- 作成日 : 2025年9月16日
【2026年下請法改正対応】資本金3億円以上の委託事業者が知っておくべき義務や禁止行為を解説
下請法は、委託事業者と中小受託事業者の取引における公正性を確保するために制定された法律です。違反があれば是正勧告や企業名の公表が行われ、信用失墜のリスクを伴います。本記事では、資本金3億円・5,000万円の基準や禁止行為、改正への対応などを解説します。
なお、2026年1月の改正下請法施行により法令上の用語が「親事業者」は「委託事業者」に「下請事業者」は「中小受託事業者」に変更されます。記事内では、施行後の名称を利用しています。
目次
下請法とは
下請法は、企業間取引において立場の強い委託事業者が、中小受託事業者に対して不当な行為を行うことを防ぎ、取引の公正性と中小受託事業者の利益を守るために制定された法律です。適用には取引の内容だけでなく、発注者と受注者の資本金などの企業規模も関係します。
不公正な取引から中小受託事業者を守る法律
下請法(正式名称:下請代金支払遅延等防止法)は、委託事業者が不当に中小受託事業者へ不利益な取引条件を強いたり、代金支払を遅延させたりすることを防ぐことを目的としています。対象となる不当行為には、納品後の一方的な代金減額、支払期日までに代金を支払わない行為や、割引困難な手形を交付する行為、返品の強要、不要な物品の購入強制などが含まれます。また、委託事業者には、発注時に契約条件を明示する書面(いわゆる3条書面)を交付する義務や、一定期間内に代金を支払う義務が課されています。
法違反時には企業名の公表リスクも
委託事業者が下請法に違反した場合、公正取引委員会などから是正勧告を受けることになります。この勧告内容は原則として公表されるため、違反企業は公正取引委員会による是正勧告や企業名の公表により信用低下のリスクを負う可能性があります。上場企業やBtoB中心の企業にとっては、取引先や株主からの信頼にも影響を与えかねない重大な問題です。
規制対象は企業規模によって決まる
下請法はすべての取引に適用されるわけではなく、発注者と受注者の企業規模に差がある場合に限定されます。たとえば製造・修理等の委託では、資本金が3億円を超える委託事業者が、資本金3億円以下の企業に業務を委託したときが該当します。
このように、取引内容とともに資本金等の規模要件が満たされて初めて下請法の保護が及ぶため、適用対象か否かを判断する際には両者の関係性を慎重に確認する必要があります。
下請法の適用範囲と資本金3億円の関係(製造・加工・修理等の委託取引)
下請法では、取引の種類と当事者双方の企業規模により適用の可否が決まります。特に資本金3億円という基準は、発注側が委託事業者に該当するかどうかを判断するうえで重要な指標とされます。
資本金3億円超えの企業が発注者となる場合の適用基準
製品の製造、部品の加工、機械等の修理といった委託取引において、発注者の資本金が3億円を超える場合、その取引が下請法の対象になるかどうかは、受注者の資本金によって決まります。受注者の資本金が3億円以下である場合、委託事業者と中小受託事業者の資本金差が要件を満たすため、下請法の適用対象となります。ここでの「3億円以下」には資本金が3億円ちょうどの企業や個人事業主も含まれます。
たとえば、資本金4億円のメーカーが、資本金2,000万円のソフトウェア企業にシステム開発を委託するケースでは、発注者が3億円を超えており、受注者が3億円以下であるため、下請法が適用されます。
反対に、委託事業者と中小受託事業者のいずれも資本金が3億円を超えている場合は、下請法の資本金基準を満たさず、適用対象外とされます。このようなケースでは、発注者が大企業であっても、相手方も同等の資本金規模である場合は、資本金区分の基準により下請法の適用対象外となります。
委託事業者が中堅規模の場合の適用基準
委託事業者の資本金が3億円以下であっても、1,000万円を超えている場合には、さらに中小受託事業者の資本金が1,000万円以下であることが必要になります。このように、発注者が中堅企業の場合でも、相手方との規模差が一定以上なければ下請法は適用されません。
たとえば、資本金1億円の企業が、資本金5,000万円の会社に製造加工業務を委託した場合、受注側の資本金が1,000万円を超えているため、下請法は適用されません。これは、両者の資本金に明確な差があるとは言い切れないと判断されるためです。
このように、発注者の資本金が3億円を超えるか否かだけでなく、相手方との組み合わせによって判断する必要がある点に注意が必要です。発注者が下請法の義務を負う立場かどうかを正しく把握するためには、取引先の資本金も必ず確認しなければなりません。
下請法の適用範囲と資本金5,000万円の関係(情報成果物や役務提供の委託取引)
デザイン制作、記事作成などのプログラム以外の成果物委託や、運送や清掃といった役務提供に関する取引では、製造委託などと異なる資本金基準が設けられています。ここでは、5,000万円を超える発注者の場合に下請法が適用される条件について解説します。
資本金5,000万円を超える企業が発注者となる場合の適用基準
情報成果物の作成や役務提供に関する取引では、委託事業者の資本金が5,000万円を超えている場合において、受注側の資本金が5,000万円以下であるときに下請法が適用されます。この基準は、製造委託などと比べると適用される資本金の水準が低く設定されています。
たとえば、資本金6,000万円の企業が、資本金3,000万円のデザイン会社にパンフレット制作を依頼したケースでは、両者の資本金差が基準に該当するため、下請法の規制対象となります。このような場合、委託事業者は、発注書面の交付義務や支払期限の順守など、下請法に定められた一連の義務を負うことになります。
一方で、発注者・受注者ともに資本金が5,000万円を超えている場合(たとえばいずれも1億円)には、下請法の資本金基準を満たさず、法の適用対象とはなりません。企業間の力関係や交渉力に差があっても、制度上は資本金要件を満たさない限り適用されない点に留意が必要です。
委託事業者が中小規模の場合の適用基準
委託事業者の資本金が5,000万円以下であっても1,000万円を超えている場合、下請法が適用されるには、中小受託事業者の資本金が1,000万円以下である必要があります。ここでも、発注者と中小受託事業者との間に一定の資本規模の差がなければ、法は適用されません。
たとえば、資本金3,000万円の発注者が、資本金2,000万円の映像制作会社に委託する場合、いずれも1,000万円超となるため、この取引は下請法の適用対象外となります。適用されるか否かの判断には、両者の資本金区分を正確に把握することが不可欠です。
なお、これらの基準は企業間の規模差を前提として設計されています。実際の取引において交渉力の差があっても、資本金要件を満たさない限り下請法は適用されません。
2026年からは従業員数による新基準が追加される
2026年1月1日に施行される改正下請法では、資本金基準に加えて従業員数基準(製造等は300人、情報成果物・役務等は100人)が導入される予定です。
これにより、たとえ資本金基準を満たしていない場合でも、発注側と受注側の従業員数に大きな差があるときには、下請法が適用される可能性があります。
情報成果物の作成委託・役務提供委託において、発注者が101人以上、受注者が100人以下である場合、資本金にかかわらず下請法の規制が及ぶ設計となっています。この改正により、資本金がともに5,000万円を超えていたとしても、従業員数基準を満たせば法の保護対象となる可能性が生じます。
資本金3億円以上の委託事業者が負う主な義務
資本金3億円を超える企業が下請法上の委託事業者に該当する場合、公正な取引環境を確保するためにいくつかの義務が課されています。ここでは、委託事業者が最低限押さえるべき基本的な法的義務について説明します。
発注内容の書面交付義務
委託事業者は、中小受託事業者に対して業務を委託する際、契約内容を記載した書面(いわゆる「発注書」「注文書」)を交付しなければなりません。この書面には、発注日、業務の内容・数量、納品期限、代金額、支払期日、委託者と受託者の名称など、取引に必要な情報をすべて明記することが求められます。口頭や口約束での取引は下請法では認められておらず、書面や電子メールなど、文書による明確な通知が必要です。
この義務は「3条書面交付義務」として法律上定められており、違反した場合には最大50万円の罰金が科される可能性もあります。公正取引委員会が公表している違反事例でも、書面の未交付は頻繁に見られ、行政指導の対象となる傾向があります。なお、交付した書面は取引ごとに社内で2年間保存する義務も課されています。
代金の速やかな支払と遅延利息への対応
委託事業者には、中小受託事業者から成果物の納品や役務の提供を受けた後、できる限り短期間で代金の支払期日を設定し、かつその期日までに支払う義務があります。具体的には、納品日等の翌日から起算して60日以内に支払期日を設定する必要があり、60日を超える支払サイトは下請法違反となります。
例えば、「翌々月末払い」などの慣行がある場合でも、納品日から数えて60日を越えるようなスケジュールは是正の対象となり得ます。また、万一支払期日までに支払いが完了しない場合には、年14.6%(上限)の割合で遅延利息を自動的に支払わなければなりません。これは中小受託事業者からの請求があったかどうかに関係なく、法律上当然に発生する義務です。
支払遅延は、下請法違反行為の中でも特に重く扱われ、公正取引委員会の是正勧告の対象となることが多いため、委託事業者側では、締日・支払日が法定範囲内にあるかを常に確認し、経理部門と連携して適正な処理体制を整えておく必要があります。
委託事業者の禁止行為と注意点
下請法では、委託事業者が中小受託事業者に対して不当な行為を行うことを防ぐため、具体的な禁止行為を11項目にわたって定めています。ここでは、注意すべき禁止行為の内容と、違反時に生じうるリスクについて解説します。
下請法で定められた主な禁止行為
委託事業者が行ってはならない行為として、下請法第4条に11の禁止類型が示されています。代表的なものとして、まず「受領拒否」があります。これは、中小受託事業者が納品を正当に行ったにもかかわらず、正当な理由なく受取を拒否する行為で、明確に禁止されています。
次に「支払遅延」も重大な禁止事項です。あらかじめ定めた支払期日までに代金を支払わない行為は、契約違反にとどまらず、法令違反とされます。また、「代金の減額」も典型例です。正当な理由なく、一度合意した代金を後から一方的に減額することは許されません。納品後であっても、この行為は違反に該当します。
他にも、「返品の強要」や「買いたたき」などが規制されています。返品の強要とは、委託事業者の都合で完成品を不要とし、引き取らせるよう迫る行為です。買いたたきは、著しく低い金額で発注し、中小受託事業者の利益を侵害する発注行為を指します。
さらに、「購入・利用強制」も禁止されています。これは、特定の材料やサービスを委託事業者が指定する業者から購入させるよう強いるケースが該当します。自社グループ企業を指定して買わせるような行為が典型です。
最後に、「報復的取引停止」も注意が必要です。これは、中小受託事業者が公正取引委員会に相談するなど正当な手段を取ったことに対して、次回以降の発注を停止したり、取引量を減らしたりするなどの報復的対応を指します。中小受託事業者が不安なく正当な権利を主張できるよう、このような行為は禁止されています。
違反が発覚した場合の企業リスク
これらの禁止行為に違反した場合、委託事業者は公正取引委員会や主務官庁から是正勧告を受ける可能性があります。この是正勧告は原則として公正取引委員会により公表され、企業名と違反内容が広く知られることになります。その結果、社会的信用の低下、取引先からの信頼喪失、株主や顧客からの厳しい評価といったリスクを抱えることになります。
さらに、下請法第10条では、一定の違反行為について50万円以下の罰金が科される可能性も規定されています。特に、書面交付義務や記録・保存義務を怠った場合などは罰則の対象となることがあります。たとえ罰金の額自体が軽微であっても、公表による影響は長期にわたって企業経営に影を落とす可能性があります。
委託事業者にとっては、自社の取引慣行が禁止行為に該当していないかを定期的に確認し、法務部門を中心とした社内監査体制を整備することが不可欠です。
下請法の資本金・従業員基準を把握し違反防止に努めよう
下請法は、委託事業者と中小受託事業者の間で公正な取引を維持するための重要な法律です。資本金3億円や5,000万円などの基準に基づき、適用範囲が明確に定められているだけでなく、2026年1月からは従業員数基準も導入され、保護対象がさらに広がります。委託事業者には、発注書面の交付や60日以内の代金支払といった義務があり、違反時には企業名の公表や罰則を伴うリスクがあります。
日常的に自社の取引を点検し、書面管理や支払期日の確認を徹底することで、改正後のルールにも確実に対応していきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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