- 作成日 : 2025年3月25日
株主総会の書面決議とは?要件や手順・議事録の保管について解説
株主総会の書面決議(みなし決議)は、議決権を有する株主全員が同意書面に記名することで、株主総会を開かずに決議を成立させる仕組みです。会社法上認められている合理的な決議手段として注目されており、株主総会の開催や株主への招集手続を省略できるメリットがあります。
本記事では、書面決議(みなし決議)について詳しく解説します。
目次
株主総会の書面決議とは
株主総会の書面決議とは、会社法第319条に基づき、株主全員が同意の意思を正面または電磁的記録で示した場合に限り、実際に株主総会を開催することなく決議を行う方法を指します。
株主の招集と株主総会の開催を省略できる
一般的に株主総会を行う場合、招集通知の発行や開催日時・場所の設定など、多くの準備を行わなければなりません。
しかし書面決議を用いると、株主総会を実際に招集することなく議案を正式に可決することが可能です。全株主が同意したことを証明する書面もしくは電磁的記録が必要になりますが、株主総会の日程や場所の確保など、準備作業を行う必要がありません。
株主の所在が遠方であっても書面の回収をもって手続きを進められるため、合理化・効率化に役立ちます。
書面決議とみなし決議は同じ意味
書面決議は、「みなし決議」という呼び方をされることもあります。いずれも会社法第319条の制度を指しており、内容は同一です。
株主総会の書面決議を行うメリット・デメリット
株主総会の書面決議は、株主総会を円滑に運営するうえで有効な手段ではありますが、注意しておくべき点も存在します。以下では、メリットとデメリットを整理して解説します。
メリット
株主総会の書面決議のメリットとしては、以下の3つが挙げられます。
招集手続の省略による効率化
株主総会を実際に開催する場合、株主を招集するための通知や、会場設営、当日の進行など、さまざまな準備が必要です。書面決議では、全株主の同意が得られればこれらを一括して省略できるため、準備にかかる時間やコストを抑えられます。
株主全員の意見集約が容易
株主が日本全国あるいは海外に分散している場合でも、書面(電子署名含む)による同意を取得することで決議が成立します。物理的な移動や日程調整に煩わされることなく、迅速に株主の賛否を確認できる点は大きなメリットです。
意思決定のスピード化
株主総会は年に一度開催する定時株主総会のほか、必要に応じて臨時株主総会を開催できますが、いずれも一定の手間や時間がかかります。緊急で決議すべき事項がある際、書面決議によって全株主の賛同が得られれば、スピード感をもって会社としての方針を決定できます。
デメリット
次に、デメリットについて見ていきましょう。
全株主の同意が必須
書面決議を有効に成立させるためには、議題ごとに「全株主の同意」が必要です。たとえ反対の株主が1名だけであったとしても、書面決議は成立しません。そのため、株主が複数いて意見を集約しづらい場合には、書面決議が使いにくくなる可能性があります。
コミュニケーションの機会がなくなる恐れ
書面決議では、株主同士が一堂に会して議論する場面が省略されます。少数株主が会社の方向性に異議を唱えたくても、書面のみで意見を述べることになるため、実質的には意思疎通が十分になされないリスクがあります。これを避けるには、別途コミュニケーションの機会を設けるなどの配慮が必要です。
提出書類・証拠資料の手間
書面決議を行う場合には、全株主分の同意書面を取り寄せる必要があり、その署名・押印が正しく行われているかの確認も怠れません。株主数が多い会社ほど、必要書類の管理やチェック作業が煩雑になりやすい点は注意が必要です。
株主総会の書面決議が行われるケース
上記のメリット・デメリットを踏まえると、書面決議が特に選ばれやすいのは、次のような状況です。
- 株主が少数で意思決定を迅速にまとめたい場合
- 物理的な距離や時間的制約が大きい場合
- 緊急性の高い議案がある場合
以下で、詳しく見ていきましょう。
株主が少数で意思決定を迅速にまとめたい場合
家族や親族のみで構成されている会社など、株主の数が少なく株主間の意思疎通がスムーズに図れる場合は、全株主の同意を得やすく、書面決議によるメリットを最大限享受できるでしょう。
物理的な距離や時間的制約が大きい場合
海外の異なるタイムゾーンにいる株主や、国内でも遠隔地に居住している株主は株主総会への参加が難しいケースも少なくありません。そういった場合には、株主全員から同意書面を取り寄せる方法が合理的といえます。
緊急性の高い議案がある場合
経営方針の大幅な転換や資金調達など、早急に決定したい議題がある場合にも、株主総会の招集手続を省略し、書面決議を活用することが検討されます。ただし、緊急だからといって、要件を満たさない形で書面決議を進めてしまうと、後々無効を主張されるリスクがある点には注意が必要です。
株主総会の書面決議を行うための要件
株主総会の書面決議は、会社法第319条に規定があり、「取締役もしくは株主による決議事項の提案」と、「株主全員が書面(電子的記録を含む)で同意すること」が要件です。
書面決議は「対象となる議案に対し全株主が賛成する」ことが前提となります。1名でも反対株主がいる場合は、その議案については書面決議が成立しません。複数の議案がある場合には、それぞれの議案について全株主の同意が必要です。
なお、書面決議の対象は規定されていないため。定時株主総会のほか、臨時株主総会、特別決議などにも適用できます。
株主総会の書面決議を行う手順
書面決議を行う場合の流れを、取締役が議題を提案する場合と株主が対案する場合に分けて紹介します。
取締役・取締役会が議題を提案する場合
取締役や取締役会が議題を提案する場合は、以下の流れが一般的です。
議案の策定
取締役、または取締役会で決議を要する議題を策定します。
株主全員に書面決議を提案する案内を行う
書面決議の対象となる議案の内容、また書面決議を行う旨を株主総会参加権のある株主に通知します。
議案に対する同意書面(あるいは電子的手段による同意)を回収する
株主は、各議案に賛成か反対かの意思表示をします。全株主が同意する必要があるため、反対や未回答の株主がいる場合、書面決議は成立しません。
同意が得られた場合の決議成立
全株主の同意書面がそろった時点で、各議案について正式な決議が成立します。会社法上、株主総会で可決されたのと同じ効力を有します。
議事録および同意書面の保管
書面決議が成立した場合には、その旨を記録した議事録を作成するとともに、同意書面を法定の期間保管します。取締役会設置会社の場合は、株主総会議事録だけでなく、取締役会に報告が必要なケースもあるため確認しましょう。
株主が議題を提案する場合
株主が議題を提案する場合は、以下の流れになります。
株主による議案の作成
株主提案権を持つ株主が、書面決議に付すべき議案を作成します。会社法上、一定の要件を満たした株主は株主総会の議題提案権を行使できますが、書面決議の場合も同様に議題を提案することが可能です。
提案の通知を会社(取締役・取締役会)に行う
株主は提案したい議案を、取締役・取締役会を通じて他の株主にも提示できるよう、会社に通知します。会社側は適切な手続きを踏み、株主全員へ提案内容を周知する手配をしなければなりません。
全株主への周知および同意書面の取り寄せ
取締役・取締役会が提案を受理したら、他の株主に対して議案内容を説明し、書面決議の手続きを進めます。反対株主が出た場合や未回答株主がいる場合には決議が成立しません。
書面決議の成立と議事録・同意書面の保管
最終的に全株主の同意が得られれば、書面決議による決議が成立します。その後の議事録作成や同意書面の保管は、会社側が行います。
株主総会の書面決議の議事録と同意書面の保管
書面決議が成立した場合、実際の株主総会が開催されていなくても「株主総会議事録」は作成しなければなりません。また、同意書面も適切に保管する必要があります。
議事録の作成義務
書面決議の場合も、どのような議案が提出され、どのように全株主が同意したのかを記録した議事録を作成します。通常の株主総会と同様に、作成者・取締役の署名(または記名押印)などを行うことで、正式な文書として扱われます。
同意書面の保管義務
書面決議の根拠となる「同意書面」についても保管義務があります。会社法では株主総会議事録を「本店に10年間、支店に5年間備え置くこと」が定められており(会社法第318条など)、書面決議における同意書面についても、少なくとも議事録と同様に10年間保管することが推奨されます。
電子保存の場合
書面決議で株主が電子的に署名した場合、そのデータを適切な形式で保管する必要があります。電子契約サービスを利用する場合でも、後から内容が改ざんされた疑いを生じさせないために、電子署名やタイムスタンプを利用するなど、証拠力を確保する手段を講じましょう。
紛失や漏洩リスクへの備え
書類・電子データともに、紛失や漏洩といったリスク管理は不可欠です。書面を紙で保管するなら施錠したキャビネットに保管し、電子データであればパスワード設定やバックアップなどのセキュリティ対策を行うことが望ましいでしょう。
株主総会の書面決議を円滑に活用するために
書面決議を適切に利用できれば、会社運営のスピードや効率は格段に向上します。反面、少数意見の取りこぼしや手続き上の不備によるリスクを回避するため、取締役会や株主とのコミュニケーションを十分に図り、最新の法改正状況も追いかけていくことが欠かせません。
いつでも法令を確認し、必要に応じて専門家に相談することで、会社にとって最善の形で意思決定を行ってください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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