- 作成日 : 2025年3月24日
普通解雇の通知とは?流れや例文、テンプレート、リスクを解説
普通解雇の通知は従業員を解雇するときに行う手続きです。法令に基づく予告期間にも配慮して通知を行うことが大事で、従業員とトラブルにならないように気を付けましょう。そのために知っておきたい知識、通知の方法などを本記事で解説します。
目次
普通解雇の通知は義務?
普通解雇における通知は法律で定められた義務です。普通解雇を行う場合、使用者は以下の点に注意して従業員へ通知をする必要があります。
※普通解雇とは労働者が職務を遂行できないこと理由とする解雇であり、「勤務成績が著しく悪く指導を行っても改善の見込みがない」「健康上の理由で長期にわたり職場への復帰が見込めない」「著しく協調性がなく業務に支障が生じており改善の見込みがない」などの理由がある場合の解雇を指す。
普通解雇の通知はいつまでに行う?
普通解雇の通知は、労働基準法に基づいて、原則として解雇日の30日前までに行う必要があります。
使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
もし30日以上前に予告せず解雇をするなら、30日に不足する日数分につき平均賃金を「解雇予告手当」として支払わないといけません。
ただし、以下の場合にはその解雇予告のルールが適用されません。
- 日雇い労働者
※1ヵ月を超えて継続的に雇用されている場合は予告の対象になる。 - 2ヵ月以内の有期労働者
※契約期間を超えて雇用されている場合は予告の対象になる。 - 季節的業務のため4ヵ月以内の期間で働く労働者
※契約期間を超えて雇用されている場合は予告の対象になる。 - 使用期間中の労働者
※14日を超えて雇用されている場合は予告の対象になる。
普通解雇は会社都合か自己都合か
普通解雇は、「会社側の判断に基づいて一方的に雇用契約が終了させられる」「従業員の意思とは関係なく退職を余儀なくされる」という特徴を持つことから、会社都合として扱われます。
そのため、上記解雇予告のルールが適用され、失業給付金に関しても自己都合退職と比べて受給条件が有利になるという点でも影響が出てきます。
普通解雇予告通知書と普通解雇通知書の違い
「普通解雇予告通知書」と「普通解雇通知書」は、区別せず使われることもありますが、予告がなされるかどうかという点に着目すれば、次のように違いを整理することができます。
- 普通解雇予告通知書はその名の通り予告をするための文書であり、通常は解雇日の30日前までに交付が行われる。目的は、従業員に解雇の事実を前もって知らせること、準備期間を与えることにある。
- 予告を伴わない普通解雇通知書は解雇そのものの通知であるため、即日解雇の際などに交付が行われる。解雇予告を本来要するケースであれば、解雇予告手当についても言及される。
普通解雇ができる要件
普通解雇を有効に行うためには、複数の法的要件を満たす必要があります。これらの要件は、労働者の権利を保護し、不当な解雇を防ぐために設けられています。主な要件として、就業規則に基づいた解雇事由の存在、社会通念上の相当性、そして解雇予告の実施が挙げられます。これらの要件を詳細に見ていきましょう。
就業規則に基づいた解雇事由
就業規則に具体的な解雇事由を明記することで、従業員は解雇の可能性について予期することができ、会社の言い分に正当性があることも主張しやすくなります。
例として、以下のように定めます。
- 「身体または精神の障害により、業務に耐えられないと認めるとき」
- 「勤務成績が不良で、就業に不適格であると認められるとき」
- 「試用期間中または試用期間満了時までに従業員として不適格であると認められたとき」
- 「服務規律にしばしば違反し、改善の見込みがないとき」 など
これらの事由はあくまで一例であり、各企業の実情に応じて適切な解雇事由を定める必要があります。また、就業規則に記載があるだけで解雇の正当性は担保されるわけではないため、注意してください。
社会通念上相当であること
労働契約法には次のように規定が置かれています。仮に就業規則で解雇事由が明記されていたとしても、その内容が社会通念に照らし相当とはいえないのであれば、解雇は無効となってしまいます。
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
社会通念上相当であるかどうかは、以下のようなさまざまな観点から判断されます。
- 解雇に至るまでの経緯(会社から従業員に対し適切な指導や警告を行っていたか)
- 解雇回避の努力(配置転換や降格など、解雇以外の解決策を検討したか)
- 従業員側の事情(従業員の年齢や勤続年数、家族状況などを考慮したか)
- ほかの従業員との均衡(同様の状況にあるほかの従業員との取り扱いに差がないか)
例えば、能力不足を理由とする解雇の場合でも、単に業務遂行能力が低いというだけで即座に解雇すべきではありません。まずは適切な指導や教育を行い、それでもなお改善が見られないこと、他部署への配置転換も困難であること、などが必要となります。
解雇予告を行うこと
以上の要件に加え、上述の通り解雇予告を適切に行うことも忘れてはいけません。突然解雇を言い渡すのではなく、30日前までに予告を行う、または30日に足りない日数分につき平均賃金を支払う必要があります。
普通解雇に同意しない場合はどうする?
会社は従業員に解雇について言い渡すとき、解雇理由を明確かつ詳細に説明し、法的にも解雇に正当性があることを丁寧に伝えましょう。そして、なかなか従業員からの同意が得られない場合でもできる限り対話を重視し、円満な解決を目指すべきです。
普通解雇としての法的要件を満たしていれば同意を得なくても解雇は可能ですが、十分な対話なく一方的に押し付ける形となってしまうと訴訟トラブルのリスクも高まってしまいます。
もし法的手続きに発展する可能性があるなら、早めに労働問題に精通した弁護士に相談しましょう。弁護士に適切な対応策を検討してもらいつつ、労働審判や訴訟に備えて解雇に至るまでの経緯や根拠となる資料を整理し、会社の正当性を主張できる準備をしておくことが重要です。
普通解雇にはどのようなリスクがある?
解雇は従業員にとって重大な問題であり、これが原因で会社にさまざまな問題が生じるおそれもあります。そのため、就業規則に定めた形式的な要件を満たしたからといって安易に普通解雇の決断を下すべきではありません。
解雇は会社にとっても以下のリスクをもたらします。
《普通解雇によるリスク》
- 不当解雇と主張される可能性がある
解雇の理由が不明確、手続きが不適切である場合、不当解雇と判断されるリスクがある。 - 訴訟を提起される可能性がある
解雇された従業員が解雇無効を訴えて裁判を起こす可能性があり、裁判への対応に負担がかかってしまう。 - 金銭的な損失
裁判に敗訴することで解雇日以降の未払い賃金の支払いが命じられ、大きな金銭的負担を負う危険性がある。 - 従業員の士気が下がる可能性がある
1人に対する解雇がほかの従業員にも不安を与えてモチベーションに影響する可能性がある。 - 企業イメージに影響する
解雇を頻繁に行っていると企業に対するイメージが悪化してしまう。
これらのリスクの存在を踏まえ、普通解雇は慎重に行いましょう。
普通解雇の通知書ひな形・テンプレート
労働条件に関する不利益変更の同意書をスムーズに作成するためには、ひな形(テンプレート)を利用するのが効果的です。契約書を1から作る必要がなくなり、契約手続きをスムーズに進められるでしょう。
ひな形は、そのまま使うのではなく、内容を確認して案件ごとにカスタマイズしましょう。内容を簡単に変更できる、ワード形式のひな形を選ぶのがおすすめです。
マネーフォワード クラウドでは、不利益変更の同意書のひな形・テンプレートを無料でダウンロードいただけます。適宜加筆修正して活用してください。
普通解雇の通知書に記載すべき内容
普通解雇の通知書には、以下の内容をわかりやすく記載しましょう。
- 解雇対象者の氏名
- 会社名および代表者名
- 解雇の意思表示
- 通知日
- 解雇日
- 解雇理由
解雇理由については具体的に記載し、従業員側がなぜ解雇されてしまったのかを理解できるようにします。このとき、解雇の根拠となった就業規則の条項も示しておくとよいです。
貴殿は令和〇年〇月〇日から当社を休職されており、令和〇年〇月〇日現在休職期間は〇年〇ヶ月となっております。当社就業規則第〇条においては、休職期間を〇年〇ヶ月とし、当該期間満了までに復職できない場合は解雇する旨定めております。
また、解雇予告手当の支払いが必要な場合には次のように記載して支払いを行う旨もはっきりと示しておきましょう。
労働基準法第20条の規定に基づき、30日分の平均賃金として、金○○円を円の解雇予告手当を、令和〇年〇月〇日に貴殿の銀行口座に振り込んでお支払いいたします。
普通解雇の通知書を作成する際のNGな書き方
解雇の通知書を作成するときは、理由や根拠も明示しましょう。具体性に欠ける書き方では従業員も納得できず、もめることになるかもしれません。また、具体的に書く場合でも主観的な評価に基づく表現はNGです。「態度が悪い。」「やる気が感じられない。」といった感覚は受け取り手によっても異なるため、これを理由とする解雇では納得されにくいでしょう。
普通解雇の通知書を交わす流れ
普通解雇の通知書を交わす流れは、一般的な内容として次のように説明ができます。
- 解雇の方針について経営層や人事部門で検討する
- 当該従業員の具体的な問題点や指導履歴などを整理し、解雇理由を明確にする
- 解雇理由などを記載した解雇通知書を作成する
- 従業員に解雇通知書を渡すとともに解雇に関する説明を丁寧に行う
- 解雇予告手当の支払いが必要な場合にはその支払いを済ませる
また、退職後は離職票の作成・送付、社会保険の資格喪失手続き、源泉徴収票の交付なども進めましょう。従業員からの請求があったときには解雇理由証明書も交付します。
普通解雇の通知書の保管年数や電子化について
雇用や解雇に関する重要な書類については、労働基準法で5年間の保存義務が定められています。
使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を五年間保存しなければならない。
従業員が退職してからも5年間は残しておいて、もし労働基準監督署から書類の提示を求められたとしても見せることができるように保管しておきましょう。
なお、普通解雇の通知書については、必ずしも書面(紙)で行う必要はありません。電子メールにファイルを添付して送信するなど、電子的に行うことも可能です。
普通解雇に関するよくある質問
最後に、いくつか普通解雇に関してよくある疑問について言及していきます。
普通解雇の通知書に記載する解雇予告手当はどのように決めたらよい?
解雇予告手当の計算方法は法令により定められています。そのため各社が自由に設定していいものではありません。次の計算式に沿って具体的な金額を算出し、支払いましょう。
「平均賃金額」には、原則として過去3ヵ月間に支払った賃金の総額をその期間の総日数(暦日数)で除した金額が充てられます。その結果、もし平均賃金が1万円となり、予告期間が一切与えられていないとすれば、1万円×30日=30万円を支払う必要があります。
普通解雇で退職金の支払いは必要?
普通解雇の場合でも、自社で退職金制度を運用しているのなら、その規程に従って対象金を支払う必要があります。
もし、普通解雇をする従業員に対する退職金を通常より少なくしたいのであれば、前もって就業規則や退職金規程などのルールを変えておかないといけません。
試用期間中の普通解雇は可能?
試用期間中でも普通解雇は可能です。試用期間中は「解約権留保付労働契約」にあたり、会社側に雇用契約解除の権利が留保されているためです。とはいえ、試用期間中でも解雇が簡単にできるわけではありません。通常の労働契約に比べると広く解雇が認められやすいですが、労働法の適用は受けるため、正当な理由なく解雇していいことにはなりません。
適切な手順で普通解雇の通知をしよう
普通解雇の通知は慎重に行う必要があります。前提として解雇が正当なものでなくてはならず、従業員との面談を行い、事情を丁寧に説明することも必要です。また、解雇予告を30日前には行うか、解雇予告手当を支払うことが法令上求められています。
これらの手順を適切に踏むことが法的リスクを抑えるために欠かせないため、解雇を検討するときは労働法に十分気を付けましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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