となります。
下請事業者の資金繰りに影響を与える恐れがあるため、支払いの遅延は重大な問題です。取引開始時点で支払日を明確にし、遅延がないように支払う必要があります。
下請代金の減額
親事業者が、発注時に定めた代金を減額して支払うことは禁止されています。値引きや協賛金など減額の名目や方法、金額を問わず、さらに下請事業者の合意があっても、全面的に下請法違反となります。
例えば、発注元の販売拡大やキャンペーンの実施に際して、代金はそのままにして納品数量を増加させ、実質代金を減額することも違反対象となります。
返品
下請事業者に責任がないのに、納品物を不当に返品する行為は違反です。返品には正当な理由が必要であり、単に「不要になった」「予算が削減された」などの理由では認められません。
例えば、検査すら行っていない段階での返品、または納品から6カ月以上経過しての返品も、正当性がなければ違法と判断されます
買いたたき
通常支払われる対価に比べて著しく低い代金で発注する行為は「買いたたき」に該当します。買いたたきに当たるかどうかは、対価の水準と対価を決定するプロセスの両面から判断されます。
例えば、大量発注を前提とした低い単価を提示しておきながら、実際には少量しか発注しない場合などが挙げられます。取引の規模や慣行を無視した一方的な価格設定は避けましょう。
物の購入や役務利用の強制
正当な理由がないにもかかわらず、親事業者が指定する物品などを購入、利用させることは禁止されています。取引の対等性を損ない、経済的圧力をかける行為とみなされる恐れがあります。
例えば、発注時に「当社指定の有料ソフトを購入してください」「当社製品を使って作業してください」と指示する行為は下請法違反となる恐れがあります。
報復措置
下請法上の「報復措置」とは、下請事業者が親事業者の不当な行為について改善を求めたり、公正取引委員会に報告したことを理由に、取引を打ち切る、発注数を減らすなどの不利益な対応をする行為です。
例えば、受注者が遅延利息の請求や契約条件の見直しを申し出たことに対して、発注量を減らすなどの行為がこれに当たります。
有償支給原材料等の対価の早期決済
下請事業者に対して原材料等を有償で支給する場合に、下請代金の支払いよりも早い段階で原材料等の対価を請求することは、下請法で禁止されています。また、下請代金から原材料等の対価を差し引くこともこれに含まれます。
例えば、発注と同時に原材料の代金を請求するような行為は下請法違反となる恐れがあるため注意が必要です。
割引困難な手形の交付の禁止
下請代金を手形で支払う場合、一般の金融機関で割引を受けることが困難な手形を交付することは下請法で禁止されています。現金化が難しい手形は資金調達に支障をきたし、経営に大きな影響を与える恐れがあるためです。
例えば、支払期日が長い(60日超)手形を用いることは、下請法違反となることがあります。
不当な経済上の利益の提供要請
下請事業者に対して、金銭的負担や物品などを無償で提供させることは下請法で禁止されています。
例えば、「協賛金に協力してほしい」「ノベルティを無償で提供してほしい」「発注内容にはない金型設計図面を渡してほしい」などの見返りのない一方的な要請は下請法違反となる恐れがあります。
不当な給付内容の変更・不当なやり直し
下請事業者に責任がないにもかかわらず、発注の取り消しや内容変更、やり直しをさせる行為は下請法違反となる恐れがあります。
例えば、発注元の都合で「やはりデザインを変更してほしい」と指示し、変更に伴ってかかった追加費用を受託者に負担させる行為が挙げられます。
発注時に取り決めた内容に従い、変更がある場合は新たに合意を取り直す必要があります。
親事業主が下請法に違反した場合の罰則
個人事業主であっても、親事業者が下請法に違反した場合は法的責任を問われます。
親事業者が、発注書面を交付する義務、取引記録の書類作成・保存義務に違反した場合、50万円以下の罰金が科されます。
また、事業の所管官庁 による親事業者に対する調査への報告拒否や虚偽報告、公正取引委員会などの立入調査の拒否または妨害も罰金を科されることがあります。
また、調査の結果、違反が発覚すると公正取引委員会から是正・勧告を受けることがあり、この是正・勧告に従わないと、課徴金の納付命令を受けることもあります。
個人事業主も下請法を理解してトラブルを防ごう
下請法は、親事業者による不当な取引を防ぐための法律で、受注者が個人事業主である場合も対象になります。2025年の法改正では、資金区分に加えて従業員数も判断基準に加わり、運送委託も対象取引に追加される予定です。
下請法の対象となる場合、親事業者にはさまざまな義務が発生し、違反すれば是正勧告を受けたり、罰金が科されることがあります。
こうしたリスクを防ぐためにも、個人事業主も法令を正しく理解し、適正な取引を行うことが重要です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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