- 作成日 : 2022年12月9日
下請法とは?対象かどうか判断する条件や親事業者の禁止事項などをわかりやすく解説
下請法は、規模が大きい事業者が、規模が小さい事業者に業務を委託する際、立場の弱い、規模が小さい事業者を不当な扱いから守るために制定されました。資本金区分を満たす、物品の製造や修理など4つの取引を適用対象とし、親事業者に遵守すべき義務と禁止事項を設けて規制しています。
本記事の内容をしっかり把握しておきましょう。
目次
下請法とは
まずは、下請法の概要について解説します。
下請法の概要
下請法とは、親事業者と下請事業者による取引の公平性を保ち、下請事業者の利益を守るための法律です。下請法の正式名称は「下請代金支払遅延等防止法」です。
下請法は、高度成長初期の昭和31年に施行されました。日本が目覚ましい発展をする時代に、大企業によって立場の弱い下請企業が無理な業務を強いられると、数の多い中小零細企業の発展が見込めず、ひいては産業全体の足かせとなりかねません。このような背景から、独占禁止法を補完する特別法として、下請法が制定されました。
下請法における親事業者・下請事業者の定義
下請法では、親事業者と下請事業者の関係は「発注者と受注者」という単純な構図ではなく、資本金の規模と取引内容によって明確に定義されています。
親事業者とは、一定の資本金要件を満たし、他の事業者に製造や修理、情報成果物の作成、役務の提供などを委託する側の企業を指します。一方の下請事業者は、その親事業者より資本金が小さく、委託された業務を請け負う側の企業です。
例えば、資本金3億円を超える企業が、資本金1億円の企業に製品の製造を委託した場合、前者が親事業者、後者が下請事業者に該当します。
このように、下請法では取引の公平性を保つために、資本力に差がある企業間での取引関係をあらかじめ定義し、不当な取引慣行を防ぐ仕組みを設けています。
親事業者、下請事業者に当たる企業等の詳細は、以下の記事で詳しく説明しています。
下請法の対象かどうか判断する条件
下請法では、すべての取引を取り締まりの対象としているわけではありません。下請法の適用を受けるのは、資本金1,000万円以上の親事業者で、保護される下請事業者や対象となる取引にも条件があります。
自社が下請法の適用対象となるかどうかを見極めるポイントは、取引の内容と資本金の額の2点です。また、適用対象となる取引は以下の4つです。
- 製造委託
- 修理委託
- 情報成果物作成委託
- 役務提供委託
これら4つの取引は、事業者の資本金規模と取引の内容で2つに分けられ、取引当事者である親事業者と下請事業者の資本規模が一定の組み合わせとなる場合に適用されます。以上をまとめたものが下の表です。
(1)
| 資本金3億円超 | 資本金3億円以下(個人を含む) |
資本金1,000万円超3億円以下 | 資本金1,000万円以下(個人を含む) | |
(2)
| 資本金5,000万円超 | 資本金5,000万円以下(個人を含む) |
資本金1,000万円超5,000万円以下 | 資本金1,000万円以下(個人を含む) |
取引の内容
下請法の適用対象となる4つの取引の内容について、具体例を出しながら解説します。
1. 製造委託
製造委託とは、製品等、物の製造を委託する取引です。製造の委託にあたっては、発注者側が、規格、品質、性能などを指定して製造や加工をしてもらいます。
【製造委託の例】
- 大手スーパーが自社ブランドの製造を食品メーカーなどに委託する場合
- 家電メーカーが自社製品の修理に必要な部品の製造を部品メーカーに委託する場合
2. 修理委託
修理委託は、本来の機能を失った物品の修理を委託する取引です。そのため、「点検」や「メンテナンス」は、物品が機能を完全に失っていなければ、ここでいう「修理委託」には該当しません。
【修理委託の例】
- 自動車ディーラーが顧客から修理の依頼を受けた車を自動車修理工場などに委託する場合
- 自社工場の設備等を自社で修理している工場設備等のメーカーが、自社工場設備の修理作業の一部を外部修理会社に委託する場合
3. 情報成果物作成委託
情報成果物作成委託とは、プログラム作成や設計・デザインなどの作成を委託する取引です。
【情報成果物作成委託の例】
- ソフトウェアメーカーが、会計ソフトの開発を別のソフトウェア会社に委託する場合
- 広告会社がクライアントから受注した広告制作をCM制作会社に委託する場合
4. 役務提供委託
役務提供委託とは、物品のような物質ではなく、修理、運送、データ入力などの請け負った役務を別事業者に再委託することです。
【役務提供委託の例】
- 自動車メーカーが販売した自動車の保証期間内のメンテナンスを自動車整備業者に委託する場合
- 貨物輸送会社が受託した運送業務のうち一部経路の業務を委託する場合
資本金区分
下請法では、規制の対象となる親事業者と、保護の対象となる下請事業者は、それぞれの資本金の額の組み合わせも関わってきます。
資本金の額による親事業者、下請事業者の組み合わせは、以下の4パターンです。
(前記表・区分1の取引の場合)
- 資本金3億円超の親事業者と資本金3億円以下の下請事業者
- 資本金1,000万円超3億円以下の親事業者と資本金1,000万円以下の下請事業者
(前記表・区分2の取引の場合)
- 資本金5,000万円超の親事業者と資本金5,000万円以下の下請事業者
- 資本金1,000万円超5,000万円以下の親事業者と資本金1,000万円以下の下請事業者
下請法における親事業者の4つの義務
下請法が適用される場合、親事業者は下請事業者に対して以下のような義務を負います。
- 発注書面の交付義務
- 支払期日を定める義務
- 書類の作成・保存義務
- 遅延利息の支払い義務
1. 発注書面の交付義務
下請法が適用される取引を下請事業者に委託する場合、親事業者は以下の必要事項を記載した書面をあらかじめ交付しなければなりません(下請法第3条)。この書面を、「3条書面」といいます。
3条書面には以下のような事項を記載する必要があります。
- 親事業者、下請事業者の名称
- 委託した日
- 給付の内容
- 給付を受領する期日/場所
- 検査完了期日
- 下請代金の額/支払期日等
- 代金振込先の金融機関名等
- 原材料を有償支給する場合はその品名、数量、対価など
2. 支払期日を定める義務
親事業者は、下請代金の支払期日を定める義務を負います(下請法第2条の2)。
親事業者からの下請代金支払遅延は、下請事業者にとって最も重大な懸案事項の1つでしょう。そのため親事業者は、委託した下請事業者から成果物を受領した日の60日以内の、できるだけ早い日を下請代金の支払をする期日として、あらかじめ定めておく義務を負います。
3. 書類の作成・保存義務
親事業者は、下請事業者に委託した場合は、給付の内容や下請代金額等を記載した書類を作成し、2年間保存する義務があります(下請法第5条)。この書類を、「5条書類」といいます。
5条書類には、以下のような事項を記載する必要があります。
- 下請業者の名称
- 委託した日
- 給付の内容
- 給付を受領する期日/場所
- 検査完了日・検査結果・やり直しの理由など
- 下請代金の額/支払期日/変更があった場合の増減額とその理由
- 支払い方法/遅延利息の額など
4. 遅延利息の支払い義務
親事業者は、②で定めた支払期日を超過して下請代金を支払わなかった場合には、日数に応じた遅延損害金を上乗せして支払う義務を負います(下請法第4条の2)。
遅延損害金は、下請事業者から成果物を受領した後60日を経過した日からカウントされ、支払いが完了する日まで加算されます。遅延損害金は年率14.6%です。立場の強い親事業者が、遅延損害金を自主的に設定すると期待するのは難しいことから、あらかじめ法律で支払遅延のペナルティが定められています。
下請法における親事業者の禁止事項
下請法では、親事業者に対し、以下の11項目の禁止事項を定めています。
- 受領拒否
- 下請代金の支払遅延
- 下請代金の減額
- 返品
- 買いたたき
- 購入・利用強制
- 報復措置
- 有償支給原材料等の対価の早期決済
- 割引困難な手形の交付
- 不当な経済上の利益の提供要請
- 不当な給付内容の変更、やり直し
1. 受領拒否
納品された成果物を、正当な理由なく受け取らないことは認められていません。
具体的には、親事業者の都合や気分で「やっぱりいらない」と断るのは違反になります。品質に問題がある場合など、客観的な理由がある場合を除き、受領拒否はできません。
2. 下請代金の支払遅延
納品後60日以内に下請代金を支払うのがルールです。
親事業者の社内処理の遅れなどを理由に支払いが遅れると、下請事業者の資金繰りに直結します。納品からできるだけ早く、期日内に振り込む必要があります。
3. 下請代金の減額
契約後に一方的に代金を引き下げることは禁止されています。
「作業が早く終わったから」「想定より簡単だった」などの理由では、金額を変えることはできません。金額変更には事前の合意が必要です。
4. 返品
正しく納品された商品を、親事業者の都合で返品することはできません。
在庫が余ったからといって返却するのは、下請側に一方的なリスクを押しつける行為となり、下請法違反にあたります。
5. 買いたたき
市場相場に比べて不当に安い価格での発注は違反です。
例えば、「他社はもっと安くやってくれる」などと価格を無理に下げさせることは、適正な取引とはいえません。下請事業者が適正に利益を得られる価格を提示することが求められます。
6. 購入・利用強制
親事業者が指定した物品やサービスを、下請事業者に強制的に購入させることは禁止されています。
具体的には、「このソフトを買ってもらわないと契約できない」といった条件は、強制にあたります。
7. 報復措置
不当な扱いに対して下請事業者が苦情や申告をしたことを理由に、取引を打ち切るなどの不利益を与えることはできません。
意見を言っただけで取引を減らされるような行為は、明確な報復とされます。
8. 有償支給原材料等の対価の早期決済
原材料を有償で支給している場合、成果物の納品前に代金を支払わせることはできません。
例えば、先に材料代だけ請求するような対応は、下請事業者に資金負担を前倒しさせる行為として問題になります。
9. 割引困難な手形の交付
換金が難しい長期手形などで支払いを済ませることは原則として禁止です。
資金繰りに影響するような不利な支払い方法は避け、できる限り現金や短期手形などでの支払いが求められます。
10. 不当な経済上の利益の提供要請
協賛金や接待など、契約外の経済的な負担を求めることも禁止されています。
具体的には、親事業者の創立記念パーティへの協賛金を要求するようなケースは、よくある違反例の1つです。
11. 不当な給付内容の変更、やり直し
契約後に、成果物の内容を大きく変更したり、やり直しを求めたりすることも制限されています。
下請事業者に過度な手間やコストが発生する場合には、追加費用なども含めてきちんと合意を取り直す必要があります。
いずれも親事業者が下請事業者に対して、優越的立場を利用して理不尽な取り扱いをしないために規定された項目です。
下請法に違反した場合の罰則
公正取引委員会および中小企業庁では、毎年親事業者、下請事業者の両者に対して、書面による調査を実施し、下請法違反がないかを確認しています。調査の結果や下請事業者からの申立てによって、必要に応じて個別調査や立入検査が実施されます。
調査によって下請法違反が発覚した場合、親事業者に対し、以下の対応・処分がとられます。
- 原状回復と再発防止措置実施の勧告と企業名等の公表
- 親事業者に対して改善を強く求める行政指導
- 最高50万円の罰金
下請法違反は「三罰規定」と呼ばれ、違反をした法人である親事業者だけでなく、親事業者の代表者および違反行為者本人もまた、50万円以下の罰金に処せられる場合があります。そのため、親事業者の担当者は注意が必要です。
下請法に関する法令・ガイドライン等
下請法を正しく運用するには、法律の条文だけでなく、その解釈や実務への落とし込み方を示した「ガイドライン」や「運用基準」の存在が欠かせません。法律は原則を示すものですが、実際の取引で起こり得る細かい判断まではカバーしきれません。
そこで重要になるのが、関係機関が公開している補足資料です。
主な法令・ガイドライン一覧
以下では、実務で参考にしたい主要な法令・ガイドラインをいくつか紹介します。
下請代金支払遅延等防止法(下請法)本体
親事業者の義務や禁止事項、違反時の罰則などが定められた法律です。まずはこの内容を押さえておくことが前提になります。
参考:公正取引委員会|下請代金支払遅延等防止法
下請法運用基準(公正取引委員会)
下請法の具体的な適用事例をまとめたものです。どのような行為が「違反」とされるのかが明確に記載されており、実務判断の際の参考になります。
参考:公正取引委員会|下請法の関連資料
下請取引適正化推進ガイドライン(中小企業庁)
中小企業が不当な取引に巻き込まれないようにするための実践的な指針です。トラブルの未然防止にも役立つ内容がまとまっています。
参考:中小企業庁|ガイドライン一覧
下請法Q&A・パンフレット類
よくある質問をベースに構成された資料で、初めて下請法を扱う担当者にもわかりやすい内容です。全体の流れや注意点を短時間で把握できます。
参考:公正取引委員会|よくある質問コーナー(下請法)
電子契約・クラウド保存に関する実務上の留意事項
紙の書面に代わり、メールやクラウドで発注書などを交付する場合、下請事業者がデータを保存できることが前提となります。閲覧だけでは不十分で、手元に記録を残せる仕組みが必要です。また、電子化にあたっては下請側の同意が必要で、無理に承諾を求めたり、費用を押しつけたりするのは法律違反にあたるおそれがあります。ていねいな事前確認と、両者にとって無理のない運用が求められます。
参考:公正取引委員会|下請取引における電磁的記録の提供に関する留意事項
ガイドラインの使いどころとは?
ガイドラインは、実際の契約書作成や支払時の判断、また下請事業者からの相談対応など、さまざまな場面で活用できます。特に判断に迷うケースでは、「どこまでがOKで、どこからがNGか」というラインを見極める際に大きな助けとなります。
ルールを守っているつもりでも、無意識のうちに違反となってしまうこともあるため、こうした資料を活用しておくことは非常に重要です。
2025年現在の下請法の改正案
下請法は今、大きな見直しのタイミングを迎えています。2025年現在の改正案では、電子契約の取り扱いやフリーランスへの保護、支払い方法の見直しなどが主な検討項目です。
これまでの下請法は、紙の契約書や製造業の取引を前提にした制度設計となっており、クラウドを活用した契約や、企業とフリーランスのような新しい働き方との間で起きる実務に十分対応できていませんでした。こうしたギャップを埋めるために、法制度の見直しが進んでいます。
例えば、発注書面を紙で交付しなければならないという従来の規定に代わり、電子メールやクラウド上での通知も正式な方法として認められる方向です。
また、フリーランスに対しても、契約内容の事前明示や60日以内の報酬支払いなどを義務づける法律がすでに整備されており、今後は下請法の運用にもこうした考え方が反映されていくと見られます。
さらに、長期の約束手形など、実質的に資金繰りを悪化させるような支払い方法の制限も議論されています。
今回の改正は、企業の取引慣行を根本から見直す契機となるでしょう。発注から支払いまでの流れを見直し、電子契約や迅速な支払体制を整えるなど、実務レベルでの備えが求められます。法改正を他人事にせず、日頃の業務にどう影響するかを意識しておくことが重要です。
下請法について正しく理解しましょう
下請法は、独占禁止法ではカバーできない親事業者の優越的地位濫用を防ぎ、下請事業者の利益保護を目的に制定された法律です。親事業者の下請法違反は、公正取引委員会等の調査だけでなく、違反行為の相手方である下請事業者からの申立てからも発覚します。
下請法違反は、下請事業者には経済的不利益を、親事業者には企業価値を損ねる結果となりかねません。公正で円滑な取引のために、親事業者が下請法を遵守するだけではなく、下請事業者側も親事業者の義務や禁止事項を把握しておくことが大切です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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