• 作成日 : 2025年3月3日

MOU(基本合意書)とは? 意味や最終契約書との違い、法的効力などを解説

MOU(基本合意書)は、M&Aなどにおいて当事者企業間で交わされる覚書のことです。交渉の段階で買い手側と売り手側が合意した内容について記載します。M&Aなどの企業間取引では動く金額も大きく、細かい条件も多くなるため、最終的な契約締結に至るまでに当事者間で合意しなければならない項目が多岐にわたります。

本稿では、MOU(基本合意書)の意味や最終契約書との違い、法的効力などを解説します。

MOU(基本合意書)とは

MOUとは、M&A(合併・買収)などを実施する際に、買い手企業と売り手企業が交わす書類のことです。「基本合意書」とも呼ばれ、買い手企業と売り手企業との間で合意した内容について記載します。M&Aなどをする際の方法やスケジュール、権利義務関係、金額などについて両者が話し合い合意した内容がまとめられます。

MOUの意味

MOU(エムオーユー)は英語の「Memorandum of Understanding」の頭文字をとったものです。日本語に訳すと「基本合意書」「了解覚書」となります。

MOUは、企業間の取引において買い手企業と売り手企業の双方が合意していることの証しです。M&Aや業務提携といった企業間の取引は規模が大きく、契約にあたって決めておかなければならない事項は多岐にわたります。買い手企業と売り手企業がどのような事項について合意したのかをMOUに具体的に記載することで、トラブルの発生防止にもつながります。

MOUとLOI(意向表明書)の違い

MOIに類似した用語に「LOI(エルオーアイ)」があります。LOIとは、「Letter of Intent」の頭文字をとった言葉で、日本語では「意向表明書」などと呼ばれます。文字通り、企業が相手企業に対して取引希望の意向や取引内容についての意向を示すために用いられる書類です。

MOUと大きく異なる点として、交わされるタイミングの違いが挙げられます。LOIはMOIより先に作成・提出され、LOIを元に交渉後、MOUの作成へと移ります。したがって、記載内容はMOUの方がより具体的です。

また、MOUが当事者双方の合意書であるのに対し、LOIは一方が片方に対して意向を示す書類であるという違いもあります。

MOUとDA(最終契約書)の違い

DA(ディーエー)は「Definitive Agreement」の頭文字をとった呼称で、日本語では「最終契約書」と訳されることが多いです。DAには、買い手企業と売り手企業が最終的に合意した条件の全てを記載します。DAという名称は、主にM&Aにおいて使われる最終契約書を指し、他は株式譲渡であれば株式譲渡契約書(Stock Purchase Agreement)、合併であれば合併契約書と呼ばれます。

MOUとの大きな違いは、法的拘束力の有無です。MOUは基本的に、一部の条項を除いて法的拘束力を有しません。一方、DAは最終段階で双方の合意を確認してから作成される契約書となるため、違反や不履行があった場合は損害賠償請求ができる旨の条項があり、法的拘束力をもちます。

MOU(基本合意書)の法的効力

MOUは、一部の条項を除き、一般的に法的拘束力を有しません。なぜなら、MOUに書かれた条件は、さらに調整することが想定されるからです。法的効力を認めると、後から条件内容を調整した場合、違反や不履行に該当するとして損害賠償請求ができてしまうことになります。

一方で、MOUの中に法的拘束力を有する条項を入れることも可能です。例えば、M&Aにおいて買収条件を定めた条項以外の取り決めについては、買い手企業と売り手企業の双方に法的拘束力を有することが多いです。具体的には、独占交渉権や秘密保持義務といった項目が挙げられます。

MOUの条項に法的拘束力をもたせることで、互いに対しての債務不履行や契約違反の発生防止につながります。ただし、法的拘束力が及ぶ範囲を明確にしておかないと、損害賠償の範囲などで双方に誤解が生じ、トラブルになることもあり得ます。MOUのどの条項に法的拘束力をもたせるのか、明確な範囲設定をすることが大切です。

MOU(基本合意書)を活用する場面

MOUは、M&Aだけでなく、企業間取引のさまざまな場面で作成されます。

MOUを作成するにあたっては、どのような場面で必要になるのかを押さえておくことが大切です。

そこで、MOUが活用される6つの場面について説明します。

業務提携

業務提携とは、複数の企業が協力し合ってスケールの大きい事業を進めたり、課題を解決したりして自社の成長や収益向上を図る施策です。

業務提携では、複数の企業が関わるため、契約内容が細かく複雑になることが多いです。契約内容は、各種条件や業務の目的、スケジュールなど多岐にわたります。

そして、各企業が多種多様な契約内容の一つひとつについて合意することが必要になります。したがって、業務提携では、MOUを作成した上で取引を進める必要があるのです。

資本提携

資本提携とは、複数の企業が相手側企業に資本を投下し、単独では達成が難しい目標や課題の解決を目指す施策です。業務提携との違いは、相手側に資本を移動させる点にあります。

資本提携においては、株式数や価格、取得日などについて具体的に決めなければなりません。他にも、提携の目的や業務・課題の内容、スケジュールなどさまざまな項目について各企業が合意している必要があります。

MOUを活用することで、合意のプロセスがスムーズになります。また、途中で提携交渉が破綻した場合や、契約締結後に不履行があった場合に、責任の所在や賠償請求の方法が明確になる点もMOUのメリットです。

国際取引

国際取引とは、それぞれ異なる国に本店を置く複数の企業が取引をすることを指します。言語だけでなく、法律や商慣習などさまざまな面で異なる相手と取引するのが、国際取引の大きな特徴です。

取引にあたっては、相手方企業の国の法律や商慣習について理解しなければなりません。したがって、契約内容について各企業が合意に至るまでのプロセスが複雑になりがちです。

国際取引における交渉の複雑さを軽減し、各企業が正しい認識のもと合意へと進むためにも、MOUは重要な役割を果たします。

M&A

「M&A」は、「Mergers(合併)and Acquisitions(買収)」の略で、文字通り企業の合併や買収のことです。合併することで2つ以上の会社が1つの会社になったり、ある会社が別の会社を買収したりすることを指します。

会社の経営トップ層において、M&Aに向けて交渉することで意思が合致すると、具体的な条件についての交渉が始まります。ある程度条件が洗い出された段階で、MOUを作成します。

MOUの作成は、M&A成立へ向けた重要なプロセスとなります。MOUがうまく作成できれば、M&A成立の可能性も高まるといえるでしょう。

事業譲渡

事業譲渡とは、会社が事業の一部またはすべてを第三者に譲渡することを指します。事業の経営権は売り手側に残りますが、事業の所有権は買い手側に移されます。

事業譲渡はM&Aの手法の1つです。したがって、MOUを作成することで売り手側と買い手側の認識をすり合わせることはとても重要です。

また、M&Aの手法は、MOUの作成後の状況によっては変更される可能性もあります。よって、MOUにおいて、手法の変更が可能であることや変更後の対応方法についても合意しておくとよいでしょう。

吸収合併

吸収合併とは、M&Aの手法の1つで、ある会社(存続会社)が他の会社(消滅会社)の権利義務のすべてを承継することを指します。存続会社の法人格は残りますが、消滅会社の法人格は無くなります。

吸収合併に関して、消滅会社の権利義務を存続会社がすべて承継するため、基本的には覚書を交わす必要はありません。

しかし、吸収合併もM&Aの手法の1つであることから、交渉の段階でMOUを作成しておくと、手続きがスムーズになります。

MOU(基本合意書)を締結するまでの流れ

MOUを締結するまでの具体的な流れについて、「記載内容の確認」「作成」「交付・署名」の3つの手順に分けて解説します。

MOUの記載内容を確認する

はじめに、MOUに記載する内容について当事者間で確認します。

MOUは、多岐にわたる契約内容の一つひとつについて当事者間で誤解のないようにするための重要なプロセスです。したがって、記載内容はあらかじめしっかりと確認しておく必要があります。

また、MOUは最終段階で締結する契約書のベースとなるものなので、記載内容は具体的に記すことが大切です。例えば、取引内容や株式の譲渡価額、スケジュールなどの他、必要に応じて従業員の雇用条件なども記載します。

MOUを作成する

MOUの記載内容を決め、当事者間で確認したら、作成に移ります。

MOUは、正確かつ明確に作成することが必要なため、誤った事項を載せないよう注意します。また、未確定事項については「協議の上決定する」などの文言を付し、確定や変更があった場合は柔軟に対応できるようにするとよいでしょう。

MOUに法的拘束力をもつ事項を記載する場合は、法的拘束力をもたない事項と明確に区別できるように作成します。

MOUを交付・署名する

作成されたMOUの記載内容を当事者が確認し、納得したら、売り手側と買い手側双方が署名をします。署名されたMOUは、双方が1通ずつ保管します。

署名欄には「権限者(会社の代表者が一般的)の肩書きと氏名」「売り手側、買い手側双方の住所」「MOUの作成通数と保管場所」を記載するのが一般的です。代表者氏名は本人が手書きします。

署名の他、押印をするケースもありますが、印鑑の文化がない外国企業との取引などでは、押印は省かれます。

MOU(基本合意書)の記載事項

MOUでは、記載事項を具体的かつ明確に記すことが不可欠です。そこで、MOUに記載すべき代表的な項目6つについて解説します。ここで挙げた6つ以外にも、必要に応じて項目を追加することもできます。

合意内容(基本事項)

最初に、M&Aなどの取引に必要な基本事項についてまとめます。ここでは、売り手側と買い手側が暫定的に合意している項目について記載します。

例えば、「買収対象の会社」「どのような手法をとるか(資本提携、事業譲渡、合併など)」「取引条件(株式数、価額、支払い方法など)」「スケジュール」が代表例です。これらの基本事項について洗い出すことで、他の項目や条件についても交渉すべき事柄がはっきりしてくるでしょう。

また、基本事項は最終的に変更する可能性があるため、法的拘束力はもたせないのが一般的です。

法的拘束力に関する事項

MOUに記載した内容のうち、法的拘束力を有するものとそうでないものを明確に分けます。MOUにおいて法的拘束力をもつのは、後述する秘密保持条項や独占交渉権、善管注意義務などとするのが一般的です。こうした条項は守られないと双方に大きな損害が生じる可能性が高いため、法的拘束力をもたせる必要があるのです。

法的拘束力を有する内容とそうでない内容を明確に分けたら、法的拘束力の有無についてはっきりとわかるように条項を記載します。

秘密保持条項(NDA)

秘密保持条項(NDA)とは、自社の秘密情報の漏えいや不正利用を防ぐために締結する条項です。M&Aなどの取引においては、当事者間で生じた秘密情報について、原則として第三者に開示しないことを定めます。秘密情報に該当するのは、取引の内容だけでなく、M&Aなどを検討している事実そのものや、当事者間の交渉過程なども含まれます。

MOUにおいては、「秘密情報の定義」「管理方法」「秘密保持期間」「秘密保持義務に違反した際の賠償」などについて記載しましょう。

独占交渉権に関する事項

独占交渉権とは、M&Aなどの交渉において、売り手側が交渉中の買い手側以外の第三者と交渉することを禁止できる権利です。

独占交渉権に関する事項は、法的拘束力を有する項目でもあります。売り手側がこの項目に違反して第三者と交渉した場合、買い手側は売り手側に対し違約金や賠償金を請求できることになります。

このことから、独占交渉権に関する事項は、当事者双方がスムーズに交渉を進めるために有効といえるでしょう。

MOUに独占交渉権に関する事項を記載する際は、法的拘束力を有することを明確に示す必要があります。

デューデリジェンスに関する事項

デューデリジェンスとは、M&Aなどで買い手側が売り手側について調査を行うことです。MOUには、買い手側が売り手側に対して実施するデューデリジェンスの調査範囲を記載しましょう。

具体的には、売り手側会社の財務や経営状況、労務管理などに関する情報が調査範囲に該当します。一部の事業を譲渡する契約の場合は、当該事業に関する情報のみが調査範囲です。

デューデリジェンスの実施は、買収の是非を決定するにあたって必要不可欠なため、MOUに記載し、当事者の合意を得る必要があります。

善管注意義務

M&Aなどの取引における善管注意義務とは、売り手側が買い手側の企業価値を損なわないように注意する義務のことです。

企業価値を損なう行為には、「重要な資産の譲渡や処分」「増資・減資」「多額の借入」が含まれます。売り手側会社がこれらの行為を買い手側会社に無断ですることは、善管注意義務違反に該当し、損害賠償請求の対象となります。

MOUには善管注意義務について記載し、取引完了までの間、買い手企業に不利益が生じることがないようにしましょう。

契約解除・終了の条件

MOUには、いかなる場合に契約の解除・終了となるのか(解除事由)についても記載します。M&Aなどの取引では、途中で事情が変わるなどの理由で契約自体終了となるケースもあります。そのような場合、特に買い手側にとっては、デューデリジェンスにかかったコストの損失や会社の信用低下につながるなどのリスクが発生しかねません。

これを防止するため、買い手側は解除についての条項をMOUに設け、デューデリジェンスで重大な問題が見つかった場合は契約を解除できることを記載します。これにより、不利益となり得る契約を締結するリスクを回避することが可能となります。

MOU(基本合意書)のひな形・テンプレート

実際のMOUがどのように作成されているかを見るために、MOUのひな形・テンプレートを紹介します。

ここでは「事業譲渡に関する基本合意書」と「吸収合併に関する基本合意書」の2つのひな形・テンプレートを紹介しますので、参考にしてください。

事業譲渡に関する基本合意書

事業譲渡に関するMOUでは、まず、どの事業を相手側企業に譲渡するのかを明確に記載します。

次に、最終的な契約締結日や譲渡予定日を記載します。具体的な日時はまだ決定できないという場合は「協議の上決定する」としてもかまいません。

続いて、譲渡の対価や支払い方法・期日について記載します。従業員の雇用条件や事業譲渡後の待遇などについても決めておくとよいでしょう。

さらに、デューデリジェンスや秘密保持条項、善管注意義務、契約の解除といった条項について記載します。

事業譲渡に関するMOUのひな形・テンプレートは、以下よりダウンロードが可能です。

吸収合併に関する基本合意書

吸収合併に関するMOUでは、存続会社と消滅会社の情報を明確に記載しましょう。一般的には、会社名と住所を記載すれば足ります。

次に、吸収合併の効力発生日や株式発行に関する条項、存続会社の資本金資本準備金などについて記載します。具体的な金額については、状況により変更する可能性も踏まえ「協議の上決定する」とすることも可能です。

その他に、デューデリジェンスや秘密保持条項、善管注意義務、契約の解除といった条項について記載すべきであるのは、前掲の事業譲渡の場合と同じです。

吸収合併に関するMOUのひな形・テンプレートは、以下よりダウンロードが可能です。

MOU(基本合意書)を締結するときの注意点

MOUを作成する際、いくつかの注意点を押さえておくことで、その後の交渉がスムーズに進みます。

そこで、MOUを作成するときの注意点を3つ解説します。

合意の対象範囲を明確にする

MOUでは、当事者双方が合意すべき項目の対象範囲を明確に示しましょう。なぜなら、合意する対象範囲が不明確だと、特定の項目について「合意している」「していない」など当事者間で意見が分かれ、交渉が滞る原因となるためです。

最悪の場合、交渉が決裂することにもなりかねません。また、損害賠償の発生など法的トラブルにもつながります。

したがって、MOUにおいては、合意の対象範囲を明確にすることが重要です。特に、金額や日付などの数字には誤りがないように注意しましょう。

法的拘束力を明確にする

MOUでは、法的拘束力を有する項目について条項で明確に決めることが必要不可欠です。前述のとおり、独占交渉権や秘密保持義務といった項目については法的拘束力があることを明確に記載しましょう。

また、どういった法的拘束力を有するかも明確に決める必要があります。どの条項に違反した場合に、誰がどのような責任を負うのかについてはっきりと記載しましょう。

MOUでは、一般的には法的拘束力を有しない情報がほとんどです。ただし、交渉をスムーズに進めるためには、当事者双方の責任を明確化し、法的拘束力をもたせることが必要な場合もあります。

曖昧な表現を避けて具体的に記載する

MOUを作成する際は、上記2つの注意点も含めて、誤解を招くような曖昧な表現は避けましょう。例えば、「適宜」「~など」「その他」といった範囲が不明確な表現は避け、具体的な対象範囲を明記します。

また、専門用語や業界用語も誤解を招く原因となります。専門外の人でも正確に理解できるよう、わかりやすく表現したり注釈をつけたりするなどの工夫が必要です。初出の際は正式名称を記すようにしましょう。

金額や日付の数字も「約」「およそ」「~頃まで」など曖昧な表現は避けましょう。

MOUは明確な内容で記載し企業間取引をスムーズに

MOUは、M&Aなどの企業間取引をスムーズかつ安全に進めるために重要な役割を果たします。当事者企業がよりよい条件で契約締結に至るためにも、MOUでさまざまな条件について合意することが不可欠です。

MOUをうまく活用するコツは、曖昧な記述を避け、誤解のないよう明確にわかりやすく記載することです。当事者間でMOUの内容に誤解が生じたまま交渉を進めると、後でトラブルの原因になります。また、法的拘束力の有無についても明確に示しましょう。記載について判断に迷う場合は、法律の専門家にアドバイスをもらうことをおすすめします。


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