• 作成日 : 2025年7月4日

贈与契約書の保管方法は?保管期間や紛失時の対応を解説

親子間、夫婦間、あるいは第三者へ。大切な財産を無償で譲り渡す「贈与」を行う際、その証しとして「贈与契約書」を作成することがあります。贈与契約書を作成することで贈与の事実が明確になりますが、実は「作成すること」と同じくらい「適切に保管すること」が重要です。

この記事では、贈与契約書の適切な保管方法と保管期間、そして保管の重要性について、税務や相続の観点も踏まえながら、分かりやすく解説します。

贈与契約書の書き方についてはこちらの記事を併せてご覧ください。

贈与契約書を保管すべき4つの理由

そもそも、なぜ贈与契約書を大切に保管する必要があるのでしょうか。主な理由は以下の4つです。

1. 贈与の事実を明確にする「証拠」として

贈与契約書は、「いつ、誰から誰へ、何を贈与したのか」を明確に示す客観的な証拠となります。口約束だけの贈与(書面によらない贈与)は、後から「言った、言わない」の水掛け論になります。

書面として残し、それを保管しておくことで、贈与が確かに存在し、その内容が確定していることを証明できます。これは、当事者間での認識のずれを防ぐだけでなく、後述する税務調査や相続においても重要な意味を持ちます。

2. 書面によらない贈与として解除されないために

贈与契約は当事者の合意があれば成立します。しかし、書面によらない贈与はいつでも当事者が解除することができます(民法第550条)。贈与契約書を作成することで当事者が自由に解除できなくなり、確実に贈与を実行してもらえます。

3. 税務調査で「贈与」を証明するために

税務署は、常に「贈与税の申告漏れ」や「相続税対策としての不適切な贈与(例:名義預金)」がないか注視しています。特に高額な現金の移動や不動産の名義変更があった場合、税務調査でその背景を問われる可能性があります。

このような場合に贈与契約書があれば、それが個人的な貸し借りや名義だけの変更ではなく、正式な「贈与」であったことを証明する有力な証拠となります。

  • 贈与税:年間110万円を超える贈与には贈与税がかかりますが、契約書があれば、贈与の日付や金額が明確になり、適切な申告の根拠となります。
  • 相続税:相続開始前一定期間内の贈与は、相続財産に加算して相続税を計算する必要があります(生前贈与加算)。贈与契約書は、いつ、いくらの贈与があったかを証明し、正確な相続税計算のために必要となります。また、名義預金として相続財産として扱われる可能性を低くすることができます。

契約書がないと、税務署から贈与の事実を認めてもらえず、予期せぬ課税を受けるリスクがあります。

4. 相続時の「トラブル」を未然に防ぐために

贈与者が亡くなった後、相続人間で遺産分割協議を行う際に、特定の相続人だけが生前に多額の贈与を受けていると、特別受益として取り扱う必要があります(民法第903条)。また、生前贈与に対して遺留分侵害額請求が可能です(民法第1024条)。贈与契約書があれば、生前贈与の事実と内容が明確になるため、

  • 他の相続人に対して、贈与があったことを客観的に示すことができる。
  • 遺産分割協議において、生前贈与による特別受益の内容を正確に確認できる。
  • 遺留分(相続人が最低限相続できる権利)の計算においても、生前贈与された額が明確になる。

といったメリットがあり、生前贈与の内容についてトラブルを防ぐことができます。

誰が保管する? 贈与者・受贈者それぞれの役割

贈与契約書は、誰が保管すべきでしょうか。

贈与契約書は、贈与をした側にとって、税務調査への対応や相続時に贈与の事実が明確になるために必要な書面です。

一方、贈与を受けた側にとっても、相続時・遺留分侵害額請求を受けた時や税務調査があった時に必要な書面です。

そのため、贈与契約書は2通作成して、それぞれが1通ずつ保管するのが通常です。

その際、贈与契約書が一方のみが勝手に作成したものではなく、双方の合意の上で作成したことを示すために、2通の契約書に割印をするのを忘れないようにしましょう。

割印については、こちらの記事を参考にしてください。

贈与契約書の適切な保管方法

では、具体的にどのように保管すればよいのでしょうか。紙のまま保管する場合と、電子データで保管する場合のポイントを見ていきましょう。

紙のまま保管する場合のポイント(場所・管理方法)

  • 保管場所:
    • 分かりやすく、安全な場所:自宅の書棚、引き出し、ファイルボックスなど、自分や家族が分かり、かつ第三者が容易にアクセスできない場所に保管します。
    • 他の重要書類と一緒に:相続関連書類や不動産権利証、預金通帳など、他の重要書類と一緒にまとめて保管すると管理しやすくなります。
    • 耐火金庫・貸金庫:特に重要な契約書や高額な贈与の場合は、火災や盗難のリスクに備えて、耐火金庫や銀行の貸金庫を利用することも有効です。
  • 管理方法:
    • ファイリング:クリアファイルに入れたり、ファイルに綴じたりして、他の書類と混ざらないようにします。ラベルを貼っておくと、後で見つけやすくなります。
    • 目録作成:保管している重要書類のリスト(目録)を作成し、保管場所を記載しておくと、万が一の際に役立ちます。

電子データ(スキャン)で保管する場合の注意点

紙の契約書をスキャンして電子データ(PDFなど)として保管する方法もあります。省スペースで検索しやすいメリットがありますが、以下の点に注意が必要です。

  • データの真正性:スキャンしたデータが原本と同じ内容であり、改ざんされていないことをどう示すかが課題になります。税務署などに証拠として提出する可能性を考えると、単にスキャンするだけでなく、作成日時を記録したり、可能であればタイムスタンプを付与したりすることが望ましい場合があります(ただし、個人の贈与契約書が直ちに電子帳簿保存法の対象となるわけではありません)。
  • 原本を保管:作成した原本は相手に示したり、税務書類として提出したりすることがあるので、きちんと保管しましょう。
  • ファイル形式:長期保存に適したファイル形式(例:PDF/A)で保存することを検討します。
  • バックアップ:PCの故障やデータ消失に備え、必ずバックアップを取りましょう。クラウドストレージ、外付けハードディスク、USBメモリなど、複数の場所に分散して保管するとより安全です。
  • ファイル管理:分かりやすいファイル名を付け、フォルダ分けするなど、後で検索しやすいように整理します。
  • セキュリティ:パスワードを設定したり、アクセス権限を管理したりして、情報漏洩を防ぎます。

紛失・劣化・情報漏洩を防ぐための対策

紙でも電子データでも、紛失、劣化、情報漏洩のリスクは常に存在します。

  • 紛失対策:保管場所を明確にし、家族にも伝えておく。電子データの場合は確実なバックアップ。
  • 劣化対策(紙):湿気、直射日光、虫害などを避けられる場所に保管する。クリアファイルや封筒に入れる。
  • 情報漏洩対策:施錠できる場所に保管する。電子データの場合はパスワード設定やセキュリティソフトの導入。共有PCでの保管は避ける。

これらの対策を講じ、契約書を安全に保管しましょう。

贈与契約書の保管期間

贈与契約書は、具体的にいつまで保管しておく必要があるのでしょうか。

法的な保管義務はない

会社法や税法で定められている帳簿書類などとは異なり、個人間の贈与契約書について、法律で明確な保管期間が定められているわけではありません。

しかし、前述の「保管すべき理由」で挙げた税務調査や相続の問題は、贈与が行われてから何年も経過した後に発生する可能性があります。そのため、実務上は長期間保管しておくことが推奨されます。

目安1:贈与税の時効(除斥期間)(最長7年)

贈与税の申告漏れなどがあった場合、税務署が課税できる除斥期間には限りがあります。

  • 原則:6年間
  • 意図的な無申告など悪質な場合:7年間

つまり、贈与があった時から最低でも7年間は、税務調査で贈与の事実を証明するために、贈与契約書を保管しておく必要があると言えます。

目安2:相続税の生前贈与加算(3年→段階的に7年へ)

相続税の計算においては、被相続人(亡くなった方)が亡くなる前一定期間内に行われた贈与を、相続財産に持ち戻して計算する「生前贈与加算」という制度があります。

  • 現行(2023年12月31日までの贈与):相続開始前3年以内の贈与が対象
  • 改正後(2024年1月1日以降の贈与):相続開始前7年以内の贈与が対象(段階的に延長)

この生前贈与加算の対象となるかどうかを判断し、正確な相続税額を計算するためには、過去の贈与の記録が必要です。特に2024年の改正により、最長で7年前の贈与まで遡って確認する必要が出てきます。

目安3:遺留分侵害額請求の除斥期間(相続開始の時から10年)

遺留分侵害額請求の対象となる生前贈与がある場合に、その証拠として贈与契約書を保管している場合は、相続開始の時から10年保管するのがよいでしょう。

遺留分侵害額請求権は遺留分の侵害を知った時から1年で時効により消滅し、相続開始の時から10年の除斥期間によって請求できなくなります。そのため、最長10年前の生前贈与まで遡って確認する場合があります。

もし贈与契約書を紛失してしまったら?

万が一、大切に保管していたはずの贈与契約書を紛失してしまった場合は、どうすればよいでしょうか。

再作成は可能か?

贈与者・受贈者双方の合意があれば、紛失した契約書と同じ内容で再作成することは可能です。この場合でも、贈与契約の効力は従来の贈与が行われた日時に発生します。後に紛失したものが見つかった時に備えて、再度作成したことを記載するなどしておくのがよいでしょう。

公証役場で作成した場合

もし贈与契約書を公正証書として公証役場で作成していた場合は、心配ありません。公正証書の原本は、原則として20年間、公証役場に保管されています。謄本(原本の写し)の交付を請求することができます。

他の証拠で代替できる可能性

契約書そのものがなくても、贈与の事実を裏付ける他の証拠があれば、税務署や他の相続人に対して一定の説明は可能です。

  • 銀行の振込履歴:現金贈与の場合、贈与者から受贈者への振込記録は有力な証拠となります。
  • 不動産の登記簿謄本不動産贈与の場合、登記原因が「贈与」と記載されていれば証拠になります。
  • 当事者の証言やメモ:他の客観的証拠と合わせて、状況証拠として考慮される可能性はあります。

しかし、やはり贈与契約書があるに越したことはありません。紛失しないよう、日頃から適切な管理を心がけることが重要です。

適切な保管で将来の安心を確保しよう

贈与契約書は、作成して終わりではありません。将来起こりうる税務調査や相続トラブルに備え、その事実を証明するための重要な証拠として、適切に保管し続けることが極めて重要です。

大切な契約書を適切に管理することは、贈与者・受贈者双方の将来の安心につながります。この記事を参考に、ぜひ今日から保管方法を見直してみてください。


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