- 作成日 : 2025年5月14日
下請法の支払期日は60日以内!いつから起算するのか、数え方もわかりやすく解説
下請法では、親事業者は下請代金の支払期日を給付受領日から60日以内に設定する義務があります。しかし「いつから数えるのか」「例外はあるのか」といった点に戸惑う実務担当者も少なくありません。
本記事では起算日の数え方や例外、違反時の注意点を実務担当者向けにわかりやすく解説します。
目次
下請法(下請代金支払遅延等防止法)とは
下請法は、下請取引の公正化と下請事業者の利益保護を目的とした法律です。親事業者の優越的地位の濫用を防止するために制定されました。正式名称は「下請代金支払遅延等防止法」といい、「下請法」はその通称となります。
適用対象は資本金区分で決まります。製造委託では親事業者は資本金3億円超、情報成果物委託(例:ソフトウェア開発など)では5千万円超の事業者が対象です。親事業者には発注書面の交付義務や支払期日の適正設定、買いたたき禁止などが課されており、違反した場合は公正取引委員会と中小企業庁による指導、勧告などの措置が行われます。
下請法の支払期日は60日以内
下請法では、親事業者は下請代金の支払期日を給付受領日から60日以内に定めることが義務付けられています。この60日ルールは、下請事業者の資金繰りを円滑にし、過度な支払遅延による経営リスクを軽減するために設けられています。
60日を超える設定は下請法違反となり行政処分の対象です。実務上は30日や45日などより短い期間で設定されることも多く、親事業者は自社都合だけでなく、下請事業者の経営状況も考慮した支払期日の設定が必要です。
支払期日60日以内の数え方
支払期日の60日以内の数え方は、「給付を受領した日」から起算します。下請事業者から商品や役務を受けた日が1日目となります。例えば、4月10日に納品を受けた場合、4月10日が1日目となり、6月8日が60日目に該当します。注意すべきは、「検収日」ではなく「給付を受領した日」が起点となる点です。
なお、支払期日が金融機関の休業日にあたる場合は、その日に振込処理ができないため、原則として前営業日までに支払いを完了させる必要があります。例えば、60日目が日曜日であれば、その前の営業日である金曜日までに振込を済ませておきましょう。
下請法の60日ルールに違反するとどうなる?
下請法の60日ルールに違反すると、親事業者にはさまざまなペナルティが科される恐れがあります。ここでは、違反に該当しやすい事例として、支払期日の未設定や支払遅延があった場合の対応策を解説します。
下請法の支払期日を定めていない場合
下請法では、親事業者は下請代金の支払期日を明確に定めることが義務付けられています。もし支払期日を設定していない場合、法律上は「給付を受領した日」が支払期日とみなされます。つまり、納品を受けた当日に支払いを行う必要があるのです。
これは実務上非常に厳しい条件となり、多くの企業が現実的には対応困難です。また、支払期日が未設定の状態は、いつ入金されるか予測できないため、下請事業者にとっても不利益となります。このような状況は公正取引委員会から勧告対象となる可能性が高く、早急に適切な支払条件を設定することが求められます。
下請法の支払期日までに下請代金を支払わない場合
下請代金を定められた期日までに支払わない場合、支払遅延として下請法違反となり、親事業者には年14.6%の遅延利息を支払う義務が生じます。この利息は、支払期日の翌日から実際の支払日までの日数に基づいて計算されるものです。
継続的な遅延があれば公正取引委員会から改善勧告を受ける可能性があり、悪質な場合は会社名が公表され信用問題に発展することもあります。注意すべきは、下請法が強行法規であるため、たとえ下請事業者と合意して支払期日を延長しても法的に無効となる点です。このため、計画的な資金管理と適切な支払体制の構築が不可欠といえます。
下請法の支払期日の例外
下請法の60日以内支払いルールには、一部例外的な取り扱いが認められるケースがあります。ここでは、下請法の支払期日に関する代表的な例外について解説します。
ただし、これらの例外は限定的であり、下請事業者の利益を不当に害することのないよう配慮が必要です。
継続的な役務提供委託の場合
継続的な役務提供委託の場合、支払期日の設定について通常の取引と異なる扱いをされることがあります。例えば、役務提供の契約期間が長期にわたる場合、親事業者は役務の完了後ではなく、一定期間ごとに代金を分割して支払うことが認められるケースもあります。
この場合、支払いのタイミングは契約内容や双方の合意によって定められますが、下請法の趣旨に基づき合理的な範囲内での設定が必要です。親事業者は不必要な遅延を避けるとともに、適切な支払いを実施する必要があります。
支払日に銀行が休業日の場合
支払期日が銀行の休業日にあたる場合も例外として扱われます。この場合、親事業者は休業日の翌営業日までに代金を支払えば、下請法違反には該当しません。例えば、支払期日が日曜日や祝日である場合、その翌営業日である月曜日や平日に支払えばよいことになります。
ただし、支払期日が銀行の休業日にあたる場合に翌営業日の支払いとするには、順延期間が2日以内であることと、事前に親事業者と下請事業者が双方とも合意していることが条件です。
この猶予はあくまで銀行休業日に限られるため、その他の理由で期日を延長することは認められません。親事業者はこうした例外規定を正しく理解し、休業日を考慮した支払管理を行うことが重要です。
下請法の支払期限に関する注意点
下請法では、親事業者が下請事業者に適正な支払期日を設定することが義務付けられています。しかし、具体的なルールや例外について認識不足があると、違反につながる恐れがあります。ここでは、支払期限に関する重要なポイントを解説します。
60日の起算日は検収日ではない
下請法における支払期日の起算日は「給付を受領した日」であり、「検収日」ではありません。給付を受領した日とは、下請事業者から商品や役務が納品された日を指します。
このため、検収作業に時間がかかっても、これを理由に支払期限を遅らせることは認められていません。例えば、4月1日に納品を受けた場合、60日目は5月30日となります。このルールを守らないと、支払遅延として違反とみなされる恐れがあります。
手形サイトも60日以内に短縮
手形での支払いの場合も、下請法では支払期日を給付受領日から60日以内に設定する必要があります。従来の商慣習では手形サイトが長期化するケースもありましたが、下請事業者の資金繰りが圧迫される問題が生じていました。このため、下請法では手形サイトを60日以内に短縮し、公平な取引環境を整備することを目的としています。
例えば、120日の手形サイトは違法となり、速やかに60日以内に短縮しなければなりません。親事業者は契約内容や内部プロセスを見直すことで、法令違反を防ぐとともに取引関係の安定性を高めることが求められます。
特定建設業者の支払期日は50日以内
特定建設業者(大規模工事を下請に出す元請業者)においては、通常の60日ルールより短い「50日以内」の支払期日が義務付けられています。これは建設業特有の取引慣行や資金繰りの課題を考慮した特別な規定です。
例えば、4月1日に給付を受領した場合、5月20日までに支払いを完了させる必要があります。この規定に違反すると、公正取引委員会から指導や勧告を受けるほか、悪質な場合は企業名が公表される可能性もあります。特定建設業者は、このルールを十分に理解した支払計画を立てることが重要です。
下請法の支払期日60日は遵守することが重要
下請法において、親事業者は給付受領日から60日以内(特定建設業者は50日以内)に下請代金を支払うことが義務付けられています。ここで重要なのは、起算日が「検収日」ではなく「給付を受領した日」である点です。この誤解が多くの違反事例の原因となっています。
また、手形での支払いも60日以内のサイトに短縮する必要があり、長期サイトは違法となります。銀行休業日の取り扱いや継続的な役務提供の例外規定も存在しますが、いずれも下請事業者の利益を損なわない範囲での運用が求められます。
親事業者はこれらのルールを正確に理解し、計画的な資金管理と支払体制の整備を通じて、法令遵守と信頼関係の維持に努めることが重要です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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