• 作成日 : 2025年7月17日

電子契約にタイムスタンプは不要?不要なケースと必要なケースを解説

電子契約は効率化やリモートワーク対応の観点から急速に普及していますが、電子文書の真正性や完全性の確保が課題です。紙の文書と異なり、電子データは改ざんリスクを伴います。そのため、デジタル取引の信頼性を高める仕組みが必要です。

本稿で触れる「電子印鑑」は、単なる印影画像では法的な証拠力が不十分な場合があります。そこで重要になるのが「電子署名」と「タイムスタンプ」です。タイムスタンプは、特定の時刻に電子文書が存在し、それ以降改ざんされていないことを証明する技術であり、電子契約の信頼性の核となります。この記事では、タイムスタンプの役割と重要性を解説します。

電子契約について詳しく知りたい方は、こちらの記事も併せてご覧ください。

電子契約のタイムスタンプは不要?

結論から言うと、タイムスタンプは法的には必須ではありません。ただし、さまざまな理由からタイムスタンプの使用が推奨されております。

法的にはなくてもOK

日本の契約法や電子署名法において、電子契約の成立や電子署名の有効性のために、タイムスタンプが必須とされるわけではありません。電子署名法は主に「電子署名」に焦点を当てており、真正な成立の推定の要件としてタイムスタンプを直接要求していません。

ただし実務上では必要

法的に必須ではない場面でも、実務上は電子契約にタイムスタンプを付与することが強く推奨されます。主な理由は以下の通りです。

  • 証拠力の強化: 紛争時、タイムスタンプは契約が特定の時点で存在し、改ざんされていないことの客観的で強力な証拠となり、文書の信頼性を向上させます。
  • 証明の完全性: 電子署名が「誰が署名したのか」「署名時の内容」を証明するのに対し、タイムスタンプは「いつ」存在し、「その時点以降改ざんされていない」という時間的要素と継続的な完全性を補強します。
  • リスク軽減: 契約締結日のバックデートや契約締結後の不正な改ざんといった主張に対する有効な対抗手段となります。

タイムスタンプを省略しても契約が無効になるわけではありませんが、紛争時の立証が困難になったり、他の法律に抵触したりするリスクが生じ得ます。広範なリスク管理とコンプライアンスの観点から、タイムスタンプの要否を判断することが賢明です。

タイムスタンプについて詳しく知りたい方は、こちらの記事も併せてご覧ください。

電子契約でタイムスタンプが必要なケース

電子契約でタイムスタンプが実質的に必要となる主なケースは、電子帳簿保存法の遵守に関連する場面です。同法は国税関係帳簿書類の電子データ保存ルールを定め、データの「真実性の確保」のためにタイムスタンプが重要な役割を果たします。

タイムスタンプが原則として要求されるケース
  • スキャナ保存: 紙で受領・作成した国税関係書類をスキャナで電子データとして保存する場合、原則として定められた期間内にタイムスタンプを付与する必要があります。
  • 電子取引: 電子メール等で授受した取引情報を電子データのまま保存する場合、真実性確保措置の一つとして、送信者側でタイムスタンプが付与されたデータを受領するか、受信者側で速やかにタイムスタンプを付与する方法が挙げられます。

電子取引データの電子保存義務化

2024年1月1日以降、電子取引データは原則として電子データのまま保存することが義務化されました。これにより、電子取引データの真実性確保要件(タイムスタンプ付与または代替措置)の対応がほぼ全ての事業者にとって不可欠となりました。

電子帳簿保存法の要件を満たさない場合、ペナルティの可能性があるため適切な対応が求められます。

タイムスタンプの要否に関する主なポイント

保存区分原則タイムスタンプ要件主な免除条件
スキャナ保存付与が必要 (書類受領等後、最長約2カ月+7営業日以内など期限あり)
  • 訂正削除の記録が残る/訂正削除が不可能なシステムを利用し期限内に保存 など
電子取引以下のいずれかを満たす必要あり

  • 発行者側が付与したデータを受領
  • 受領後速やかに付与
  • 訂正削除の記録が残る/訂正削除が不可能なシステムで授受
  • 訂正削除防止の事務処理規程を整備

電子契約でタイムスタンプが不要なケース

電子帳簿保存法でも、一定の条件を満たせばタイムスタンプが不要となる代替措置が認められています。

主な例外規定
  1. 訂正削除の履歴が残る・または訂正削除ができないシステムの利用: システムが訂正や削除の事実・内容を確認できる機能を持つ場合、または訂正削除ができない仕組みの場合、タイムスタンプ付与が不要となることがあります。
  2. 訂正削除の防止に関する事務処理規程の備付け: データの訂正削除防止に関する事務処理規程を社内で定め、運用している場合、タイムスタンプ付与が免除されることがあります。
  3. 発行者側でタイムスタンプが付与されている場合: 取引先から受領した電子データに発行者側で有効なタイムスタンプが付与されていれば、受領者側での付与は通常不要です。

これらの代替措置はコストや手間を回避できる可能性がある一方、それぞれ独自の要件と責任が伴います。

 一般的な契約の場合

電子帳簿保存法の対象とならない一般的な電子契約では、タイムスタンプの利用は法的な必須要件ではなく、主に契約の証拠力強化やリスク管理の観点からの任意選択となります。

電子契約のタイムスタンプのメリット

電子契約でタイムスタンプを利用することで、沢山のメリットがあります。

証拠力の強化

  • 客観的な証明: 信頼できる第三者機関(TSA)発行のタイムスタンプは、契約書が特定の時刻に存在し、それ以降改ざんされていないことを客観的に証明します。
  • 紛争解決の円滑化: 法的紛争時、タイムスタンプ付き電子文書は高い証拠価値を持ち、紛争の迅速な解決に寄与する可能性があります。

長期署名とコンプライアンス

  • 有効期間の延長: 電子署名のデジタル証明書には有効期間がありますが、タイムスタンプを付与することで、証明書失効後も署名時点の文書の有効性を長期間(通常10年程度、アーカイブタイムスタンプを掛けると更に延長可能)証明し続けることが可能になります。これは法定保存期間が長い文書の電子保存にです。
  • e-文書法対応: 書面保存が義務付けられていた文書の電子保存を認めるe-文書法の「完全性」確保にもタイムスタンプは有効です。

不正なバックデートの防止

  • 時系列の正確性担保: タイムスタンプは署名時刻や存在時刻を客観的に記録するため、不正なバックデート行為を抑止し、その証拠となり得ます。

電子帳簿保存法対応の円滑化

タイムスタンプ利用は、電子帳簿保存法が求める「真実性の確保」要件を満たす主要な方法の一つであり、代替措置と比較してコンプライアンス対応を簡素化できる場合があります。

タイムスタンプ導入には費用が伴いますが、紛争時の訴訟費用や法令違反によるペナルティ、信用失墜リスクなどを考慮すると、多くの場合、費用対効果の高い投資と言えます。

電子契約でタイムスタンプを確認する方法

電子契約でタイムスタンプを確認する手順について解説します。

一般的な確認手順

電子契約のタイムスタンプは、一般的なソフトウェアで確認できます。

  • PDF閲覧ソフトウェアの利用: Adobe Acrobat ReaderのようなPDF閲覧ソフトウェアには、デジタル署名やタイムスタンプ情報を表示・検証する機能が組み込まれています。
  • Adobe Acrobat Readerでの確認手順例:
    1. 署名済みPDFファイルをAdobe Acrobat Readerで開きます。
    2. 「署名パネル」から、付与された電子署名やタイムスタンプの一覧、詳細(付与日時、発行TSA情報、有効性など)を確認できます。
  • 完全性の検証: PDF閲覧ソフトウェアは、文書が署名またはタイムスタンプ付与後に改ざんされていないかを自動検証します。警告が表示された場合は問題の可能性があります。

エンドユーザーが特別なツールなしにタイムスタンプの有効性を確認できることは、電子契約システムの透明性と信頼性を高めます。

認定タイムスタンプの信頼性

総務大臣などによって認定されたTSAが発行する認定タイムスタンプは、時刻の正確性や運用のセキュリティに関して定期的な監査を受けており、より高い信頼性が保証されています。重要な契約書や法令対応が求められる書類には、認定タイムスタンプの利用が推奨されます。

電子契約を結ぶ場合は、タイムスタンプを使用しましょう

電子契約におけるタイムスタンプは、文書が特定の時刻に存在し、それ以降改ざんされていないことを証明する不可欠な技術です。電子署名が「誰が」を証明するのに対し、タイムスタンプは「いつ」とその後の完全性を客観的に担保します。

一般契約でタイムスタンプは必須ではありませんが、証拠力を高め、不正を防ぎ、特に電子帳簿保存法遵守を円滑にするなど実務上のメリットは大きいです。2024年1月からの電子帳簿保存法改正で、電子取引データの電子保存が義務化され、タイムスタンプ(または同等の措置)の重要性が一層高まっています。

タイムスタンプのメリットには、証拠力強化、不正防止、長期署名による文書の真正性維持などがあります。確認は一般的なPDFソフトウェアで容易に行えます。

電子契約とタイムスタンプを巡る法制度や技術は進化しています。これらの変化に注意を払い、適切な対応をとることで、デジタルトランスフォーメーションの恩恵を享受しつつ、法的リスクを最小限に抑えることができるでしょう。


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