- 作成日 : 2025年9月16日
下請法は資本金1億円の企業に適用される?2026年改正内容と対応策を解説
2026年1月に施行される改正下請法(略称:中小受託取引適正化法)は、資本金や従業員数に応じて適用範囲が大きく拡大され、中堅企業にも影響が及びます。中でも資本金1億円の企業は、発注者・受注者いずれの立場でも新たに下請法の規制対象や保護対象となる可能性があり、契約内容や社内体制の見直しが必要です。
本記事では、資本金1億円企業が押さえておくべき適用条件や改正内容、対応策を解説します。
なお、改正下請法施行により法令上の用語が「親事業者」は「委託事業者」に「下請事業者」は「中小受託事業者」に変更されます。記事内では、施行後の名称を利用しています。
目次
資本金1億円の会社に下請法は適用される?
資本金1億円の企業は、発注者としても受注者としても、取引相手の資本金規模や業務内容によって下請法の規制対象になる可能性があります。以下では、発注側(委託事業者)・受注側(中小受託事業者)それぞれの立場における適用条件を整理します。
資本金1億円は境界上に位置づけられる
資本金1億円という規模は、現行下請法の資本金区分(3億円/5,000万円/1,000万円)に基づき、取引類型ごとに適用範囲が異なり、発注者としては小規模企業への委託時、受注者としては大企業からの受託時に限って法律の枠内に入ります。
このため、資本金1億円の企業が下請法の対象になるかどうかは、取引の内容と相手企業の資本金額との組み合わせによって変わります。
資本金1億円企業が委託事業者となる場合の条件
資本金1億円の企業が発注側で下請法の規制を受ける範囲は取引類型で異なり、製造・修理・プログラム作成・運送/倉庫/情報処理では相手が1,000万円以下、デザイン等の情報成果物作成や一般役務では相手が5,000万円以下の場合です。
下請法では、委託事業者に該当するかどうかは、取引内容(製造委託・情報成果物作成委託など)に応じて資本金の上下関係で決まります。製造委託やプログラム開発などの「製造委託等」では、発注者が資本金1,000万円超〜3億円以下、受注者が1,000万円以下である場合に法律の適用対象になります。
このため、資本金1億円の企業が資本金500万円のソフトウェア企業や製造業者に発注を行う場合、その企業は委託事業者として下請法の義務を負います。一方、相手が5,000万円規模であればこの条件から外れるため、法律は適用されません。
また、役務提供やデザイン業務など「情報成果物作成委託」の一部では、発注者が資本金5,000万円超、受注者が5,000万円以下である場合に適用されます。
よって、資本金1億円の企業はこの基準にも該当する可能性があり、事前に取引類型ごとの基準を確認しておくことが重要です。
資本金1億円企業が中小受託事業者となる場合の条件
逆に、資本金1億円の企業が受注側となるケースでは、相手企業の資本金が3億円を超えていれば、受託者として下請法の保護対象に入ることがあります。
資本金50億円の大企業が1億円の企業に製品加工を発注する場合、委託側が明らかに大規模なため、中小受託事業者として法律の適用対象となります。このとき、発注者による不当な代金減額や支払遅延は下請法で規制されます。
一方で、情報成果物作成委託や一部の役務提供委託では、受注者の資本金が5,000万円を超えていると、たとえ相手が大企業でも保護対象とはなりません。たとえば資本金1億円の企業が資本金20億円のIT企業からWeb制作を受託しても、1億円は基準の5,000万円を超えているため適用外となるのです。
2026年の改正で下請法はどう変わる?
2026年1月に施行される改正下請法(略称:中小受託取引適正化法/取適法)は、これまで下請法の適用外だった取引にも広く網をかける方向で見直されました。資本金基準に加えて「従業員数基準」が導入されることで、形式的な中小企業の線引きがより実態に即したものになります。資本金1億円規模の企業にも影響が及ぶ可能性があります。
従業員数基準の導入で規制対象が拡大する
下請法の適用基準に、資本金だけでなく従業員数の要素が加わり、適用範囲が拡張されます。
改正法では、従来の資本金基準に加えて、委託事業者側(発注者)の「資本金または従業員数」、中小受託事業者側(受注者)の「資本金かつ従業員数」がそれぞれ基準とされます。製造委託等では、委託側が「資本金3億円超または従業員数300人超」、中小受託側が「資本金3億円以下かつ300人以下」と定められます。役務提供や一部の成果物委託では、委託側の基準が「資本金1,000万円超または従業員100人超」、受託側は「資本金1,000万円以下かつ従業員100人以下」となります。
この改正により、たとえば資本金が同じ1億円同士でも、委託側が300人超かつ受託側が300人以下(役務等は100人基準)の場合には下請法の適用対象になる可能性があります。中堅企業(資本金1億円前後)でも、従業員数によっては初めて規制対象となるケースが発生するため、法務対応が必要になります。
法律名・用語が変更される
2026年の改正では、法律名と主要な用語も大きく見直されます。
従来「下請代金支払遅延等防止法」として知られていた法律は、改正により「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」へと変更されます。略称は「中小受託取引適正化法」、通称「取適法」とされる見込みです。
あわせて、上下関係を想起させやすい「親事業者」「下請事業者」という呼称が、「委託事業者」「中小受託事業者」へと改められました。この変更は、実際の取引構造に即したフラットな関係性を反映させる意図によるものです。
企業の法務文書や社内の取引規程、契約書フォーマットなどで旧用語が使われている場合は、順次新用語に切り替えていく必要があります。
手形払いの原則禁止と価格交渉義務の明文化
改正法では、委託事業者が行う支払い手段についても規制が強化されます。
従来は慣例的に用いられていた約束手形が、原則として禁止され、下請代金の支払いは現金(例:銀行振込)で行うことが基本となります。手形払いは全面的に禁止され、さらに電子記録債権やファクタリング等も支払期日までに代金相当額を確実に現金化できない場合は認められなくなります。
また、価格交渉義務が明文化されたことにより、受注側(中小受託事業者)から価格見直しの申し入れがあった場合、委託事業者が協議を拒否する行為は違法とされます。協議に応じず一方的に据え置くことや、十分な説明をしないまま価格を決定することも、禁止行為に該当します。
これにより、委託事業者には価格交渉に対する社内対応フローの整備が求められます。調達担当が交渉を受けた際に、どのように社内決裁に回すか、どのような文書を残すかといった実務ルールの明確化が欠かせません。
形式上の中小企業装いが通用しなくなる
従来、一部の大企業では資本金を1,000万円以下に減資することで下請法の委託事業者規制を免れていたケースがありました。しかし、改正後は資本金または従業員数によっても委託事業者と見なされるようになるため、このような抜け道は事実上封じられます。
たとえば資本金800万円の企業であっても、従業員数が300人を超えていれば、製造委託等の場面で委託事業者とみなされ、下請法の義務を負う可能性があります。形式的な資本金操作だけでは、今後は規制逃れができなくなる点に注意が必要です。
中堅企業も改正対応が必須になる
今回の改正では、従来対象外だった中堅企業(資本金1億円・従業員100〜300人程度)も、従業員数基準によって初めて規制対象となる可能性があります。
企業はこの変更に備え、対象取引の洗い出しと契約・支払条件の見直し、関係部門への教育・社内体制の整備など、改正法への対応を早期に進める必要があります。従業員数を公的に把握できる体制や、下請企業との価格交渉記録の保存などが求められるでしょう。
資本金1億円企業は下請法改正へどう対応すべき?
2026年1月に施行される改正下請法(中小受託取引適正化法)では、従業員数基準の導入や手形払いの禁止、価格交渉ルールの新設などが盛り込まれ、資本金1億円の企業も多くの影響を受ける可能性があります。自社がどの立場にあるかを確認し、早めの対策が求められます。
適用対象となるかを洗い出す
資本金1億円の企業は、現行制度では中堅規模とされ、相手先企業の資本金が1,000万円以下の場合などに委託事業者として下請法が適用されます。しかし、2026年以降は従業員数基準が導入され、相手の資本金にかかわらず従業員数の違いによって適用対象になる取引が増えます。
たとえば、自社の従業員が300人を超え、取引先が300人以下であれば、同じ資本金1億円でも自社が委託事業者とされ、規制対象に該当する可能性があります。逆に、相手が大企業であれば、自社が中小受託事業者として保護される立場となることもあります。
まずは、自社と取引先の資本金・従業員数の組み合わせを洗い出し、該当しそうな関係を精査することが優先されます。
契約・支払条件の見直しを進める
下請法の適用が見込まれる取引があれば、契約書や支払条件を改正内容に沿って整備する必要があります。委託事業者としては、発注書面の交付(3条書面)や60日以内の代金支払義務、遅延利息の支払いなどが求められます。支払手段については、改正により手形払いが原則禁止となるため、現金または即時資金化可能な決済手段への切り替えが必要です。
また、銀行振込の手数料を中小受託事業者側に転嫁することも不当とされる可能性があります。支払サイトが60日を超えていないかもあわせて確認し、必要であれば契約条件の見直しを進めてください。
価格交渉ルールと社内体制を整える
改正法では、価格交渉への応じ方も法的義務となります。中小受託事業者から価格見直しの要請があった際、委託事業者は協議に応じなければならず、無視や一方的な拒否は違法行為とされます。資本金1億円の企業は、中堅企業であるがゆえに価格交渉の申出を受けやすい立場にあるため、対応フローや記録方法の整備が必要です。調達担当者が申し出を受けた場合の社内報告ルート、決裁の流れ、記録保管のルールなどを明文化し、現場で運用できる状態にしておくことが重要です。
コンプライアンスとガイドラインの確認も必須
対応にあたっては、公正取引委員会や中小企業庁が公表している改正法のガイドラインやQ&Aを確認し、自社の取引実務に即した内容を把握しておく必要があります。また、社内のコンプライアンス体制を見直し、社内規程や契約テンプレートの用語を改正後のもの(委託事業者・中小受託事業者)へ更新する準備も欠かせません。
社内書式・発注管理システムを改正下請法に適合させるための対応は?
2026年1月施行の改正下請法(略称:中小受託取引適正化法)では、契約書の記載内容や発注・支払の運用に対して、より厳格なルールが課されることになります。ここでは、改正法に対応するための書式変更や発注管理システムの見直しのポイントを解説します。
法的要件に対応した契約書・発注書の整備を進める
契約書や発注書の用語・記載項目が法改正に即していないと、形式的な違反リスクが生じます。
まず重要なのは、各種契約書類の見直しです。発注書(いわゆる「3条書面」)には、委託事業者・中小受託事業者の名称や業務内容、対価、支払期日などを正確に記載することが法的に義務づけられています。2026年の改正により、法律上の用語が「親事業者」「下請事業者」から「委託事業者」「中小受託事業者」へ変更されたため、社内で使われている定型書式やひな型もそれに合わせて表記を改める必要があります。
また、価格交渉義務の導入により、契約書に「価格改定条項」や「協議の手続き」を明示しておくことが望まれます。あらかじめ定めておくことで、後のトラブルを避けるだけでなく、価格交渉が誠実に行われたことの証拠にもなります。
発注・支払システムの改修で運用面の漏れを防ぐ
発注から支払までの業務プロセスがシステム的に整っていないと、法令違反のリスクが実務で発生します。
改正法では、手形払いの原則禁止や支払サイトの遵守(製造委託等は60日以内)といった実務要件がより明確になります。企業の発注・支払業務がExcelや紙ベースで運用されている場合、支払期日の超過や書面交付漏れといったリスクが顕在化しやすくなります。
そのため、ERPや購買管理システムなどのITツールに以下の機能が組み込まれているかを点検し、必要に応じて改修を検討する必要があります。
- 発注書面の自動発行・保存機能(電子交付含む)
- 支払期日と実際の支払日を自動で突合・管理できる仕組み
- 支払手段の現金化可能性(手形の全面禁止、電子記録債権やファクタリング等も現金化困難な設計は排除)の判定
- 価格改定・協議履歴の記録
こうしたシステム改修は、改正下請法への形式的な対応だけでなく、発注者と受注者双方にとってトラブルの予防や透明性の確保にもつながります。
資本金1億円企業は下請法改正への備えを怠らずに
2026年施行の改正下請法では、資本金だけでなく従業員数が新たな適用基準に加わることで、資本金1億円の企業にも広く影響が及ぶ可能性が出てきました。これまで対象外だった取引でも、委託事業者として新たに義務を負う、あるいは中小受託事業者として保護対象となる場面が増えます。手形払いの禁止、価格交渉義務の明文化、書面交付義務の強化など、法的要件が具体化された今、自社と取引先の規模条件を正しく把握し、契約やシステムの見直し、社内体制の整備を早急に進めることが不可欠です。中堅企業である資本金1億円規模の会社こそ、今回の法改正を実効性ある取引体制の見直し機会として捉え、健全なサプライチェーンの構築を目指しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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