- 作成日 : 2025年7月17日
派遣契約書の保管期間は?管理方法や電子保存について解説
派遣契約書は、派遣元と派遣先の役割や派遣スタッフの就業条件を明確にする重要な書類です。しかし、「どのくらいの期間保管すべきか」「電子保存はできるのか」など、管理に関する疑問を抱える担当者も多いでしょう。
本記事では、派遣契約書の保管期間や注意点をわかりやすく解説します。電子化による効率化やリスク回避のポイントも紹介し、法令順守と実務の両立を実現するための対応策をお届けします。
目次
派遣契約書とは
派遣契約書は、派遣元(派遣会社)と派遣先(就業先企業)の間で交わされる重要な契約書です。この契約書には、派遣されるスタッフの勤務条件や責任の所在など、双方が守るべきルールが明記されており、派遣スタッフが安心して働くための土台とも言えます。まずはその役割や作成者、種類について見ていきましょう。
派遣契約書の役割
派遣契約書(正式名称:労働者派遣契約書)は、派遣スタッフを派遣先企業で働かせるために、派遣元と派遣先が交わす契約書です。この契約により、派遣先はスタッフに業務指示を行い、派遣元は雇用主として給与の支払い、社会保険の手続きなどの責任を負います。
契約書の主な目的は、派遣スタッフの仕事内容、就業場所、勤務時間、指揮命令系統など、具体的な就業条件を明確にすることです。これにより、後のトラブルを防ぎ、三者の関係性(派遣元・派遣先・派遣スタッフ)を整理します。
また、安全衛生の取り決めや苦情処理の方法なども記載されることがあり、スタッフの働く環境を整える役割も担っています。
誰が作成・保管するのか
派遣契約書の作成は、通常、派遣元企業が主導しますが、法律上はどちらが作成しても問題ありません。重要なのは、派遣元・派遣先の双方が契約内容に合意していることです。
一方で、保管に関しては注意が必要です。労働者派遣法では、契約書そのものの保管義務は明記されていませんが、派遣先管理台帳(派遣先作成)と派遣元管理台帳(派遣元作成)の作成・保管は義務付けられています。派遣契約書は、これら管理台帳に記載する情報の基礎資料となるため、実務上は保管が強く推奨されます。
派遣制度では、派遣元・派遣先の両者が適正な就業環境を提供する責任を負っており、その
労働者派遣契約書と個別契約書の違い
派遣契約には、「基本契約書」と「個別契約書」の2種類が存在します。
まず、「労働者派遣基本契約書」は、派遣元と派遣先の取引全体におけるルールを定めた契約で、派遣料金の計算方法、秘密保持、損害賠償など、継続的な取引を円滑に進めるための内容が盛り込まれています。法律で作成が義務づけられているわけではありませんが、多くの企業がトラブル防止のために作成しています。
一方、「労働者派遣個別契約書」は、派遣スタッフごとの就業条件(業務内容、勤務地、勤務時間、責任範囲など)を定めた契約で、労働者派遣法第26条により作成が義務付けられています。この契約書にスタッフ個人の名前が明記されないのは、契約が「労働力の提供」であるためです。
この2つの契約書は、企業間取引と労働者保護という異なる役割を担っており、派遣という働き方の特殊性に対応しています。
派遣契約書の保管期間
派遣契約書を含む関連書類の保管期間は、法令遵守やトラブル防止の観点から非常に重要です。実際の法律で義務づけられている書類と、実務上の慣例として保管すべき書類を正しく理解しておくことで、適切な文書管理が可能になります。
法定保管期間「3年」の根拠
労働者派遣法に基づき、「派遣先管理台帳」と「派遣元管理台帳」の保管が3年間義務付けられています。
- 派遣先管理台帳:労働者派遣法 第42条第2項
- 派遣元管理台帳:同法 第37条
一方で、「労働者派遣基本契約書」や「労働者派遣個別契約書」については、法的に明示された保管義務はありません。しかしこれらの契約書は、管理台帳に記載される内容の根拠となる重要書類です。
そのため、実務上は管理台帳と同様に「3年間」の保管が強く推奨されています。紛争や問い合わせが生じた場合に、契約書を手元に残しておくことで、スムーズに対応できる体制が整います。
法律が契約書本体ではなく管理台帳の保管を重視する背景には、実際の就業状況を証明することの重要性があります。管理台帳には勤務日数、時間、苦情対応など、実績ベースの情報が記載され、労働者派遣法の遵守状況を確認する直接的証拠となります。
派遣元・派遣先の保管義務の違い
保管義務については、派遣元企業と派遣先企業で役割が異なります。
- 「派遣元管理台帳」の作成・保管(契約終了日から3年)
- 「雇用契約書」「就業条件明示書」などの労働基準法に基づく書類(原則5年、当面3年も可)
- 「派遣先管理台帳」の作成・保管(契約終了日から3年)
- 台帳の内容(就業日数・時間等)を月1回以上派遣元へ通知
このような書類分担は、派遣元が「雇用主」、派遣先が「指揮命令者」として、それぞれの立場で責任を持つという派遣制度の根幹を反映しています。
派遣元は雇用に関する全体的な記録(賃金、社会保険等)を長期保管する必要があり、派遣先は日々の業務状況や労働時間、安全衛生など現場の実態管理が求められます。
保存期間の起算点
3年間の保管期間は「いつからカウントするのか」が重要です。
派遣元管理台帳・派遣先管理台帳ともに、「派遣契約終了日」から起算します。書類作成日や年度単位ではありません。
例えば、同じ派遣スタッフの契約が更新されて継続勤務する場合でも、保管の起算点は最終契約終了日となります。すべての契約が終わった後から3年間、そのスタッフに関する記録を保管し続ける必要があります。
なお、労働基準法に基づく書類(労働者名簿、賃金台帳など)は、それぞれ別の起算点(退職日や支払日など)を持つため、混同しないよう注意が必要です。
派遣においては、「派遣就業が完全に終了した日」をもとにした起算点が採用されており、これは派遣業務全体を一連の流れとして把握・管理しやすくするための制度設計といえます。
保管期間が過ぎた契約書はどうする?
派遣契約書などの書類は、法定の保管期間を過ぎれば廃棄可能ですが、実際には廃棄のタイミングや方法に注意が必要です。企業としての責任やリスク管理の観点から、慎重な判断が求められます。
法的には廃棄可能でも注意が必要
労働者派遣法では、派遣先・派遣元管理台帳の3年間の保管義務がありますが、この期間を過ぎれば廃棄は可能です。ただし、マイナンバーが記載された書類など、一部には利用目的の終了後すみやかな廃棄が義務付けられているものもあります。
また、保管期間前に誤って廃棄してしまうと、労働基準法などの違反として罰則や追徴課税の対象となることがあります。廃棄のタイミングは、法律と業務上の必要性を両立させながら判断すべきです。保管期間終了後の即時廃棄が必ずしも最善とは限らず、情報漏洩やコストの観点も含め、総合的に検討する必要があります。
トラブル時の証拠保全としての観点
派遣契約書は、万一のトラブル時に企業の正当性を証明する重要な資料です。派遣先やスタッフとの間で訴訟や紛争が起きた場合、契約書がなければ対応が困難になります。とくに賃金請求権などの時効が5年(当面は3年)とされている現在、法定の3年を過ぎたからといって即座に廃棄するのはリスクを伴います。
このため、多くの企業では、時効を踏まえて5年から10年の保管期間を設定するケースが一般的です。書類の廃棄は慎重に行い、必要な場合に備えて一定期間保持するという姿勢が、安全な文書管理には欠かせません。
派遣契約書以外に保管が必要な書類
派遣契約に関連して保管すべき書類は、契約書だけではありません。労働者派遣法や労働基準法などの関係法令に基づき、派遣元・派遣先の双方には多くの記録・文書を作成・管理・保管する義務が課されています。
労働者名簿、就業条件明示書など
派遣契約に関連して、以下のような書類が重要とされ、それぞれに保管義務が生じます。
- 派遣元管理台帳:派遣元企業が作成・保管する、派遣スタッフごとの管理記録。
- 派遣先管理台帳:派遣先企業が作成・保管する、派遣スタッフの就業実態などの記録。
- 労働者名簿:派遣元企業が雇用する派遣スタッフについて、労働基準法に基づき作成・保管する書類。氏名、生年月日、職歴などを記載。
- 就業条件明示書:派遣元が派遣スタッフに対し、就業前に交付する書類で、業務内容や賃金、就業場所・時間などを明記。労働者派遣法で交付が義務付けられており、労働条件通知書と一体化する場合も。
- 賃金台帳:給与計算の根拠を記録する労働基準法に基づく書類で、派遣元が作成・保管。
- タイムカード等の勤怠記録:実際の勤務状況を示す書類で、派遣元が管理。多くは派遣先の提供情報をもとに作成。
- 雇用契約書:派遣元と派遣スタッフの間で締結される雇用関係の根拠となる契約書。
- その他にも、健康診断結果や社会保険関連書類などがあり、これらも必要に応じて適切に保管することが求められます。
派遣という雇用形態が、「労働者派遣法」と「労働基準法」の両方にまたがって規律されていることから、それぞれの法律の目的に応じた多様な書類が求められるという背景があります。その結果、管理対象となる書類の種類は多岐にわたり、整理と保管の徹底が不可欠です。
各書類ごとの保管年数一覧
派遣契約に関連する主な書類について、根拠となる法律、保管期間、起算点、保管責任者を一覧表にまとめました。
書類名 (日本語/英語) | 根拠法 | 保管期間 | 起算点 | 保管責任者 |
---|---|---|---|---|
労働者派遣基本契約書 (Basic Dispatch Agreement) | (特になし) | 法定期間なし。管理台帳(3年)やリスク(民法/会社法/税法で5~10年)を考慮し決定推奨 | 契約終了日 | 派遣元・派遣先 (各自保管) |
労働者派遣個別契約書 (Individual Dispatch Agreement) | (特になし) | 法定期間なし。管理台帳(3年)やリスクを考慮し決定推奨 | 派遣終了日 | 派遣元・派遣先 (各自保管) |
派遣元管理台帳 (Dispatch Agency Management Ledger) | 労働者派遣法 | 3年 | 派遣終了日 (契約完了の日) | 派遣元 |
派遣先管理台帳 (Client Company Management Ledger) | 労働者派遣法 | 3年 | 派遣終了日 (派遣期間の終了日) | 派遣先 |
労働者名簿 (Worker Registry) | 労働基準法 | 5年 (当面3年も可) | 退職・死亡・解雇の日 | 派遣元 |
賃金台帳 (Wage Ledger) | 労働基準法 | 5年 (当面3年も可) | 最後の記入日 (または賃金支払日) | 派遣元 |
就業条件明示書 (Working Conditions Notification) | 労働者派遣法/労働基準法 | 5年 (当面3年も可) (労働関係重要書類として) | 退職・死亡・解雇の日 | 派遣元 |
タイムカード等の勤怠記録 (Time Cards, etc.) | 労働基準法 | 5年 (当面3年も可) | 最後の記録日 (または賃金支払日/派遣終了日 ) | 派遣元 |
雇用契約書 (Employment Contract) | 労働基準法 | 5年 (当面3年も可) | 退職・死亡・解雇の日 | 派遣元 |
派遣契約書の保管・管理は法令順守と実務効率の両立がカギ
派遣契約書は、派遣元と派遣先の法的・業務的責任を明確にする重要書類であり、保管期間や保存方法にも十分な配慮が必要です。契約書自体の保管義務は法的に定められていないものの、派遣元・派遣先管理台帳などの関連書類は法律で3年間の保管が義務づけられています。また、リスクマネジメントの観点からは、5年〜10年の長期保管を検討することも重要です。電子化やクラウド管理の導入により、業務の効率化とコンプライアンス強化の両立が図れるため、文書管理の最適化が求められます。
正確なルールづくりと運用体制を整え、将来のトラブルや法的リスクに備えることが、安心・安全な派遣運営のカギとなるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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