- 更新日 : 2025年10月21日
売買契約書とは?書き方を種類別に解説【無料テンプレート・ひな形付き】
売買契約書は、商品やサービスの売買で生じる後のトラブルを防ぐために作成する書類です。契約内容を明確に書面で残すことで、当事者間の認識のずれをなくし、万が一問題が発生した際のリスクを最小限に抑える役割があります。
この記事では、売買契約書の基本的な知識から、不動産や自動車といったケース別の書き方、自分で作成する際の注意点まで、テンプレートによる見本を交えて詳しく解説します。
目次
売買契約書とは?
売買契約書とは、売主と買主が売買契約を成立させる際に、当事者間で合意した内容を書面にまとめた書類です。
意外に思われるかもしれませんが、売買契約は口頭のやりとりだけでも成立します。民法第522条では、契約の成立には必ずしも書面などの特別な形式を必要としないことが定められています。
民法第522条(契約の成立と方式)
契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。
2 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。引用:民法|e-GOV法令検索
ただし、消費者契約法そのものには書面交付義務の規定はありません。一方で、特定商取引法には一定の取引形態(訪問販売・通信販売・電話勧誘販売など)において、事業者が消費者に対して契約内容を明示した書面を交付する義務が定められています。
また、宅地建物取引業者が当事者として行う不動産売買契約など、他の法律で書面交付を義務付けているケースもあります。
したがって、実務では契約内容を明確に残し、トラブルを未然に防ぐために、契約書を作成しておくことが一般的です。
売買契約書の種類
売買契約書には、1回限りの取引で使うものから、継続的な取引、さらには不動産や自動車の売買に特化したものまで様々な種類があります。 ここでは代表的な売買契約書の種類を紹介します。
一般的な売買契約書
企業間や個人間で、物品や商品を1回限りで売買する際に使用する基本的な売買契約書です。
トラブル防止のため、対象となる目的物を明確に特定することが大切です。品名、製造番号、仕様、数量、単価、合計金額、引渡日、支払条件を具体的に記載しましょう。
継続的商品取引基本契約書
同じ相手と継続的に商品の売買を行う場合、取引のたびに契約書を作成する手間を省くため、継続的商品取引基本契約書を使用します。個別の取引は、発注書や請書で行うのが一般的です。
動産売買契約書
機械設備や美術品など、不動産以外の財産(動産)全般の売買に使用できる契約書です。目的物の状態や所有権の移転時期を明確にすることが重要です。
動産を特定する情報(製造番号、規格、特徴など)を詳細に記載しましょう。高額な動産の場合は、代金完済まで所有権が売主に留まる「所有権留保」の条項を設けることもあります。
自動車売買契約書
自動車の売買では、車両を特定する情報と、名義変更手続きに関する取り決めが不可欠です。 車検証の情報を元に車名、型式、車台番号などを正確に記載します。
自動車の名義変更を怠ると、売主に自動車税の通知が届く可能性があるため、いつまでにどちらの責任と費用で名義変更を行うかを明確に定めます。 中古車の場合は、現状のまま引き渡すことを条件とし、売主の責任を一部免除する特約を設けることも一般的です。
不動産売買契約書
土地や建物、マンションなどの不動産を売買する際に使用します。取引対象によって契約書の内容が異なります。
土地売買契約書
建物が建っていない更地や、建物を取り壊して土地のみを取引の対象とする場合に使用します。土地の面積(公簿面積か実測面積か)、隣地との境界の明示、埋設物などの有無に関する取り決めが重要です。
建物売買契約書
土地の権利は含まず、建物のみを売買する際に使用します。借地上の建物を売買する場合などが該当します。土地の賃借権の扱いや、地主の承諾に関する条項が必要になる場合があります。
マンション売買契約書
区分所有建物であるマンションの売買に特化した契約書です。売買対象となる専有部分(部屋)だけでなく、管理費や修繕積立金の精算方法、共用部分の使用に関する権利義務など、マンション全体の管理に関わる事項も記載します。
また、買主は管理規約や使用細則などを引き継ぐことになるため、売主はその内容を契約時に説明しておくことが重要です。特に宅地建物取引業者が関与する場合には、宅地建物取引業法に基づき、管理規約等の内容を重要事項として説明する義務があります。
農地売買契約書
農地を売買する際は農地法による規制を受けるため、特殊な契約書となります。 売買の効力発生の条件として、農業委員会などの許可を得る必要があることを明記します。
売買予約契約書
将来、本契約を締結することを約束する際に使用する契約書です。予約の段階で手付金(予約金)を授受することが多く、その性質を明確にする必要があります。
いつまでに本契約を締結するのか、どのような場合に予約を解除できるのか、授受した手付金の取り扱いなどを定めます。
売買契約書の書き方・記載項目
売買契約書には、当事者、目的物、代金、引渡し条件など、取引に関する項目を具体的に記載する必要があります。 以下に、基本的な売買契約書に記載する主な項目と、その書き方のポイントを解説します。自分で作成する際の参考にしてください。
基本合意(表題・当事者)
誰と誰が、どのような契約を結ぶのかを明確に特定します。書類の冒頭に「売買契約書」と記載し、売主と買主それぞれの正式名称と住所を記載して、両者が合意した旨を記述します。
売買の目的物
何を売買するのかを、誰が見ても一つに特定できるように具体的に記載します。商品名、メーカー名、型番、製造番号、数量といった詳細な情報を記載することで、納品後のトラブルを防ぎます。
代金
商品の対価として支払われる金額、支払期限、支払方法を正確に定めます。総額を明記し、支払期日を具体的に設定します。支払い方法も具体的に記載し、振込手数料の負担者も決めておくとより丁寧です。
引き渡し
商品をいつ、どこで、どのように買主に引き渡すかを定めます。期日と場所を明確にし 、引き渡し場所までの運送費などをどちらが負担するのかも明記しておくことが重要です。
所有権移転時期
商品の所有権が売主から買主に移るタイミングを明確にします。一般的には「商品の引き渡し時」または「代金の完済時」とすることが多く 、この時期を明確にすることで、商品が事故で破損した場合などの責任の所在をはっきりさせることができます。
検査
引き渡された商品に問題がないかを買主が確認するためのルールを定めます。商品を受け取ってから「7日以内」のように検査期間を設け 、もし問題が見つかった場合に、買主がどのように売主に通知すべきかも定めておきます。
契約不適合責任
引き渡された商品が契約内容と異なっていた場合に、売主が負うべき責任を定めます。これは2020年の民法改正で「瑕疵担保責任」から変更された考え方で 、買主は売主に対して修理や代替品の請求(追完請求)、代金の減額請求、損害賠償請求、契約解除などを行うことができます。
危険負担
地震や火事など、売主と買主のどちらのせいでもなく商品が失われたり壊れたりした場合の損失を、どちらが負担するかを定めます。
例えば、契約成立後、引き渡し前に売主の倉庫で保管していた商品が火事で焼失してしまった場合、買主は代金を支払う必要があるのか、といった問題に対応するための取り決めです。
遅延損害金
買主が代金の支払いを約束の期日までに行わなかった場合に発生するペナルティについて定めます。支払いが遅れた日数に応じて計算される利率をあらかじめ決めておきます。
契約解除
相手方が契約上の義務を果たさない場合に、契約を解消できる条件を定めます。「相手方が正当な理由なく代金の支払いを怠ったとき」など、具体的な解除事由を列挙します。
損害賠償
一方の契約違反によってもう一方が損害を被った場合に、その賠償について定めます。契約違反者が、相手方に生じた損害を賠償する義務を負うことを明記します。
協議事項
この契約書に記載されていない事態や、解釈に疑問が生じた場合の解決方法を定めます。「本契約に定めのない事項については、売主・買主双方が誠意をもって協議の上、これを解決するものとする」といった一文を入れるのが一般的です。
合意管轄
万が一トラブルが裁判に発展した場合に、どの裁判所で裁判を行うかをあらかじめ決めておきます。当事者の所在地が離れている場合に、どこで裁判を行うかで争いになるのを避けるために重要です。
売買契約書のテンプレート・ひな形
契約書を自分で作成する際は、無料のテンプレートやひな形を活用すると効率的です。マネーフォワード クラウドでは、様々な種類の売買契約書のテンプレートを無料で提供しています。まずは、基本的な売買契約書のひな形を参考に、ご自身の取引内容に合わせて修正を加えていくのがよいでしょう。
売買契約書を作成する際の注意点
契約書を作成または確認する際は、内容の公平性を保ち、契約不適合責任を理解し、条件を具体的に記載することが重要です。
当事者間での公平性を保つ
契約書の内容がどちらか一方に著しく不利な場合、後にトラブルへ発展する可能性があります。 費用や税金の負担などを誰がどのように負うのか、公平性を意識して内容を決定し、売買契約書に明記することでトラブル防止につながります。
契約不適合責任への対策を講じる
契約不適合責任とは、引き渡された目的物(商品)の種類、品質、数量が契約の内容に適合しない場合に、売主が買主に対して負う責任のことです。
2020年4月の民法改正で、従来の「瑕疵担保責任」から「契約不適合責任」に変わり、以下のような請求が可能になりました。
- 追完請求(民法第562条):修理や代替品の引き渡しを求める権利
- 代金減額請求(民法第563条):不適合の度合いに応じて代金の減額を求める権利
- 損害賠償請求・契約解除(民法第564条):契約不適合によって生じた損害の賠償を求める権利、または契約の目的を達成できない場合に契約そのものを解消する権利
特に中古品や不動産のように、ある程度の不具合を前提に取引される商品では、買主が了承している不備については売主が責任を負わない旨を契約書に明記するといった対策が必要です。
条件の内容を具体的に記載する
契約の条件が曖昧だと、当事者間で解釈の違いが生まれ、トラブルの原因になります。 特に、商品の引き渡し、所有権の移転時期、支払いに関する条件はトラブルが起こりやすい項目です。 日付や場所、金額などを具体的に数字で明記し、誰が読んでも同じ解釈ができるように記載しましょう。
売買契約後のトラブル対応
契約後に相手が義務を果たさない場合は、まず書面で履行を求め、それでも応じない場合は契約解除を通知します。 これらの通知は、送付した事実と内容を郵便局が証明してくれる内容証明郵便で送るのが一般的です。
代金支払催告書
代金の未払いがあった場合、売主は「代金支払催告書」などを用いて正式に支払いを求めることができます。民法では、契約を解除する前に原則として相手に履行の機会(催告)を与える必要があるとされています。
民法第541条(催告による解除)
当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。(後略)引用:民法|e-Gov法令検索
ただし、履行不能や信頼関係の破壊など特別な事情がある場合は、催告なしで契約解除が認められるケースもあります。
契約解除通知書
契約解除通知書は、契約相手が義務を果たさない場合に、契約を一方的に解消する意思を正式に伝えるための書類です。内容証明郵便などで送付することで、通知の事実と内容を第三者(郵便局)が証明してくれるため、後の法的トラブルにも備えることができます。
解除通知書には、以下のような事項を記載するのが一般的です。
- 契約の名称と締結日
- 相手方の契約違反の内容(未払い、未納品など)
- 催告または信頼関係の破壊等により解除する旨
- 契約解除の効力発生日
- 損害賠償請求の意思がある場合はその旨
売買契約書に必要な印紙税
紙で売買契約書を作成する場合、契約書の種類や契約金額によっては印紙税がかかります。印紙税とは、契約書に収入印紙を貼付して納付する税金のことです。
継続的取引の基本契約書の印紙税額
企業間などで継続的な売買取引を行う際の基本契約書は、契約金額にかかわらず一律4,000円の印紙税がかかります。その契約書に記載された契約期間が3ヶ月以内であり、かつ、更新の定めのないものは除かれます。
参考:印紙税額|国税庁
動産売買契約書の印紙税額
商品や設備、自動車などの動産を対象とする売買契約書については、原則として印紙税法上の課税文書(第1号文書)には該当しません。第1号文書として課税対象となるのは、不動産・鉱業権・無体財産権・船舶・航空機・営業の譲渡に関する契約書に限られています。なお、対象の動産が船舶、航空機の場合には、下記の表の印紙税額が必要になります。
ただし、売買代金の受領を証する書面(領収書)を発行する場合には、「売上代金に係る金銭又は有価証券の受取書」(第17号文書)として印紙税の課税対象となる点に注意が必要です。
| 記載の契約金額 | 本則税率 | 軽減税率(2027年3月31日まで) |
|---|---|---|
| 100万円超500万円以下 | 2,000円 | — |
| 500万円超1,000万円以下 | 1万円 | — |
| 1,000万円超5,000万円以下 | 2万円 | — |
※現時点で動産売買契約書についての軽減措置は設けられていません。
参考:No.7140 印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで|国税庁
不動産売買契約書の印紙税額
不動産の譲渡に関する契約書は、記載された契約金額に応じて印紙税額が決まります。2027年(令和9年)3月31日までは軽減措置が適用されており、税額が引き下げられています。
| 記載の契約金額 | 本則税率 | 軽減税率(2027年3月31日まで) |
|---|---|---|
| 100万円超500万円以下 | 2,000円 | 1,000円 |
| 500万円超1,000万円以下 | 1万円 | 5,000円 |
| 1,000万円超5,000万円以下 | 2万円 | 1万円 |
| 5,000万円超1億円以下 | 6万円 | 3万円 |
※記載された契約金額が1万円未満の場合は非課税です。
継続的取引の基本契約書の印紙税額
企業間などで継続的な売買取引を行う際の基本契約書は、契約金額にかかわらず一律4,000円の印紙税がかかります。
参考:印紙税額|国税庁
印紙税についての詳細は以下の記事で解説しているので、詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
電子契約なら売買契約書の印紙税が不要に
印紙税の負担や契約書管理の手間を削減するなら、電子契約サービスの活用が有効な選択肢です。
電子契約は、印紙税法上の「課税文書の作成」に該当しないため、印紙税が非課税となります。契約金額が大きくなりやすい不動産取引や、契約頻度が高い企業間取引では、大幅なコスト削減につながります。
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売買契約書を正しく作成しましょう
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この記事で紹介した書き方や注意点を参考に、ご自身の取引内容に合った適切な契約書を作成してください。自分で作成するのが難しい場合は、無料のテンプレートやひな形を活用したり、専門家に相談したりすることも一つの方法です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
契約の知識をさらに深めるなら
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