- 更新日 : 2024年8月30日
M&Aの際に締結する契約は?進め方や注意点も解説
企業同士が合併するM&Aでは、さまざまな契約を締結して手続きを行う必要があります。適切に行わなければ交渉がスムーズに進まず、M&Aの成立まで時間がかかってしまうことがあります。
今回は、M&Aの際に締結する契約の種類や成立までの手順、注意点についてご説明します。
目次
M&Aの際に締結する契約書
M&Aでは「アドバイザリー契約書」「秘密保持契約書」「基本合意契約書」「最終契約書」など、さまざまな契約書を作成して契約を締結する必要があります。それぞれについて、詳しく見ていきましょう。
アドバイザリー契約書
会社を譲渡する場合は譲渡先を、会社を譲受する場合は譲渡先を探している会社を見つけなければなりません。仲介会社を通じて相手方を探し、条件の交渉や契約手続きなども仲介会社を通じて行うケースが多いです。
アドバイザリー契約とは、譲渡する側あるいは譲受する側と仲介会社が結ぶ契約のことで、アドバイザリー契約書には業務範囲や報酬、秘密保持条項などが記載されます。なお、厳密には、アドバイザリー契約は一方の代理となるもの、仲介契約は双方の仲介をするものになります。
M&Aでは適切な相手を見つけることも大切ですが、そのためには適切な仲介会社を選ぶことが大切です。
秘密保持契約書
M&Aを行う際は、秘密保持が非常に重要です。交渉を行う際、自社の重要情報を相手方に開示することがあり、製品情報やノウハウ、顧客情報などが外部に漏れた場合は、損害を被るかもしれません。秘密保持について取り決めておかないと、M&Aが成立しなかった場合にノウハウを相手方に利用されるおそれがあります。
また、M&Aを進めていることを競合他社や従業員、取引先などの関係者が知ると、交渉がスムーズに進まなかったり、決裂したりするリスクが高くなります。M&Aの情報が漏れないように、相手方と秘密保持契約(NDA)を結んでおくことも大切です。
秘密保持契約書について、詳しくは下記記事をご覧ください。
基本合意契約書
譲渡側と譲受側の交渉によって条件などがある程度まとまり、両者の意向が固まってきた段階で「基本合意契約書(基本合意書)」を締結します。基本合意契約書には、M&Aの概要や譲渡価格、今後のスケジュール、デューデリジェンス(買収監査)、役員の処遇、独占交渉権の付与、表明保証(詳しくは後述します)、秘密保持など、さまざまな条項が記載されます。
基本合意契約書の中でも特に重要なのが、独占交渉権の付与です。独占交渉権とは、相手方が他の候補先と接触することを一定期間禁止して、自社が独占的に交渉できるようにする権利のことです。
基本合意契約書を締結した後、譲受側は譲渡側の企業の買収監査を行います。譲渡側企業の資産価値や経営リスクを洗い出し、譲受してもよいかどうかを検討します。弁護士や公認会計士が調査を行うため多額の費用と手間がかかりますが、その間に譲渡側が他の候補者と接触してM&Aが成立に至らなければ、買収監査にかかった費用や手間が無駄になってしまいます。基本合意契約書を締結して独占交渉権を定めておくことで、その損害を防ぐことができます。
なお基本合意書を契約する前に、意向表明書でM&Aの意思表示と希望条件を提示することがあります。
最終契約書
譲受側が譲渡先の買収監査を行い、双方が条件を詰めて合意に至った場合は「最終契約書」を締結します。なお会社法第748条では、企業同士が合併する際には合併契約を締結するよう定めています。
(合併契約の締結)
第七百四十八条 会社は、他の会社と合併をすることができる。この場合においては、合併をする会社は、合併契約を締結しなければならない。
最終契約書は、M&Aを円滑に成立させるにあたって重要なものです。ちなみに、基本合意契約書(吸収合併契約の場合)に盛り込む項目は会社法第749条に定められており、以下のような事柄を双方で協議する必要があります。
(株式会社が存続する吸収合併契約)
第七百四十九条 会社が吸収合併をする場合において、吸収合併後存続する会社(以下この編において「吸収合併存続会社」という。)が株式会社であるときは、吸収合併契約において、次に掲げる事項を定めなければならない。
一 株式会社である吸収合併存続会社(以下この編において「吸収合併存続株式会社」という。)及び吸収合併により消滅する会社(以下この編において「吸収合併消滅会社」という。)の商号及び住所
二 吸収合併存続株式会社が吸収合併に際して株式会社である吸収合併消滅会社(以下この編において「吸収合併消滅株式会社」という。)の株主又は持分会社である吸収合併消滅会社(以下この編において「吸収合併消滅持分会社」という。)の社員に対してその株式又は持分に代わる金銭等を交付するときは、当該金銭等についての次に掲げる事項
イ 当該金銭等が吸収合併存続株式会社の株式であるときは、当該株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)又はその数の算定方法並びに当該吸収合併存続株式会社の資本金及び準備金の額に関する事項
ロ 当該金銭等が吸収合併存続株式会社の社債(新株予約権付社債についてのものを除く。)であるときは、当該社債の種類及び種類ごとの各社債の金額の合計額又はその算定方法
ハ 当該金銭等が吸収合併存続株式会社の新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く。)であるときは、当該新株予約権の内容及び数又はその算定方法
ニ 当該金銭等が吸収合併存続株式会社の新株予約権付社債であるときは、当該新株予約権付社債についてのロに規定する事項及び当該新株予約権付社債に付された新株予約権についてのハに規定する事項
ホ 当該金銭等が吸収合併存続株式会社の株式等以外の財産であるときは、当該財産の内容及び数若しくは額又はこれらの算定方法
三 前号に規定する場合には、吸収合併消滅株式会社の株主(吸収合併消滅株式会社及び吸収合併存続株式会社を除く。)又は吸収合併消滅持分会社の社員(吸収合併存続株式会社を除く。)に対する同号の金銭等の割当てに関する事項
四 吸収合併消滅株式会社が新株予約権を発行しているときは、吸収合併存続株式会社が吸収合併に際して当該新株予約権の新株予約権者に対して交付する当該新株予約権に代わる当該吸収合併存続株式会社の新株予約権又は金銭についての次に掲げる事項
イ 当該吸収合併消滅株式会社の新株予約権の新株予約権者に対して吸収合併存続株式会社の新株予約権を交付するときは、当該新株予約権の内容及び数又はその算定方法
ロ イに規定する場合において、イの吸収合併消滅株式会社の新株予約権が新株予約権付社債に付された新株予約権であるときは、吸収合併存続株式会社が当該新株予約権付社債についての社債に係る債務を承継する旨並びにその承継に係る社債の種類及び種類ごとの各社債の金額の合計額又はその算定方法
ハ 当該吸収合併消滅株式会社の新株予約権の新株予約権者に対して金銭を交付するときは、当該金銭の額又はその算定方法
五 前号に規定する場合には、吸収合併消滅株式会社の新株予約権の新株予約権者に対する同号の吸収合併存続株式会社の新株予約権又は金銭の割当てに関する事項
六 吸収合併がその効力を生ずる日(以下この節において「効力発生日」という。)
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M&Aの進め方
M&Aの基本的な流れは以下のとおりです。 多くのM&Aは会社経営にとって重要なインパクトを持つものであり、各段階で十分に検討し、適切な手続きを行う必要があります。
- M&Aの目的や方針を明確にする
- M&A仲介会社などに相談
- アドバイザリー契約書もしくは仲介契約書を締結する
- 売却価格などの条件を決めて提案資料を作成し、譲渡先を見つける(譲渡側)
- 仲介会社の情報をもとに譲渡企業を見つける(譲受側)
- 相手方との交渉を開始する(意向表明書を提出するケースもある)
- 合意を形成し、機密保持契約・基本合意契約を締結する
- 買収監査を実施して譲渡会社を精査する(譲受側)
- 最終条件を交渉する
- 最終契約を締結し、M&Aが成立する
M&Aを進める際の注意点
M&Aを進める際は、さまざまなことに注意しなければなりません。途中で相手方と揉めたり、成立後にトラブルが発生したりしないよう、特に以下の点を意識して交渉を進めましょう。
表明保証の内容を確認しておく
表明保証とは譲渡側が譲受側に対して、最終契約の締結日や譲渡日において対象企業に関する財務や法務等に関する一定の事項が真正かつ正確であることを表明し、それを保証することです。
譲渡側が譲受側に嘘をついたり、事実と異なることを提示していたりすると、M&Aが成立した後で譲受側が不利益を被るおそれがあります。表明保証違反があった場合、譲受側は株式譲渡契約の解除や損害賠償請求を求めることができます。
譲受側は表明保証の内容が適切か、譲渡側は表明保証の内容が正しいか(実態と相違が生じていないか)をそれぞれ確認し、最終契約を締結する必要があります。
契約を解除できる期間を確認しておく
前述のとおり、表明保証とは契約の締結日や譲渡日において、契約書に記載された内容が正確であることを保証することです。表明保証の中に、表明保証違反があった場合に契約を解除できる期間を定めておくことで、譲受側は違約金なしで契約を解除できるようになります。
譲渡側、譲受側ともに、契約解除可能期間を確認しておくことは非常に重要です。
M&Aの段階ごとに内容をしっかり確認して契約を締結しましょう
M&Aでは、段階ごとにさまざまな契約を相手方や仲介会社と締結します。それぞれの段階で内容をしっかり確認し、交渉を続けて詳細まで詰めて、互いに納得した上で契約を締結しましょう。
M&Aは経営者だけでなく従業員やその家族、顧客、取引先に至るまで、大きな影響を及ぼすことが多いことから、慎重に検討し、適切に手続きを進めましょう。
よくある質問
M&Aの際に締結すべき契約はありますか?
主に「アドバイザリー契約書」「仲介契約書」「秘密保持契約書」「基本合意契約書(基本合意書)」「最終契約書」などを作成し、締結します。詳しくはこちらをご覧ください。
M&Aはどのような流れで進みますか?
相手先の選定、交渉、買収監査、最終契約という流れで進みます。詳しくはこちらの記事をご覧ください。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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