• 作成日 : 2025年3月3日

契約解除とは? 解約との違い、一方的にできる制度、書面で通知する方法などを解説

契約解除とは、契約が有効に成立した後、契約の当事者の一方が解除権を有する場合に相手方に対する意思表示によって契約関係を解消することをいいます。

相手が契約を守らないような場合、契約関係が残っているとトラブルのもとになりかねません。そこで契約関係を解消するのが望ましく、その方法の1つが契約解除です。

本記事では、契約解除についての基本的な事項や、作成のポイントについて解説します。

契約解除とは

契約解除とは、契約が有効に成立した後、契約の当事者の一方が解除権を有する場合に、相手方に対する意思表示によって契約関係を解消することをいいます。

契約がある以上、相互に契約上の義務があるため、どちらかの都合で一方的に解消することはできません。

しかし、例えば、ある商品の売買契約をA社と結んだにもかかわらず、履行期日になっても一向に引き渡しを受けられなかったとします。その場合、自社としては仕方なく他の会社であるB社から商品を仕入れざるを得ませんでした。このときに、A社と結んだ元の契約が残ったままだと、遅れて商品引き渡しの履行をされ、代金を請求されかねません。

このような事態を防ぐためにも、元の売買契約を契約解除によって解消しておく必要があるのです。そのために行うのが契約解除で、民法第540条以下などに規定されています。

契約解除の定義

契約解除は、解除権のある当事者の一方から行います。契約の解除権については民法第540条以下の定めや、各種法令の定め、契約によって発生します。

前掲の商品の納入が遅れている例では、民法第541条に定められた次の2つの要件を満たし、履行遅滞といえる場合でなければなりません。

契約解除は次の手順で行います。

  1. 相当の期間を定めてその履行の催告をする
  2. その期間内に履行がない
  3. 相手方に対する契約解除の意思表示をする

契約解除は、契約解除権のある当事者の一方から、他方に対して一方的に行うことを指します。当事者間で話し合い、双方の合意によって解除するものは、契約解除ではありません。

契約解除と解約の違い

契約解除と解約は、契約関係の解消という点で共通します。しかし、契約解消の効果が発生するのが、契約締結時まで遡るのか、将来に向かってのみ契約関係が解消されるのか、という点で異なるのです。

契約解除は、契約の解消の効果が契約締結時まで遡る一方、解約は将来に向かってのみ契約関係が解消されます。

例えば、すでに受領した金銭や商品がある場合、契約解除では契約の効力が契約締結時まで遡るため、受け取った金銭や商品の返還義務があります(「原状回復義務」民法第545条第1項)。それに対して、解約の場合はすでに受領した金銭や商品について返還する義務はありません。

ここに契約解除と解約の大きな違いがあります。

詳しくは、「契約における『解除』と『解約』の違いを解説」で詳しく解説しているので、参考にしてください。

クーリング・オフも契約解除の1つ

クーリング・オフとは、消費者問題が発生するような契約について、一定期間、無条件で契約申し込みの撤回または契約解除ができる制度です。

訪問販売や通信販売などについて規定する特定商取引法や、分割払い契約などについて規定する割賦販売法などに規定されています。

クーリング・オフは、契約について冷静に考えることができない状況を類型化し、再考する機会を与えるための制度で、法律で定められた期間内であれば契約解除ができます。

契約解除とクーリング・オフは、クーリング・オフが契約解除における解除権の根拠になるという関係にあります。

契約解除できる場合

解除権が発生し、一方的に契約解除ができる場合の法律の規定について確認しましょう。

民法の債務不履行にもとづく契約解除の場合

民法の債務不履行があった場合には契約解除ができます。

ただし、債務不履行の種類によって、一方的に契約解除ができる要件が異なります。

債務不履行には、履行が遅れている「履行遅滞」、履行ができなくなった「履行不能」、履行が不完全である「不完全履行」の3種類があります。

債務不履行の種類による契約解除の要件は下記の通りです。

債務不履行の内容契約解除の要件
履行遅滞(民法第541条)相当の期間を定めた催告をして、その期間に履行がないときに一方的に契約解除ができる。
履行不能(民法第542条)履行が不能となった段階で民法第542条第1号によって直ちに一方的な契約解除ができる。
不完全履行履行ができる場合には履行遅滞に準じて、履行ができない場合には履行不能に準じて、一方的な契約解除ができる

クーリング・オフ制度にもとづく契約解除の場合

クーリング・オフ制度にもとづく契約解除ができる場合を、根拠法令、契約解除ができる期間とあわせて確認しましょう。

契約解除ができる場合根拠法令契約解除ができる期間
訪問販売特定商取引法第9条8日間
電話勧誘販売特定商取引法第24条8日間
連鎖販売取引(マルチ商法)特定商取引法第40条20日間
特定継続的役務提供特定商取引法第48条8日間
業務提供誘引販売取引特定商取引法第58条20日間
訪問販売等による個別信用購入あっせん割賦販売法第35条の3の108日間
預託取引契約特定商品等の預託等取引契約に関する法律第8条14日間
宅地建物取引宅地建物取引業法第37条の28日間
ゴルフ会員権契約ゴルフ場等に係る会員契約の適正化に関する法律第12条8日間
投資顧問契約金融商品取引法第37条の610日間
保険契約保険業用法第309条8日間

その他法律にもとづく解除の場合

クーリング・オフの他にも、法律で一方的な解除が認められている場合があります。

一例として次のものが挙げられます。

  • 手付を払った場合の解除(民法第557条)
  • 売買の目的物が契約に不適合な場合の解除(民法第562条:契約不適合責任)
  • 書面によらない贈与契約の解除(民法第550条)
  • 書面でする消費貸借契約の解除(民法第587条の2)
  • 賃貸借契約の借主が転貸した場合の解除(民法第613条第3項)
  • 委任契約の解除(民法第651条)
  • 明示された労働条件と異なる場合の労働契約の解除(労働基準法第15条2項)
  • 会社・代理商が期限を定めなかった場合の契約の解除(会社法第19条)
  • 応募株主等による契約の解除(金融商品取引法第第27条の12)

契約にもとづく解除の場合

当事者が契約にもとづいて一方的に解除ができる旨を定めることがあります。これを解除条項といいます。

解除条項にあたる場合には、当事者は一方的に契約解除が可能です。

例えば、業務委託契約における解除についてです。経済産業省が示す参考例では、受託者は原則として委託者の許可のない再委託が禁止されています(経済産業省「参考資料2各種契約書等の参考例」)。

このような契約書においては、契約上の義務に背いたときに解除ができる旨を定めるのが通常です。そのため、受託者が委託者の許可なく再委託を行うと、契約にもとづいて解除ができることになります。

契約解除できない場合

一方で、解除権がない場合には、一方的な契約解除はできません。問題となるのは次のようなケースです。

相手が契約内容を履行している場合

相手が契約内容を履行している場合、他に解除権の根拠がなければ契約解除はできません。

相手が契約内容を履行していれば、こちらも契約内容を履行しなければならない立場となります。他に解除権の根拠となる事由がなければ、一方的な契約解除はできません。

例えば、売主がすでに売買の目的物である商品を引き渡した場合には、基本的には契約解除はできません。

もっとも、当該取引が訪問販売であるなどで、クーリング・オフの要件を満たしている場合には、すでに契約内容を履行していても契約解除ができます。

契約内容に解除条件が明示されていない場合

契約において法令以外の解除条件が明示されていない場合には、法令で定められた場合以外での契約解除はできません。

契約解除をするためには根拠が必要で、その根拠には法令や契約で定めたものが挙げられます。

契約で解除条件について明示していない場合には、法令で定められた規定以外で契約を解除する法的根拠がないため、一方的な契約解除はできません。

継続契約における途中解除の場合

契約条件が明示されていないために契約途中で解除できないことが問題になるケースとして、継続契約における途中解除の事例が挙げられます。

賃貸借契約や業務委託契約は、取引が長期間にわたる上に、継続的な取引を行います。そのため、取引期間の途中に事情が変わるなどして、賃貸や業務委託をする必要がなくなることがあります。

この場合でも、途中解除ができる旨を契約で合意して契約書に記載していなければ、契約は解除できません。

契約解除に必要な書類

契約解除ができるケースにあたる場合、実際に契約解除をするのに必要となる書類として、契約解除通知書と、ケースによっては催告書が必要です。

契約解除通知書

契約解除には、契約解除通知書が必要です。

契約解除は、相手に対する意思表示によって行います。意思表示の方法について定めた規定は法律にないため、相手に口頭で契約解除を通知しても、原則として法的な効力が発生します。

しかし、契約解除をしたかどうか争われる場合には、契約解除の意思表示をしたことを証明しなければなりません。口頭で契約解除を行ったにすぎない場合、相手が「意思表示を受け取っていない」と主張すると、反論できません。そのため、契約解除通知書を作成して、相手方に送付します。

もっとも、契約解除通知書を送っても、相手は届いていないと主張することができてしまいます。そこで、契約解除通知書によって意思表示をしたことを証明するため、実務上は内容証明で送付します。

内容証明を利用すれば、送った文書の内容を証明してもらえるため(郵便法第48条)、相手に契約解除の意思表示をしたことの証拠となります。

契約解除通知書については「契約解除通知書とは?ひな形付きで具体的な書き方を解説」こちらの記事で詳しく解説しているので、参考にしてください。

催告書

契約解除をするのが履行遅滞にもとづくものである場合、契約解除のためには、まず相当の期間を定めた催告をする必要があります(民法第541条)。

相当の期間を定めた催告をしたことも、後に争いになった場合には証明しなければならないため、内容証明を利用します。

契約解除通知書の文例・テンプレート

契約解除を申し入れる場合の注意点

契約解除を申し入れる場合の主な注意点には、以下の3つがあります。

  • 書面で通知して解除の意思を伝える
  • 契約解除が認められる法的根拠を確認する
  • 損害賠償請求などのトラブルを想定して証拠を集めておく

詳しく解説します。

書面で通知して解除の意思を伝える

契約解除をする場合には、必ず書面で通知をしましょう。

契約解除の有無が争いになった場合、契約解除の意思表示をしたことを証明する必要があります。口頭や電話での契約解除の申し入れでは証拠が残らず、契約解除の効果を否定される可能性があるからです。

そのため、契約解除の意思表示は必ず書面で行い、できれば送った内容を証明してもらえる内容証明で送りましょう。

契約解除が認められる法的根拠を確認する

契約解除が認められる法的根拠を必ず確認しましょう。

契約解除をするためには解除権が必要であり、解除権の存否の判断は、法令や契約内容にもとづきます。

解除権がないにもかかわらず解除の申し入れをすると、相手方と激しい対立を招くことがあります。必ず、契約解除が認められる法的根拠を明らかにして、解除権があることを確認しましょう。

損害賠償請求などのトラブルを想定して証拠を集めておく

契約解除に伴う損害賠償請求などのトラブルを想定して、証拠を集めておきましょう。

契約解除の申し入れをすることで、相手方とトラブルに発展することがあります。

相手より「契約解除の根拠はない」と主張されて損害賠償請求に発展する場合に備えて、きちんとした対策が必要です。

トラブル・紛争になった場合、最終的には裁判で解決しなければなりません。

裁判となった場合には、契約の解除権があることを主張し、これを証拠で裏付ける必要があります。

証拠で裏付けられなかった事実については、裁判では「なかったもの」とされます。そのため、契約の解除権の根拠となる事実の証明に失敗すると、「契約の解除権がなかった」として、契約解除は無効とされ、損害賠償請求に応じなければならなくなるのです。

契約を結ぶ場合には、将来トラブルになる可能性も想定し、普段から証拠を集めておくようにしましょう。

契約解除は書面が原則。普段から証拠を集めて慎重に

相手が契約内容を履行しないなど、契約をこれ以上存続させる実益がない場合に行われるのが、契約解除です。

契約解除をする際には、解除権があるかどうか慎重に検証する必要があるとともに、普段からトラブルになったときを想定して、きちんと証拠を残しておく必要があります。

また、契約解除を申し入れる際には、契約解除通知書を内容証明で送ります。

契約解除を検討している場合は、トラブルに発展しないよう、きちんと準備をしてから行うようにしましょう。


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