• 作成日 : 2025年8月5日

新規事業のリーガルチェック|対象範囲やタイミング、弁護士への依頼方法などを解説

新しい事業のアイデアに胸を躍らせる一方で、「このサービスは法的に問題ないだろうか?」という不安を抱えていませんか。新規事業におけるリーガルチェックは、単にリスクを回避するためだけの手続きではありません。事業の適法性を担保し、顧客や取引先からの信頼を確立することで、事業そのものの価値を高める重要なプロセスです。

この記事では、新規事業を始める際に不可欠なリーガルチェックの重要性から、具体的な進め方、弁護士への法律相談を成功させるポイント、そしてグレーゾーン解消制度などの公的制度の活用法まで分かりやすく解説します。

新規事業でリーガルチェックが必要な理由

新規事業を成功に導くためには、革新的なアイデアや優れた技術だけでなく、事業を取り巻く法的な問題をクリアにすることが極めて重要です。リーガルチェックは、事業の土台を固め、持続的な成長を実現するための基盤となります。

事業停止リスクを回避するため

許認可が必要な事業を無許可で運営してしまったり、個人情報の取り扱いを誤ったりした場合、監督官庁からの指導や業務停止命令、罰金の対象となる可能性があります。法令違反が明確になった場合、事業の根幹を見直す、または撤退せざるを得ないケースもあります。

信頼獲得と企業価値向上のため

リーガルチェックを適切に行い、法令を遵守したサービスを提供することは、顧客、取引先、投資家からの信頼獲得に直結します。特に、個人情報や機密情報を扱うサービスの場合、法務体制が整っていることは企業の信頼性を客観的に示す指標となります。法令遵守の姿勢を明確にすることは、企業のブランドイメージを守り、長期的な企業価値の向上につながるのです。

資金調達やM&Aを有利に進めるため

スタートアップやベンチャー企業にとって、資金調達は事業成長の重要なステップです。投資家は出資を検討する際、事業の成長性だけでなく、知的財産権や規制への適合性、コンプライアンス体制といった潜在的なリスクも厳しく評価します。法務的な問題点を抱えていると、投資評価が下がったり、最悪の場合は投資が見送られたりすることもあります。将来のM&A(企業の合併・買収)においても同様で、リーガルチェックは事業の価値を正当に評価してもらうための準備といえます。

新規事業のリーガルチェックの対象範囲

新規事業のリーガルチェックでは、多岐にわたる法律分野を検討する必要があります。ここでは、特に注意すべき主要な法律分野を解説します。

事業モデルの適法性

特定の事業を行うためには、国や地方公共団体の許認可や登録、届出が必要な場合があります。例えば、中古品を売買するなら古物商許可、人材紹介サービスなら職業紹介事業許可、飲食店なら飲食店営業許可が必要です。これらの許認可を得ずに事業を行うと、罰則の対象となります。自社のビジネスモデルが、どの業法に該当するのかを正確に特定することが最初のステップです。

プライバシーポリシー

Webサービスやアプリなど、ユーザーの情報を取得する事業では、個人情報保護法の遵守が必須です。Cookieなどの識別子は、氏名や連絡先と異なり単体では個人情報に当たりませんが、他の情報と組み合わせて特定の個人に繋げることが可能な場合、個人関連情報として規制対象となります。

どのような情報を、何の目的で取得し、どのように管理・利用するのかを明確にし、プライバシーポリシーで公表する義務があります。同意取得の方法や、情報漏洩時の対応体制なども整備しておく必要があります。

知的財産権(特許、商標、著作権)

自社の独自の技術やアイデア、サービス名、ロゴなどを法的に保護するために、知的財産権の検討は欠かせません。優れた技術は特許権で、サービス名は商標権で、Webサイトのデザインやコンテンツは著作権で保護されます。同時に、自社の事業が他社の知的財産権を侵害していないかを確認することも極めて重要です。権利侵害は、損害賠償請求やサービス停止につながる重大なリスクです。

利用規約、契約書関連

ユーザーとの権利義務関係を定める利用規約や、取引先との間で交わす業務委託契約書、秘密保持契約書(NDA)などの各種契約書は、事業運営の根幹をなす文書です。サービス内容や料金、責任の範囲、トラブル発生時の解決方法などを明確に定めておくことで、将来の紛争を予防します。インターネットで入手した雛形を安易に流用すると、自社のビジネスモデルに合わず、かえってリスクを高めることになりかねません。

景品表示法と広告表現

サービスの魅力を伝えるための広告やキャンペーンにおいても、法律による規制が存在します。景品表示法(景表法)は、商品やサービスの内容について、実際よりも著しく優れていると誤認させるような表示(優良誤認表示)や、価格を不当に安く見せかける表示(有利誤認表示)を禁止しています。誇大広告は、消費者からの信頼を失うだけでなく、行政措置の対象となるため、広告表現には細心の注意が必要です。

新規事業のリーガルチェックを行うべきタイミング

リーガルチェックは、事業のフェーズに応じて適切なタイミングで実施することが重要です。タイミングを逸すると、手戻りが大きくなったり、修正が不可能になったりする可能性があります。

アイデア・企画構想

事業の根幹となるアイデアやビジネスモデルを構想する最初の段階で、弁護士などの専門家に相談することが理想的です。この時点で事業の適法性に関する大枠の確認を行うことで、そもそも法的に実現不可能な事業にリソースを投下してしまう事態を避けられます。特に、既存の法律では想定されていない新しい分野のサービスを検討している場合、早期の相談がその後の方向性を大きく左右します。

サービス開発・設計

具体的なサービスの仕様や機能を設計する段階では、より詳細なリーガルチェックが必要になります。特に、既存の法律では想定されていない新しい分野のサービスを検討している場合、早期の相談がないまま開発を進めると、法的問題が判明した後に多大な修正や再設計が必要になるケースもあります。開発に着手する前に仕様を法的に確定させることで、開発途中の大幅な仕様変更といった無駄なコストの発生を防ぎます。

リリース直前・利用規約作成

サービスのリリースを目前に控えたこの段階では、最終的な総仕上げとしてのリーガルチェックが求められます。特に重要なのが、ユーザーとの契約内容を定める「利用規約」や、個人情報の取り扱い方針を示す「プライバシーポリシー」の作成です。これらの文書に法的な不備があると、ユーザーとの間で予期せぬトラブルに発展する可能性があります。サービスの提供条件や免責事項などを明確に定め、事業者を守るための最後の砦となります。

サービス開始後の法改正対応

リーガルチェックは一度行えば終わりではありません。個人情報保護法の改正は2022年に施行されましたが、AI技術の利用に関する法整備は現在も検討中であり、具体的なルール策定は始まったばかりです。事業開始後も、自社のサービスに関わる法改正の動向を常に把握し、必要に応じてサービス内容や利用規約を見直していく継続的な取り組みが欠かせません。

新規事業のリーガルチェックを弁護士へ依頼する流れ

リーガルチェックを自社だけで完結させるのは困難です。法律の専門家である弁護士に相談することで、より正確かつ効率的にリスクを把握し、対策を講じることが可能になります。

相談前に準備すべき情報

弁護士に相談する際は、事前に情報を整理し、資料を準備しておくことで、相談時間を有効に活用できます。最低限、以下のものを準備しておくとスムーズです。

  • 事業計画書
    ビジネスモデル、ターゲット顧客、収益構造などをまとめたもの
  • サービス概要資料
    画面遷移図、機能一覧など、サービスの全体像がわかるもの
  • 質問リスト
    具体的に何が不安で、何を確認したいのかをまとめたもの
  • 競合サービスの調査結果
    参考としている他社サービスのURLや利用規約など

新規事業に強い弁護士の選び方

弁護士にはそれぞれ得意分野があります。新規事業の相談をするなら、企業法務、特にIT、スタートアップ分野に精通した弁護士を選ぶことが重要です。ウェブサイトの実績紹介で、類似の業種や規模の企業のサポート経験があるかを確認しましょう。また、単に法律論を述べるだけでなく、ビジネスの実情を理解し、事業を前に進めるための代替案を一緒に考えてくれる姿勢も大切な選定基準です。

弁護士費用の種類と相場

契約形態特徴費用相場(目安)
タイムチャージ稼働時間に応じた費用。短時間の相談向き。1時間あたり1万円~3万円程度
スポット契約業務単位の固定費用。事業立ち上げ時に最適。
  • 事業モデル適法性調査:10万円~
  • 利用規約作成:15万円~
顧問契約月額固定で継続的に相談。事業開始後におすすめ。月額3万円~10万円

グレーゾーン解消制度とは

グレーゾーン解消制度とは、新規事業の実施にあたり、現行の規制の適用範囲が不明確な場合に、事業者が具体的な事業計画を示して、規制を所管する省庁に照会できる制度です。照会から原則1ヶ月以内に、その事業計画が法律に抵触するかどうかについて、担当省庁から文書で回答が得られます。また、回答が1ヶ月を超える場合には、その理由が通知される仕組みになっています。

これにより、事業者は法的な見通しを立てた上で、安心して事業を開始できます。特に、前例のないビジネスに挑戦する際に心強い制度です。

ノーアクションレター制度との違い

ノーアクションレター制度も、事業者が行う具体的な行為について、法令を所管する行政機関にその適法性を照会できる点ではグレーゾーン解消制度と似ています。大きな違いは、以下の通りです。

制度名グレーゾーン解消制度ノーアクションレター制度
目的新規事業全体が規制の対象となるかを確認特定の行為に対して行政処分等を行わないことを確認
照会先事業を所管する省庁法令を所管する行政機関

より具体的なアクションの適法性を確認したい場合はノーアクションレター制度、事業モデル全体の適法性を確認したい場合はグレーゾーン解消制度、と使い分けるのが一般的です。

これらの制度は、あくまで照会時点の事業計画に対する見解を示すものです。照会後に事業内容を大きく変更した場合は、回答の効力が及ばない可能性があります。また、照会内容と回答は原則として公表されるため、事業のノウハウが公開される可能性も考慮に入れる必要があります。制度を利用する際には、公表範囲や照会の仕方について、事前に弁護士などの専門家と十分に相談することが望ましいでしょう。

新規事業のリーガルチェックで未来のトラブルを防ぎましょう

新規事業の立ち上げは、未知の領域への挑戦です。その挑戦を成功させるためには、法務という視点からの検証が不可欠です。リーガルチェックを適切なタイミングで行い、必要であれば弁護士や公的制度の力も借りることで、予期せぬ落とし穴を避け、事業を安定した軌道に乗せることができます。本記事で解説した内容を参考に、あなたの新しい挑戦が確かな一歩となることを願っています。まずは、自社のビジネスモデルと関連する法律について、確認することから始めてみましょう。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。

関連記事