- 更新日 : 2025年4月8日
契約書はスキャンしてPDFでも保存できる?スキャナ保存の要件や方法を解説
ビジネスでは日常的に用いる契約書ですが、取引相手が多くなると契約書の数も増え、保存が煩雑になります。そのため、契約書はスキャンしてデータで保存するのが便利です。
しかし、契約書の原本の取り扱いや、法的効力はどうなっているのでしょうか。この記事では、法律上有効かという点も踏まえて契約書のスキャナ保存について解説します。
目次
契約書はスキャンしてPDFなどで電子的に保存できる
一般的に、書類をスキャンしてPDFデータなどで電子的に保存することを「スキャナ保存」といいます。契約書のスキャナ保存について、法律上何も規制はなく問題ありません。
ただし、法律上の効力としては一定の制限があることに注意が必要です。
契約書は、民事裁判において契約の存否やその内容について争う場合に、証拠として用いられます。
スキャナ保存している場合には、PDFデータを証拠として提出することが想定されます。しかし、民事裁判においてPDFデータなどの電子文書は「準文書」、つまりコピーとして扱われることになるため(民事訴訟法231条参照)、証拠としての法的効力が認められないことがあります。
契約書が本物であることを証明するためには、契約書の原本を用意しておく必要があります(民事訴訟規則143条1項参照)。
契約書をスキャナ保存できる要件
契約書は国税関係書類です。そのため、契約書のスキャナ保存は単にPDFデータにすれば良いというわけではありません。
正確に国税関係書類としてデータ化されていることを担保するために、電子帳簿保存法および同施行規則によって法律上有効とされる保存方法が決められています。
法律上の効力が認められるスキャナ保存の要件やポイントについては以下の表のとおりです。なお、令和5年度税制改正法案が可決しており、令和6年1月1日以後に保存したものについては若干要件に変更があります(※箇所を参照してください)。
項目 | 要件の内容 |
---|---|
入力期間の制限 |
|
解像度やカラー |
|
タイムスタンプの付与 | 入力期間内に、一般社団法人日本データ通信協会が認定する業務に係るタイムスタンプを付すこと |
読取情報の保存 | 読み取った際の解像度、階調、書類の大きさに関する情報を保存すること ※令和6年1月1日以後保存のものについては不要 |
バージョン管理 | 契約書の訂正または削除を行う際は、その内容と事実が分かるシステムを使用すること |
入力者情報の確認 | スキャナ保存を行う者またはその者を直接監督する者に関する情報が確認できること ※令和6年1月1日以後保存のものについては不要 |
帳簿との相互関連性 | スキャナ保存した契約書とそれに関連する帳簿の関連性が確認できるようにしておくこと |
見読可能装置の備付け等 | スキャナ保存した契約書の保管場所に14インチ以上のカラーディスプレイ、カラープリンタ、パソコン等を備え付け、速やかに出力ができるようにしておくこと。 |
電子計算機処理システム関連書類の備付け | 電子計算機処理システムの概要を記載した書類、システム開発時の作成書類、操作説明書、電子計算機処理/電磁的記録の備付けおよび保存に関する事務手続を明らかにした書類を備え付けること |
検索機能の確保 | 次の要件で検索ができるようにすること
|
なお、電子帳簿保存法におけるスキャナ保存の詳細については、以下のページを参照してください。
スキャナ保存の方法
契約書のスキャナ保存は、前章で挙げた要件を満たして行う必要があります。
また、正確な読み取りやスキャナの故障回避のために、ステープラーや付箋を外すといった事務的な作業が伴います。
このほか、電子帳簿保存法および同施行規則における保存要件との関係で、スキャンしたPDFデータなどを自動で読み取り、必要なデータを抜き出して台帳に入力する「自動スキャン機能」付きシステムを用いるのも重要なポイントです。
スキャナ保存時のファイル形式
スキャナ保存する際に、ファイル形式は問われません。しかし、電子帳簿保存法に関する国税庁の資料もPDFを前提として記載されているものが多いため、迷ったときはPDFで統一するほうがよいでしょう。
なお、いずれのファイル形式で保存するときも、視認性が高いかどうかは確認してください。解像度が低い画像では正しい帳簿として取り扱われない可能性があります。
スキャナ保存した原本はどうする?
スキャナ保存した場合でも、契約書の原本は保管しておきましょう。スキャンデータの証拠としての法的効力はあくまで「準文書」であり(民訴法231条参照)、原本としての位置づけは与えられていません。そのため、契約の存否や内容を証明する際に、契約書が本物か否かという点が争われた場合には、原本を提出する方が確実です。
また、事業用定期不動産賃貸借契約書など、必ず書面での作成が義務付けられている契約書については、原本を破棄せずに保管しておく必要があります。
スキャナ保存をするメリット
以上のとおり、スキャン方法や原本の保存について注意は必要ですが、契約書を紙の原本ではなく、スキャナ保存することには多くのメリットがあります。
紙の保管スペースがいらなくなる
まず、紙の保管スペースがいらなくなります。取引数が増えれば契約書の数も増えていきますが、保管・管理で一般的に使用されるキャビネットのスペースもかなり取られてしまいます。そのようなスペースを抑えてオフィスを広く使えるのは、大きなメリットといえるでしょう。
閲覧したい契約書が探しやすい
次に、閲覧したい契約書を探しやすくなります。紙ベースで保存している場合には、ファイリングやナンバリングをして1つずつ探すことになります。
しかし、スキャナ保存の場合には、PDFファイルのファイル名を検索することで素早く閲覧したい契約書を発見できます。
管理しやすい
PDFなどの電子データで保管することで、管理しやすくなる点もメリットといえます。
例えば、紙は劣化の問題などがありますが、電子データにはそのような問題はありません。また、閲覧者を限定するために制限をかけることなども簡単に行えます。
ガバナンスを強化できる
契約書をスキャナ保存することで、改ざんが難しくなり、企業ガバナンスの強化にもつながります。また、タイムスタンプによって締結タイミングが明確になること、社内で情報を共有しやすくなることなども、ガバナンス強化につながります。
透明性が高く信頼される企業であるために、ガバナンスの強化は必要な要素です。また、意思決定の迅速化やワークフローの改善のためにも、スキャナ保存を活用しましょう。
スキャナ保存に切り替える際の注意点
紙ベースで保存していた契約書をスキャナ保存に切り替える際には、いくつかの注意が必要です。以下、3つの注意点を解説します。
検索性を高めるためにはOCRが必要
契約書をPDF化する際に、適切なファイル名を指定することで、書類検索がしやすくなります。しかし、単に書類をPDF化するだけでは本文検索はできません。
PDF化した書類を本文検索できるようにするためには、OCR(AI-OCR)が必要です。OCRとは画像などに記されている文字をイメージスキャナやデジタルカメラで読み取り、デジタルの文字コードに変換する技術です。
OCRはクラウドサービスでも利用できます。検索性を高めるためにも、スキャナ保存の際にOCRを実施しておきましょう。
電子帳簿保存法の要件を満たすこと
電子帳簿保存法および同施行規則における要件を満たさなければならないことに注意が必要です(詳しくは本稿「契約書をスキャナ保存できる要件」の章を参照)。
例えば、スキャン時に、解像度やカラー、タイムスタンプの付与が必要なほか、読取情報の保存、バージョン管理、入力者情報の確認、帳簿との相互関連性も確認できるようにしておかねばなりません。また、スキャンの前提として、システム関連書類の備付けや検索機能の確保、見読可能装置の備付け等も確認しておきましょう。
税務署長の事前承認が不要に
契約書のスキャナ保存については、従来、所轄税務署の事前承認が必要とされていました。しかし、電子帳簿保存法改正により、2022年1月1日以降、税務署長の事前承認は不要とされています。
もっとも、これまでにスキャナ保存の承認を受けている保存義務者は、承認を受けて保存を開始する日よりも前に作成・受領した重要書類(過去分重要書類)について、あらかじめ、その種類等を記載した適用届書を税務署長等へ届け出なければなりません。
契約書スキャンの要件と注意点
契約書のスキャナ保存は、保存スペースの節約や管理方法の効率化など多くのメリットがあります。
しかし、契約書が国税関係書類に該当するために、電子帳簿保存法および同施行規則における要件を遵守する必要があります。それに合わせて自動スキャン機能付き機器を用いるなどの工夫も重要です。
また、過去分重要書類に該当する場合には税務署長等への届出が必要なこと、スキャナ保存したからといって原本をすべて廃棄できるわけではないこと、そして民事裁判における証拠としての扱いの違いがあることにも注意が必要です。
よくある質問
契約書はスキャンして電子的に保存しても良いですか?
法律上は何も規制はないため、契約書をスキャンして電子的に保存しても問題ありません。詳しくはこちらをご覧ください。
契約書をスキャナ保存する際の要件は定められていますか?
電子帳簿保存法および同施行規則において、解像度やカラー、タイムスタンプの付与、読取情報の保存、バージョン管理、入力者情報の確認など種々の要件が設けられており、これらを遵守しなければなりません。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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