• 更新日 : 2024年11月12日

フリーランス新法と下請法の違いは?企業の対応についても解説

フリーランス新法と下請法の違いを理解することは、企業にとって重要です。2024年11月に施行予定のフリーランス新法は、下請法と類似点がありながらも、適用範囲や義務内容に違いがあります。

本記事では、両法の比較や企業の対応について詳しく解説します。

フリーランス新法とは?

フリーランス新法は、フリーランスの労働環境を整備するために制定された法律です。2023年5月に公布され、2024年11月1日から施行されます。正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」といいます。

この法律の特徴は、フリーランスと取引を行うすべての事業者・業務委託者を対象としている点です。発注事業者に対して、契約内容の書面による明示や60日以内の報酬支払、不当な取引条件変更の禁止、ハラスメント防止体制の整備などを義務付けています。

違反した場合、行政機関による助言指導や勧告、命令などの措置が取られ、命令違反には公表とともに罰金が科される可能性もあります。

この法律の目的は、フリーランスがより安定的に業務に従事できる環境を実現することです。フリーランス新法の施行により、フリーランスの権利が守られ、より公平な取引が実現すると期待されています。

フリーランス新法の背景

フリーランス新法が制定された背景には、多様化する働き方への対応を求められたことにあります。近年、ワークライフバランスを重視する働き方が広がり、フリーランスという働き方が増加しました。

この変化に伴い、フリーランスの取引におけるトラブルや報酬未払いなどの問題が浮き彫りになっています。そこで、フリーランスが安定して働けるための法的ルールを設定し、多様な働き方を支える環境整備の必要性が認識されました。このような背景が、フリーランス新法の制定につながったのです。

フリーランス新法と下請法の適用対象の取引は似ている

フリーランス新法と下請法は、いずれも取引の適正化を目的とする法律です。適用対象となる取引も似ています。

【適用対象の取引】

フリーランス新法下請法
物品の製造(加工を含む)の委託製造委託(加工を含む)
情報成果物の作成の委託情報成果物作成委託
役務の提供の委託役務提供委託
修理委託

ただし、下請法は資本金1,000万円超の法人からの委託が対象となる一方、フリーランス新法では資本金の制限はありません。そのため、フリーランス新法は、より多くのフリーランスにとって、より身近な法律といえるでしょう。

フリーランス新法と下請法の違い

フリーランス新法と下請法にはいくつかの違いがあります。

下請法は発注元の事業者が下請事業者に対して行う不適切な取引行為を規制するものであり、主に「立場の弱い受注者」の保護を目的としています。

一方のフリーランス新法は、取引の適正化に加えてフリーランスの就業環境まで規定しているのが特徴です。募集情報の的確な表示やハラスメント対策など、労働者としての権利保護の側面にも重点を置いている点が異なります。

委託事業者について、下請法は資本金が1,000万円以下の法人を規制の対象から除外しますが、フリーランス新法にはそれがありません。フリーランス新法においては、資本金の額に関わらず「2人以上の役員がいる法人」や「従業員を使用する法人および個人事業主」が規制の対象です。

また、下請法では「役務提供委託」のうち、自己のために業務を委託するケースは対象外ですが、フリーランス新法ではこのようなケースも規制対象に含まれます。

フリーランス新法と下請法の禁止事項の違い

フリーランス新法と下請法の禁止事項には、多くの共通点と重要な違いがあります。両法とも、受領拒否・報酬の減額・返品・買いたたき・物品購入・役務利用の強制を禁止しているのが共通点です。

一方、適用範囲や規定の詳細には違いがあります。フリーランス新法は継続的な業務委託(1ヶ月以上)が対象であり、下請法は単発の取引も対象です。支払遅延については、下請法で明確に禁止されている一方、フリーランス新法では支払期日の設定義務として別途規定されています。

また、フリーランス新法はフリーランスの就業環境全般の改善を目指しており、ハラスメント防止や育児・介護への配慮など労働者保護に近い規定も含んでいるのが下請法には見られない特徴です。

フリーランス新法の発注側の義務項目

フリーランス新法は、フリーランスの権利を保護し、公正な取引環境の整備が目的です。

この法律では、発注事業者に対してさまざまな義務や禁止事項が定められており、これらを遵守することでフリーランスの就業環境の改善が期待できるでしょう。

これらの規定は、「適正な取引の実施」と「働きやすい環境整備」の2つの観点による構成です。以下に、発注側が注意すべき主要な義務項目を解説します。

特定受託事業者との適正な取引の実施

取引条件の明確化
フリーランス新法では、発注側はフリーランスに業務を委託する際、取引条件を明確化する義務があります。給付内容、報酬額、支払期日などを書面または電磁的方法で明示しなければなりません。電磁的方法で明示した場合でも、フリーランスから書面の交付を求められた際は、速やかに対応する必要があります。

60日以内での支払い義務
フリーランス新法では、従業員を雇用する発注事業者に対し、成果物受領後60日以内の報酬支払いを義務付けています。再委託の場合は、取り決めにより発注元からの入金日後30日以内に支払えば問題ありません。一方、フリーランス間の委託は本法の適用外となるため、支払期日の法的制限はありませんが、良好な関係構築のため早期の支払いが望まれます。

7つの禁止事項の遵守
フリーランス新法では、1ヶ月以上の業務委託を行う発注事業者に対して7つの禁止行為が規定されています。禁止行為は、「受領拒否」「報酬の減額」「返品」「買いたたき」「購入・利用強制」「不当な経済上の利益の提供要請」「不当な給付内容の変更・やり直し」の7つです。

特定受託業務者の働きやすい環境整備

募集情報の正確な表示
フリーランス新法では、発注事業者が業務委託先を募集する際、正確かつ最新の情報を提供することが義務付けられています。虚偽の内容や誤解を招く表示は禁止です。ただし、当事者間の合意がある場合、募集時の条件から実際の取引条件を変更することは許容されます。

育児・介護に対する柔軟な配慮
フリーランスの就業環境改善のため、ハラスメント対策や出産・育児・介護への配慮を義務付けています。長期的な業務委託の場合、委託事業者は妊娠・出産・育児・介護と業務の両立に必要な配慮を行わなければなりません。短期の業務委託でも、同様の配慮をする努力義務が課されています。

ハラスメント防止に向けた体制の整備
発注事業者にはハラスメント防止の義務が課されました。フリーランスからの相談に適切に対応するための措置を講じなければなりません。また、相談したフリーランスに対して契約解除などの不利益な扱いをすることは禁止されています。

中途契約解除時の事前通知と理由の開示
発注事業者は6ヶ月以上の業務委託契約を解除または更新しない場合、契約終了30日前までに通知する義務があります。予告後、フリーランスが理由を請求した際には、例外事由がない限り速やかに理由を開示しなければなりません。

フリーランス新法の施行に伴う企業がすべき対応

フリーランス新法の施行により、企業はこれまでとは異なる対応が求められます。

まず、従業員への教育と周知活動は不可欠です。発注や支払いを担当する社員には、発注書の交付や支払い遅延の防止についての理解を深める必要があります。

また、発注書や契約書のリーガルチェックも重要です。法的に問題がないかを確認し、支払期日などが法令に基づいて設定されていることを確かめる必要があります。

フリーランス新法に違反した場合

フリーランス新法に違反した場合、フリーランスは公正取引委員会や中小企業庁、厚生労働省に申出ができます。各省庁は調査を実施し、違反が認められた場合には適切な措置を講じなければなりません。

その際には、事業者への報告徴収や立入検査、助言・指導、必要な措置の勧告などが行われ勧告に従わない場合は命令や公表などの措置が取られる可能性もあります。

さらに、命令違反や報告不履行、検査拒否などの行為には50万円以下の罰金が科されることもあるため注意が必要です。

フリーランス新法がもたらす変化を見据えて検討を進めよう

フリーランス新法は、従来の下請法と類似点がありながらも、より広範囲にフリーランスを保護する新たな法律です。企業は、この新法の適用範囲や義務内容を正確に理解し、適切な対応をとることが求められます。

特に、契約書の見直しや取引条件の明確化、報酬の適正な支払いなど具体的な対策が必要です。また、違反した場合の罰則も設けられているため、コンプライアンスの徹底も求められてくるでしょう。

フリーランス新法は、多様な働き方を支援し、公正な取引環境を整備するものです。企業はこの法律を前向きに捉え、フリーランスとの良好な関係を構築し、ビジネスの発展につなげていきましょう。


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