- 更新日 : 2025年3月3日
貸金返還請求とは?流れや書き方、注意点をひな形つきで解説
貸金返還請求は、貸し付けたお金を返してもらうための手続きです。契約書などの証拠書類と合わせて請求することで、後々のトラブルを回避し、円滑に返済を促すことが可能となります。
本記事では、貸金返還請求の流れや関係書類の書き方、注意点を詳しく解説します。
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目次
貸金返還請求とは?
貸金返還請求(かしきんへんかんせいきゅう)とは、金銭消費貸借契約に基づいて貸し付けたお金を返してもらうために行う法的な請求手続きです。
金銭消費貸借契約の成立には、以下の4要件が必要です(民法587条)。
- 返還約束の合意
- 金銭の現実の交付
- 弁済期の合意
- 弁済期の到来
ただし、親戚や知人間での金銭の貸し借りの場合、契約書や借用書がないケースもあります。
資金の貸し借りが発生した場合、返済期限が到来しても支払いが行われない場合には、まず口頭やメール等で返済を催促するのが一般的です。しかし、それでも返済に応じない場合は、書面を用いて明確に貸金の返還を請求することになります。
貸金返還請求に時効はある?
貸金返還請求には、民法が定める消滅時効が存在します。債権(=お金を請求する権利)の一般的な消滅時効は「権利を行使することができることを知った時から5年」もしくは「債権発生時から10年」のいずれか早い方とされています。ただし、令和2年3月31日以前の商事債権(法人間取引など商行為から生じる債権)の場合は、5年間とされるのが原則です。
そのため、「貸したお金を返してもらえない」と気づいたら、なるべく早めに請求手続きを進める必要があります。時効が成立してしまうと、原則として裁判所に訴えても回収が困難になるため注意しましょう。
参考:e-Gov法令検索 民法
貸金返還請求をするケース
企業活動において貸金返還請求が発生するケースは多岐にわたります。特に重要なのは、各ケースにおける法的要件と手続きの違いを理解することです。
以下に、主要なケースを解説します。
取引先や子会社への貸付金
企業間の資金融通として最も一般的なケースです。金融商品取引法や会社法の規制に従い、適切な社内承認手続きと契約書の作成が必須となります。特に子会社への貸付は、株主代表訴訟のリスクも考慮する必要があります。
役員貸付金
会社法上の利益相反取引として、取締役会の承認が必要となるケースです。役員への貸付は税務上も注視される取引であり、適切な金利設定と返済計画の策定が重要です。未返済の場合、役員給与として認定される可能性もあります。
従業員への立替経費の精算
就業規則や経理規程に基づく通常の経理処理の範疇ですが、退職時に未精算金が残る場合は貸金返還請求として処理する必要が生じます。労働債権との相殺も考慮すべき重要な論点となります。
親族や知人に貸した資金
親戚や友人などにお金を返したけれど返ってこない、という個人間のケースです。
いずれのケースにおいても、まず口頭やメール等で任意の支払いを催促したうえで、必要に応じて貸金返還請求書を発行し、相手方に書面で返済を促すことが大切です。
参考:e-Gov法令検索 金融商品取引法
参考:e-Gov法令検索 会社法
貸金返還請求をする流れ
貸金返還請求を進める際には、以下の5つの段階を踏むことで、手続き全体を明確にし、トラブルの発生を未然に防げます。以下で、段階ごとの詳細を解説します。
1. 事実関係の整理
はじめに貸付契約に関する証拠書類(貸金契約書、金銭消費貸借契約書など)の有無を確認し、貸付金額、貸付日時、返済期限などの基本情報を整理します。
また、すでに一部返済がなされている場合は、その金額や返済日も正確に記録しておくことが重要です。この確認によって後の手続きで主張すべき根拠が明確になり、請求の正当性を裏付ける証拠になります。
2. 口頭やメールで返済督促
次は、口頭やメールなどで穏便に返済を促す段階です。直接の連絡で返済の意思確認を行うことで、誤解や不必要なトラブルを回避できます。ここでは、返済に関する交渉の余地を残し、相手との信頼関係を損なわないように丁寧に対応することが求められます。
3. 貸金返還請求書の作成・送付
それでも返済が進まない場合、正式な手続きとして貸金返還請求書を作成し、送付します。請求書には、貸付の経緯、金額、返済期限、振込先口座など必要事項を明確に記載する必要があります。
証拠保全のために、内容証明郵便や書留郵便など、送付履歴が証明できる方法で相手に届けるようにしましょう。
4. 交渉・和解または法的手続きの検討
相手が正式な請求書を送付しても応じない場合は、交渉の場を設けるか、和解契約書を取り交わす、分割払いなどの合意形成を試みます。
万一、交渉が成立しない場合には、訴訟等の法的手続きに移行することを検討しましょう。この段階では、法務担当者や専門家(弁護士、司法書士)の助言を得ながら、最適な解決策を模索することが大切です。
5. 回収手段の実施
法的手続きである訴訟において勝訴判決が得られた場合は、強制執行などの回収手段を講じる段階に移ります。
裁判所の判断に基づき回収手段を実施することで、貸金の回収を確実なものにします。また、必要に応じて弁護士や司法書士との連携を強化し、実効性の高い手続きを進めることが重要です。
それぞれの段階で適切な書類を整備し、証拠を確保しながら進めるよう意識しましょう。
貸金返還請求書のひな形・例文
貸金返還請求書は、相手方に「返済義務が存在する」ことを明確に知らせ、正式な書面として督促するために作成します。本記事では、以下2種類のひな形を紹介します。それぞれの場面に応じてダウンロード・編集してご利用ください。
相続人への貸金返還請求書テンプレート
本テンプレートは、被相続人が生前に抱えていた借入金に関し、相続開始とともにその返済義務が相続人に引き継がれるケースで使用するものです。
被相続人と貸主との間で有効な借入契約が成立していた場合、債務は相続により相続人に承継されます。
貸金返還請求における和解契約書テンプレート
貸金返還について相手方と協議を行い、一括返済が難しい場合の分割払いや利息調整などを合意する際に利用するひな形です。法的な効力をもつ和解契約書を取り交わすことで、後日トラブルが発生しても合意内容を基に請求できる利点があります。
貸金返還請求書に記載すべき内容や書き方
貸金返還請求書には何をどのように記載するべきか、またどういった注意点があるかを見ていきましょう。
1. タイトル及び基本情報の明記
請求書の冒頭には、必ず「貸金返還請求書」や「貸金返還請求」など、書類の性質が一目でわかるタイトルを記載します。
また、以下の基本情報も明確に記載する必要があります。
- 債権者の情報
- 会社名:○○株式会社
- 住所:〒123-4567 東京都○○区○○町1-2-3
- 代表者名:山田太郎
- 債務者の情報
- 氏名(または会社名):△△株式会社
- 住所:〒765-4321 東京都△△区△△町4-5-6
- 連絡先電話番号やメールアドレス
これらの情報は、後日のトラブル防止や証拠保全のために非常に重要です。特に、相続人への請求の場合は、相続人の氏名や連絡先を正確に記載する必要があります。
2. 貸付契約の成立と経緯の記載
貸付契約がどのように成立したか、契約書の有無や契約締結日、借入の目的などを具体的に記載します。
たとえば、以下のような文言が考えられます。
- 契約成立の事実
例:「令和○年○月○日に、○○株式会社との間で金銭消費貸借契約を締結し、○○万円を貸し付けました。」 - 契約書の有無とその内容
例:「貸付契約書(または金銭消費貸借契約書)に基づき、返済条件や利息について明記されています。」
特に相続人への請求の場合は、被相続人が生前に締結した契約の内容が、相続によって相続人に承継される旨を補足するとよいでしょう。
3. 貸付金額及び返済条件の詳細
請求書には、貸付金額、返済期限、利息、遅延損害金など、返済に関する具体的な条件を明示します。具体例は以下のとおりです。
- 貸付金額と返済期限
例:「貸付金額:○○万円、返済期限:令和○年○月○日まで」 - 利息や遅延損害金の条件
例:「年利△%に基づく利息を付し、返済期限を過ぎた場合は年△%の遅延損害金が発生します。」
このように数値や条件を明確に記載し、相手方に対して返済義務の明確な根拠を提示しなければなりません。
4. 請求内容の明示と支払い方法の記載
請求内容を明確にするために、返済の請求文言とともに、具体的な支払い方法や振込先情報を記載します。
- 請求文言
例:「下記の口座へ、○○円を令和○年○月○日までにご入金くださいますようお願い申し上げます。」 - 振込先の情報
例:- 銀行名:○○銀行
- 支店名:△△支店
- 口座番号:1234567
- 口座名義:カ)○○
相手方に対して不明点を残さず、確実な支払いを促すことが大切です。
5. 期限未達時の対応と警告事項の記載
返済期限までに返済が行われなかった場合の対応策も、記載しておかなければなりません。これは、交渉段階でのプレッシャーとなり、法的措置の準備としても必要です。
- 法的措置への移行
例:「指定期日までにお支払いがない場合は、法的手続に移行することも検討いたします。」 - その他の注意事項
例:「本書面は内容証明郵便にて送付しております。なお、本請求に関してご不明点等がございましたら、速やかにご連絡くださいますようお願い申し上げます。」
相続人への請求の場合でも、同様に不履行時の対応策を明示し、後日のトラブル防止につなげることが求められます。
6. 署名・押印及び日付の記載
最後に、作成日と債権者(または相続人)の署名・押印を必ず記載します。これは、書類の正式性を担保するために不可欠な要素です。
- 日付の記載
例:「令和○年○月○日」 - 署名・押印
例:「(債権者の署名または会社印)」または「(相続人の署名・押印)」
これらの項目は、請求書としての法的効力を確保するため、必ず記入してください。
貸金返還請求書を作成する際の注意点
貸金返還請求書作成時に特に注意すべきポイントとしては、以下が挙げられます。
- 契約書・証拠の有無を確認
- 印紙税・会社印の扱い
- 相手方とのコミュニケーション
それぞれ、詳しく見ていきましょう。
契約書・証拠の有無を確認
貸金返還請求を行う際、証拠となる契約書や金銭消費貸借契約書が存在するかの確認は極めて重要です。契約書があると、貸付金額や返済期日などを明確に示せるため、交渉を有利に進めることができます。契約書がない場合でも、振込記録やメールのやり取り、領収書など、証拠となりうる書類やデータを用意しましょう。
印紙税・会社印の扱い
「請求書」は原則として課税文書に該当しないことが多いですが、和解契約書を交わす場合、和解金の代わりに不動産を譲渡するケースなどで印紙税がかかることがあります。
最新の印紙税法令を確認し、必要に応じて印紙を貼付しましょう。会社として押印する場合は、社印(代表者印)の使用が妥当かどうか、社内ルールに沿って判断してください。
相手方とのコミュニケーション
請求書を送付する前後で、相手方と交渉を行うことも少なくありません。一方的に書類だけ送るのではなく、合意形成の可能性を探ることも重要です。場合によっては、分割払いの提案や返済期限の再調整でスムーズに解決することもあります。相手方が一度に全額返済できない事情がある場合は、和解契約書で条件を定めると良いでしょう。
貸金返還請求書は内容証明郵便を利用
貸金返還請求書を送付する際は、配達証明付内容証明郵便を利用することが推奨されます。内容証明郵便とは、「どのような文書を、誰が誰宛に、いつ差し出したか」を郵便局が証明してくれる制度です。送付した事実のほか、配達証明を付けることにより受け取った事実が客観的な証拠として残るため、相手方が「受け取っていない」「内容を知らない」と主張するリスクを下げられます。
内容証明郵便の送り方は、以下のとおりです。
- 書類を3部作成:相手方送付用1部、郵便局保管用1部、差出人(自社)保管用1部
- 文書に押印(任意)
- 郵便局の窓口で手続き:内容証明郵便用の差出様式を確認して提出
- 料金を支払う
料金は郵便基本料金に一般書留に配達証明を付けた加算料金、内容証明の加算料金の合計です。
文書に誤りがあった場合は、二重線や訂正印を用いて明確に訂正し、改ざんが疑われないように注意しましょう。書面の作成に不安がある場合やトラブルのリスクを最小限に抑えたい場合は、弁護士や司法書士などの専門家にチェックや作成の依頼を検討することをおすすめします。
貸金返還請求書の保管期間、保管方法
貸金返還請求書は、後日のトラブルや訴訟時の重要な証拠となるため、適切な管理が必要です。
保管期間
貸金返還請求書は、後日のトラブルや訴訟時の重要な証拠となるため、適切な管理が不可欠です。法人の場合、基本的な保管期間は7年間、個人の場合は5年間です。
ただし、訴訟などに発展する可能性がある場合、請求書は証拠書類としての価値が高まるため保管期限を過ぎる場合でも訴訟が完結し、返済が終了するまでは保管するようにしましょう。
保管方法
紙の請求書の場合、施錠可能なキャビネットでの保管が基本です。取引の規模に応じて、取引先別や月別に整理することで、必要な書類をすぐに取り出せる状態を維持することが重要です。また、原本の紛失リスクに備え、コピーを併せて保管することも推奨されます。
貸金返還請求書の電子化は可能?
貸金返還請求書は電子化が禁止されている、または「書面で」などの定めがない書類であるため、要件を満たせば電子化自体は可能です。
ただし契約書類の法的効力や相手方との合意方法が適切に行われているかなど、事前に確認すべき事項がいくつかあります。
電子化する際には、以下の点を押さえておきましょう。
- 電子署名の付与
- データの改ざん防止措置を行うこと(タイムスタンプの付与)
- 保存したデータを税務署の求めに応じて速やかに提示できるように、検索機能を確保すること
- 相手方との同意(拒否した場合は紙の書類の送付)
ただし実務上、貸金返還請求書を電子化してメールで送付しても、相手方が「受領していない」と主張するリスクが残るため、内容証明郵便に比べて証拠力は弱まります。トラブルを防ぐためにも、重要な書面は紙媒体で正式送付しておくほうが安心といえるでしょう。
参考:国税庁 電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】(令和6年6月)
参考:電子帳簿保存法対応!令和6年1月以降の電子取引データの保存方法について(令和6年11月)
貸金返還請求を適切に進め、確実な回収につなげよう
貸金返還請求は、企業の法務担当者にとって日常的に起こりうる業務のひとつであり、適切な書類作成と手順の遵守が非常に大切です。特に、請求書の文面や送付方法が不十分であると、時効が成立してしまう可能性や、後々の裁判で不利になるリスクがあります。法務部門としては、いつでも証拠を提示できるよう、契約書やメール記録などを十分に保管し、書類のレビューやポイントを押さえて確実な対応を行うことが求められます。
また、法令は随時改正される可能性があるため、民法や電子帳簿保存法、印紙税法などの最新情報を常に確認しておくことが求められます。貸金返還請求についての流れや注意点を把握したうえで、企業リスクを最小化しながら確実に貸金を回収する仕組みを整備するようにしてください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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