- 作成日 : 2025年11月11日
取締役会の成立要件とは?有効な決議を行うための定足数や招集手続きなど解説
企業の重要な意思決定を担う取締役会。その決定が法的に有効と認められるためには、会社法に定められた「成立要件」や「決議要件」を正しく満たす必要があります。
本記事では、そもそも取締役会とは何かという基本から、成立に不可欠な定足数、有効な決議の条件、招集手続きのルール、そしてオンライン開催の注意点まで、企業の担当者が知っておくべきポイントを網羅的に解説します。
目次
取締役会の成立要件とは?
取締役会が有効に成立するための要件は、議決に加わることができる取締役の「過半数」が出席することです。この最低限必要な出席者数のことを「定足数(ていそくすう、quorum)」と呼びます。
定足数の要件:過半数の取締役の出席
取締役会が会議体として成立するための大前提が、定足数を満たすことです。
会社法第369条1項では、取締役会の決議は「議決に加わることができる取締役の過半数が出席」して行うと定められています。例えば、取締役が5名いる会社であれば、その過半数である3名以上の取締役が出席しなければ、そもそも取締役会として成立せず、いかなる決議も行うことができません。
この定足数は、定款によって加重、つまり「3分の2以上」のように引き上げることは可能ですが、「過半数」より緩やかにすることは認められていません。
なお、監査役設置会社においては、監査役は取締役会への出席義務がありますが、議決権を持たないため定足数を計算する際の取締役の数には含まれません(監査等委員会設置会社など、会社の機関設計によっては監査役を置かない場合があり)。
成立要件を満たさない決議の法的リスク(決議の瑕疵)
取締役会の成立要件や決議要件を満たさずに行われた決議は、法的に「瑕疵(かし)」がある状態となり、その効力が否定されるリスクがあります。瑕疵の重大性に応じて、主に3つのレベルに分けられます。
| 瑕疵の種類 | 内容 | 法的効力・争い方 |
|---|---|---|
| 決議不存在 | 定足数不足や招集手続きの著しい省略など、決議が存在したとは到底いえないほど重大な瑕疵がある状態。 | 常に無効であり、法律上の利害関係を有する者が「不存在確認の訴え」などで争うのが通例。 |
| 決議無効 | 決議の内容自体が法令や定款に違反している状態。 | 常に無効であり、法律上の利害関係を有する者が「無効確認の訴え」などで争うのが通例です。 |
| 決議取消し | 招集通知の期間不足など、手続き上の瑕疵はあるものの、不存在とまではいえない状態。 | 株主などが決議の日から3ヶ月以内に訴えを起こすことで、効力を取り消すことができる。 |
株主総会決議には、手続きの瑕疵を「決議の日から3ヶ月以内」に訴える「取消しの訴え」(会社法831条)という制度があります。しかし、取締役会決議にはこの規定がなく、手続きの不備は主に上記の「不存在」や「無効」として、期間の定めなく争われるのが一般的です。
このように、要件を満たさない決議は会社の重要な意思決定の効力を失わせ、取引先などに多大な迷惑をかける原因にもなります。だからこそ、定められた要件を正確に守ることが極めて重要なのです。
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取締役会の決議を有効にするための要件は?
取締役会の決議を有効にするには、原則として「出席した取締役の過半数」の賛成が必要です。ただし、決議に参加できない取締役がいる例外ケースもあるため、その計算方法とあわせて正確に理解することが重要です。
原則的な決議要件
取締役会の決議は、定足数(議決に加われる取締役の過半数の出席)を満たした上で、出席した取締役の過半数が賛成することによって成立します(会社法369条1項)。
例えば、取締役が5名の会社で4名が出席した場合、定足数(3名以上)を満たして会議は成立します。その上で、出席した4名の過半数である3名以上が賛成すれば、議案は可決されます。この決議要件は、定款によって「3分の2以上の賛成」のように通常より厳しくする(加重する)ことは可能ですが、過半数より緩やかにすることはできません。
| 取締役総数 | 定足数(過半数)/出席者数 | 決議要件(出席者の過半数) |
|---|---|---|
| 5名 | 3名以上/5名 | 3名以上の賛成 |
| 5名 | 3名以上/4名 | 3名以上の賛成 |
| 5名 | 3名以上/3名 | 2名以上の賛成 |
| 6名 | 4名以上/6名 | 4名以上の賛成 |
| 6名 | 4名以上/5名 | 3名以上の賛成 |
例外:特別利害関係取締役は議決に参加できない
議案に対して個人的な利害関係を持つ取締役は「特別利害関係取締役」として扱われ、その決議に加わることはできません(会社法369条2項)。これは、決議の公正さを保ち、取締役が自己の利益を優先させることを防ぐためのルールです。
- 会社と取締役との間の取引(自己取引)に関する議案における、その取引の当事者である取締役
- 特定の取締役の会社に対する責任を免除する議案における、当該取締役
- 特定の取締役の報酬額を決定する議案における、当該取締役
この「議決に加わることができない」というルールは、定足数と決議要件の計算方法に直接影響します。
取締役会の定足数は「議決に加わることができる取締役」の過半数と定められているため、特別利害関係取締役は定足数を計算する際の母数と、決議要件を計算する際の母数の両方から除外されます。
具体的な計算例を見てみましょう。例えば、取締役が5名いる会社で、ある議案について1名が特別利害関係取締役に該当する場合、この議案で「議決に加わることができる取締役」は4名となります。したがって、定足数は4名の過半数である3名です。もし、特別利害関係者ではない取締役4名が出席した場合、決議は出席した4名の過半数である3名の賛成で可決されます。
そもそも取締役会とは?
会社の業務執行に関する意思決定を行い、取締役の職務執行を監督する機関です。取締役会設置会社は、原則として株主総会で選任された3名以上の取締役で構成されます。ただし、会社の設立時には、その設立方法に応じて発起人や創立総会が取締役を選任する場合もあります。
取締役会の主な役割と権限
取締役会の主な役割は、会社の基本的な運営方針を決定し、代表取締役などの業務執行を監督することです。
具体的には、重要な財産の処分や譲り受け、多額の借財、支配人の選任・解任、支店の設置・変更・廃止など、会社法で定められた重要事項を決定する権限を持ちます(会社法362条4項)。これらの事項は、個々の取締役に委ねることができず、必ず取締役会の決議を経なければなりません。
会社法における取締役会の位置づけ
会社法上、取締役会は「取締役会設置会社」において必須の機関です。
公開会社や監査役会設置会社、指名委員会等設置会社などは、必ず取締役会を設置しなければならないと定められています(会社法327条1項)。取締役会を設置することで、業務執行の意思決定を取締役個人の判断ではなく、合議体である取締役会に委ねることになり、経営の客観性や妥当性を担保する役割を果たしています。
そのため、取締役が1名または2名の会社は取締役会を設置できず、本記事で解説する成立要件や決議要件といったルールは適用されません。
取締役会の招集手続きはどのように進める?
取締役会を有効に開催するためには、原則として、会社法に定められた適切な招集手続きを踏む必要があります。招集手続きに不備があると、後から決議の効力が争われる原因となり得るため、正確に進めることが重要です。
招集権者と招集通知の発送
原則として、取締役会の招集は各取締役が行うことができます(会社法366条1項)。ただし、実務上は混乱を避けるために、定款で「招集権者は代表取締役とする」などと特定の人物を定めていることが一般的です。
招集権者は、取締役会の日の1週間前まで(定款で短縮も可)に、各取締役に対して招集通知を発しなければなりません。監査役設置会社にあっては、各監査役にも同様に通知が必要です(会社法368条1項)。通知は口頭、書面、Eメールなど、方法に特段の定めはありませんが、記録が残る方法が望ましいでしょう。
| 手続きのポイント | 内容 | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 招集権者 | 各取締役(定款で特定の取締役を定めることが可能) | 会社法366条1項 |
| 通知の期限 | 原則、開催日の1週間前まで(定款で短縮可能) | 会社法368条1項 |
| 通知の対象者 | 全ての取締役(監査役設置会社の場合は、全ての監査役も含む) | 会社法368条1項 |
招集手続きを省略できるケース
取締役および監査役の「全員の同意」がある場合は、招集手続きを完全に省略して取締役会を開催することが認められています(会社法368条2項)。
例えば、取締役が3名、監査役が1名の会社で、役員全員がオフィスにいる場面を想定します。そこで緊急の議題が生じた際に、その場で全員が「今から取締役会を始めましょう」と口頭で同意すれば、1週間前の通知がなくても、その場で有効に取締役会を成立させることができます。少人数の会社では、この方法が実務上よく利用されています。
オンライン(WEB会議)での取締役会も成立する?
WEB会議システムなどを利用したオンライン形式でも、有効な取締役会を成立させることが可能です。ただし、有効と認められるには一定の要件を満たす必要があり、議事録の作成にも注意点があります。
オンライン開催が有効と認められるための要件
オンライン取締役会が有効とされるためには、物理的な会議と同等の「同時双方向性」が確保されている必要があります。具体的には、参加者全員の発言が即時に他の参加者に伝わり、リアルタイムで円滑な意見交換ができる状態を指します。
この要件を満たせば、映像を伴うWeb会議だけでなく、音声のみの電話会議によっても取締役会は有効に成立します。ただし、いずれの方法でも、一部の役員の通信環境が悪く、議論が頻繁に途切れるなどして実質的に参加できない状態になった場合、その役員は「出席」とは認められない可能性があるため注意が必要です。
WEB会議の場合の議事録作成のポイント
オンラインで取締役会を開催した場合でも、通常通り議事録を作成し、出席した役員による調印(書面の場合は署名または記名押印、電磁的記録の場合は電子署名)が必須です。
議事録には、開催日時や議事の経過などに加え、オンラインで参加した役員の出席方法(例:「Web会議システムを利用して出席」など)を記載します。会社法施行規則では特定のツール名までの記載は義務付けられていません。
取締役会への代理出席や委任状は認められる?
結論として、取締役会への代理出席や委任状の提出は一切認められません。 取締役本人が出席し、自らの意思で議決権を行使する必要があります。その理由と、会議に出席できない場合の代替手段について以下で解説します。
代理出席が認められない理由
取締役の職務は、その個人の経営手腕や知見に対する信頼に基づいて委任されたものであり、「一身専属的(いっしんせんぞくてき)」な義務とされています。これは「その人でなければ務まらない」という意味合いです。
そのため、自らの判断で議論に参加し議決権を行使することが求められ、第三者を代理人として出席させたり、議決権の行使だけを委ねたりすることはできません。これは、たとえ他の取締役や弁護士であっても同様です。
会議を開催しない「書面決議(みなし決議)」という選択肢
定款に「取締役会の決議の目的である事項について、取締役の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の取締役会の決議があったものとみなす」旨の定めがある場合に限り、「書面決議(みなし決議)」という制度を利用できます(会社法370条)。
これは、実際に会議を開催せず、取締役全員の同意をもって決議を成立させる仕組みです。
ただし、3ヶ月に1回以上の職務執行状況の報告(会社法363条2項)など、一部の報告事項はこの書面決議では省略できないため、報告のためだけに取締役会を実際に開催する必要が生じるケースもあります。
ここまで解説してきた数々の要件を満たして有効に取締役会が成立・決議されたことを証明するために、会社法は「議事録」の作成を義務付けています。
取締役会議事録で注意すべきポイント
取締役会の議事録は、法的に定められた事項を網羅して作成し、本店に10年間保管することが会社法で義務付けられています。この議事録は、決議の正当性を証明する唯一の公式な証拠となるため、その役割と記載事項を正確に理解しておく必要があります。
なぜ議事録は法的な「証拠」として重要なのか
適切に作成された議事録は、会社の意思決定のプロセスと結果を客観的に証明する強力な証拠となります。
具体的には、代表取締役の交代といった法務局への登記申請の際に必須の添付書類となるほか、金融機関からの融資審査や税務調査においても、会社のガバナンス体制を示す重要な資料として提出を求められることがあります。議事録がなければ、決議の存在自体を対外的に証明することが困難になる可能性があります。
議事録に必ず記載すべき事項
議事録の有効性を確保するためには、「記載事項」と「調印方法」という2つの法的要件を正確に満たす必要があります。どちらか一方でも欠けると、議事録の証明力が問われる可能性があるため注意が必要です。
1. 法律で定められた記載事項
議事録には、主に以下の事項を記載する必要があります(会社法施行規則第101条)。
- 開催された日時および場所(Web会議の場合はその旨と方法)
- 議事の経過の要領とその結果(議論の概要や賛成・反対の数など)
- 特別利害関係を有する取締役の氏名
- 議長の氏名(議長を置いた場合)
2. 作成形式に応じた調印方法
議事録を作成後、出席した取締役および監査役は、その形式に応じて以下の方法で調印します(会社法369条3項、4項)。
- 書面(紙)の場合:署名または記名押印
- 電磁的記録(データ)の場合:法務省令で定められた電子署名
健全な会社運営のために、取締役会の成立要件の理解は不可欠
この記事では、取締役会の成立要件と決議要件を中心に、関連する法的なルールを解説しました。取締役会の決議が法的に有効であるためには、議決に加われる取締役の過半数が出席する「定足数」を満たし、その上で出席した取締役の過半数の賛成を得る「決議要件」をクリアする必要があります。
これらの要件を一つでも欠いた決議は無効となるリスクがあり、会社の運営に大きな支障をきたしかねません。招集手続きや特別利害関係取締役の扱い、オンライン開催のルールなどを正しく理解し、適正な手続きに沿って取締役会を運営することが、健全なガバナンスの第一歩と言えるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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