- 作成日 : 2024年5月31日
職業安定法とは?概要や雇用主・労働者が注意すべきポイントを解説
職業安定法とは、労働者の募集や職業紹介、労働者供給について基本となる決まりを定めた法律です。1947年に制定され、順次改正された後、直近では2022年(令和4年)に法改正があり、同年10月1日(一部は4月1日)から改正法が施行されました。職業安定法によって規制されている職業紹介や労働者募集のルール、雇用主・労働者が知っておきたいポイント、直近の改正について解説します。
目次
職業安定法とは
職業安定法とは1947年に制定された法律で、労働者の募集や職業紹介、労働者供給についての基本ルールを定めたものです。2022年には改正法が制定され、同年10月1日から(一部は4月1日から)施行されました。
職業安定法では、公共職業安定所やその他の公的職業安定機関が職業紹介事業を行うこと、職業安定機関以外の民間の職業紹介サービスが労働者紹介と労働者供給を適正に行うことを定めています。また、雇用対策法と補完し合い、労働者が適正に働ける社会の実現を目指します。
職業安定法の目的
職業安定法は、労働者が各自の能力に見合う職業に就く機会を与え、産業の維持・発展に必要な労働力を供給することで、経済と社会の発展に寄与することを目的としています。
職業安定法の内容
職業安定法は、労働者の募集・職業紹介・労働者紹介の基本的なルールを定める法律です。しかし、労働者募集や紹介において現状に即しない場合は、ほかの法律において例外的なルールが定められることがあります。
たとえば、労働者供給事業は職業安定法においては原則として禁じられています。しかし、労働者派遣事業に該当する場合は労働者供給とはみなされず、別途制定された労働者派遣法により合法化されました。
職業安定法で定められていること
職業安定法では、労働者の募集・職業紹介・労働者紹介のルールを定めています。それぞれにおける決まりを具体的に紹介します。
労働者募集における規制
労働者を募集する際には、業務内容や賃金、労働時間などの労働条件を労働者に明示することが必要です。なお、明示する必要のある労働条件は、職業安定法の改正により何度か変更されてきました。人材を募集する企業は、常に新しいルールに則り、労働者に必要な情報を提供しなくてはいけません。
職業紹介における規制
職業安定法では、職業紹介事業において以下のルールが定められています。
- 有料で職業紹介をする場合は厚生労働大臣の許可が必要
- 厚生労働大臣の許可を申請する前に職業紹介責任者講習会の受講が必要
- 有料職業紹介を実施するときはすべての求人を受理することを原則とする
ただし、法令に違反する求人や労働条件が著しく不適当な求人、労働関係法令違反者からの求人などは、申し込みがあっても受理する必要はありません。
労働者供給における規制
労働者供給に携わる労働組合は、以下の措置を講じる必要があります。
- 供給される労働者に対して、供給される労働者の対象ではなくなる自由を保障する
- 労働組合の規約を定めるなど、民主的な方法により運営する
- 労働者供給事業は無料で実施する
- 供給される労働者から妥当性を欠く高額な組合費を徴収しない
- 職業安定機関や自治体と連携し、供給される労働者からの苦情を適切に処理する
- 供給される労働者の就業状況を考慮し、社会保険や労働保険の手続きを適切に進められるように管理する
求人者が注意すべき職業安定法上のポイント
求人者は職業安定法に則り、以下のタイミングで労働条件を明示しなくてはいけません。
- ハローワークなどの職業安定機関や職業紹介サービスに求人を申し込むとき
- 自社ホームページで求人募集をするとき
- 求人広告を掲載するとき
明示すべき労働条件は以下を含みます。
- 業務内容
- 契約期間
- 試用期間
- 就業場所
- 就業時間、休憩時間、休日、時間外労働
- 賃金
- 加入保険
- 募集者の氏名
- 派遣労働者として雇用する場合はその事実
労働条件において虚偽や誇大は禁じられています。また、可能な限り詳細に記載し、労働者が理解しやすいように努めなくてはいけません。万が一、労働条件に変更があったときは、速やかに変更内容について明示し、すでに面接をしている労働者に対しても告知する必要があります。
その際、変更前の条件を削除せず、変更後と対比できるようにしておかなくてはいけません。また、変更前・変更後にかかわらず、労働基準法などの法律を遵守していることが不可欠です。変更前・変更後のいずれかが違反している場合は、行政指導や罰則の対象となります。
労働者が知っておきたい職業安定法上のポイント
労働者は求人に応募する前に、労働条件を詳細に調べなくてはいけません。労働条件に疑問があるときは、速やかに求人者に尋ねましょう。
また、すでに応募している求人の労働条件が変更された場合は、変更の理由について求人者に尋ねることが可能です。求人に応募し、雇用契約を締結するまでに、労働条件についての疑問を解消しておきましょう。
直近の職業安定法施行規則改正の概要
職業安定法施行規則の改正により、2024年4月1日より求人者が明示する労働条件に、以下が追加されました。
- 従事すべき業務の変更の範囲
- 就業場所の変更の範囲
- 有期労働契約を更新するときの基準
たとえば、雇入れ直後は経理業務に従事させる予定でも、時間が経過してから法務や営業などの別業務に変更する予定があるときは、その旨を明記しなくてはいけません。就業場所も、雇用直後とは変更の予定があるときは明記します。
また、有期労働契約を締結する場合は、契約の更新があるのか記載しなくてはいけません。契約の更新があるときは、その条件や通算契約期間、更新回数などについても明記します。たとえば、「自動的に更新する」「勤務成績により更新あり」「更新回数は通算3回を上限とする」など、具体的かつ明確に記載します。
上記を含む労働条件については、求人広告を掲載するときにすべて明示することが必要です。ただし、広告スペースが足りないなどのやむを得ないときには、「面談の際に詳細条件をお伝えします」と別のタイミングで明示すると告知できますが、原則として最初の求職者との接触までに明示しなくてはいけません。
職業安定法に則り労働条件を正確に告知しよう
職業安定法の中でも、労働条件の告知については何度も改正の対象となっており、求人者側には、より正確かつ労働者目線に立った情報提供が求められています。将来的に雇用直後とは異なる業務内容や勤務地で働くことが予定されているときは、正確に労働者に伝えることが必要です。
また、雇用契約の更新についても事前に正確な情報を提供することで、より労働者が応募しやすい求人になります。人材確保のためにも、以下の情報も参考に、可能な限り正確な条件を告知することを心がけましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
契約の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
製造物責任法(PL法)とは?対象の製造物や欠陥の定義、事例などを簡単に解説
製造物責任法(PL法)とは、製造物に関する損害賠償の責任を規定した法律です。製造物の欠陥等が原因で事故が起こったとき、製造業者は賠償責任を負う可能性があるため、企業は同法についての理解を持つことが重要です。 どのような製造物が対象なのか、ど…
詳しくみる行政契約とは?意味や種類をわかりやすく解説
行政契約とは、行政主体が契約の当事者となり、他の行政主体や私人との間で結ぶ契約をいいます。過去には、行政契約を公法上の法律関係として私人間の契約と区別する考え方がとられることもありましたが、現在では両者の区別はせず、あくまで契約としてその意…
詳しくみる信義則(信義誠実の原則)とは?定義や具体例、民法の判例について解説
信義則とは「信義誠実の原則」のことで、お互いに相手の信頼を裏切らないように行動しましょう、というルールです。用語自体、難しいという印象を抱くかもしれませんが、ビジネスを行う上、あるいは日常生活を送る上では信義則の考え方は非常に重要となります…
詳しくみる特許権とは?効力や取得方法を解説
これまでになかった大きな発明に成功すれば、事業者として大きなアドバンテージを得られます。しかしせっかくの発明も他社にマネをされてしまっては優位に立つことができません。重要な発明については、特許権の取得を検討しましょう。 本記事では、特許権の…
詳しくみる下請事業者とは?下請法の対象や親事業者の義務などを解説
下請事業者とは、個人または資本金が一定金額以下の法人で、親事業者から製造委託等を受ける事業者を指します。下請事業者の定義は「下請法」で定められていますので、自社が下請事業者かどうか判断する際、法律に対する理解を深めることが大切です。 ここで…
詳しくみるプライバシーとは?個人情報保護法に基づきながら解説
仕事でも日常生活でもインターネットが欠かせない現代社会において、プライバシーとその保護について知っておくことは大切です。「プライバシー」と「個人情報」の違いや、2022年4月に改正される個人情報保護法について、しっかり把握しておきましょう。…
詳しくみる