- 更新日 : 2025年9月5日
一人親方の常用契約書とは?請負契約書との違いや偽装請負の回避方法を解説
「一人親方」は建設業上の個人事業主の呼称です。一人親方が報酬を得る手段として「請負契約」でなく「常用契約」を交わすのは違法なだけでなく、自身が不利益を被る恐れがあります。
この記事では、請負契約と常用契約の違い、なぜ一人親方の常用契約は違法なのか、「偽装請負」をどう回避するかなどにつき、詳しく解説します。
目次
一人親方の常用契約書とは
そもそも常用契約とは
「常用契約」とは、使用者と労働者間で、規定時間内になされた一定の労働に対し、報酬が支払われることを約する契約方式のことです。建設業における有期雇用契約(派遣)のようなもので、建設作業員は雇い主から、1人工(にんく・作業員一名が一日働いた労働力の単位)に応じた労務費のみを受け取ることになります。
「常用」は継続して使用するという意味で一般的に使われる言葉ですが、常用「契約」となると建設業関係者以外には馴染みのない言葉かもしれません。
常用契約書と請負契約書の違い
一人親方が結ぶ建設工事の種類は、原則として注文者から直接工事の依頼を受ける「元請」と、元請業者が請け負った工事の一部または全部を別の建設業者に依頼する「下請」の2つで、いずれも形式としては「請負契約(民法第632条)」になります。
請負とは、ある一定の仕事をすることを請負側が、その仕事の完成により注文者が報酬を支払うことをそれぞれ約する内容の契約をいいます。建設業においては「〇〇の工事を〇〇円で、〇日までに完了する」ことの約束となります。請負側は期間内に工事を完成させるための仕事の手順や人員の配置などを自身で決め、工事にかかる人件費や材料費その他の経費も全てこちらが手配するなど、専門家として一定の裁量が認められます。
一方常用契約は先述したように、請負契約のような裁量や決定権はなく、雇い主から指定された建設労務を行えば、工事の完成とは無関係で報酬がもらえます。
つまり、請負契約では相手方に「工事の完成」に対する責任を負い、常用契約では「一定の労務を行う」ことに責任を負うところに違いがあるのです。
建設業では一人親方の常用契約が違法とされている
一人親方は、建設業務を請負で行うのが原則です。一人親方はあくまでも「事業主」であり、「労働者」ではないからです。
しかし、常用契約は雇用契約の一種ですから、一人親方相手だと事業主を労働者として雇うことになってしまい、矛盾が生じます。そのため、派遣という形で働くことになってしまうのですが、労働者派遣法は、不安定な雇用を防ぐため建設の現場作業での労働者派遣を禁じて(第4条)いるので、一人親方との常用契約は違法となるのです。
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一人親方が常用契約書に署名すると偽装請負になる
偽装請負とは?
偽装請負とは、建設工事において一人親方が、形式的には発注者との請負契約を締結していながら、実質として常用契約の形態、すなわち一派遣労働者として働く内容となっていることをいいます。偽装請負は、請負では生じないはずの発注者(建設会社)と下請間の指示命令関係が生じてしまい、一人親方は形式上の発注者(実態は雇い主)の指示により業務を行い、勤務時間や勤務日も全て「発注者」に管理されるパターンが多くなります。いわば労働者派遣法違反を逃れるための脱法行為なのです。
偽装請負によるリスク
偽装請負は、以下のようにさまざまなリスクを生み出します。
- 保険の適用外になる
実態がどうであっても「請負」契約であれば、発注者との間に雇用関係がないため、雇用保険や厚生年金などの社会保険の加入義務が生じません。発注者は保険額を節約できますが、一人親方は適用されるべき失業保険が対象外となったり、年金額が少なくなったりというデメリットが生じます。
- 労働基準法が適用されない
偽装請負は形式上雇用関係にないため、労働者を保護する法令の対象外となります。雇用契約で必須である時間外労働や有休や休日の規定がなく、どれだけ残業しても手当はつきません。また、解雇要件の提示もないため、いつでも契約を打ち切られてしまいます。
- 法的処罰の対象となる
偽装請負が実質労働者派遣に該当するとされれば処罰対象となります。発注者、一人親方双方に最高で「1年以下の懲役または10万円以下の罰金」が科せられます(職業安定法第67条)。発注者はさらに労働基準法違反として処罰される恐れもあります。
- 会社の評価が下がる
法規違反とされれば、発注者である建設会社は行政指導の対象となります。悪質な場合は公表措置となることもあり、会社としての悪評価は避けられないところでしょう。
このように、偽装請負は一人親方だけでなく発注者にも大変リスクのある行為です。目先の利益にとらわれず、必ず内容の伴った請負契約を締結するようにしましょう。
一人親方が常用契約書と請負契約書を見分けるポイント
一人親方は建設の専門家であり、契約書等法務関係についてあまり詳しくないかもしれません。そのためうっかり「請負契約書」と銘打ちつつ実質は常用契約である契約書にサインしてしまう恐れがあります。元請けとの契約書は、必ず以下の点を確認しましょう。
指揮命令関係がないか
「発注者は、作業に関する指示を受注者に対して行うことができる」
「受注者は、当該指示に従い作業を行わなければならない」
このような文言が契約書にないかチェックしましょう。
正しい請負契約であれば、受注者は作業完了に必要な一切の手段を、自身の責任で定められるはずだからです。
一見現場責任を一人親方側に設置しているようでも、勤務時間を管理されていたり、発注者の指示がなければ動けなかったりするのであれば、それは請負契約と呼べません。
報酬の支払方法はどうか
受注者に支払われる報酬の計算単位が時間給や日給になっていないでしょうか。請負は契約で決められた仕事の完了に対して、決められた報酬を受け取るものでなければなりません。
材料の準備は誰が行うか
工事に必要な材料を、発注者が受注者に支給する、場合によっては作業器具などの物品も全て発注者側が貸与するという内容の契約は、請負とは呼べません。
この他、発注者の勤務規則の適用があるかなども判断基準の一つとなります。
偽装請負の問題として、作業の仕方は常用であるにも関わらず、何かあったときの責任や損害賠償については、請負として受注者側の負担とする契約となっている場合があることが挙げられます。
自身が不利益を被らないよう、契約書はしっかり読み込みましょう。そして、おかしいと思えば元請けに問い合わせ、納得が行かなければ依頼を断ることも大切です。
一人親方の偽装請負は違法!契約書を必ず確認しよう
個人事業主である一人親方が、発注者と常用契約を交わすことは違法です。また「請負契約」となっていても内容が実質常用契約であれば偽装請負とされ、場合によっては処罰の対象となってしまいます。偽装請負は一人親方側に不利益な内容となっていることも多いため、契約は契約書を専門家に相談するなどして内容をしっかり確認してから締結するようにしましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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