- 作成日 : 2024年2月9日
一人法務とは?業務の具体例や課題、業務効率化のコツを紹介
一人法務とは、社内の法務担当が1人しかいない状態のことです。契約業務や広告審査など、法領域の幅広い業務を手掛けます。一人法務は社内に相談する人がいないなど、課題も少なくありません。
本記事では一人法務の概要や業務の具体例、求められるスキルなどを解説します。成功させるポイントも紹介しますので、参考にしてください。
目次
一人法務とは?
一人法務とは、会社内の法務担当者が1人しかいない状態、もしくはその状態における法務担当者のことです。一人法務には、法務業務のみを専任で行う「専任法務」と、人事や総務などほかの業務と兼任する「兼任法務」があります。
人材不足に悩む中小企業では法務担当者を複数確保することが難しい会社も多く、一人法務の状態は珍しいことではありません。より規模の小さい会社では、経営者自ら法務を担当するケースもあります。
一人法務は会社の法務に関わる業務をすべて担当し、業務の進め方に裁量があることが特徴です。その分も責任が重く、会社が抱える法的リスクや対処法などを自分で考え、対応していかなければなりません。
一人法務が担当する業務の具体例
一人法務の担当者が担当する業務は契約業務やコンプライアンス対応など、多岐にわたります。
担当業務の具体例をみていきましょう。
契約業務
一人法務の業務で多くの割合を占めるのが、契約業務です。契約業務は契約書の作成から審査・交渉・締結までの一連の業務を指します。契約内容が法律上適正であるか、取引のリスクはないか、自社の利益になる契約内容であるかなどを考えながら業務にあたります。
一人法務では会社が締結する契約書をすべて担当するため、スピードと品質の確保が求められるでしょう。
広告審査
一人法務では、会社が出稿する広告審査も行います。会社が掲出する広告について、表現や内容が法令・ガイドラインに照らして問題がないかを審査する業務です。
法令等違反となる広告表現だけでなく、消費者に誤解を与える広告表現もチェックしなければなりません。
広告は景品表示法や消費者契約法、薬機法などさまざまな法律が適用され、法に抵触する広告を出した企業は行政処分や刑事罰を受ける危険性があります。担当者は関連する法律を把握し、適切に審査しなければなりません。
コンプライアンス対応
一人法務はコンプライアンス対応業務も行います。コンプライアンスとは法令をはじめとするルール・マナーを遵守することです。
コンプライアンス対応業務では社内のコンプライアンス違反を未然に防ぎ、社員にコンプライアンス意識を浸透させるなどの業務を行います。
企業がコンプライアンス違反を起こした場合、信用が低下し、売上の減少や業績の悪化につながるおそれがあります。一人法務はそのような事態を防がなければなりません。
忙しい業務の中でもコンプライアンス研修の実施やルールの策定など、社員のコンプライアンス意識を高めるための各種業務にあたることが求められます。
社内規定の整備
社内規定の整備も、一人法務の担当する業務のひとつです。企業理念や社訓、取締役会規程など経営に関わる規定から、賃金規定・人事考課規定など、一人法務が携わる社内規定は数多くあります。
法改正や社会情勢の変化、組織・事業内容の変動などに応じ、社内規定の見直しも行っていかなければなりません。作成・見直しを行った社内規定は全社員に周知することも大切です。
知的財産の活用
一人法務では、知的財産に関する業務も行います。企業によっては知的財産権の取得・管理業務を専門に担当する部署がありますが、一人法務では知的財産業務も引き受けなければなりません。
知的財産に関するトラブルが起こると、企業は大きな損害を受けます。まず、自社の知的財産権が侵害された場合は、売上に影響が出ないよう早急な対策が必要です。反対に、他社の知的財産権を侵害した場合には損害賠償を請求される危険性もあるため、適切な対応が求められます。
知的財産権の出願登録事務を行う場合は、弁理士と連携する必要もあり、一人法務では自身が窓口となって申請を行うことになるでしょう。
一人法務に求められるスキル・資質
一人法務は法務の業務を一身に担うため、幅広い法律の知識が求められます。また、コミュニケーションスキルや情報収集能力も必要になるでしょう。
ここでは、一人法務に求められるスキルや資質を紹介します。
幅広い法律の知識や経験
一人法務は、会社が関わるすべての法律問題について対応しなければならず、幅広い法律の知識が求められます。最新の法令や裁判例は常にチェックし、把握しておかなければなりません。
業務ではイレギュラーな業務が発生することもあります。さまざまな状況に対応できるよう、法務担当としての豊富な経験も必要になるでしょう。
社内外のコミュニケーションスキル
一人法務は他部署や取引先、専門家など社内外の人々と連携して仕事を進めることが多く、コミュニケーションスキルが欠かせません。経営者や上層部に法的な問題をわかりやすく伝え、リスクを抑えるための提案を行うスキルも求められます。
さまざまな関係者と信頼関係を築くことで、一人法務のアドバイスが受け入れられるケースも増え、法的リスクの回避につながるでしょう。
法令に関する情報収集・調査スキル
法令は頻繁に改正されるため、常に新しい情報を収集し、調査するスキルが必要です。
また、適切なリスク管理・コンプライアンス対策を行うためには、ただ法律の変更をチェックするだけでなく、市場の動向や他社や業界の動きなど、幅広い情報にアンテナを巡らせることが求められます。
収集した情報を客観的に検証し、優先度をつけるなど信頼性を判断するスキルも欠かせません。
ビジネス上の知識や判断力
一人法務は法律の知識だけでなく、ビジネス上の知識や判断力、発想力などが求められます。ビジネスの観点から法律の解釈を自社の業務にあてはめ、対応する能力が必要です。
ビジネスでは顧客からのクレームや従業員の不祥事、ハラスメント行為などさまざまなトラブルが発生する可能性があります。それらの急なトラブルにも慌てず柔軟に対応していくスキルも求められるでしょう。
一人法務が抱えがちな課題
一人法務は1人で社内の法務を担うため、さまざまな悩み・課題を抱えることも少なくありません。
ここでは、一人法務が抱えがちな課題について解説します。
社内に相談できる人がいない
一人法務は、社内に相談できる人がいないことが大きな課題です。すべての法領域を担当しなければならないことの負担は大きく、困ったこと、わからないことがあっても気軽に相談できる社員がいません。
わからないことは書籍で調べたり、相談ごとは他社の法務担当者・弁護士などとつながりを作ったりすることも必要になるでしょう。
他社の法務業務の状況がわからない
複数の法務担当がいる職場では、他社で法務の経験を持つ同僚に法務業務の状況を確認できます。しかし一人法務ではそれができず、自分で試行錯誤しながら業務をこなさなければなりません。
立ち上げたばかりのベンチャー企業で未経験の法務を任されるといった状況になると、他社ではどのような業務をしているのかがわからず、自分の進め方が正しいのか、スキルアップできているのか不安になることもあるでしょう。
ミスをしたときの責任が重い
会社の法務を1人で引き受ける一人法務は、ミスをしたときの責任が重いことも課題となります。法的リスクを把握し、回避するにはどうすればいいかを考え、適切な判断を下すことが必要です。
リスクを見落として会社に損害が発生した場合は、責任を問われることになりかねません。責任が重大であることを自覚し、慎重な姿勢で業務にあたる必要があります。
業務の範囲が広がりすぎる
一人法務は、必然的にすべての法務業務を担当することになります。法律に関する問題はどの部署でも起こる可能性があり、一人法務はその相談を1人で引き受けなければなりません。
業務の範囲が広がりすぎて、抱える業務量も膨大になります。労働時間が長くなることもあるでしょう。
他部署とも協力し合いながら、業務を効率化して進めていくことが必要です。
一人法務をこなすためのポイント
一人法務を上手にこなしていくためには、積極的に他部署とコミュニケーションをとり、相談相手がいない分も効率良く情報収集を行うことが必要です。
ここでは、一人法務をこなすためのポイントを解説します。
積極的にコミュニケーションをとる
一人法務は社内の法的リスクを抑えることが任務であり、そのためには社内の情報を広く集められる体制にしておくことが大切です。他部署の社員とも積極的にコミュニケーションをとり、法的な問題をなんでも相談してもらう状態にしておきましょう。
法務に相談しにくいという印象を持たれると、必要な情報が法務に集まらず、リスクを高める可能性があります。こまめなコミュニケーションで信頼関係を築き、些細なことでも相談してもらえる環境を作りましょう。
効率よく情報収集を行う
会社の法務をすべて手掛ける一人法務は、幅広い法的知識が求められます。そのためには、法令の改正や社会の動向など、多くの情報を効率よく収集しなければなりません。
情報収集には書籍や法律系の雑誌、セミナーの参加などが挙げられます。SNSや動画サイトは、無料で法務に関する情報収集ができ、突発的な案件についてリサーチするのに役立ちます。
顧問弁護士への依頼案件をうまく活用する
複雑な案件で1人で解決することが難しい場合、外部の弁護士に相談するという方法もあります。いざというときに相談する弁護士の選定や依頼フローに関する社内規程を作成しておくとよいでしょう。
会社に顧問弁護士がいる場合、依頼案件をうまく活用するのもおすすめです。あらかじめ質問を用意しておくとスムーズに相談でき、早い解決が可能です。
一人法務が上手に情報収集をするには
一人法務を成功させるには、効率的な情報収集が必要です。上手に情報収集できる方法をいくつかみていきましょう。
弁護士や専門家のSNSをフォローする
気軽に情報収集するには、無料で情報を得られる方法がおすすめです。弁護士や法律書の著者などがアカウントを持つSNSであれば、無料で有益な情報を取得できます。
X(旧Twitter)やYouTubeなどをチェックし、情報を集めましょう。法改正や実務に関する最新情報などを取得できる場合もあります。
セミナーや勉強会に参加する
定期的に行われているセミナーや勉強会に参加する方法もあります。法務担当者向けのセミナーや勉強会もあり、参加することで他社の法務担当者と交流できる場合もあります。知り合いになることで、法務に関する相談ができるかもしれません。
法務に関する情報を提供するWebサイトも多く、手軽に情報を収集できます。数多くの情報があるため、必要な情報を選別し、上手に活用しましょう。
法律系の雑誌を購読する
法律系の雑誌を定期的に購読することで、最新情報を漏らさずチェックできます。最新判例や法改正の情報が掲載されるため、重要な情報を見逃すことがありません。
法律系雑誌には、次のものが挙げられます。
- ビジネス法務
- ジュリスト
- 法学教室
- 判例タイムズ
- 判例時報
一人法務の遂行に必要なものとして、会社で定期購読をしてもらうよう相談してみるとよいでしょう。
一人法務を上手にこなす方法を考えよう
一人法務は契約業務をはじめ社内の法務業務を一身に引き受け、他部署の法的トラブルにも対応していかなければなりません。幅広い法律の知識やコミュニケーションスキル、情報収集能力が求められます。
周りに相談相手がいない分も、自分で積極的に学ぶ姿勢が必要になるでしょう。最新の法令をチェックする際は、幅広い法令を検索できるe-Gov法令検索の活用もおすすめです。
記事も参考に、一人法務の業務を上手にこなしていきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
契約の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
新リース会計基準で再リースの処理はどうなる?
新リース会計基準によって、リース契約における経理処理はこれまでとは大きく扱いが変わるケースも少なくありません。再リースも例外ではなく、これまでと処理方法が異なります。 本記事では、新リース会計基準における再リースの扱いやこれまでと異なる点、…
詳しくみる契約解除とは? 解約との違い、一方的にできる制度、書面で通知する方法などを解説
契約解除とは、契約が有効に成立した後、契約の当事者の一方が解除権を有する場合に相手方に対する意思表示によって契約関係を解消することをいいます。 相手が契約を守らないような場合、契約関係が残っているとトラブルのもとになりかねません。そこで契約…
詳しくみる担保とは?被担保債権の意味や使い方、種類、注意点などを簡単に解説
担保とは、融資や契約の安全性を確保するために、債務者が提供する資産や権利を指します。 担保には不動産が設定されることが多いですが、借入時や契約を結ぶ際の保証人も担保の一種です。担保の設定により、債権者は債務不履行でも回収できる財産を確保でき…
詳しくみるリーガルチェックをAIで行うと違法になる?注意点について解説
リーガルチェックとは、締結前の契約書などをあらかじめ法律的な観点からチェックする作業のことです。近年ではAIによるリーガルチェックサービスが登場し、違法かどうかの議論が交わされましたが、法務省からは弁護士が利用・レビューを行うことで適法な利…
詳しくみる契約書のレビューはどんな流れで行う?AIサービスも紹介
契約書のレビューでは、作成された契約書について「契約として有効であるかどうか」「その内容が適切であるかどうか」といったチェックを行います。 この記事では契約書のレビューのやり方について解説し、作業全体の流れや、その際に特に確認すべき具体的な…
詳しくみる仮名加工情報とは? 匿名加工情報との違いや具体例をわかりやすく解説
仮名加工情報は、一定の措置を講じて個人情報を加工し、他の情報と照合しない限り特定の個人を識別できないようにした情報です。原則、第三者提供が禁止されている点や、他の情報と照合すれば特定個人を識別できる点で匿名加工情報とは異なります。 本稿では…
詳しくみる