• 作成日 : 2025年7月18日

契約書におけるバスケット条項とは?事例やメリット・デメリットを解説

契約書で見かける「その他これに付随する一切の業務」のような曖昧に見える表現、これらが「バスケット条項」です。包括的に契約をカバーする便利な一面と、解釈次第でトラブルの原因にもなり得るこの条項について、この記事では基本的な意味、使われ方、注意点を解説します。

バスケット条項とは?

バスケット条項とは、契約書で個別に列挙されていない事項や不測の事態を包括的に捉えるための条項です。「かご(バスケット)」のように様々なものを拾い上げる役割から、またはその性質から「包括条項」とも呼ばれます。主な目的は、記載漏れを防ぎ、契約の網羅性を高めることです。

バスケット条項が必要な理由

将来起こりうる全ての事態を予測し記述することは困難です。また、ビジネス環境は常に変化します。バスケット条項は、このような予測不可能な変化や詳細な列挙が難しい事柄に対応する「安全網」として機能します。例えば、サービスの利用規約で「その他、当社が不適切と判断する行為」と定めることで、新たな迷惑行為にも対応できる余地を残します。契約に柔軟性を持たせ、状況変化に対応できるようにすることが主な理由です。

金融取引やM&Aにおける「バスケット条項」との違い

「バスケット条項」は、一般的な契約書とは別に、特定の専門分野で異なる意味で用いられます。金融商品取引法では、インサイダー取引規制の対象となる「重要事実」の一つとして、具体的に列挙されていない「投資者の投資判断に著しい影響を及ぼすもの」を指すバスケット条項があります。M&A契約では、表明保証違反時の補償に関連し、少額の損害を補償対象外としたり、一定額を超えた場合に補償対象としたりする取り決めを「バスケット条項」と呼ぶことがあります。

これらは専門的な意味合いが強く、本記事で主に取り上げる一般的な契約書の包括条項とは異なります。

バスケット条項の事例

バスケット条項は様々な契約書で活用されています。具体的な事例を見ていきましょう。

業務委託契約

業務委託契約で、主要業務を列挙後、「甲(委託者)は乙(受託者)に対し、第〇条に定める主要業務のほか、本契約の目的に付随する一切の業務を委託し、乙はこれを受託する」といった形で用いられます。委託者には便利ですが、受託者は「付随する一切の業務」の範囲が曖昧な場合、想定外の業務負担リスクが生じます。業務範囲の具体化や追加業務の取り扱いを明確にすることが望ましいでしょう。

利用規約

ウェブサービス等の利用規約では、「第〇条(禁止事項)利用者は、以下の各号に定める行為のほか、その他、当社が不適切と判断する行為を行ってはならない」といった形で加えられます。これにより、予見できなかった新たな迷惑行為に対応できます。サービス提供者には運営の柔軟性を確保する一方、利用者にとっては「不適切」の基準が提供者の裁量に委ねられる点に注意が必要です。

契約解除事由

契約解除事由として、「前各号に定めるもののほか、その他本契約を継続し難い重大な事由が生じた場合には、甲または乙は本契約を解除することができる」といったバスケット条項が設けられることがあります。これは予期せぬ重大な問題発生時のセーフティーネットです。しかし、「継続し難い重大な事由」の解釈は曖昧で、紛争リスクも伴います。

バスケット条項のメリット・デメリットと注意点

バスケット条項は便利ですが、使い方や解釈によっては不利益を招く可能性もあります。

メリット

最大のメリットは、契約に柔軟性と包括性をもたらす点です。予期せぬ状況変化や記載漏れに対応できる可能性が生まれます。例えば、「その他、本プロジェクトの円滑な遂行に必要な協力」といった条項で、付随的協力も期待できます。

デメリット

最大のデメリットは解釈の曖昧さです。具体的にどこまでカバーするかが不明確になりがちで、一方に不利な解釈や悪用のリスクがあります。極端に広範な「その他一切の事項」といった条項は、「何でもあり」と解釈される余地を残します。

さらに、「完全合意条項(契約書に書かれている内容だけが当事者間の正式な合意であるとする条項)」が入っている場合は注意が必要です。口頭やメールでのやりとりは無効とされるため、曖昧なバスケット条項について後から「こういう意図だった」と説明することができなくなり、不利な内容がそのまま契約上の義務となるリスクがあります。

契約書でバスケット条項を見つけたらどうする?

慎重な対応が求められます。

  • 文言の意図を具体的に確認する:相手方に条項の意図を質問し、共通認識を持つよう努めましょう。
  • 可能であれば具体的に修正を求める:曖昧な表現は紛争の種です。「その他甲乙協議の上、別途書面で合意した事項」のように、当事者間の協議を必要とする形に変更するだけでもリスクを軽減できます。
  • 不利な内容でないか慎重に検討する:自社に過度な義務を課したり、不利益につながったりする可能性がないか多角的に検討します。
  • 専門家(弁護士など)に相談する:不安を感じる場合は、専門家に相談することを強く推奨します。

これらの対応でリスクを低減し、より公平で明確な契約関係を築きましょう。

バスケット条項は「諸刃の剣」、契約は慎重に行いましょう

バスケット条項は、契約の柔軟性や網羅性を高める便利な側面と、解釈の曖昧さから紛争の火種となる可能性を併せ持つ「諸刃の剣」です。

契約書の一つひとつの条項の意味と、自社に生じる権利義務を正確に理解することが重要です。不明確な点や納得できない点があれば、相手方に確認し、必要であれば修正を交渉しましょう。不安が解消されない場合や、契約内容が複雑な場合は、専門家の助けを借りることをお勧めします。

慎重な検討と適切な対応を通じて、後々のトラブルを未然に防ぎ、双方が納得のいく契約締結を心がけましょう。


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