• 作成日 : 2025年7月9日

契約書のリスク管理を強化するには?レビュー・交渉・社内体制の整え方のポイントを解説

契約書のリスク管理とは、契約に内在するトラブルの芽を事前に発見・排除し、企業の損失や信用低下を防ぐための取り組みです。契約書には法的・財務的・履行上のリスクが潜んでおり、内容を正しく理解しないまま締結すると、後に重大な問題へ発展するおそれがあります。

この記事では、契約書のリスク管理の基本から、レビューや交渉で確認すべきポイント、社内体制の整備、近年の法改正・判例動向を解説します。

契約書に潜むリスクとは

契約書には表面からは見えにくいリスク要因が数多く含まれており、それらを見落とすと後々重大なトラブルに発展する可能性があります。以下では、契約書に潜む主なリスクの種類について解説します。

法的リスク

契約内容が現行の法令や規制に適合していない場合、あるいは法改正によって将来的に契約条項が無効化される可能性がある点が法的リスクに該当します。契約書が最新の法令に基づいていなければ、法改正後に契約が違法とみなされたり、契約自体の有効性を問われる事態になりかねません。また、国際契約では相手国の法律を誤認した結果、契約が法的に成立しないこともあります。契約条項は常に最新の法改正や関連法と照らし合わせて検討すべきです。

財務リスク

契約の中で定められる支払い条件や価格設定に不備があると、支払遅延や未回収、予期しないコストの発生といった財務リスクにつながります。不明確な報酬額や支払期日が契約書に記載されていると、後から解釈の食い違いが生じ、支払いに関するトラブルが発生する可能性があります。費用負担の範囲や精算方法、手数料の取り扱いなどを事前に明確にしておくことで、財務的な不確実性を大幅に軽減できます。

履行リスク

契約に基づく義務が、何らかの理由で履行できなくなるリスクも見落とせません。災害やパンデミックといった不可抗力によって契約内容が履行不能となるケースでは、契約書に不可抗力条項があるか否かが大きく影響します。不可抗力条項は「当事者の合理的な支配を超える事由による履行不能時に、債務不履行責任を免除する」と定めるものです。この条項がないと、たとえやむを得ない事情であっても契約違反とされ、損害賠償請求の対象となる可能性があるため注意が必要です。

信用リスク

契約の相手方が契約上の義務を履行できるかどうかは、その企業の信用状況に左右されます。相手方が倒産したり資金繰りに窮した場合、自社が予定していた納品や支払いを受けられなくなる恐れがあります。また、相手企業の不祥事が発覚した場合、自社の取引先としての評価にも波及し、レピュテーションリスクに発展するケースもあります。契約締結前の信用調査や保証制度の導入などにより、信用リスクを事前に検知・低減する工夫が求められます。

情報管理リスク

契約書そのものの管理に関するリスクも見逃せません。契約書原本を紛失したり、機密情報が記載された契約書が外部に漏えいした場合、企業は法的・社会的な責任を問われる可能性があります。また、契約の有効期限を把握していなかったことで更新手続きに間に合わず、取引が停止したり、不要な契約が自動更新されてコストを払い続けるケースもあります。契約書の保管方法やアクセス権限、更新管理の仕組みを整えることで、こうした情報管理リスクを防止することが可能です。

リスク管理のために契約書レビューで確認すべきポイント

契約書レビューでは、契約の締結前に条項の内容を確認し、不備や過剰な負担がないかを見極めることで、将来的なトラブルの芽を摘むことができます。ここでは確認しておきたい代表的な条項と、チェックポイントを紹介します。

損害賠償・責任限定条項

契約違反などで損害が発生した際の責任範囲を明示する条項です。上限額が適切に設定されていないと、想定外の巨額賠償責任を負うリスクがあります。重過失を除く間接損害の免責や、損害賠償額の制限を明記することが一般的です。条文の有無だけでなく、内容が自社の業務と釣り合っているかを確認します。

契約解除条項

契約解除の条件が明示されていないと、契約の継続や終了が不透明になり、紛争リスクが高まります。解除の要件や手続き、通知期間が契約に明記されているかを確認しましょう。相手方にのみ一方的解除権がある条項が含まれていないか、自社に不利でないかも確認が必要です。

不可抗力条項

自然災害や社会的混乱により契約が履行困難となった場合の対応を定める条項です。「地震」「疫病」「政府による命令」などを含め、包括的かつ具体的に記載されているかを確認します。条項がない場合、不可抗力でも債務不履行とみなされるおそれがあります。

違約金条項

違約金は、契約違反時の損害に対する一定額の賠償を事前に定める条項です。過大な金額が設定されていないか、損害賠償との関係(上限とするか、別途請求可能か)が明示されているかがポイントです。内容に違和感がある場合は交渉を検討しましょう。

知的財産・秘密保持条項

契約から生じる知的財産の帰属や、機密情報の保護に関する条項は、特にITや技術系の契約で重要です。成果物の権利が一方的に相手方に帰属する内容になっていないか、自社の知的財産が不当に扱われていないかを確認します。また、秘密保持契約の有無や内容も併せて精査しましょう。

紛争解決・合意管轄条項

契約に関連した紛争が起きた場合の処理方法を定める条項です。裁判所の管轄や準拠法が自社にとって適切かどうか、仲裁条項が必要かなどを確認しましょう。記載が曖昧だと、紛争時に不必要な手間とコストが発生します。合意管轄は、契約に関した争いが起きた際にどこの裁判所で裁判を行うかを決めておくものです。国内契約では「東京地方裁判所を専属的合意管轄とする」などと記載するのが一般的です。

リスク管理のための契約交渉のポイント

契約交渉はリスク管理の観点からも重要なプロセスです。不利な条件を回避しながらも、相手との合意を進めることで、トラブルの未然防止と関係構築の両立が可能になります。以下では、契約交渉におけるリスク低減のための手法を解説します。

認識のズレをなくすための明確化

交渉時には、数量や業務範囲など、曖昧な表現を残さずに明確にすり合わせることが大切です。文書化して共通認識を形成することで、後日の「言った言わない」問題を防げます。不明点は交渉の段階で一つずつクリアにしておくことが、リスクを減らす基本です。

数値・条件の正確な確認

契約書に記載する金額や数量、有効期限などは、誤記がないか複数人で確認する体制を取りましょう。数字の誤りや口頭のやり取りによる認識違いを防ぐため、交渉内容は必ずメールや書面でも確認し合うことが安全です。

修正案の提示による交渉の建設化

単なる否定ではなく、代替案を示すことで交渉が建設的になります。自社の条件だけを押し通すのではなく、相手にも配慮した提案を行うことで、互恵的な合意につながりやすくなります。柔軟な姿勢が結果的にリスク回避にも有効です。

相手が提示した契約書案の精査

相手方が用意した契約書には、一方的な解除権、過大な違約金、自社の知財放棄など不利な条項が含まれていることがあります。こうした条項は交渉段階で確実に取り除き、必要であれば専門家に確認を依頼しましょう。事後修正は困難なため、初期段階での精査が欠かせません。

専門家の助言による最終確認

契約交渉の終盤では、法務担当者や弁護士のチェックを受けることが推奨されます。文面の不備や法的リスクを見落とさないためにも、第三者の視点でのレビューは有効です。最終的には、リスクを封じつつもバランスのとれた契約内容に仕上げることが交渉の目標です。

リスク管理を強化する社内体制整備のポイント

契約書リスク管理を徹底するには、個々の担当者の努力だけでなく社内体制の整備が不可欠です。ここでは、契約書リスク管理を支える社内体制のポイントを紹介します。

標準契約書(ひな形)の整備と活用

自社の取引実態に合わせた標準契約書(ひな形)を整備することは、リスク管理に有効な手段です。ひな形には法務部や弁護士の知見が詰め込まれており、リスクマネジメントの知恵の集大成とも言えます。例えば、秘密保持契約(NDA)や基本取引契約のひな形を社内で共有しておけば、担当者は契約内容を考える第一歩をスムーズに踏み出せます。標準契約書には最低限盛り込むべき条項(損害賠償や解除条件など)や避けるべき不利な条件があらかじめ反映されているため、ひな形をベースに契約書を作成すれば重大な抜け漏れや不利条項を避けやすくなります。また、社内で契約書ひな形を公開し周知することで、現場担当者も契約リスクへの意識を高めることができます。ただし、ひな形はあくまで土台なので、個別事情に応じて法務部門が最終調整・カスタマイズする仕組みも必要です。標準化と個別対応を両立させ、効率と適切さを両方確保しましょう。

契約書レビューの承認フローを確立

契約書の内容を社内でチェックし承認するワークフローを確立することも重要です。例えば、一定金額以上の契約や重要な契約類型については、現場担当者のドラフト作成後に法務担当者のレビューを必須とし、さらに管理職の承認を経てから契約締結するプロセスを定めます。これにより、現場だけでは気づきにくい法的リスクや条項の不備を早期に発見できます。また、部署横断的なチェック体制を敷くことで、事業部門の視点と法務部門の視点から契約内容を多角的に検証できます。社内規程として「契約書管理規程」等を定め、どのような契約が誰の決裁・承認を要するかを明文化しておくとよいでしょう。承認フローを経た契約書だけを締結するルールを徹底することで、属人的な判断ミスを防ぎ、組織として一定水準のリスクチェックが担保されます。

契約書の一元管理と期限管理

締結済み契約書の保管・管理方法も整備しましょう。契約書原本やデータを社内で一元的に保管し、アクセス権限を管理することで、情報漏洩や紛失のリスクを軽減できます。例えば、契約書管理システムや専用の共有フォルダを活用し、契約書を一括管理すると良いでしょう。さらに、契約更新や満了の期限管理も重要です。契約ごとに更新時期や終了日を把握し、更新が必要なものは事前に通知が届く仕組みを導入すれば、更新忘れによる契約失効や不要な自動更新を防止できます。実務上は、契約台帳を作成して契約名・相手先・金額・期間・担当者などを一覧管理する方法や、クラウド型の契約管理システムで期限アラートを設定する方法があります。「重要な契約書の紛失や更新忘れ」は契約管理上最大のリスクの一つと指摘されており、適切な管理体制を敷くことで契約書リスクの低減につながります。

社内教育と知識の共有

契約書リスク管理の知識を社内で共有し、人材育成することも忘れてはなりません。営業担当や購買担当など、契約実務に携わる社員に対して契約実務の研修を行い、基本的なリスクポイントや留意事項を教育しましょう。例えば、「契約書レビューのチェックリスト」を配布し、損害賠償条項や解除条項など重要事項の確認漏れがないよう指導します。また、過去の契約トラブル事例を社内で共有することも有益です。どのような条項が原因で紛争になったのか、どう修正すれば防げたかといった経験を、次の契約に活かすことで組織全体のリスク対応力が向上します。さらに、最新の法改正情報や判例情報についても法務部門から定期的に発信し、契約実務担当者が常にアップデートされた知識を持てるようにしましょう。社内体制としてこのような人材・知識面の整備を行うことで、企業全体で契約書リスクに強い体質を築くことができます。

リスク管理に影響する法改正・判例の動向

契約書のリスク管理を効果的に行うには、法改正や判例の変化にも継続的に目を向ける必要があります。ここでは2022年以降の主な動向をまとめ、契約業務への影響と対策を紹介します。

フリーランス新法の施行と契約対応

2024年11月施行のフリーランス新法では、個人事業主との取引において契約条件の書面交付や60日以内の報酬支払いが義務化されました。違反すれば行政処分のリスクがあるため、契約書の整備と社内ルールの見直しが求められます。ハラスメント防止や苦情対応の体制構築も、実務上の重要な課題です。

消費者契約法改正と差止請求のリスク

2022年の法改正では、消費者に一方的に不利な契約条項が無効となる範囲が広がりました。過度な損害賠償免除や不合理な違約金条項などは無効とされやすいため企業は契約内容の妥当性を再確認し、消費者に分かりやすく説明・同意を得る体制を整える必要があります。

注目すべき契約関連の判例

特定商取引法に基づく訪問販売契約で、書面交付義務を怠った事業者に対しクーリングオフが認められた判例があります。また、SNS投稿などによる加盟店の信用毀損を理由に、フランチャイザーが契約を解除した事例もあり、正当な理由と明確な解除条項の存在が解除の有効性を裏付けました。これらは契約条項の明確化と適正な運用の重要性を示しています。

電子契約とデジタル対応の整備

デジタル社会推進法の施行により、電子契約の普及が進んでいます。電子契約は収入印紙が不要でコスト面の利点がありますが、保存時には電子帳簿保存法への対応が必要です。改ざん防止措置やタイムスタンプの利用など、特有のリスクにも注意しながら導入・運用を進めましょう。

契約書のリスク管理でトラブルを未然に防ごう

契約書のリスク管理は、企業の損失や紛争を回避するうえで欠かせない取り組みです。契約書のレビュー、交渉、社内体制の整備、法改正への対応を継続的に行うことで、リスクを最小限に抑えた取引が可能になります。確実な管理が信頼性と安定した事業運営につながるでしょう。


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